2004年7月号
経営講義
経営講義
ロジスティクスブランドの提言
多摩大学大学院CLOコース
JULY 2004 66
ブランド概念の誤謬
昨今、ブランドに対する認識が混
乱しているようである。
従来は個別 の商品に関わる概念であったブラン ドを、コーポレートブランドのように 広汎な概念へと発展させようという 提言がなされてから、そのような混乱 が現出しているように思われる。
そこで本稿では、ブランドのもつ意 味を再考するとともに、競争優位を 可能にする新たなブランド概念とし てロジスティクスブランドの提言を行 っていく。
それは言い換えると、ロジ スティクス経営を追求することで、従 来型のブランド戦略を根本から転換 させようという試みである。
商品ブランドがいわゆるコンテンツ のブランド化を前提にした戦略であ るのに対して、ロジスティクスブラン ドはコンテクストのブランド化を前提 にしている。
またコーポレートブラン ドが商品の価値をカバーするためのも のであるのに対し、ロジスティクスブ ランドは商品ブランドに付加価値を 付与するためのものである。
このよう に考えれば、ロジスティクスブランド の戦略的な意義ははなはだ多大であ ることに気がつくはずである。
ブランドの一般的概念 まずブランドについての一般的な 概念を概括的に要約しておく。
創業 時のベンチャー企業などにおいては、 商品ブランドの価値が企業の価値よ り高い場合が多い。
会社の名前は誰 も知らないけれど、商品は世界中で 有名になっている。
「あの優れた商品 を作っているのは一体どんな会社な のかな」と顧客が認識しているような ケースである。
創業時のソニー、当時の東京通信 工業は、まさにそのような会社であっ ただろう。
創業間もない頃には、東 京通信工業という会社名を知ってい る顧客などほとんどいなかった。
それ ゆえ東京通信工業は、「ソニー」とい うアメリカで受け入れられそうなブラ ンド名を引っさげて、まずアメリカか らトランジスターラジオの販売に取り 組んだ。
そして「ソニー」ブランドが グローバルに一定の評価を獲得して から、そのブランドイメージを企業全 体で活用すべく、社名をソニーに変更したわけである。
このように商品ブランドとは元来、 企業のもつ制約を越えることに戦略 的な意味がある。
企業の成長期には 商品ブランドのインパクトによって企 業のブランド化が進展する。
しかし、 企業が成熟期に差し掛かってくると、 次第に企業ブランドの価値の方が商 品ブランドの価値より大きくなってく る。
ロジスティクスブランドの提言 デルやアスクルのようにロジスティクスのブランド化に成功し た企業が登場し始めている。
従来の商品ブランドがコンテンツを 表現していたのに対し、ロジスティクスブランドは商品を含めた ソリューション全体を顧客にコミットする。
その戦略的な意義は きわめて大きい。
●●● 多摩大学 大学院 ルネッサンスセンター教授 原田 保 67 JULY 2004 その結果、多くの企業が商品やサ ービスそのものではなく、企業のブラ ンド力に依存した脆弱な開発しかで きない企業に成り下がってしまう。
強 力な企業ブランドを凌駕するような インパクトのある商品ブランドを確立 することがきわめて困難な課題になる からである。
このことはすなわち、ソ ニーのようなエスタブリッシュされた 企業が、継続して優れた商品やサー ビスを継続的に開発していくことの 困難さを物語っている。
(図1)。
それでも、いったんコーポレートブ ランドを確立してしまえば、たとえ一 つひとつの商品がそれほど優れていな くても、それまでに蓄積した企業のブ ランド力によって商品は顧客から支 持され続ける。
実は、このことがコー ポレートブランドを戦略的に構築す ることの最大の意義なのである。
ただし、その効果は永遠ではない。
コーポレートブランドの価値に照らし 合わせると価値が劣る商品を立て続 けにマーケットに出していけば、依拠 すべき長い期間をかけて確立したコ ーポレートブランドは少しずつ劣化し ていく。
このように一つひとつの商品ブラン ドが劣化し続ければ、コーポレートブ ランドの価値自体が低下してしまう。
いずれ商品の価値をコーポレートブラ ンドの価値ではカバーできなくなる。
前述したソニーなどのエスタブリッシ ュ企業における現在の苦境は、まさ にこのような過去のコーポレートブラ ンドに依存する商品戦略が限界にき ていることの証左でもあると考えられ る。
