2023年5月号
特集
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海外論文 コロナ時代のトラックドライバーと運送業界
イントロダクション
新型コロナウイルスの感染者数は、米国だけで4500万人を上回った(Centers for Disease Control and Prevention, 2021)。
およそ2600万人の米国民が失業申請を行い、さらに数百万人が労働時間の短縮・給与カット・無給休暇など、パンデミックに由来する経済的な影響を被った。
労働者への影響ばかりでなく、パンデミックはサプライチェーンの機能不全を招来し、企業はビジネスモデルの転換を迫られることになった。
こうした影響の深刻さは、これが米国社会を襲った世界恐慌以来最大の経済的ショックであることを物語っている。
この脆弱性は運輸業界、その中でも特にトラック運送業を直撃した。
トラック運送業は、パンデミックに関連する経済への懸念と健康への懸念が交差する結節点だからである。
州レベルの集計によると、コロナウイルスによる超過死亡率の最も高いセクターの一つが、運輸・物流セクターである。
外出禁止令や旅行の減少によって消費者の購買行動が変化し、宅配需要が増加した。
パンデミック期間にeコマースの売上が増加し、2020年第1〜第2四半期の間で30%を超える伸びを示した。
需要やサプライチェーンのこうした変容により、トラック運送業界は物流の課題を数多く抱えることになった。
労働者の視点からすると、エッセンシャルワーカーは、健康リスク回避に対する雇用側の無配慮、操業停止や外出禁止令による就業機会の喪失など、不当ともいうべき扱いを受けた。
トラックドライバーが、パンデミックといえどリモートで働くわけにはいかないエッセンシャルワーカーであることは、あらためていうまでもない。
パンデミックは、エッセンシャルワーカーの経済と健康どちらのリスクも押し上げた。
なぜなら、①雇用主が彼らの健康リスクを遠ざける手立てを講じなかった、②雇用主もしくは政府が経済的リスクに対する対策を講じなかった──からであり、操業停止の通達や外出禁止令も彼らに一方的な負担を強いることになった。
エッセンシャルワーカーの置かれたこの状況およびサプライチェーンの変容が、休憩所の閉鎖などインフラ問題を惹起し、運輸・物流セグメントの労働者には、パンデミック由来のストレスの増加や健康への悪影響が生じた。
トラック運送業の課題 トラック運送業は、コロナ禍以前でさえ多くの問題を抱えていた。
図表1はトラック運送業の課題トップ10である。
真っ先に挙げられているのはドライバー不足だ。
事務や事務補助など他の職種の平均年齢が42・9歳であるのに対し、ドライバー職は55歳を上回る。
この年齢層の特徴には、自宅や家族から離れている時間が長い割にはそれに見合う報酬が得られない、という事情が反映している。
また、米連邦自動車運送業者安全局(FMCSA)薬物・アルコール情報センター、およびその各種規制の存在がドライバーの新規採用を困難にし、結果的にドライバー不足につながっているとの指摘もある。
平時からそのような状況にあるトラック運送業は、パンデミックによる工場の操業停止、そして外出制限に起因する消費者の購買行動の変化に翻弄された(図表2)。
米国で国家非常事態が宣言されると、パニック買いや通販の売上増により、トラック輸送需要は急増した。
ソーシャルディスタンシングが一般に広まることで、食品の集配サービスへの需要が増え、サービスの待ち時間が長くなった。
ただし、トラック運送業に対するコロナの影響は、荷主の属するセクターや輸送貨物の種類などによって異なる。
医療用品や食料品のように増えた業種もあれば、接客業向けなど減少した分野もある。
また、事業所の閉鎖や工場の操業停止により、一部のトラック輸送サービスへの需要も減った。
トラックドライバーの課題 トラックドライバーの従来からの課題を、パンデミックはさらに悪化させることになった。
パンデミック前の分析では、長距離トラックドライバーのストレスについて、マクロレベルの要因がいくつか組み合わさった結果であることが示唆されている。
⑴ 製造業の賃金の低下(トラックドライバーの賃金と強い関係性をもつ) ⑵ 労働組合の存在感低下を目論む国の政策 ⑶ トラック運送業の競争激化 ⑷ 極端に競争が激しい業界における勤務時間規制 こうした競争環境は、長時間労働や交代勤務制など劣悪な労働スケジュールにつながり、それがしばしば疲弊の原因となる。
