2023年6月号
特集

冷蔵倉庫の需給を軸に市場動向を展望する

低温物流市場の構造と冷蔵倉庫  コールドチェーン(以下、低温物流とする)の動向を考察する前に、当該市場の基本的な特徴を基本指標から俯瞰的に確認しておきたい。
ここでは、「低温物流市場とは、冷蔵・冷凍などの指定温度帯で貨物(受寄物)を管理しながら輸配送・保管・荷役サービスを提供する物流倉庫事業者で構成される市場」と定義しておく。
 トラックによる輸送量から見ると、温度管理された貨物輸送量は、営業用トラックで輸送される貨物全体(2021年度26億205万トン)の約8%程度(同年度2億646万トン)にすぎない。
これだけ見ると、国内輸送における低温輸送のシェアは低く、低温物流市場はニッチな市場という見方もできるだろう。
 しかし、同年の国内倉庫の所管面(容)積に目を転じると、1~3類倉庫の所管面積合計が6437万平方メートルであるのに対して冷蔵倉庫の保管容積は3590万立方メートルもある。
国内普通倉庫の大半が1~3類倉庫であることを考慮すれば、冷蔵倉庫の位置づけは非常に大きいことがわかる。
 低温貨物の輸送量に比して保管容積が大きい背景の一つには、冷蔵倉庫が主として食品メーカーの在庫調整機能として、原料系を中心とする貨物を取り扱ってきたことがある。
取り扱う貨物は輸入畜産や水産物などの原料系や最終商品になる前の半製品などが中心であり、これらの貨物は長ければ3カ月間以上にわたり長期保管されるため、入出庫の回転率が温度管理不要な貨物と比べて低かった。
 しかしながら、このような冷蔵倉庫の伝統的な特徴は、サプライチェーン上のどの位置でどのような役割・機能を持つかによって当然ながら変わってくる。
一般的には冷蔵倉庫の役割・機能は次の五つと考えられる(図表1)。
① 産地機能 ② 加工原料保管 ③ 加工製品保管 ④ 域内消費向け保管 ⑤ 域外移輸出拠点  もっとも、機能ごとに冷蔵倉庫が明確に分かれているわけではなく、一つの冷蔵倉庫で複数の機能を果たすこともある。
例えば、都市の港湾に立地する冷蔵倉庫は、③加工製品保管と④域内消費向け保管の機能を同時に担っているケースもある。
 サプライチェーンの下流に行くほど、保管貨物は原材料から最終製品に変わり、ロットは小さくなり、入出庫サイクルは早くなる。
大ロットの原材料を長期に保管するという伝統的な冷蔵倉庫と比べて、下流の流通型冷蔵倉庫は仕様や温度帯、庫内オペレーションもかなり異なる。
 したがって、低温物流市場における冷蔵倉庫の存在感の大きさを踏まえると、低温物流市場の変化と展望を読み解くには、冷蔵倉庫の需給動向を考察するとともに、冷蔵倉庫がサプライチェーン上で果たす役割・機能にどのような変化が生じているかを検討することが大事であろう。
保管需要 ──向こう10年は底堅く推移  まず、冷蔵倉庫で取り扱う貨物需要を考察する。
冷蔵倉庫の保管貨物は農産物、畜産物、水産物、冷凍食品が中心である。
図表2の通り、コロナ禍で入庫量は一時的に落ち込んだものの、日本冷蔵倉庫協会が公表している「主要12都市受寄物庫腹利用状況」の月末在庫量を見る限り、2022年後半からは回復基調に戻っている。
 ただし、入庫貨物の構成は変動している。
図表3をもとに、この10年間の入庫貨物の変化を確認しておきたい。
・ 水産品は国内の漁業生産量の大幅な減少に歯止めがかからず、保管需要の減少は今後も続く可能性が高い。
・ 農産品は調理済の冷凍野菜の輸入量が増加しており、年間100万トンを超える水準になっている。
これに加え、青果物の鮮度への高まりや手軽なカット野菜などの需要拡大により温度管理による流通が増えたことも農産品の入庫量を押し上げている。
このトレンドは今後も継続すると考えられる。
・畜産品は輸入畜産物(鶏・豚・牛)が増加している。
一方、メーカー向け原料用の割合は減少し、小売り・外食向けの半製品での流通が増加している。