企業の成長がコーポレートブラン ド戦略を前面に出さざるを得ないス テージに入り込んだ場合には、いった ん創業精神に立ち返ることが重要だ。
そして改めて、商品自体の力によっ て顧客からのアイデンティティを確立 できるような体質に転換させることに 対し、企業のリソースを注力するこ とがきわめて大事になる。
いつまでもベンチャー精神を失いた くないと思うならば、コーポレートブ ランドに依存することのない、強力な 商品ブランドの構築に、常に意を払 っていくことが要請される。
このようなブランド戦略の陥穽か ら逃れるための一つの方法として、以下にロジスティクスブランド戦略に注 視することを提言したい。
経営発想のロジスティクス パソコンメーカーのデルや、オフィ ス用品通販のアスクルは、ロジスティ クスを経営戦略の中核に設定した企 業として登場した。
両社においては、 ロジスティクスをプラットフォームに したビジネスモデルをエンジンとして、 周辺へのラインロビングが戦略的に 展開されており、その結果として、単 に短期的な収益性のみならず、同時 に、成長戦略の組織的な継続を可能 にするという、まさに組織能力の圧 倒的な増大が模索されている。
例えばデルは資材調達から製造、在 庫管理、物流、代金回収などに関す る社内外のリソースをインターネット やITで結合し、在庫を必要としな いBTO(Built To Order )を実現 した。
さらに、サプライヤーから消費 者に商品を供給するという一方的な サプライチェーンの仕組みではなく、 消費者が商品をカスタマイズして注 文できる双方向の仕組みを作り上げ た。
このようなビジネスモデルの確立は、 伝統的な顧客観やマーケティング戦 略を根本的に転換させるものでもあ る。
このパラダイム転換を誘発するト 図1 ブランドと企業価値 創業時のベンチャー 商品ブランドの価値 企業ブランドの価値 成長期の大企業 成熟期の大企業 A B C A A A 図2 戦略アプローチの比較 物流 戦略 ロジスティクス 戦略 経営 戦略 物流 戦略 ロジスティクス 戦略 経営 戦略 ※物流とい う概念か ら抜け出せない! ※発想の転換が必要! JULY 2004 68 リガー的な存在であることに、デルや アスクルの事例における戦略的な意 義が見出される(図2)。
その第一のパラダイムシフトは、経 営戦略の立案時点から関係価値の創 出を指向するという発想である。
こ れは、従来のように物流の発展方向 にロジスティクスを位置付ける発想 とは根本的に異なる。
「脱・物流」か らのロジスティクスの捉え方である。
そして第二のパラダイムシフトは、 物やサービスを含めたソリューション のデリバリーを最も効果的に実践で きるような戦略的なビジネスモデルを 確立するまでにロジスティクスの戦略 領域を拡大したことである。
「脱・物 流」に対して「超・物流」からのロ ジスティクスの捉え方であると言える。
経営戦略としてロジスティクスを捉 えるには、このような発想の転換が 不可欠なのである。
このような段階になると、すべての 個別戦略は、他の戦略との相互比較 によるフィージビリティが必要になる。
また、他の戦略との組み合わせの対 応が必要な場合も生じてくる。
例え ば、物流のアウトソーシングを考える には人事戦略と一体となった判断が 不可欠であるし、同時に全体最適を 実現するためには総合的な戦略判断 と、業務のインテグレーションが不可 欠となるといったことである。
そのような全体最適に基づく判断 と個別戦略を統合することによって 初めて、真の意味においてロジスティ クス経営が実現できているといえる。
それによってトップマネジメントは、 自らの仕事に物流をも包含した経営 戦略を考える段階へ、経営に取り組 む姿勢を進化させたと考えてもさし つかえない。
ロジスティクス・ブランド 上記のような戦略を実現している 企業では、ロジスティクスブランドの 優位性が成立し得る。
今日の商品や サービスは、あるソリューションを構 成する一つのパーツに過ぎない。
顧 客が入手するのはそれらをひっくるめ たトータルな存在としてのソリューシ ョンである。
そこでは時空間の流れの中におい て一つひとつのパーツをトータルなソ リューションへと編み上げていく関係 編集能力がエンジンのような役割を 果たす。
従ってロジスティクスこそが、 顧客にソリューションをコミットする ためのブランドとして認識されること になるわけである。
