2023年5月号
特集

アスクル 「おトク指定便」で物量の波動を平準化

配送日の後ろ倒しでお得に購入  アスクルはBtoBの事業所向け通販事業とBtoCの個人向けインターネット通販事業の二つを柱に事業を展開している。
それぞれの売上高は事業所向け通販事業が約3480億円で個人向けインターネット通販事業が約706億円(2022年5月期)となっている。
 これらを支える物流拠点を全国に配置している。
BtoB事業を担当するセンターが6カ所、BtoBとBtoCの両方を行うセンターが2カ所、BtoCのみが1カ所、前捌きと3PL事業拠点が1カ所という構成だ。
いずれの拠点もグループ会社のASKUL LOGISTが運営している。
配送も自社車両を主力にしている。
 個人向けECは販促実施時の物流波動が極端に大きい。
アスクルの個人向けEC「LOHACO(ロハコ)」や「ヤフーショッピング」の週間・月間販促キャンペーン時などには出荷量が通常時の5倍近くに跳ね上がることもある。
年間実施の大型販促時にはさらに波動が大きくなる。
 自社物流を強みとしているだけに波動への対応は特に重要になる。
ピーク時に合わせて処理能力を整備すれば通常時にリソースを持てあましてしまう。
しかし、出荷量が拠点のキャパシティを超えれば遅延などを招く恐れがある。
 この問題を解決する方法の一つとして、アスクルはヤフーと共同で「おトク指定便」を展開している。
商品の受け取りを急がない買い物客に配達日を通常よりも遅らせてもらう代わりに、「PayPayポイント」を進呈するというサービスだ。
到着日を分散することでピークの山を崩し、日々の物量を平準化する。
 アスクルの成松岳志執行役員ロジスティクス本部本部長は「BtoC-ECの需要と供給のバランスを物流面でどう整えるかが出発点だった。
具体的に仕組みを設計する上では、配達日の後ろ倒しによる出荷日の分散が、どの程度まで消費者に受け入れられるのかを調べる必要があった」と話す。
 「おトク指定便」は22年8月に当初は実証実験の形で「LOHACO by ASKUL」(ロハコ本店)と「LOHACO Yahoo!店」(ロハコヤフーショッピング店)でスタートした。
10月までは毎週日曜日、10月中旬以降は「5のつく日」(毎月5日、15日、25日)のキャンペーン時に主に実施している。
 初期段階では大きく三つの点を検証した。
一つは、どれだけポイントを進呈すればいいのか。
二つ目は、買い物客が何日ぐらいまでの後ろ倒しを受け入れてくれるのか。
そして三つ目は、配送日を引き延ばした後で再び同じ日に出荷が集中することがないように波動を調整する仕組みの整備だ。
 実験開始当初は進呈するポイントを厚めに設定した。
約3週間の選択結果を分析したところ、51%の買い物客が「おトク指定便」を利用していた。
最大30円相当のポイントを付与した場合の利用率は54%。
最大20円と最大15円の場合はいずれも48%だった。
買い物客の半分近くが配達日の移動を受け入れ、ポイントの進呈額による利用率の差は小さいことが分かった。
 配達を希望する日付の選択肢を複数パターン設定することで、買い物客が何日間の配達日の後ろ倒しを許容するのかも調べた。
1週間以内、8日目以降、10日目以降などの幅広いパターンを設定して検証を進めた結果、1週間以内であればかなりの割合で受け入れてもらえることが分かった。
また10日後などの遅い日付でも一定程度の割合で受け入れてもらえる場合があることも判明した。
 現在、ロハコは毎月の「5のつく日」に販促キャンペーンを実施していることから、実施日の5日、15日、25日に注文が多くなる。
そこで「5日から14日まで」「15日から24日まで」「25日から翌月4日まで」の三つのサイクルに区切り、各サイクル内における日々の物量が平準化されるように、「おトク指定便」の日付とポイントを調整している。
 販売予測の内容と各物流センターのキャパシティを照らし合わせ、どの日に移動するのが効率的なのかを確認し、販売と物流のメンバーが連携してポイント倍率や移動させる日付を設定する。
物流の負荷を下げたい日は、曜日の並びやその他の販促の実施状況などによっても変わってくるため、配達日の選択範囲は随時調整している。
 「今日が10日だとして、次の5のつく日に『おトク指定便』を実施するのなら『15日から24日まで』のサイクルで設計する。
『21日は少し受注が多そうだ』『16日は少ないだろう』といった予測に基づいて、物量の山と谷がどこに来るかを割り出し、谷が深いところに『おトク指定便』の進呈ポイントや移動日を設定して分散させる」と成松本部長は説明する。
高評価を背景に実施を継続  実はアスクルは数年前にも、今回の「おトク指定便」と似たサービスを、ロハコ本店で試したことがあった。
その際の利用率は「おトク指定便」よりも低かった。
アスクルでは今回の取り組みで利用率が高まった理由は大きく二つあると考えている。
一つはサイトのユーザーインターフェース(UI)だ。
 「おトク指定便」を利用するのに、買い物客は参加申し込みなどをする必要はない。
商品をカートに入れ、届け先や決済方法などを選ぶレジ画面に進むと、配達日や時間を指定する表示が出てくる。
「おトク指定便」実施期間中の対象注文であれば、配達希望日の部分に進呈ポイントが表示される。
配達日を後ろ倒してもいいのであれば、希望の日付を選択すると、そのまま適用される。
 「買い物客が必ず通る注文動線に『おトク指定便』を組み込んだ。
バナー広告で告知するといったやり方もあるが、伝える力としては限界がある。
普通に買い物をして自然に気付ける仕組みにした点が高い利用率の一因だろう。
UIの設計が非常にうまくいったと感じている」と成松本部長。
 利用率が高まったもう一つの理由は買い物客の意識の変化だ。
コロナ禍以降、置き配が一般的になり、EC商品の受け取り方の幅が広がった。
それに加えて、ラストワンマイルをはじめとする物流の逼迫に対する理解が浸透していることから、最速の配達でなくても構わないと考える買い物客が増えている。
 「SNSなどを中心に利用者からは『おトク指定便』に対する肯定的な意見が多く寄せられている。
『少しでも物流が良くなるのなら商品の到着を多少待ってもいい』という社会的な側面からの高評価と、消費者の節約志向を反映した高評価で、おおむね半々程度といったところ」と成松本部長は語る。
 「おトク指定便」は当初、23年3月までの実証実験として展開する計画だったが、利用者から高い評価を受けている上、物流の平準化に大きな効果を上げていることから、現在も継続して実施している。
今後も物流負荷と消費者メリットのバランスをうまく取りながら、さらに効率的な物流の仕組みを整備していく計画だ。

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