温度帯も冷凍からチルド帯の比率が高まっている。
畜産物の需要拡大は今後も継続するだろう。
・冷凍食品はコンビニエンスストア、スーパー、ドラッグストア各社が販売を強化しており、家庭用冷凍食品の需要が急速に拡大することで、コロナ禍による業務用需要の落ち込みをカバーした。
特に米飯・麺類の増加は著しく、今後も冷凍食品の伸び代は非常に大きい。
・医薬品は製薬企業がバイオ医薬品(中分子・高分子)への投資を増やしており、今後の市場拡大が期待される。
 今後の需要見通しについては、温度管理が必要となる保管貨物は、国内人口の減少により中長期的にはゆるやかに減少局面に入っていくが、現在の消費者のライフスタイルや消費支出性向を踏まえると、少なくとも今後10年間にわたり保管需要の減少は見込まれず、底堅く推移していくだろう。
また、観光などでインバウンド需要が復活してくれば、それに伴う保管貨物需要が拡大していく可能性も十分にある。
冷蔵倉庫の供給──寡占化が進展  図表2で示した通り、2012年には1107万トンであった営業用冷蔵倉庫の保管能力は、この10年間で284万トン増加し、1391万トンにまで拡大した。
一方、在庫率はここ2年間は保管能力の拡大とコロナ禍明けの海上コンテナ輸送の混乱により入庫貨物が減少したことで低下傾向にあったが、外食需要や国際物流の緩やかな回復により、やはり2022年後半から回復基調に入っているのが足元の状況である。
 この10年間で冷蔵倉庫の新規供給を積極的に行ってきたのは、ニチレイロジグループ、横浜冷凍、ランテック、第一倉庫冷蔵など、いずれも低温物流を得意とする大手の倉庫物流事業者である。
2009年には44%だった大手20社の冷蔵能力のシェアは2021年には62%まで上昇している(図表4)。
保管能力の増加とは裏腹に、営業用冷蔵倉庫の事業所数は減っている。
拠点の大規模化が進んでいることがうかがえる。
 それでもなお、国内の冷蔵倉庫保管能力全体の4割近くは投資余力に限界のある中小企業が占めている。
 一般に新設の冷蔵倉庫の建設は普通倉庫の2~3倍のコストが必要になる。
ここ数年の工事費や建設資材の高騰により建設コストは上昇しており、設備投資額は膨らむ傾向にある。
特定フロンの切り替え対応コストや電気コストの上昇によるオペレーションコストの増加も著しい。
寒冷化対応の自動化機械は現状では限られており、人によるオペレーションに頼らざるを得ない中、昨今の人手不足は事業運営上の大きな課題となっている。
 このような状況を踏まえると、温度管理が必要な貨物需要が今後も底堅く推移していくことが予想される一方、中小企業の撤退や既存倉庫の廃棄の進展次第では、冷蔵倉庫の供給力が不足する事態も懸念されるところである。
 ここで、今後の冷蔵倉庫の供給状況を検討するために、既存の冷蔵倉庫の老朽化状況を確認しておこう。
図表5は、冷蔵倉庫の築年数ごとの割合を示したものだが、ここ10年で改廃が進み、築年数が40年以上を経過した冷蔵倉庫の割合は減少傾向にあるが、それでも依然として36・6%を占めている状況である。
 過去の実績を踏まえ、仮に築50年を経過すると、築60年を迎えるまでに半数が廃棄されていくという前提を置くと、今後20年間で約570万トンの保管能力が失われてしまう(図表6)。
その場合、保管貨物の需要に足るだけの供給を行っていくためには、少なく見積もっても今後10年にわたり年間25万トン規模の新規供給が必要になると試算する。
ネットワーク再編の動き  冷蔵倉庫の新規供給が増加する理由は、保管需要の拡大に伴う新設需要や老朽化による建替需要だけではない。
昨今の物流コストの上昇や物流の2024年問題などへの対応策として、冷蔵倉庫拠点の配置見直しが行われることで、それに伴う新たな新設需要も発生する。