ドライバーという仕事に付随する問題としては、家族や友人たちと遠く離れることで感じる社会的孤立以外にも、食生活の乱れや薬物の乱用などがあり、それらが肥満・高血圧・ストレス・高い自殺率など、健康に悪影響を及ぼしている。
特に、健康問題や将来の雇用不安から業界を離れることが難しいと感じているベテランドライバーは、職務ストレスによる精神的・肉体的な燃え尽き症候群に陥りがちな傾向にある。
こういった職務上の問題に加え、パンデミックはドライバーに新たな懸念を生じさせた。
トラックドライバーは全体的に年齢層の高い男性が多いため、コロナの影響を受けやすい。
仕事中のドライバーはある程度隔離されているとはいっても、市民に生活必需品を届けなければならないという役割上、新型コロナのホットスポットの真っ只中に直接出向く必要がある。
しかも道路上では、政府の指示によってサービスエリアが閉鎖されたことで、食べ物とトイレの確保が困難を極めた。
そこで米国トラック協会(ATA)をはじめとするいくつかの団体は、「#ThankATrucker」なるキャンペーンを展開し、マスクの配布や手の消毒液の補充ステーションを全国に設けるなどの取り組みを行った。
トラック運送に対する社会的評価 トラック運送業およびトラックドライバーは、前述のとおり社会的レベルのストレス要因にさらされている。
それに加えて、トラック運送に対して世間一般の人びとが抱く認識もまた、業界とドライバーにとってのストレスとなっている。
ドライバー不足の原因の一つは、ドライバーに対する一般市民の否定的なイメージであるとの見方もあるほどだ。
パンデミック前のある調査によると、市民ドライバーの多くは、トラックドライバーの運転マナーが危険であると考えている。
市民とトラック運送業界が直接的な関わりをもつことはあまりないため、安全に関する一般の認識は道路での実体験がすべてであり、それがそのままトラック運送業界全体に対するパブリックイメージとなる。
ステークホルダー、顧客、政府などからだけでなく、トラックドライバーと道路を共用する人びとからの敬意やサポートを得られないことも、心理的なストレスの要因となっているのだ。
世論や世間の評判は、公共政策の形成にも大きな影響を与える。
芳しくないパブリックイメージの改善を図るべく、トラック運送業界は「Trucking Moves America Forward」等の活動を行ってきた。
ところが米国がパンデミックに襲われると、2020年4月に大統領がトラック運送業のパンデミック対応を公式に賞賛するなど、社会的評価は上向きに転じた(図表3)。
トラック運送業会社の経営戦略 当初はパニック買いが見られたが、パンデミックが進行して人びとが自宅に引きこもるようになると、それに応じて購買行動も変わった。
消費者の購買行動がコロナで増幅されるのとは対照的に、サプライチェーンは混乱に陥り、トラック運送業界とその事業活動が影響を受けた。
混乱の主な原因は、荷主の労働力不足や強制的な操業停止などである。
サプライチェーンに内在するこうした要因は、ジャストインタイムの購買で倉庫に在庫を極力持たないオペレーションが多いことから、柔軟性の低下と急ぎの配送の増加をもたらした。
ドライバーには、納期厳守というさらなるプレッシャーが加わった。
トラック運送会社は、各種規制・輸送量の変動・納期の調整など予測不可能な状況に直面し、どのようにして生き残るかに各社は頭を悩ませることとなった。
某運送会社の36歳のマネジャーは「収益という面に限らず、影響は大きかったです。
われわれの納入先は操業停止が許されない発電所や排水処理施設が多かったので、当初は量的な変化がほとんどなかった。
しかし工場が次々と閉鎖されていくのに伴って、荷物の量は減っていった。
運ぶ荷物がないのに、人を雇って仕事を与えることはできません」と語る。
工場のシャットダウンの当初こそ仕事量は減ったが、時とともにリバウンドや、場合によっては増加した運送会社さえある。
各社の貨物量の変化は、顧客の属するセクター(鉄鋼、家庭用品、農産物など)により異なる。
その時々の需給や顧客との関係性次第で、トラック運送会社はさまざまな種類の貨物を運ぶようになった。
パンデミック下で会社の存続を図るため、運ぶ貨物やビジネスモデルを大きく変えるだけでなく、従業員の解雇・積立金の取り崩し・保険契約の見直しなど、その場しのぎの対策にも追われた。
トラック運転手の経験と職場の安全 新型コロナウイルスに対する従業員の考え方は各人各様であり、それらに対応すべく企業は弛まぬ努力をつづけていた。
