2023年5月号
特集

「時間」を軸に運送業の経営を革新する

「1分当たりコスト」に基づく 域内輸送A社の時間管理術  "Time is money"(時は金なり)はアメリカ建国の父、ベンジャミン・フランクリンの言葉だそうだが、2024年問題に対して業界がとるべき行動はまさにこの言葉に集約されるように思われる。
つまり、「限られたドライバーの時間を大切に、最大限有効に使う」ということである。
 その具体策は、「域内輸送」と「長距離輸送」では異なってくる。
域内輸送では既存の枠組みの中で無駄を省いていくという方向性でよいが、長距離輸送では枠組みそのものを変えていく必要が生じてくる。
 まずは域内輸送から、実際に行われている取り組みを紹介していくことにしたい。
 「1カ月は1万分。
1万分で決まった額を稼がないと赤字になる。
ドライバーが仕事に出るときには運賃はもう決まっているのだから、これに見合う時間内で帰ってくるしかないんだよ」  このように語ってくれたのは、関東近郊で食品の地場配送を行うA社の社長である。
たしかに、1万分=167時間は一般的な月の所定内労働時間に近い値である。
例えば月に稼ぐべきノルマが50万円なら1分50円というように暗算できて、わかりやすい目安になる。
 A社ではこの金額を「1分コスト」と呼び、営業所ごとに全ドライバー共通の金額を定めている。
出発前のドライバーに渡す運行連絡票には、その運行で得られる運賃と、「運賃÷1分コスト」で計算した「運賃に見合う制限時間」が明示される。
1分コスト50円で運賃収入1万円の運行なら200分が制限時間である。
この時間以内に帰ってくることが、ドライバーに課せられる時間管理上の責任ということになる。
 日々の全ての運行は、翌朝までに、「制限時間」と実際にかかった「実際時間」を比較する形の管理表に整理される。
図1にそのイメージを示した。
実際時間が制限時間以内に収まっていればその運行は黒字、オーバーしている場合は赤字という評価になり、グラフが赤く表示される。
 営業所の管理者は管理表をみて、赤字の運行の運転日報の記録をあたって内容をチェックする。
チェックポイントは「実際時間が運行内容に対して長くかかりすぎていないか」である。
具体的には、走行距離と集荷・配達の軒数、荷量からその運行にかかる標準的な所要時間を割り出し、これと実際時間を比較する。
時間短縮は営業所長の責任 運賃交渉は社長の責任  「制限時間」「実際時間」「標準的な時間」という3つの時間が登場しているが、3者の関係は以下のように整理できる。
 いま、検討の対象は「実際時間が長いぞ」とチェックされた赤字運行に絞り込まれている。
ここで重要なのは、実際時間を標準的な時間と比べることで赤字の原因が分かり、とるべき赤字対策を区分けできるということである。
 実際時間が標準的な時間よりも長い場合は時間短縮の余地があり、余分な時間を省くことで黒字化する可能性がある。
短い場合は時間短縮の余地はない。
これは、そもそもの運賃が安すぎる(そのために制限時間が短すぎて赤字になっている)ということになる。
 余分な時間を省くには、管理者は運行日報を見ながらドライバーと話をして、どこでどんな問題が発生しているのか、よく事情を聴かなければならない。
いつも渋滞に巻き込まれるタイミングがあったり、通行規制で走りにくくなる時間帯があったりするならば、配送順を変えることで改善されるかもしれない。
 また、荷主都合で待たされたり、配達先で作業をさせられたりしている場合も、運転日報の記録だけでは実態はつかみきれない。
こうした実態をきちんとつかんで時間短縮に取り組むのは、営業所の管理者の責任である。
 運賃が安すぎる場合、これは経営者の出番だとA社社長は明言する。
社長の仕事は運賃交渉ともうひとつ、各営業所の稼働余力をつかんで「あと何分分の仕事をとろう!」と所長に発破をかけることだという。
図1のグラフを、社長は別の視点から見ているわけである。
 A社の時間管理は、2024年問題がいわれるよりずっと以前に考案されたものである。
時間を軸にして、会社の収益に対する「ドライバー」「営業所の管理者」「経営者」の責任が明快に区分され、やるべきことがはっきり見えている点で見事な管理術である。
運行時間の分析を全ての運行に対して行うのではなく、赤字の運行を絞り込んでからみていくあたりも、実務上の工夫として優れている。
 2024年問題対策でどの運送事業者にも、運行時間を正確につかむことが必須の課題となっている。
