2005年2月号
特集
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在庫削減はどこまできたか 日産自動車――初めて根付いた全社横断型組織
FEBRUARY 2005 10日産自動車――初めて根付いた全社横断型組織2001年12月にSCM本部を設置し、物流部門を含む総勢600人が集結した。
過去の同社にはない横断的な組織だったが、在庫削減の成果もあって社内での存在感を増している。
今年4月からの3カ年計画では、納車リードタイムを2週間に短縮することがSCM本部の新たな目標になる。
(岡山宏之)トヨタ並みの在庫水準に急接近日産自動車がゴ ン改革に着手してから五年余りが経過した この間のV字回復については もはや説明は不要だろう 在庫の推移だけをみても その改善ぶりは大手自動車メ カ のなかでもひときわ目立つ トヨタ自動車とホンダがほぼ横這いなのに対して 日産は一貫して在庫を減らし続けている 図1 この動きを牽引してきたのが 二〇〇一年十二月に発足したSCM本部だ 三月末にならなければ最終的な数字は出ないが 九九年三月期の実績値に対して一九%減らすと約束していた在庫については ほぼ計画通りに目標を達成できそうだ と同本部の責任者を務める小山彰VPの表情は明るい 日産のSCM本部は 日産リバイバルプラン NRP の着手より二年近く経 てから発足した すでに当時から収益改善の兆しは出始めていた しかし その一方で社内には コスト削減とは異なる課題が浮上していた 過去の日産が 部門最適 ばかりを追求してきたことに改めて気づいたのである 日産は昔から個別の業務プロセスごとに動く傾向の強い会社だ た カルロス・ゴ ン現社長がリバイバルプランの際に活用したクロス・フ ンクシ ナル・チ ム CFT では こうした悪弊を断つために 購買 や 組織と意志決定プロセス などの組織横断型のチ ムが形成され 新生・日産の目指すべき姿を描いた しかし このCFTも全社的な課題に対応できる組織ではなか た そこで考案されたのがサプライチ ン管理を切り口とするSCM本部だ た 過去の日産にはなか たこの新設部門は 販売会社がユ ザ の注文を受けるところから 実際に納車するまでの全プロセスをカバ する そのために調達分野や物流に携わ ていた社員が機能ごと集められ 総勢六〇〇人からなるセクシ ンが動き出した 曖昧だ た在庫管理の責任も明確にな た それまでの日産では 在庫の責任を負う部署が不在だ た それが二〇〇二年以降は 在庫の削減目標に対する達成度がSCM本部の評価に直結するようにな た 本誌二〇〇三年八月号参照 徹底的にROIにこだわる経営ゴ ン改革を経た日産の社員は 二つの意味で変わ た 一つは コミ トメント という言葉に象徴される 何がなんでも目標を達成しようという意識の定着だ もう一つの変化は 業務プロセスごとの最適化を追求するのではなく 全社的にプラスになることを考えるようにな た点だ この二つは表裏一体の関係にある 目標達成の意欲が高ま た背景には 結果次第で部門や個人の評価が決まる信賞必罰のル ルがある 競争によ て組織全体を活性化しようというわけだが 一歩間違えれば自らの評価に関係することだけを追求するエゴを招きかねない これを避けるためには 各部門の正しい目標設定のあり方が問われる 僕らが管理に使 ている在庫の指標は 財務諸表に表れる数字とは違う たとえば年間契約で調達量が決ま てしまう貴金属などはSCM本部の管理下にはないし 現状では管理から外れている地域もある こうしたところの数値は我々の管理数値に入 ていない ようするに 濡れ手で粟 のような話はないということ そこはかなりシビアに見ている 小山VP 日産の経営ト プは徹底的にROI 投下資本利益率 にこだわ ている 投資した資本 株主資本+事例研究 5期連続削減企業のマネジメント11 FEBRUARY 2005有利子負債 に対して いくら儲か たのかを示す経営指標だ 現在の日産ではROIへの影響があらゆる場面で踏み絵になる 活動に必要な投資額を明確にして それによ て生み出される利益を約束しない限り構想を具体化することはできない 