ひどく恐れる者もいれば、大して気にしない者もいた。
パンデミックに見舞われている間も各社は社員を尊重し、雇用・満足・安全・給与を維持すべく奮闘した。
感染を恐れるあまり出社できない社員、家族が感染して仕事を休まざるをえない社員、陽性判定を受けた社員に対し、会社側は一定の理解を示した。
社員一人一人への配慮に加えて、社員を感染から守る新しい業務手順も採用された。
39歳のスーパーバイザーは、「会社としてできることはすべてやっている。
個人防護具(PPE)であれ除菌グッズであれ、必要なものは何でも与えています、マスクもです」と説明する。
その言葉どおり、PPEや安全装備の提供に関して、会社側の姿勢を問題視するドライバーの声はどこからも聞こえてこなかった。
内勤者を対象としたリモートワークも始まった。
内勤者はリモートもしくは出社、ドライバーは内勤者とは一切接触しない、という職場の分離である。
ドライバーと内勤者の分離は社員の健康を守るためであったのだが、ドライバーには反感を買うことになった。
25歳のスーパーバイザーは、ドライバーから聞いた話を振り返って次のように語った。
「それによってドライバーのモラルが少し低下しているように感じます。
ドライバーが長い1週間を終えてターミナルに帰ってくると、そこには誰もいない。
俺たちは自宅から遠く離れて危険に身をさらしているというのに、内勤者は安全な自宅でのうのうと仕事しやがって、というわけです」 また、多くの企業が無期限のシャットダウンに入り、道路を走るドライバーの数が減った。
その結果、ほとんどの休憩所とレストランが閉鎖されてしまう地域も出てきた。
移動中に用を足したり食事を摂ることが極めて困難になったことで、ドライバーの生活の質(QOL)は低下した。
こうした州の政策変更によるドライバーのQOLの低下のみならず、荷主や届け先のルール変更もドライバーの仕事の質と業務に影響を与えた。
新しい決まりでは、安全上の懸念から人びとの交わりが制限され、ドライバーは、荷物の積み降ろしなどの通常業務にかかわることを禁じられた。
ある58歳のマネジャーはドライバーの悩みについて「多くの施設では、トラックから降りられない。
(降りることが)禁じられている。
トレーラーにちゃんと荷物が積まれているか、きちんと固定されているかどうか、それでどうやって確認しろというのでしょうかね?」と話す。
職場のソーシャルディスタンスを維持しながら業務を継続する上では、テクノロジーが生命線となった。
「最初の3カ月ほどの間は、書類を一切受けとらないところが多かった。
かれらはすべてを電子化したのです。
サインさえすれば、あとは配車係がすべてやってくれるのです」 在宅勤務へのシフトが可能な職種がある一方、“エッセンシャルワーカー”たるトラックドライバーには、トイレットペーパーや食料品などの必需品を現地に実際に出向いて届ける、という選択肢しかなかった。
近年トラックドライバーについては、訴訟沙汰にまでなる事故が多いことや職業に対する偏見から、世間の評判は良いとは言い難かった。
ところが、新型コロナウイルスの蔓延はトラックドライバーの仕事を世間に知らしめ、人びとにあらためて感謝の念を抱かせることになったのである。
考察 今回の調査によりわれわれは、パンデミック中の需要変動に対処するための企業努力について、新しい知見を得た。
トラック運送会社が収益を補うために採用した戦略の一つは、従来とは異なる種類の貨物を運ぶことであり、それがかえって増収につながるケースさえあった。
この方針転換は、サプライチェーンの混乱への対策としても機能した。
例えば、耐久消費財とeコマースの売上増が、輸送貨物量をパンデミック前を上回る水準にまで押し上げた。
一時的解雇や新たなコスト削減努力など、企業がこの期間を乗り切るために採用した方策もある。
生き残りをかけたこうした企業努力に加え、パンデミックで一時的に解雇された従業員は、その間、失業手当によって賃金を補うことができた。
トラック運送業界全体に共通する最大の懸案事項の一つはドライバー不足であるが、今回の調査対象者の間では、解決されるべき課題としてあまり認識されていない。
トラック運送業界のドライバーが減ったのは一時的なものと考えられているためか、あるいは、現役ドライバーにとっては雇用問題は差し迫った問題ではないし、一方のマネジャーやスーパーバイザーは、いま現に対処しなければならない生き残りという課題に手一杯というところなのであろうか。