つかんだ時間をどう活かして管理に使うかというところで参考になる事例と思われる。
片道225キロ以上の輸送は 改善基準告示改正の影響大  ご存知のとおり、2024年問題では働き方改革関連法の施行による残業時間規制の厳格化と合わせて、大臣告示である「改善基準告示」が改正された。
長距離運送の時間管理上の制約という意味ではむしろ、改善基準告示改正の方が大きな影響を持つともいえる。
 この改正では業界と行政が、長距離運行に機能不全を起こさないようにぎりぎりの折衝を重ねた結果として、長距離限定の規制緩和規定がいくつか定められた。
例えば以下のような内容である。
● 1日の拘束時間は13時間以内、上限15時間だが長距離の場合は16時間まで延長可(週2回まで) ● 1日の休息時間は「継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らない」に対して長距離は8時間(同じく、週2回まで)  これらの緩和規定の適用対象は「走行距離450キロメートル以上の貨物運送」とされる。
つまり、片道距離でいえば225キロメートル以上は長距離運行であり、図2の地図に示されている区間は全て、例外規定の対象となる。
 ちなみに左側のグラフは2015年の貨物純流動調査から作成されたもので、貨物の出荷から届け先までの輸送距離(つまり、片道距離)に対して一番長い距離を運んだ輸送機関(代表輸送機関)のシェアを示したものだが、片道300~500キロメートル、500~700キロメートルといった距離帯でもトラックが「主役」であることが確認できる。
 ここで改めて改善基準告示をおさらいしてみると、長距離例外規定の運用にはいくつかの留意点がある。
● 拘束時間は1日ごとに「始業から24時間のあいだの業務時間」であり、往路始業から24時間経過せずに復路業務を開始した場合、24時間までの時間は初日と2日目両方の拘束時間にダブルカウントされる。
つまり、往路拘束時間の長さに関係なく、初日は「24時間マイナス休息時間」が拘束時間となる。
● 「週2回まで」を往路と復路で消費してしまう場合が多いことを考えると、長距離例外規定が使えるのは週に1運行までとなる。
 これらをふまえると、1泊の長距離運行で最も重要なのは休息時間の確保であり、「原則全ての運行で(例外規定に頼らず)、休息時間を最低9時間以上確保できるようにしておく」ということが管理の焦点となる。
休息時間は原則として分割せず、連続してとらなければならない。
こうなると、距離だけでなく「初日の出発時刻」「届け先での荷降ろし時刻」「帰り荷積込み時刻」等の設定が重要になってくる。
ドライバーの個性を尊重した 濃やかな時間管理が求められる  地方に本社を置き、長距離ドライバーを20人ほどかかえて、鋼材などの平ボディ車輸送を得意とするB社では、昨年から専担者を置いて全ての長距離運行における休息時間の取得状況を詳細にチェックしてきた。
その結果として、行先にもよるが、片道500~600キロメートル程度までであれば、概ね9時間以上の休息を確保し、改善基準告示に適った1泊運行を組み立てることが可能だとする。
 カギを握るのは「初日の積込み出発時刻」である。
出発が遅ければ当然ながら休息時間が不足する恐れが大きくなるわけで、運行管理者としてはなるべく早めに、余裕をもって出発してほしい。
 しかし、ここで出発が遅くなる理由として、荷主の準備が遅い場合と、ドライバーが自宅で休んでからなるべくゆっくり出発したいと考える場合の両方があることがわかった。
また、出発時刻の決定には「復路の積み時刻」も重要であり、逆算して計画を組み立てたいが、出発時点で帰り荷が確定していない場合があり、これが休息をとれない一因になることも見えてきた。
 「早く出発して、降ろし場所の近くで安心して休みたい」と考えるか、「なるべく自宅で休みたい」と考えるかはドライバーの個性である。
B社としては、最大限、ドライバーの個性を尊重したいと考えて、行先方面別に「最も遅い出発限度時刻」を定めて、荷主とドライバーの両方に了解を得るというルール作りを進めている。
また、出発時点でなるべく条件の良い帰り荷が決まっているように、帰り荷探索能力を高めることにも注力している。
 一方で、片道600キロメートルを超えるような長距離運行では、改善基準告示を満たしての1泊運行は困難である。
例外規定を使えば週1の運行はできるとしても、これは「特別な運行」であり、「希少価値のあるもの」と荷主に認めてもらうこと、つまり、高い運賃をもらえることが実施の必要条件となる。