二〇〇五年四月からの新三カ年計画 日産バリ ア プ では 大きく三つの経営目標を掲げている 二〇〇七年度末までにグロ バルの販売台数四二〇万台の実現 業界ト プレベルの営業利益率の維持 投下資本利益率二〇% である SCM本部の目標設定や活動内容も これらの経営目標と整合性をとりながら決まる こうした当然のことが 経営危機に陥 ていた時代の日産にはできなくな ていた それが期末の売り上げをつくるために 販売会社にムダな在庫を押しつけるとい た悪弊を招いていた 業務領域を最終ユ ザ への納車までと明確に定義しているSCM本部の評価には そんな部分最適の入りこむ余地はない 課題は受注から納車までのリ ドタイム在庫については計画通りに目標を達成しているが積み残した課題もある リ ドタイムの短縮 である SCM本部は発足時に三〇日強だ た受注から納車までのリ ドタイムを 二〇〇五年三月末までに二〇日に短縮する目標を掲げた しかし 二〇〇四年末の実績値は二四日 目標は未達になる公算が大きい サプライチ ンの上流工程に位置する生産管理や物流プロセスのリ ドタイム短縮は ほぼ計画通りに進んでいる しかし販売会社に納入してからユ ザ に納車するまでの 待ち時間 の短縮に手こず ている 販社への車両の搬入日が決ま た時点でセ ルス担当者が顧客に納入日を打診したところ その日は仏滅だから大安にしてくれ などと要望されて滞留するケ ス 個人ユ ザ が週末まで引き取りを延期するケ スなど その原因は一様ではない さらに厄介なのは 販社のセ ルス担当者が顧客への引き渡し前に 自ら車両の最終チ クをしたいという理由から滞留が発生してしまうケ スだ セ ルス担当者が顧客に対して誠実で プロ意識を持 ているからこそ生まれる滞留期間だけに これを短縮することへの理解を求めるのは容易ではない SCM本部の腕の見せ所といえる SCM本部は向こう三年間で リ ドタイムを二週間まで短縮しようとしている 熾烈なリストラを経て 生産能力は既にかなりのレベルまで絞りこまれている それが鋼材の調達難による減産を招く一因にもな た しかし まだまだ手綱は緩めるわけにはいかない 同時に欠品リスクを最小化していくためにはオペレ シ ンレベルのさらなる高度化が欠かせない だんだん週次のサイクルにも慣れてきたとはいえ 当社の業務をグロ バルに見れば まだ月次の部分が多く残 ている これを週次にしていくには すべてを日ごとに考える必要がある そのためにも世界規模で部品や完成車の動きを可視化したいと考えている と小山VP この構想を実現するうえでSCM本部が乗り越えるべき最初の関門がROIだ モノの動きを可視化するための投資額と それによ て得られる利益額を説得できなければ話は進まない しかし これまでの改革によ て改善余地は絞られてきている 投資額に見合 た効果は果たして見込めるのか モノの移動情報を有効活用することで新たなビジネスモデルを見出すなど コスト削減だけでなく 売上増によるプラス効果も検討する必要がありそうだ 日産のSCMは新たなフ ズに入 ている 特集 SCM本部の小山彰VP1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 20041.801.601.401.201.000.800.600.400.200.00営業部門 生産部門 部品メ カ 車両・部品物流 サ ビス部品物流 KD部品物流 お客様 営業・ 発受注 生産 一括 輸送 域内 輸送 納車 PDI (納車 前整備) 企画・マネ ジメント 業務運営 (%)5.0 1999年度 2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度0.0-5.0-10.0-15.0-20.0-25.0-30.0NRPNISSAN1800.0% 0.2%-5.9%-8%-14%-19%グローバルに総在庫(車両、部品)を一元管理 生産フレキシビリティ向上、リードタイム短縮etcにより寄与 サプライチ ン全体の企画&マネ ジメントおよび物流企業運営全般を包含した組織 販売会社 日産自動車 トヨタ自動車 ホンダ (カ月) 図1 自動車大手3社の棚卸資産回転期間の推移 図3 最終ユーザーへの納車までをカバーするSCM図2 NRP以来、計画通りに在庫を削減