そこで、以下に食品や医薬品業界を題材に最近の拠点再配置の動きをいくつか確認しておきたい。
① 農産物コールドチェーンの再構築  改正卸売市場法の施行(2020年6月)により、「商物一致の原則」が廃止されたことを受けて、農産物流通の仕組みが大きく変容していくことが見込まれる。
 農産物の高付加価値化や差別化を目指して市場外流通システムの構築にいち早く取り組んできた農業総合研究所は、国分グループとともに、「東日本マザーセンター」構想を公表している。
両社が大田市場に隣接する場所に保有する物流拠点を一つに統合(共同化)し、調達の幹線輸送網と販売の域内配送網を相互利用するという構想である。
 青果物の市場流通では、鮮度を保つ温度帯の維持が輸配送段階では実現できているが、産地や市場、スーパーでの保管時に十分な管理が行き届いておらず、鮮度の悪化が生じているのが現状である。
「東日本マザーセンター」の構築は、市場流通が抱える課題に対する新たな取り組みとして注目される。
こうした動きが拡大すれば冷蔵倉庫の新設投資も増加する。
② 食品物流の機能の集約化 (サプライチェーンのシンプル化)  横浜冷凍は新中期経営計画(第I期)から「複合型マルチ物流サービス」に注力している。
これは、従来の低温物流で行われてきた、保管はDC(在庫型センター)、商品の仕分け・積み替えはTC(通貨型センター)でそれぞれ担い、配送センターとの間で商品を輸送する形から、1カ所の拠点でオペレーション全てを手掛ける形に変更するものである。
 複数の物流拠点で行われていたオペレーションを一つの物流センターに集約することで、配送時の温室効果ガス排出抑制やトラックドライバー不足といった課題に対応する。
同社は今後も荷主ニーズや冷蔵倉庫の立地特性を踏まえ、同サービスの対応が可能な倉庫を拡充していく計画である。
 食品流通は多段階構造であり、構成している企業も多種多様、取扱アイテム数は膨大かつ改廃が多いため、取引が非常に煩雑である。
こうした複雑なサプライチェーンをシンプルにしていくのは一筋縄にはいかない難しさがつきまとうが、横浜冷凍のような取り組みは今後、拡大していくことが見込まれる。
③ ドラッグストアの物流ネットワーク再編  家庭用冷凍食品などの食品に関するドラッグストアの販売力は着実に強まっており、店舗網の拡大が急速に進んでいる(図表7)。
これに伴い大手ドラッグストアは物流ネットワークの再編に動いており、物流拠点の新設が増加する見通しである。
 従来、ドラッグストアの物流センターはTC型が主流であり、DC型は少なかった。
在庫は卸のDCで保管管理され、店舗別仕分けを卸のDCかドラッグストアのTCのいずれかで実施して、店舗に届けるというフローである。
また、TCの運営は3PLに委託するケースが中心である。
 この従来のドラッグストア物流のあり方に変化が生じている。
大手ドラッグストアの拠点整備を見ると、既存TCを集約・大規模化させるとともに、そこに在庫拠点(RDC:リージョナル・ディストリビューション・センター)としての機能を持たせることで、店舗増や物流波動への対応力を向上させようとする動きがある。
 例えば、ウエルシアホールディングスは2022年8月に在庫型大規模物流センター「西関東RDC」(神奈川県綾瀬市)を開設した。
東京都、神奈川県、山梨県、長野県の約500店舗をカバーする。
同RDCの安定稼働後には「東関東RDC」(茨城県つくば)、「北関東RDC」(埼玉県久喜)を立ち上げ、さらに中部、関西にも各1拠点を開設し、全国RDC体制を構築する計画である。
 メーカーから卸の倉庫を介さないで直送することでトラック輸送回数を削減することが狙いの一つである。
このケースも含めRDCの庫内作業の自動化を進めて、自社運営(庫内オペレーションの内製化)するケースは増えてきている。
④ 食品ECの物流ネットワークの構築  食品ECの需要は急速に拡大しているが、供給サイドの仕組み化が追い付いていない状況である。