 2泊運行や2人乗務といった策もあるが、いずれをとるにしても、これはもはや普通の運行ではない。
「長距離運行で法を守るにはコストがかさむ。
仕事を断らないためには、運賃を上げてもらうしかない」とB社社長は断言する。
 中継輸送という選択肢も、無論、視野に入れているが、これは実際のところ、大手運送会社のネットワークに参画しないと実現は難しい。
地方の優良メーカーを荷主とし、8割以上の仕事を真荷主から受託することを信条としてきたB社にとって、自社の価値を確保しながら大手の力を借りていくことは、これからの新たな課題である。
長距離のワンマン運行はやめる 「荷物は走っても人は走らない」  B社に近い規模の長距離輸送部門を持ち、低温食品類の輸送を得意とする地方運送事業者のC社は、かなり以前から、他の地域の中堅事業者と連携した長距離リレー運行に取り組んできた。
ここでは中継地点での載せ替え、積み替えだけでなく、より機動的な協力体制がとられている。
 例えば帰り荷の積み地が往路の降ろし地から離れていたり、積み時間まで空きがあったりする場合に、「積み込み業務だけ、近くにいる他社のドライバーに頼む」ということができれば、自社のドライバーをその間休息させることができる。
積みだけでなく降ろし作業も頼めば、さらにまとまった休息時間を取れる。
 また、長距離輸送ではA-B地点間の往復だけでなく、間に別区間の輸送を挟んでA-B、B-C、C-Aと3つの仕事をする、いわゆる「三角輸送」が多く行われるが、BおよびCで降ろし地と積み地が離れていると、その間は空で移動しなければならない。
ここで連携先に照会して、空走区間を短くできるような輸送案件があれば、真ん中B-Cの輸送と交換をすればよい。
このほかにも、相互にさまざまな協力パターンがありうる。
 こうした業務スイッチを円滑に行う上で、最も重要なのは「どの会社のドライバーに頼んでも、同じ品質の仕事ができる」ということである。
 C社のドライバー教育はユニークで、ドライバーが持つべきスキルをステップ1、2、3のように整理して認定する昇級制度や、顧客ごとに毎年「ナンバーワンマスター(その顧客への対応に最も優れているドライバー)」を決めて他のドライバーの規範とする制度など、さまざまな工夫が凝らされている。
 また、社長はドライバー一人一人が自らの長所短所、目指すスキルなどを書き綴った「タレントパネル」をいつでもスマホでみられる形で携帯しており、月に数度の東京出張の往路は極力、トラックの助手席に横乗りしてドライバーの話を聞くなど、徹底して現場を知り、寄り添う努力をしている。
「同じマインドを持つ経営者同士で、信頼関係をベースにできなければ、顧客接点の部分の仕事など恐くて任せられない」ということである。
 さらに、「互いの車両の稼働状況をリアルタイムでつかめること」「積み・降ろし作業に必要な情報を画像等も使って即座に共有できること」等も、機動的な連携の必要条件となる。
GPS搭載による車両動態管理やSNSが活用されており、これらの情報ツールの能力が上がり、かつ、利用コストが下がっていることは追い風である。
 C社社長は「幹線長距離を1人で運転するのは、原則、やめる方向。
荷物は走っても、人は走らない。
路線のような定時運行とは少し異なり、リアルタイムで計画を立てながら、機動的なリレー運行を行う。
このマネジメントこそ、長距離運行のノウハウとなる」と語る。
 2024年問題を長距離輸送の価値を正しく認識してもらうという意味で、むしろ追い風と認識している。
荷主がどうしても積み替えなしで一貫輸送をして欲しいと望むなら、その条件に合った運賃をもらう。
「着側で慣れたドライバーに降ろしてもらわないと困るというなら、『指名料』をいただいて望みをかなえればよい」ということである。
 「限られたドライバーの時間を大切に、最大限有効に使う」という取り組みは、本来的に運送事業者の経営にプラスになるものであり、荷主に輸送というものの価値を正しく評価してもらうこと、これに見合った報酬をドライバーに払うことにつながっていく。
 時間を大切にしている運送事業者には、2024年問題はむしろ追い風であり、これまで取り組んできたことが真価を発揮するチャンスである。
今回の取材でそのような実例に複数出会えたことを心強く思い、一層のエールを送りたい。

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