過去の同社にはない横断的な組織だったが、在庫削減の成果もあって社内での存在感を増している。
今年4月からの3カ年計画では、納車リードタイムを2週間に短縮することがSCM本部の新たな目標になる。
(岡山宏之)トヨタ並みの在庫水準に急接近日産自動車がゴ ン改革に着手してから五年余りが経過した この間のV字回復については もはや説明は不要だろう 在庫の推移だけをみても その改善ぶりは大手自動車メ カ のなかでもひときわ目立つ トヨタ自動車とホンダがほぼ横這いなのに対して 日産は一貫して在庫を減らし続けている 図1 この動きを牽引してきたのが 二〇〇一年十二月に発足したSCM本部だ 三月末にならなければ最終的な数字は出ないが 九九年三月期の実績値に対して一九%減らすと約束していた在庫については ほぼ計画通りに目標を達成できそうだ と同本部の責任者を務める小山彰VPの表情は明るい 日産のSCM本部は 日産リバイバルプラン NRP の着手より二年近く経 てから発足した すでに当時から収益改善の兆しは出始めていた しかし その一方で社内には コスト削減とは異なる課題が浮上していた 過去の日産が 部門最適 ばかりを追求してきたことに改めて気づいたのである 日産は昔から個別の業務プロセスごとに動く傾向の強い会社だ た カルロス・ゴ ン現社長がリバイバルプランの際に活用したクロス・フ ンクシ ナル・チ ム CFT では こうした悪弊を断つために 購買 や 組織と意志決定プロセス などの組織横断型のチ ムが形成され 新生・日産の目指すべき姿を描いた しかし このCFTも全社的な課題に対応できる組織ではなか た そこで考案されたのがサプライチ ン管理を切り口とするSCM本部だ た 過去の日産にはなか たこの新設部門は 販売会社がユ ザ の注文を受けるところから 実際に納車するまでの全プロセスをカバ する そのために調達分野や物流に携わ ていた社員が機能ごと集められ 総勢六〇〇人からなるセクシ ンが動き出した 曖昧だ た在庫管理の責任も明確にな た それまでの日産では 在庫の責任を負う部署が不在だ た それが二〇〇二年以降は 在庫の削減目標に対する達成度がSCM本部の評価に直結するようにな た 本誌二〇〇三年八月号参照 徹底的にROIにこだわる経営ゴ ン改革を経た日産の社員は 二つの意味で変わ た 一つは コミ トメント という言葉に象徴される 何がなんでも目標を達成しようという意識の定着だ もう一つの変化は 業務プロセスごとの最適化を追求するのではなく 全社的にプラスになることを考えるようにな た点だ この二つは表裏一体の関係にある 目標達成の意欲が高ま た背景には 結果次第で部門や個人の評価が決まる信賞必罰のル ルがある 競争によ て組織全体を活性化しようというわけだが 一歩間違えれば自らの評価に関係することだけを追求するエゴを招きかねない これを避けるためには 各部門の正しい目標設定のあり方が問われる 僕らが管理に使 ている在庫の指標は 財務諸表に表れる数字とは違う たとえば年間契約で調達量が決ま てしまう貴金属などはSCM本部の管理下にはないし 現状では管理から外れている地域もある こうしたところの数値は我々の管理数値に入 ていない ようするに 濡れ手で粟 のような話はないということ そこはかなりシビアに見ている 小山VP 日産の経営ト プは徹底的にROI 投下資本利益率 にこだわ ている 投資した資本 株主資本+事例研究 5期連続削減企業のマネジメント11 FEBRUARY 2005有利子負債 に対して いくら儲か たのかを示す経営指標だ 現在の日産ではROIへの影響があらゆる場面で踏み絵になる 活動に必要な投資額を明確にして それによ て生み出される利益を約束しない限り構想を具体化することはできない 二〇〇五年四月からの新三カ年計画 日産バリ ア プ では 大きく三つの経営目標を掲げている 二〇〇七年度末までにグロ バルの販売台数四二〇万台の実現 