例えばアスクルは、今では商品開 発において独創性を発揮する努力も 重ねているが、それでも基本的にはカ タログを通じて他社の開発した商品 を販売するチャネル企業である。
アス クルは商品ブランドに依拠したブラン ド戦略を展開しているのではなく、文 字通りアスクルという、ロジスティク スをブランド化した戦略を展開して いる。
ソニーが優れた商品ブランドを企業名にしたように、アスクルは優れ たロジスティクスブランドを企業名に することで飛躍を遂げた。
そのような 新たなブランド戦略が展開されてい るのである。
時代の流れを感じさせてくれるこ の一つのエピソードから、きわめて多 大な意義が見出される。
すなわちサ ービス化、ソフト化が進展する現代 社会においては、ロジスティクスさえ もブランド化させることが可能であり、 また商品に替えてロジスティクスをコ ーポレートブランド化するという戦略 も可能である、ということを意味して いる。
しかし、アスクルにおいても、一回 ごとのロジスティクス活動を通じて顧 客から信頼を獲得し続けなければ、コ ーポレートブランドとしてのロジステ ィクスブランドは、その価値を次第に 低減してしまう。
ソニーの場合と同 じリスクを内在しているということは 認識しておく必要がある。
過去に遡れば、ヤマト運輸の「ク ロネコヤマトの宅急便」もまた、ロジ スティクスブランドのはしりであった と位置付けることができる。
実際、 「宅急便」は全国翌日配送という短い リードタイムを、後には指定時間に 届けるという優位性のあるサービスを ブランド化することで、圧倒的な地 位を獲得した。
それでも、アスクルと比較すると、 ヤマトにおいてはロジスティクスを戦 略的なブランド形成の武器として活 用するという認識が不十分であった と言わざるをえない。
アスクルが表現 したロジスティクスの戦略的なブラン ド訴求に比較すると、クロネコに表 現された荷扱いのやさしさは、届ける べき商品を超えて新たな付加価値をつけるという点において遠く及ばない。
そのために、顧客はアスクルを単なる 物流業者とは見なしていないのに対 して、ヤマトはいかに革新的であって も未だに物流業者の域を脱出するこ とはできていないと言える。
話題のサプライチェーンを、物流 からではなく戦略的なロジスティクス の観点から捉えるべきであるとの考え 方を採用している企業においては、ま ロジスティクス経営講義 69 JULY 2004 さに全社を横に貫く、そして他社を も包摂した統合マネジメントがロジス ティクス経営という形で貫徹できる 段階にまで進化している。
製造から 販売に至る、すなわち商品が顧客に 提供される全プロセスをワンコンセプ トでマネジメントしていこうという発 想は、現時点では十分に革新的であ る。
昨今では、個別企業がシステムと して全体最適を追求するためには、ま ず製造、物流、販売までを統合的に マネジメントすべきである、という考 え方が台頭している。
とりわけ製造 業においては部品の調達段階へ、そ して販売においては小売段階にまで の全体最適を追求することよる競争 力獲得を図る企業がいくつも現出し ている。
このような段階になって、初 めてロジスティクスは物流のくびきか ら完全に解き放たれ、まさに名実と も戦略的システムのレベルに位置付 けられることになったのである。
こうして、いよいよSCMが新た な次元へと突入する。
サプライチェー ン・ロジスティクスはリソースベース の競争戦略を展開する上で今や不可 欠なプラットフォームへとして発展し つつある。
そして今後のSCMは、一 方ではグローバル化、他方ではIT 化への道筋を辿ることは間違いない ものと思われる。
シンクロナイゼーション このような時代には、個別企業の 境界を融合する新たなコンセプトの 導入が不可欠になる。
既に多数の試 みが行われているが、その代表的なも のとして「シンクロナイゼーション (同期化)」を挙げておきたい。
シンクロナイゼーションは、プロセ スを構成する各主体や機能のパワー を、スムーズに、かつ減少させること なく伝達させるための全体最適の追 求を意味している。
このシンクロナイ ゼーションの考え方を経営戦略に取 り入れるような進歩的な大企業が、実 はすでにアメリカのロジスティクス業 界には存在している。
UPSである。
(図3) 図3に概念化された「シンクロ・ コマース」こそ、ロジスティクス企業 であるUPSの指向するSCMであ る。
