2023年5月号
特集

ポスト2024年のロジスティクス管理実務

求められる業界変革と各層の対応レベル  本誌を購読している荷主企業や元請け物流企業であれば、物流の2024年問題対策は実施済みであろう。
しかし、国内運送事業者約6万2000社の97%以上は中小零細である。
その大半が24年問題に未着手である事実をどこまで把握できているだろうか。
まずは物流業界の現状を、当社独自の調査とコンサルティング実績からまとめた分析値を基にお伝えする。
 上場物流企業や上場荷主を親会社に持つ物流子会社の24年問題に対する意識は極めて高い。
この2年間の業務改革で80%以上が対応済と見られる。
しかし、地場大手・中堅クラスとなると対応済は60%程度まで下がる。
さらに中小地場や中長距離専門輸送会社になると30%以下が実情である(図表1)。
 24年問題のポイントの一つに「600キロメートルの壁」がある。
輸送距離が600キロを超えると、時間管理の観点から運行が難しくなる。
そこで大手物流企業は、自社運行をやめて協力会社へ切り替えている。
俗にいう庸車利用を増やしていると聞いている。
中堅や中小運送会社がこれを受託している。
 関東〜関西がちょうど約600キロである。
言わずと知れた日本の大動脈であり、最も荷物の多い幹線である。
その輸送が元請けから立場の弱い下請けの中小に移管されていくのは大変に危険である。
元請けであれば、24年4月以降の対応や業務における不利益などを荷主と直接交渉できる。
しかし、下請けはそうはいかない。
ドライバーの拘束時間や慢性的な待機、付帯作業などの実情を荷主に伝えるすべを持たないからである。
 しかも、物流業界は極端な多重下請け構造であり、荷主が支払う運賃の20~30%が中間業者に抜かれている。
図表2は荷主から5段目、4次下請けが実運送を担っているケースである。
 本来は元請けの自社便か、あるいは孫請けまでの段階に留めることが業界のあるべき姿となる。
つまり、荷主から元請け(3PLだったり物流子会社だったり)を挟んで、孫請けが実運送会社であればギリギリセーフだ。
しかし、実態はひ孫や玄孫レベルまで利用運送が続く。
 この多重構造を1段でも2段でも減らすことができれば、実質的な荷主負担を増やさなくてもキャリアの収受運賃は上がる。
そこで期待されるのが運送サービスのマッチングプラットフォームである。
タクシー業界やホテル業界と比べると、物流業界のマッチングプラットフォームはまだ黎明期である。
運びたい荷物の輸送条件と運ぶ側の制約の不一致、顧客情報の秘匿性などが現状では壁となっている。
 しかし、物流の安定を維持するため、また業界発展のためにも、この壁は打破しなくてはならない。
今後期待がもてる施策は、輸送条件を限定した上でのマッチングである。
積み荷は完全パレットとして、荷役は発着荷主のオペレーションとする。
 ドライバーは指定時間に着車して、決められたルートで輸送する。
GPSとデジタコを連動させて、プラットフォーマーのクラウド型TMSで運行管理を行えば、輸送の標準化が図れる。
これらを人間が行うことで無理やミスが生じる。
AIが配車を担うようになれば、ミスマッチが極小化されて運用が活性化する。
 今後、元請け・3PLは大競争時代へ突入する。
24年問題への対応はもちろん、独占禁止法の物流特殊指定や下請法など、公正取引委員会の管理下にも置かれて、さらに環境負荷低減活動まで求められる。
しかし、何より大きな評価尺度となるのは集車力である。
法令を順守した上で、決して安過ぎない適切なコストで、安心・安全な輸送を持続的に供給できる“シクミ”の構築と運用が求められる。
 そして24年問題対策にメドを付けた荷主企業は、改めて委託先を選ぶ物流コンペの開催に動いている。
その要望は、①コンプライアンス対応、②コスト管理、③品質管理、④持続的で安定した物流オペレーション、⑤二酸化炭素の排出削減活動と多岐にわたる。
荷主企業によってそれぞれ比重は違うが、これら五つの項目が新たな評価軸である。
 これから物流コンペは増加する。
成長を目指す物流企業にとってはチャンス到来だ。
ただし、ハードルは高い。
特に、コンプライアンス対応と二酸化炭素の排出削減活動はこれまで重視されていなかったテーマである。