業界ト プレベルの営業利益率の維持 投下資本利益率二〇% である SCM本部の目標設定や活動内容も これらの経営目標と整合性をとりながら決まる こうした当然のことが 経営危機に陥 ていた時代の日産にはできなくな ていた それが期末の売り上げをつくるために 販売会社にムダな在庫を押しつけるとい た悪弊を招いていた 業務領域を最終ユ ザ への納車までと明確に定義しているSCM本部の評価には そんな部分最適の入りこむ余地はない 課題は受注から納車までのリ ドタイム在庫については計画通りに目標を達成しているが積み残した課題もある リ ドタイムの短縮 である SCM本部は発足時に三〇日強だ た受注から納車までのリ ドタイムを 二〇〇五年三月末までに二〇日に短縮する目標を掲げた しかし 二〇〇四年末の実績値は二四日 目標は未達になる公算が大きい サプライチ ンの上流工程に位置する生産管理や物流プロセスのリ ドタイム短縮は ほぼ計画通りに進んでいる しかし販売会社に納入してからユ ザ に納車するまでの 待ち時間 の短縮に手こず ている 販社への車両の搬入日が決ま た時点でセ ルス担当者が顧客に納入日を打診したところ その日は仏滅だから大安にしてくれ などと要望されて滞留するケ ス 個人ユ ザ が週末まで引き取りを延期するケ スなど その原因は一様ではない さらに厄介なのは 販社のセ ルス担当者が顧客への引き渡し前に 自ら車両の最終チ クをしたいという理由から滞留が発生してしまうケ スだ セ ルス担当者が顧客に対して誠実で プロ意識を持 ているからこそ生まれる滞留期間だけに これを短縮することへの理解を求めるのは容易ではない SCM本部の腕の見せ所といえる SCM本部は向こう三年間で リ ドタイムを二週間まで短縮しようとしている 熾烈なリストラを経て 生産能力は既にかなりのレベルまで絞りこまれている それが鋼材の調達難による減産を招く一因にもな た しかし まだまだ手綱は緩めるわけにはいかない 同時に欠品リスクを最小化していくためにはオペレ シ ンレベルのさらなる高度化が欠かせない だんだん週次のサイクルにも慣れてきたとはいえ 当社の業務をグロ バルに見れば まだ月次の部分が多く残 ている これを週次にしていくには すべてを日ごとに考える必要がある そのためにも世界規模で部品や完成車の動きを可視化したいと考えている と小山VP この構想を実現するうえでSCM本部が乗り越えるべき最初の関門がROIだ モノの動きを可視化するための投資額と それによ て得られる利益額を説得できなければ話は進まない しかし これまでの改革によ て改善余地は絞られてきている 投資額に見合 た効果は果たして見込めるのか モノの移動情報を有効活用することで新たなビジネスモデルを見出すなど コスト削減だけでなく 売上増によるプラス効果も検討する必要がありそうだ 日産のSCMは新たなフ ズに入 ている 特集 SCM本部の小山彰VP1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 20041.801.601.401.201.000.800.600.400.200.00営業部門 生産部門 部品メ カ 車両・部品物流 サ ビス部品物流 KD部品物流 お客様 営業・ 発受注 生産 一括 輸送 域内 輸送 納車 PDI (納車 前整備) 企画・マネ ジメント 業務運営 (%)5.0 1999年度 2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度0.0-5.0-10.0-15.0-20.0-25.0-30.0NRPNISSAN1800.0% 0.2%-5.9%-8%-14%-19%グローバルに総在庫(車両、部品)を一元管理 生産フレキシビリティ向上、リードタイム短縮etcにより寄与 サプライチ ン全体の企画&マネ ジメントおよび物流企業運営全般を包含した組織 販売会社 日産自動車 トヨタ自動車 ホンダ (カ月) 図1 自動車大手3社の棚卸資産回転期間の推移 図3 最終ユーザーへの納車までをカバーするSCM図2 NRP以来、計画通りに在庫を削減