そこではプロセスのシンクロナイ ゼーションのみならず、物と情報、そ して資金まで含めた統合マネジメントの実践、すなわちリソースの戦略 的統合を追求するシンクロナイゼー ションが戦略の中心に据えられてい る。
実際、UPSにおいては、顧客 に対するソリューションをシンクロナ イズすることを戦略コンセプトに設定 した事業展開が試みられている。
現在、UPSが「シンクロ・コマ ース企業」を目指しているのと同様 に今後は、製造業や小売業、あるい は物流業といった業態や業種を問う ことなく、SCMを戦略的に推進す る多くの企業が「シンクロ・コマース 企業」への進化を目指していくこと が期待される。
それこそが、ロジステ ィクス時代の到来を踏まえた戦略的 対応なのである。
図3 シンクロ・コマース企業 シンクロ・コマース 企業 商 品 資 金 情 報 原田 保(はらだ・たもつ) 早稲田大学政治経済学部卒。
西武百貨店元取締役。
西武百 貨店においては、役員会事務局、企画室長、物流部長、商品 管理部長、情報システム部長、国際業務部担当、業革推進事 務局担当、関東地区担当など歴任。
その後、香川大学経済学 部、大学院経済学研究科教授(経営戦略論、経営管理論など を担当)を経て、現在、多摩大学ルネッサンスセンター教授。
Ph.D.(Business Administration)。
主要著書は、『デジ タル流通戦略』、『戦略的パーソナルマーケティング』、『ソシ オビジネス革命』、『21世紀の経営戦略』、『場と関係の経営 学』、『コーディネートパワー』、『コラボレーション経営』。
PROFILE 経 営 戦 略 の 新 た な 領 域 と し て ロ ジ ス ティクスを捉えることで、わが国にお ける次世代型の経営戦略論の新機軸を 提言する。
そして競争ベースの経営戦 略、資源ベースの経営戦略などの既存 の経営戦略との比較検討を試みる。
上記のテーマに依拠しながら、参加 学生の全員がロジスティクス経営にお いて独創性を発揮した戦略モデルの提 言を行う。
これらを通じて戦略構想力 とプレゼンテーション能力の向上を同 時に実現する。
「ロジスティクス経営戦略/ コンテクスト創造の先進理論」 「ロジスティクス経営戦略演習/ コンテクスト創造への協創」 CLOコース担当講座
従来は個別 の商品に関わる概念であったブラン ドを、コーポレートブランドのように 広汎な概念へと発展させようという 提言がなされてから、そのような混乱 が現出しているように思われる。
そこで本稿では、ブランドのもつ意 味を再考するとともに、競争優位を 可能にする新たなブランド概念とし てロジスティクスブランドの提言を行 っていく。
それは言い換えると、ロジ スティクス経営を追求することで、従 来型のブランド戦略を根本から転換 させようという試みである。
商品ブランドがいわゆるコンテンツ のブランド化を前提にした戦略であ るのに対して、ロジスティクスブラン ドはコンテクストのブランド化を前提 にしている。
またコーポレートブラン ドが商品の価値をカバーするためのも のであるのに対し、ロジスティクスブ ランドは商品ブランドに付加価値を 付与するためのものである。
このよう に考えれば、ロジスティクスブランド の戦略的な意義ははなはだ多大であ ることに気がつくはずである。
ブランドの一般的概念 まずブランドについての一般的な 概念を概括的に要約しておく。
創業 時のベンチャー企業などにおいては、 商品ブランドの価値が企業の価値よ り高い場合が多い。
会社の名前は誰 も知らないけれど、商品は世界中で 有名になっている。
「あの優れた商品 を作っているのは一体どんな会社な のかな」と顧客が認識しているような ケースである。
創業時のソニー、当時の東京通信 工業は、まさにそのような会社であっ ただろう。
創業間もない頃には、東 京通信工業という会社名を知ってい る顧客などほとんどいなかった。
それ ゆえ東京通信工業は、「ソニー」とい うアメリカで受け入れられそうなブラ ンド名を引っさげて、まずアメリカか らトランジスターラジオの販売に取り 組んだ。
そして「ソニー」ブランドが グローバルに一定の評価を獲得して から、そのブランドイメージを企業全 体で活用すべく、社名をソニーに変更したわけである。
このように商品ブランドとは元来、 企業のもつ制約を越えることに戦略 的な意味がある。