新型コロナが自分たちの仕事に影響を与えたということついては、ほぼすべての回答者が同意している。
その中で勤務時間が増えたとする回答が56%に上り、収入が減ったとするのは25%にすぎない。
運輸を含む多くの業界で賃金カットや労働時間の短縮が報告されている事実と、この結果は相矛盾する。
トラックドライバーという仕事は、他の職種と比べ、パンデミックによるマイナスの影響を受けにくいというのがその理由かもしれない。
ステイホーム期間中、他の産業は必要不可欠ではないという理由で、パンデミック前の水準での操業ができなかったのに対し、物資(食糧、医薬品など)は何があっても流通させる必要があった。
トラック運送会社で働くすべての社員の感染リスクを下げるため、企業は新たな運営方針を採用した。
しかしこれは、内勤の同僚から遠ざけられているという気持ちをドライバーに抱かせるという、意図しない結果をもたらした。
長時間にわたってたった1人で運転をしてきた後では、社員同士の交流が心を癒やす大切な要素であるのに、それが失われたことでドライバーのモラルやウェルビーイングは低下した。
この結果は、パンデミック期間中、エッセンシャルワーカーと同じリスクを分かち合わないリモートワーカーに対し、エッセンシャルワーカー側がある種の反感を感じたとする研究結果と一致する。
今回の調査対象者の中で、2人で交代しながら運転するという例は一つもなかった。
これには、たとえ夫婦であっても常時マスク着用を義務づけられたことが影響しているものと思われる。
パンデミックが始まる前でさえ、ドライバーは社会的孤立を感じやすい傾向にあった。
こうした制約がかれらのウェルビーイングをどの程度蝕んだのか、あるいはトラック運送業における職種間の格差をどれだけ拡げたかについては、まだ明らかになっていない。
トラックドライバーに対するイメージはパンデミックによって改善された。
ツイッターで話題となる頻度が増えただけでなく、トラックドライバーがこれまでより好意的に語られることで、全体的に肯定的な評価が増えたのである。
他のソーシャルメディアにおいても同様の現象が確認されており、それはドライバー自身が肌で感じる世間からの評価にも現れている。
しかしながら、新型コロナが収束したあともこの傾向がつづくかどうかは定かではない。
全体として、ウイルスに対するドライバーの感情的反応は人それぞれである。
ドライバーの一部は、パンデミック前と同じように働くことに強い懸念を示した。
ウイルスに感染したドライバーは出勤を見合わせるよう勧告が出されたが、すべての会社の社員がそのルールに従ったわけでもないだろう。
新型コロナのリスクに懐疑的な者も多かったからである。
反応には個人差があるため、経営層が全員の納得するようにうまく調整をすることは難しい。
全体として、会社側は社員の懸念に同情的であり、新型コロナのリスクを恐れる社員にはステイホームを認め、その間の経済的援助も行った。
トラック運送会社や取引先が業務手順を見直すことで、ドライバーの安全性は順次改善されてきたものと考えられる。
しかし、新たに導入された業務手順が仕事に差し支えるというケースもあり、必ずしも歓迎一色というわけではない。
例えば、取引先での荷積みが適切に行われているかどうかを確認することが、これまでより難しくなるようなこともあった。
安全性の低下を防ぐためには、人と人の接触を伴わない配送プロセスや品質改善手順の改善が求められる。
休憩エリアやさまざまな施設・店舗の閉鎖など、ドライバーは道路上で思ってもいなかった事態に遭遇した。
トラックに冷蔵庫を設置する、政府や自治体と連携して適切な衛生管理と食事ができる休憩所を設ける、社員のモラルを高める工夫をする、などといった取り組みが求められる。
結語 新型コロナウイルスがトラック運送業や国家にどのような影響をもたらすか、まだ全体像を見通すことは困難である。
経済情勢はたった数カ月でその様相を一変させ、それがトラック運送会社と業界全体の日々の営みを左右した。
eコマースが輸送量を押し上げるなどプラスの変化もあれば、不測の事態(サプライチェーンの混乱など)によって停滞することもあった。
パンデミック収束後、コロナが企業運営や業界動向にどのような影響を与えるかは未知数である。
パンデミックの期間を通じ、ドライバーは潜在的危険性をはらむ状況下で働き、トラック運送業の最前線に立ってきた。
歴史上類を見ない時代に、トラック運送業界は米国を動かし続けた。
当研究では、トラック運送業が受けたパンデミック由来の影響について見てきた。