中小が元請けを、元請けが荷主を選ぶ  24年以降、運送市場の需給バランスは逆転する。
これまで長く続いてきた荷主が優位な状況から大きく転換する。
全国のドライバー数は今、猛烈な勢いで減少している。
当社の推計では年間2万5千人程度のペースでプロドライバーが減っている。
新卒+他業種から転職=A、定年退職+他業種への転職=Bとして、A-B=マイナス約2万5000という計算である。
 しかも、減少ペースは加速している。
24年問題に伴う収入の減少に不安を感じて別業界に転職するドライバーが増え、新卒の入社が激減している。
24年が近付いてきたのに伴い、一般マスコミでこの問題が取り上げられる機会が増えてきた。
業界の窮状を多くの人に知ってもらうのは良いことだが、トラックドライバーを目指す若者の心理にはネガティブに作用する。
 一方、ECの拡大に連動して軽貨物市場が急成長している。
当社の推計では、軽貨物の市場規模は2022年度で約3000億円に達した。
その結果、軽貨物市場と一般貨物市場でドライバーの奪い合いが発生している。
稼ぎたいドライバーは、労働時間に制約のない個人事業主となって軽貨物を志向する傾向にある。
一般貨物からさらにドライバーが流出する。
 ドライバー不足は営業用トラックだけなく自家用トラック、俗にいう白ナンバーも同じである。
そのためこのところ当社には、営業マンが小型トラックやバン車で営業兼配送を実施している卸売業などから、商物分離の相談が相次いでいる。
今も複数のコンペを進めているところである。
 卸が営業担当者として募集を出しても人が集まらない。
人手不足のため営業マン1人当たりの納品軒数が増える。
その結果、納品だけで手一杯となり本来の営業活動が疎かになってしまう。
このままでは負のスパイラルに陥ってしまうため、戦略を大きく転換する企業が増えているのである。
 ドライバー不足は紛れもなく危機的な状況にある。
一昔前までの「稼げる」という魅力を取り戻し、それに加えて、今後は「法令順守+稼げる」の2本柱にする必要がある。
ドライバー職を「安心・安全に稼げる職業」に進化させないと流入はなくなる。
物流インフラが崩壊してしまう。
そのため、運賃水準の大幅アップは不可避であると筆者は結論付けている。
 長時間労働と引き換えに報酬を得るトラックドライバーの就業モデルは24年以降逓減していずれ絶滅することは容易に想像できる。
次に来るのは、キャリア(実運送会社)による元請けの選別である。
適切な運賃でコンプライアンス管理を重視する元請けにクルマが集まる。
そうしないと実運送会社はドライバーを維持できないからだ。
 そして荷主もまた物流企業に選ばれる時代が、もうそこまで来ている。
安定的な物流オペレーションを享受したい荷主は、一定水準の運賃を支払わなければならない。
一定水準の運賃とは具体的には図表3のAおよびBのゾーンである。
 これまで荷主にとって契約運賃の水準がCゾーンやDゾーンであることは、ライバルに対する競争優位であり、物流部門にとっては誇りであった。
しかし、今や経営リスクである。
契約運賃がCゾーン以下の荷主は、極端な運賃の値上げや縮小・撤退もあり得ることを覚悟する必要がある。
国交省「標準的な運賃」が現実のものに  トラック運賃の料金体系も変わる。
今後はメニュープライジング化へと向かう。
 日本の商習慣は、運賃などの物流費が商品代金に包含されている「物流費込み」が大半である。
物流コストの内訳を顧客(販売先)に開示することもない。
そのため実態がブラックボックス化して本来の運送サービスである車上渡し・門前渡しなどが少しずつ変化して、ドライバーの自主荷役が無料で提供されることになった。
 しかし、24年問題を契機として、物流業務の可視化が進んでいる。
ドライバーの就業時間の、どこに無理や負担があり、非営利活動があるのか明らかになってきている。
図表4に表記した項目がイレギュラー要因として炙り出されている。
 その結果として今後は、運賃の計算方法が「基本料金(距離・重量/容積・車種)+オプション料金」になる。
基本料金には恐らく国交省が推進する「標準的な運賃」が適用されることになるだろう。
その水準を知っている読者は高過ぎると感じるかも知れない。