企業の成長期には 商品ブランドのインパクトによって企 業のブランド化が進展する。
しかし、 企業が成熟期に差し掛かってくると、 次第に企業ブランドの価値の方が商 品ブランドの価値より大きくなってく る。
ロジスティクスブランドの提言 デルやアスクルのようにロジスティクスのブランド化に成功し た企業が登場し始めている。
従来の商品ブランドがコンテンツを 表現していたのに対し、ロジスティクスブランドは商品を含めた ソリューション全体を顧客にコミットする。
その戦略的な意義は きわめて大きい。
●●● 多摩大学 大学院 ルネッサンスセンター教授 原田 保 67 JULY 2004 その結果、多くの企業が商品やサ ービスそのものではなく、企業のブラ ンド力に依存した脆弱な開発しかで きない企業に成り下がってしまう。
強 力な企業ブランドを凌駕するような インパクトのある商品ブランドを確立 することがきわめて困難な課題になる からである。
このことはすなわち、ソ ニーのようなエスタブリッシュされた 企業が、継続して優れた商品やサー ビスを継続的に開発していくことの 困難さを物語っている。
(図1)。
それでも、いったんコーポレートブ ランドを確立してしまえば、たとえ一 つひとつの商品がそれほど優れていな くても、それまでに蓄積した企業のブ ランド力によって商品は顧客から支 持され続ける。
実は、このことがコー ポレートブランドを戦略的に構築す ることの最大の意義なのである。
ただし、その効果は永遠ではない。
コーポレートブランドの価値に照らし 合わせると価値が劣る商品を立て続 けにマーケットに出していけば、依拠 すべき長い期間をかけて確立したコ ーポレートブランドは少しずつ劣化し ていく。
このように一つひとつの商品ブラン ドが劣化し続ければ、コーポレートブ ランドの価値自体が低下してしまう。
いずれ商品の価値をコーポレートブラ ンドの価値ではカバーできなくなる。
前述したソニーなどのエスタブリッシ ュ企業における現在の苦境は、まさ にこのような過去のコーポレートブラ ンドに依存する商品戦略が限界にき ていることの証左でもあると考えられ る。
企業の成長がコーポレートブラン ド戦略を前面に出さざるを得ないス テージに入り込んだ場合には、いった ん創業精神に立ち返ることが重要だ。
そして改めて、商品自体の力によっ て顧客からのアイデンティティを確立 できるような体質に転換させることに 対し、企業のリソースを注力するこ とがきわめて大事になる。
いつまでもベンチャー精神を失いた くないと思うならば、コーポレートブ ランドに依存することのない、強力な 商品ブランドの構築に、常に意を払 っていくことが要請される。
このようなブランド戦略の陥穽か ら逃れるための一つの方法として、以下にロジスティクスブランド戦略に注 視することを提言したい。
経営発想のロジスティクス パソコンメーカーのデルや、オフィ ス用品通販のアスクルは、ロジスティ クスを経営戦略の中核に設定した企 業として登場した。
両社においては、 ロジスティクスをプラットフォームに したビジネスモデルをエンジンとして、 周辺へのラインロビングが戦略的に 展開されており、その結果として、単 に短期的な収益性のみならず、同時 に、成長戦略の組織的な継続を可能 にするという、まさに組織能力の圧 倒的な増大が模索されている。
例えばデルは資材調達から製造、在 庫管理、物流、代金回収などに関す る社内外のリソースをインターネット やITで結合し、在庫を必要としな いBTO(Built To Order )を実現 した。
さらに、サプライヤーから消費 者に商品を供給するという一方的な サプライチェーンの仕組みではなく、 消費者が商品をカスタマイズして注 文できる双方向の仕組みを作り上げ た。
このようなビジネスモデルの確立は、 伝統的な顧客観やマーケティング戦 略を根本的に転換させるものでもあ る。
このパラダイム転換を誘発するト 図1 ブランドと企業価値 創業時のベンチャー 商品ブランドの価値 企業ブランドの価値 成長期の大企業 成熟期の大企業 A B C A A A 図2 戦略アプローチの比較 物流 戦略 ロジスティクス 戦略 経営 戦略 物流 戦略 ロジスティクス 戦略 経営 戦略 ※物流とい う概念か ら抜け出せない! ※発想の転換が必要! JULY 2004 68 リガー的な存在であることに、デルや アスクルの事例における戦略的な意 義が見出される(図2)。