パンデミック中も、そしてポストパンデミックの時代も経済と社会は進化してゆく。
そのような時代にトラック運送業はどのように進化していくのか、興味は尽きない。
(翻訳構成 大矢英樹)
およそ2600万人の米国民が失業申請を行い、さらに数百万人が労働時間の短縮・給与カット・無給休暇など、パンデミックに由来する経済的な影響を被った。
労働者への影響ばかりでなく、パンデミックはサプライチェーンの機能不全を招来し、企業はビジネスモデルの転換を迫られることになった。
こうした影響の深刻さは、これが米国社会を襲った世界恐慌以来最大の経済的ショックであることを物語っている。
この脆弱性は運輸業界、その中でも特にトラック運送業を直撃した。
トラック運送業は、パンデミックに関連する経済への懸念と健康への懸念が交差する結節点だからである。
州レベルの集計によると、コロナウイルスによる超過死亡率の最も高いセクターの一つが、運輸・物流セクターである。
外出禁止令や旅行の減少によって消費者の購買行動が変化し、宅配需要が増加した。
パンデミック期間にeコマースの売上が増加し、2020年第1〜第2四半期の間で30%を超える伸びを示した。
需要やサプライチェーンのこうした変容により、トラック運送業界は物流の課題を数多く抱えることになった。
労働者の視点からすると、エッセンシャルワーカーは、健康リスク回避に対する雇用側の無配慮、操業停止や外出禁止令による就業機会の喪失など、不当ともいうべき扱いを受けた。
トラックドライバーが、パンデミックといえどリモートで働くわけにはいかないエッセンシャルワーカーであることは、あらためていうまでもない。
パンデミックは、エッセンシャルワーカーの経済と健康どちらのリスクも押し上げた。
なぜなら、①雇用主が彼らの健康リスクを遠ざける手立てを講じなかった、②雇用主もしくは政府が経済的リスクに対する対策を講じなかった──からであり、操業停止の通達や外出禁止令も彼らに一方的な負担を強いることになった。
エッセンシャルワーカーの置かれたこの状況およびサプライチェーンの変容が、休憩所の閉鎖などインフラ問題を惹起し、運輸・物流セグメントの労働者には、パンデミック由来のストレスの増加や健康への悪影響が生じた。
トラック運送業の課題 トラック運送業は、コロナ禍以前でさえ多くの問題を抱えていた。
図表1はトラック運送業の課題トップ10である。
真っ先に挙げられているのはドライバー不足だ。
事務や事務補助など他の職種の平均年齢が42・9歳であるのに対し、ドライバー職は55歳を上回る。
この年齢層の特徴には、自宅や家族から離れている時間が長い割にはそれに見合う報酬が得られない、という事情が反映している。
また、米連邦自動車運送業者安全局(FMCSA)薬物・アルコール情報センター、およびその各種規制の存在がドライバーの新規採用を困難にし、結果的にドライバー不足につながっているとの指摘もある。
平時からそのような状況にあるトラック運送業は、パンデミックによる工場の操業停止、そして外出制限に起因する消費者の購買行動の変化に翻弄された(図表2)。
米国で国家非常事態が宣言されると、パニック買いや通販の売上増により、トラック輸送需要は急増した。
ソーシャルディスタンシングが一般に広まることで、食品の集配サービスへの需要が増え、サービスの待ち時間が長くなった。
ただし、トラック運送業に対するコロナの影響は、荷主の属するセクターや輸送貨物の種類などによって異なる。
医療用品や食料品のように増えた業種もあれば、接客業向けなど減少した分野もある。
また、事業所の閉鎖や工場の操業停止により、一部のトラック輸送サービスへの需要も減った。
トラックドライバーの課題 トラックドライバーの従来からの課題を、パンデミックはさらに悪化させることになった。
パンデミック前の分析では、長距離トラックドライバーのストレスについて、マクロレベルの要因がいくつか組み合わさった結果であることが示唆されている。
⑴ 製造業の賃金の低下(トラックドライバーの賃金と強い関係性をもつ) ⑵ 労働組合の存在感低下を目論む国の政策 ⑶ トラック運送業の競争激化 ⑷ 極端に競争が激しい業界における勤務時間規制 こうした競争環境は、長時間労働や交代勤務制など劣悪な労働スケジュールにつながり、それがしばしば疲弊の原因となる。
ドライバーという仕事に付随する問題としては、家族や友人たちと遠く離れることで感じる社会的孤立以外にも、食生活の乱れや薬物の乱用などがあり、それらが肥満・高血圧・ストレス・高い自殺率など、健康に悪影響を及ぼしている。