しかし、筆者に言わせれば現状の運賃が安過ぎるのである。
 現状の荷主の支払い運賃は、運送業の多重下請け構造が情報連携によってある程度解消されたとしてもまだ適正値ではない。
実際、大多数の中小運送事業者は赤字スレスレの経営である。
特にこの1~2年は自社車輛を売却して営業外収益で凌いでいる中小が目立っている。
 今のレベルの燃料高が続くと実運送会社の多くが恐らくは持たない。
解散や経営破綻に陥る中小が続出すると見ている。
24年4月以降も物流の安定を維持するために、荷主や元請けは20%~30%の運賃の値上げを容認せざるを得なくなるだろう。
 24年問題への対応が済んでいない場合、まず着手すべきは現場の実態把握である。
今後は残業の常態化など物流センターで働く現場作業者や事務員の労務問題が荷主に直結する。
そのため自社倉庫、あるいは委託先物流企業のセンターに出向いて職場環境を正しく知る必要がある。
 安い運賃と同様に一昔前までは、受注締め切り時間を可能な限り遅くまで引き延ばしたり、緊急出荷の依頼に対応することが、荷主にとって、また物流会社にとっても競争優位であった。
しかし、令和のニューノーマル時代に、「遅くまで」「長い時間」「直ぐに」はNGワードであり、これらは全て有料オプションとなる。
 物流に限らず日本のサービスレベルは他の国と比較してずば抜けて高い。
しかし、その過剰サービスが低い生産性を招き、日本企業の国際競争力を阻害している。
物流においても過剰サービスを捨てる勇気が必要だ。
 接着剤メーカーのコニシは2021年1月に同業界の慣習だった受注当日出荷を翌日出荷に全面的に切り替えた。
経営トップが決断を下して、物流子会社のボンド物流(橋本啓子社長)がこれを実行した。
 その効果は絶大だった。
生産計画通りに動く工場と違って、物流現場のオペレーションはこれまで、いわゆる“やっつけ仕事の終わり仕舞い”であり、計画などあってないようなものだった。
それが受注翌日出荷に変わったことで、前日に作業計画を立てることが可能になった。
投入する作業員数、人員配置が最適化された。
 協力運送会社にも前日に物量情報(データ)を提供できるようになり、配車計画が劇的に改善した。
帰り便や共同配送、路線会社の集荷手配などあらゆる選択肢が利用可能になった。
物流サービスレベルの見直しが「計画に基づくオペレーション」という最大のメリットをもたらしたのである。
今後はこうした流れが多くの荷主に広がっていくものと思われる。
新たなテーマ「ESGロジスティクス」  さて、24年問題を克服した荷主は既に次に進んでいる。
「ESGロジスティクス」である。
「E=Environment:環境」「S=Society:社会」「G=Governance:企業統治」を考慮したロジスティクス管理のことである(図表5)。
 東証プライム上場企業や先進企業は、企業活動から排出される温室効果ガス(GHG)を実質的にゼロにする「ゼロエミッション」を既に公約している。
それを実現するために物流において具体的には、「拠点展開の最適化」「共同配送」「梱包改善」「モーダルシフト」「EV車両利用」「再生商材利用」などに取り組むことになる。
 拠点間輸送は、内航海運や鉄道、トレーラーなど使用して可能な限り大ロットかつ積載率100%で運ぶ。
顧客配送は共同配送などを利用して低積載率の単独輸送はしないようにする。
 ただし、往路が積載率100%でも復路が空では積載率は50%だ。
往路・復路を補完する他社との共同化が解決策の一つになる。
その支援を期待できるのが前述のマッチングプラットフォーマーだ。
パレット単位に貨物をまとめて、輸送条件を限定すればマッチング率は高まる。
 梱包においても過剰梱包や梱包材の再生利用など課題は山積している。
輸送品質と必要な梱包のレベルは相関する。
輸送品質を高めることで梱包を簡易化を目指すのが王道である。
荷主はそれを実現できる元請け物流企業を選べばよい。
物流企業の差別化要因はコストからコンプライアンス&CO2削減に移る。
新しい評価軸を基にした新しい競争が始まる。

月刊ロジスティクス・ビジネス

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