その第一のパラダイムシフトは、経 営戦略の立案時点から関係価値の創 出を指向するという発想である。
こ れは、従来のように物流の発展方向 にロジスティクスを位置付ける発想 とは根本的に異なる。
「脱・物流」か らのロジスティクスの捉え方である。
そして第二のパラダイムシフトは、 物やサービスを含めたソリューション のデリバリーを最も効果的に実践で きるような戦略的なビジネスモデルを 確立するまでにロジスティクスの戦略 領域を拡大したことである。
「脱・物 流」に対して「超・物流」からのロ ジスティクスの捉え方であると言える。
経営戦略としてロジスティクスを捉 えるには、このような発想の転換が 不可欠なのである。
このような段階になると、すべての 個別戦略は、他の戦略との相互比較 によるフィージビリティが必要になる。
また、他の戦略との組み合わせの対 応が必要な場合も生じてくる。
例え ば、物流のアウトソーシングを考える には人事戦略と一体となった判断が 不可欠であるし、同時に全体最適を 実現するためには総合的な戦略判断 と、業務のインテグレーションが不可 欠となるといったことである。
そのような全体最適に基づく判断 と個別戦略を統合することによって 初めて、真の意味においてロジスティ クス経営が実現できているといえる。
それによってトップマネジメントは、 自らの仕事に物流をも包含した経営 戦略を考える段階へ、経営に取り組 む姿勢を進化させたと考えてもさし つかえない。
ロジスティクス・ブランド 上記のような戦略を実現している 企業では、ロジスティクスブランドの 優位性が成立し得る。
今日の商品や サービスは、あるソリューションを構 成する一つのパーツに過ぎない。
顧 客が入手するのはそれらをひっくるめ たトータルな存在としてのソリューシ ョンである。
そこでは時空間の流れの中におい て一つひとつのパーツをトータルなソ リューションへと編み上げていく関係 編集能力がエンジンのような役割を 果たす。
従ってロジスティクスこそが、 顧客にソリューションをコミットする ためのブランドとして認識されること になるわけである。
例えばアスクルは、今では商品開 発において独創性を発揮する努力も 重ねているが、それでも基本的にはカ タログを通じて他社の開発した商品 を販売するチャネル企業である。
アス クルは商品ブランドに依拠したブラン ド戦略を展開しているのではなく、文 字通りアスクルという、ロジスティク スをブランド化した戦略を展開して いる。
ソニーが優れた商品ブランドを企業名にしたように、アスクルは優れ たロジスティクスブランドを企業名に することで飛躍を遂げた。
そのような 新たなブランド戦略が展開されてい るのである。
時代の流れを感じさせてくれるこ の一つのエピソードから、きわめて多 大な意義が見出される。
すなわちサ ービス化、ソフト化が進展する現代 社会においては、ロジスティクスさえ もブランド化させることが可能であり、 また商品に替えてロジスティクスをコ ーポレートブランド化するという戦略 も可能である、ということを意味して いる。
しかし、アスクルにおいても、一回 ごとのロジスティクス活動を通じて顧 客から信頼を獲得し続けなければ、コ ーポレートブランドとしてのロジステ ィクスブランドは、その価値を次第に 低減してしまう。
ソニーの場合と同 じリスクを内在しているということは 認識しておく必要がある。
過去に遡れば、ヤマト運輸の「ク ロネコヤマトの宅急便」もまた、ロジ スティクスブランドのはしりであった と位置付けることができる。
実際、 「宅急便」は全国翌日配送という短い リードタイムを、後には指定時間に 届けるという優位性のあるサービスを ブランド化することで、圧倒的な地 位を獲得した。
それでも、アスクルと比較すると、 ヤマトにおいてはロジスティクスを戦 略的なブランド形成の武器として活 用するという認識が不十分であった と言わざるをえない。
アスクルが表現 したロジスティクスの戦略的なブラン ド訴求に比較すると、クロネコに表 現された荷扱いのやさしさは、届ける べき商品を超えて新たな付加価値をつけるという点において遠く及ばない。
そのために、顧客はアスクルを単なる 物流業者とは見なしていないのに対 して、ヤマトはいかに革新的であって も未だに物流業者の域を脱出するこ とはできていないと言える。