特に、健康問題や将来の雇用不安から業界を離れることが難しいと感じているベテランドライバーは、職務ストレスによる精神的・肉体的な燃え尽き症候群に陥りがちな傾向にある。
こういった職務上の問題に加え、パンデミックはドライバーに新たな懸念を生じさせた。
トラックドライバーは全体的に年齢層の高い男性が多いため、コロナの影響を受けやすい。
仕事中のドライバーはある程度隔離されているとはいっても、市民に生活必需品を届けなければならないという役割上、新型コロナのホットスポットの真っ只中に直接出向く必要がある。
しかも道路上では、政府の指示によってサービスエリアが閉鎖されたことで、食べ物とトイレの確保が困難を極めた。
そこで米国トラック協会(ATA)をはじめとするいくつかの団体は、「#ThankATrucker」なるキャンペーンを展開し、マスクの配布や手の消毒液の補充ステーションを全国に設けるなどの取り組みを行った。
トラック運送に対する社会的評価 トラック運送業およびトラックドライバーは、前述のとおり社会的レベルのストレス要因にさらされている。
それに加えて、トラック運送に対して世間一般の人びとが抱く認識もまた、業界とドライバーにとってのストレスとなっている。
ドライバー不足の原因の一つは、ドライバーに対する一般市民の否定的なイメージであるとの見方もあるほどだ。
パンデミック前のある調査によると、市民ドライバーの多くは、トラックドライバーの運転マナーが危険であると考えている。
市民とトラック運送業界が直接的な関わりをもつことはあまりないため、安全に関する一般の認識は道路での実体験がすべてであり、それがそのままトラック運送業界全体に対するパブリックイメージとなる。
ステークホルダー、顧客、政府などからだけでなく、トラックドライバーと道路を共用する人びとからの敬意やサポートを得られないことも、心理的なストレスの要因となっているのだ。
世論や世間の評判は、公共政策の形成にも大きな影響を与える。
芳しくないパブリックイメージの改善を図るべく、トラック運送業界は「Trucking Moves America Forward」等の活動を行ってきた。
ところが米国がパンデミックに襲われると、2020年4月に大統領がトラック運送業のパンデミック対応を公式に賞賛するなど、社会的評価は上向きに転じた(図表3)。
トラック運送業会社の経営戦略 当初はパニック買いが見られたが、パンデミックが進行して人びとが自宅に引きこもるようになると、それに応じて購買行動も変わった。
消費者の購買行動がコロナで増幅されるのとは対照的に、サプライチェーンは混乱に陥り、トラック運送業界とその事業活動が影響を受けた。
混乱の主な原因は、荷主の労働力不足や強制的な操業停止などである。
サプライチェーンに内在するこうした要因は、ジャストインタイムの購買で倉庫に在庫を極力持たないオペレーションが多いことから、柔軟性の低下と急ぎの配送の増加をもたらした。
ドライバーには、納期厳守というさらなるプレッシャーが加わった。
トラック運送会社は、各種規制・輸送量の変動・納期の調整など予測不可能な状況に直面し、どのようにして生き残るかに各社は頭を悩ませることとなった。
某運送会社の36歳のマネジャーは「収益という面に限らず、影響は大きかったです。
われわれの納入先は操業停止が許されない発電所や排水処理施設が多かったので、当初は量的な変化がほとんどなかった。
しかし工場が次々と閉鎖されていくのに伴って、荷物の量は減っていった。
運ぶ荷物がないのに、人を雇って仕事を与えることはできません」と語る。
工場のシャットダウンの当初こそ仕事量は減ったが、時とともにリバウンドや、場合によっては増加した運送会社さえある。
各社の貨物量の変化は、顧客の属するセクター(鉄鋼、家庭用品、農産物など)により異なる。
その時々の需給や顧客との関係性次第で、トラック運送会社はさまざまな種類の貨物を運ぶようになった。
パンデミック下で会社の存続を図るため、運ぶ貨物やビジネスモデルを大きく変えるだけでなく、従業員の解雇・積立金の取り崩し・保険契約の見直しなど、その場しのぎの対策にも追われた。
トラック運転手の経験と職場の安全 新型コロナウイルスに対する従業員の考え方は各人各様であり、それらに対応すべく企業は弛まぬ努力をつづけていた。
ひどく恐れる者もいれば、大して気にしない者もいた。
パンデミックに見舞われている間も各社は社員を尊重し、雇用・満足・安全・給与を維持すべく奮闘した。
感染を恐れるあまり出社できない社員、家族が感染して仕事を休まざるをえない社員、陽性判定を受けた社員に対し、会社側は一定の理解を示した。
社員一人一人への配慮に加えて、社員を感染から守る新しい業務手順も採用された。
39歳のスーパーバイザーは、「会社としてできることはすべてやっている。
個人防護具(PPE)であれ除菌グッズであれ、必要なものは何でも与えています、マスクもです」と説明する。
その言葉どおり、PPEや安全装備の提供に関して、会社側の姿勢を問題視するドライバーの声はどこからも聞こえてこなかった。
内勤者を対象としたリモートワークも始まった。
内勤者はリモートもしくは出社、ドライバーは内勤者とは一切接触しない、という職場の分離である。
ドライバーと内勤者の分離は社員の健康を守るためであったのだが、ドライバーには反感を買うことになった。
25歳のスーパーバイザーは、ドライバーから聞いた話を振り返って次のように語った。
「それによってドライバーのモラルが少し低下しているように感じます。
ドライバーが長い1週間を終えてターミナルに帰ってくると、そこには誰もいない。
俺たちは自宅から遠く離れて危険に身をさらしているというのに、内勤者は安全な自宅でのうのうと仕事しやがって、というわけです」 また、多くの企業が無期限のシャットダウンに入り、道路を走るドライバーの数が減った。
その結果、ほとんどの休憩所とレストランが閉鎖されてしまう地域も出てきた。
移動中に用を足したり食事を摂ることが極めて困難になったことで、ドライバーの生活の質(QOL)は低下した。
こうした州の政策変更によるドライバーのQOLの低下のみならず、荷主や届け先のルール変更もドライバーの仕事の質と業務に影響を与えた。
新しい決まりでは、安全上の懸念から人びとの交わりが制限され、ドライバーは、荷物の積み降ろしなどの通常業務にかかわることを禁じられた。
ある58歳のマネジャーはドライバーの悩みについて「多くの施設では、トラックから降りられない。
(降りることが)禁じられている。
トレーラーにちゃんと荷物が積まれているか、きちんと固定されているかどうか、それでどうやって確認しろというのでしょうかね?」と話す。
職場のソーシャルディスタンスを維持しながら業務を継続する上では、テクノロジーが生命線となった。
「最初の3カ月ほどの間は、書類を一切受けとらないところが多かった。
かれらはすべてを電子化したのです。
サインさえすれば、あとは配車係がすべてやってくれるのです」 在宅勤務へのシフトが可能な職種がある一方、“エッセンシャルワーカー”たるトラックドライバーには、トイレットペーパーや食料品などの必需品を現地に実際に出向いて届ける、という選択肢しかなかった。
近年トラックドライバーについては、訴訟沙汰にまでなる事故が多いことや職業に対する偏見から、世間の評判は良いとは言い難かった。
ところが、新型コロナウイルスの蔓延はトラックドライバーの仕事を世間に知らしめ、人びとにあらためて感謝の念を抱かせることになったのである。
考察 今回の調査によりわれわれは、パンデミック中の需要変動に対処するための企業努力について、新しい知見を得た。
トラック運送会社が収益を補うために採用した戦略の一つは、従来とは異なる種類の貨物を運ぶことであり、それがかえって増収につながるケースさえあった。
この方針転換は、サプライチェーンの混乱への対策としても機能した。
例えば、耐久消費財とeコマースの売上増が、輸送貨物量をパンデミック前を上回る水準にまで押し上げた。
一時的解雇や新たなコスト削減努力など、企業がこの期間を乗り切るために採用した方策もある。
生き残りをかけたこうした企業努力に加え、パンデミックで一時的に解雇された従業員は、その間、失業手当によって賃金を補うことができた。
トラック運送業界全体に共通する最大の懸案事項の一つはドライバー不足であるが、今回の調査対象者の間では、解決されるべき課題としてあまり認識されていない。
トラック運送業界のドライバーが減ったのは一時的なものと考えられているためか、あるいは、現役ドライバーにとっては雇用問題は差し迫った問題ではないし、一方のマネジャーやスーパーバイザーは、いま現に対処しなければならない生き残りという課題に手一杯というところなのであろうか。
新型コロナが自分たちの仕事に影響を与えたということついては、ほぼすべての回答者が同意している。
その中で勤務時間が増えたとする回答が56%に上り、収入が減ったとするのは25%にすぎない。