話題のサプライチェーンを、物流 からではなく戦略的なロジスティクス の観点から捉えるべきであるとの考え 方を採用している企業においては、ま ロジスティクス経営講義 69 JULY 2004 さに全社を横に貫く、そして他社を も包摂した統合マネジメントがロジス ティクス経営という形で貫徹できる 段階にまで進化している。
製造から 販売に至る、すなわち商品が顧客に 提供される全プロセスをワンコンセプ トでマネジメントしていこうという発 想は、現時点では十分に革新的であ る。
昨今では、個別企業がシステムと して全体最適を追求するためには、ま ず製造、物流、販売までを統合的に マネジメントすべきである、という考 え方が台頭している。
とりわけ製造 業においては部品の調達段階へ、そ して販売においては小売段階にまで の全体最適を追求することよる競争 力獲得を図る企業がいくつも現出し ている。
このような段階になって、初 めてロジスティクスは物流のくびきか ら完全に解き放たれ、まさに名実と も戦略的システムのレベルに位置付 けられることになったのである。
こうして、いよいよSCMが新た な次元へと突入する。
サプライチェー ン・ロジスティクスはリソースベース の競争戦略を展開する上で今や不可 欠なプラットフォームへとして発展し つつある。
そして今後のSCMは、一 方ではグローバル化、他方ではIT 化への道筋を辿ることは間違いない ものと思われる。
シンクロナイゼーション このような時代には、個別企業の 境界を融合する新たなコンセプトの 導入が不可欠になる。
既に多数の試 みが行われているが、その代表的なも のとして「シンクロナイゼーション (同期化)」を挙げておきたい。
シンクロナイゼーションは、プロセ スを構成する各主体や機能のパワー を、スムーズに、かつ減少させること なく伝達させるための全体最適の追 求を意味している。
このシンクロナイ ゼーションの考え方を経営戦略に取 り入れるような進歩的な大企業が、実 はすでにアメリカのロジスティクス業 界には存在している。
UPSである。
(図3) 図3に概念化された「シンクロ・ コマース」こそ、ロジスティクス企業 であるUPSの指向するSCMであ る。
そこではプロセスのシンクロナイ ゼーションのみならず、物と情報、そ して資金まで含めた統合マネジメントの実践、すなわちリソースの戦略 的統合を追求するシンクロナイゼー ションが戦略の中心に据えられてい る。
実際、UPSにおいては、顧客 に対するソリューションをシンクロナ イズすることを戦略コンセプトに設定 した事業展開が試みられている。
現在、UPSが「シンクロ・コマ ース企業」を目指しているのと同様 に今後は、製造業や小売業、あるい は物流業といった業態や業種を問う ことなく、SCMを戦略的に推進す る多くの企業が「シンクロ・コマース 企業」への進化を目指していくこと が期待される。
それこそが、ロジステ ィクス時代の到来を踏まえた戦略的 対応なのである。
図3 シンクロ・コマース企業 シンクロ・コマース 企業 商 品 資 金 情 報 原田 保(はらだ・たもつ) 早稲田大学政治経済学部卒。
西武百貨店元取締役。
西武百 貨店においては、役員会事務局、企画室長、物流部長、商品 管理部長、情報システム部長、国際業務部担当、業革推進事 務局担当、関東地区担当など歴任。
その後、香川大学経済学 部、大学院経済学研究科教授(経営戦略論、経営管理論など を担当)を経て、現在、多摩大学ルネッサンスセンター教授。
Ph.D.(Business Administration)。
主要著書は、『デジ タル流通戦略』、『戦略的パーソナルマーケティング』、『ソシ オビジネス革命』、『21世紀の経営戦略』、『場と関係の経営 学』、『コーディネートパワー』、『コラボレーション経営』。
PROFILE 経 営 戦 略 の 新 た な 領 域 と し て ロ ジ ス ティクスを捉えることで、わが国にお ける次世代型の経営戦略論の新機軸を 提言する。
そして競争ベースの経営戦 略、資源ベースの経営戦略などの既存 の経営戦略との比較検討を試みる。
上記のテーマに依拠しながら、参加 学生の全員がロジスティクス経営にお いて独創性を発揮した戦略モデルの提 言を行う。
これらを通じて戦略構想力 とプレゼンテーション能力の向上を同 時に実現する。
「ロジスティクス経営戦略/ コンテクスト創造の先進理論」 「ロジスティクス経営戦略演習/ コンテクスト創造への協創」 CLOコース担当講座