運輸を含む多くの業界で賃金カットや労働時間の短縮が報告されている事実と、この結果は相矛盾する。
トラックドライバーという仕事は、他の職種と比べ、パンデミックによるマイナスの影響を受けにくいというのがその理由かもしれない。
ステイホーム期間中、他の産業は必要不可欠ではないという理由で、パンデミック前の水準での操業ができなかったのに対し、物資(食糧、医薬品など)は何があっても流通させる必要があった。
トラック運送会社で働くすべての社員の感染リスクを下げるため、企業は新たな運営方針を採用した。
しかしこれは、内勤の同僚から遠ざけられているという気持ちをドライバーに抱かせるという、意図しない結果をもたらした。
長時間にわたってたった1人で運転をしてきた後では、社員同士の交流が心を癒やす大切な要素であるのに、それが失われたことでドライバーのモラルやウェルビーイングは低下した。
この結果は、パンデミック期間中、エッセンシャルワーカーと同じリスクを分かち合わないリモートワーカーに対し、エッセンシャルワーカー側がある種の反感を感じたとする研究結果と一致する。
今回の調査対象者の中で、2人で交代しながら運転するという例は一つもなかった。
これには、たとえ夫婦であっても常時マスク着用を義務づけられたことが影響しているものと思われる。
パンデミックが始まる前でさえ、ドライバーは社会的孤立を感じやすい傾向にあった。
こうした制約がかれらのウェルビーイングをどの程度蝕んだのか、あるいはトラック運送業における職種間の格差をどれだけ拡げたかについては、まだ明らかになっていない。
トラックドライバーに対するイメージはパンデミックによって改善された。
ツイッターで話題となる頻度が増えただけでなく、トラックドライバーがこれまでより好意的に語られることで、全体的に肯定的な評価が増えたのである。
他のソーシャルメディアにおいても同様の現象が確認されており、それはドライバー自身が肌で感じる世間からの評価にも現れている。
しかしながら、新型コロナが収束したあともこの傾向がつづくかどうかは定かではない。
全体として、ウイルスに対するドライバーの感情的反応は人それぞれである。
ドライバーの一部は、パンデミック前と同じように働くことに強い懸念を示した。
ウイルスに感染したドライバーは出勤を見合わせるよう勧告が出されたが、すべての会社の社員がそのルールに従ったわけでもないだろう。
新型コロナのリスクに懐疑的な者も多かったからである。
反応には個人差があるため、経営層が全員の納得するようにうまく調整をすることは難しい。
全体として、会社側は社員の懸念に同情的であり、新型コロナのリスクを恐れる社員にはステイホームを認め、その間の経済的援助も行った。
トラック運送会社や取引先が業務手順を見直すことで、ドライバーの安全性は順次改善されてきたものと考えられる。
しかし、新たに導入された業務手順が仕事に差し支えるというケースもあり、必ずしも歓迎一色というわけではない。
例えば、取引先での荷積みが適切に行われているかどうかを確認することが、これまでより難しくなるようなこともあった。
安全性の低下を防ぐためには、人と人の接触を伴わない配送プロセスや品質改善手順の改善が求められる。
休憩エリアやさまざまな施設・店舗の閉鎖など、ドライバーは道路上で思ってもいなかった事態に遭遇した。
トラックに冷蔵庫を設置する、政府や自治体と連携して適切な衛生管理と食事ができる休憩所を設ける、社員のモラルを高める工夫をする、などといった取り組みが求められる。
結語 新型コロナウイルスがトラック運送業や国家にどのような影響をもたらすか、まだ全体像を見通すことは困難である。
経済情勢はたった数カ月でその様相を一変させ、それがトラック運送会社と業界全体の日々の営みを左右した。
eコマースが輸送量を押し上げるなどプラスの変化もあれば、不測の事態(サプライチェーンの混乱など)によって停滞することもあった。
パンデミック収束後、コロナが企業運営や業界動向にどのような影響を与えるかは未知数である。
パンデミックの期間を通じ、ドライバーは潜在的危険性をはらむ状況下で働き、トラック運送業の最前線に立ってきた。
歴史上類を見ない時代に、トラック運送業界は米国を動かし続けた。
当研究では、トラック運送業が受けたパンデミック由来の影響について見てきた。
パンデミック中も、そしてポストパンデミックの時代も経済と社会は進化してゆく。
そのような時代にトラック運送業はどのように進化していくのか、興味は尽きない。
(翻訳構成 大矢英樹)