最終消費者に迅速に商品を届ける物流ネットワークの構築が大きな制約となっている。
 食品ECの物流には波動が大きく倉庫スペースやリソースのひっ迫が生じやすいことをはじめとして数多くの課題がある。
店舗向けの配送センターよりもSKUが膨大で庫内業務が複雑であること、店舗向け在庫とEC向け在庫を共有することが難しく、EC専用の物流拠点が必要になること、ラストワンマイルの配送デポの拠点整備用の土地確保が難しいことなどである。
 店舗物流や宅配便向けに構築されてきた従来の物流ネットワークとオペレーションをEC向けに再構築していく難しさは並大抵ではない。
それでも新たな物流網の構築に向けた新設投資は確実に増加するであろう。
 EC食品宅配を手掛けるオイシックス・ラ・大地は2021年8月、神奈川県海老名市に既存施設の倉庫面積を約3・7倍、処理能力を約2・8倍に拡張した「ORD海老名ステーション」を立ち上げた。
さらに今年9月末には延べ床2・3万平方メートルの「ORD厚木冷凍ステーション」(神奈川県厚木市)を竣工する計画だ。
 取扱量の急増に伴う倉庫キャパシティの不足、非効率な輸送経路による物流コストの上昇、取扱点数増加に伴う庫内オペレーションの複雑化による出荷遅延リスクなどへの対応が目的である。
冷蔵機能を有する物流拠点を集約化して、受注から在庫管理、梱包、発送、受け渡しなどの一連の業務プロセスを効率よく行う狙いである。
⑤ 医薬品物流の共同化  薬価改定、ジェネリックの拡大、医薬分業などの環境変化を受けて、国内の医薬品物流のネットワークは変容を続けてきた。
医薬品メーカー各社は三菱倉庫や日立物流、日本通運など、医薬品の取り扱いに強い物流会社へのアウトソーシングを進めて、メーカー物流の共同化による物流コスト低減を図っている。
 また、医薬品卸はジェネリックの使用拡大により、効能は同じでも複数メーカーの薬を取り扱うことが求められるようになり、在庫量が増加している。
これを受け従来は、病院・診療所、薬局の近くに分散させていた営業所やDCを集約し、在庫量の適正化を図ってきたのである。
 今後も「薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」の導入やバイオ医薬品の拡大が既存の物流ネットワークに新たな変化をもたらし、冷蔵機能を有する物流拠点の整備が進むだろう。
 田辺三菱製薬、小野薬品、塩野義製薬、エス・ディ・コラボは、GDPガイドラインに準拠した共同輸送スキームを2023年1月より開始した。
GDPに準拠した専用の物流ターミナルを賃借し、全ての温度帯で温度管理をした輸送の実現、輸送の積載効率向上のよる運行台数の削減、CO2排出削減を目指している。
 温度管理が厳格なバイオ医薬品や再生医療の普及によって、入出庫回数の削減、リードタイムの最小化が物流過程で要請されて、メーカー物流と卸物流の複合機能を有する、温度管理された物流センターの整備が進むことも予想される。
賃貸冷蔵倉庫の普及の見通し  これまで低温物流サービスを専門的に提供してきた物流倉庫会社は、一部の例外はあるにせよ、冷蔵倉庫を自社で保有するケースが大半であった。
冷蔵倉庫は、保管する貨物によって設定温度が細かく分かれており、温度管理に対するノウハウ(結露対策、断熱対策、品質管理など)も一律ではない。
また、建物に対して冷凍冷蔵設備の投資負担が大きいため、一体での設計・施工が適している。
こうした事業特性から、物流倉庫会社が自前で冷蔵倉庫を開発・保有してサービスを提供することが主流であった。
 他方、食品卸や小売りは初期投資を抑えること、そしてアセットライトな事業運営を志向しており、物流倉庫会社と違って、荷主として将来的に荷物を確保することができるため、個別の要望を反映した仕様に基づいたBTS型の賃貸冷蔵倉庫を長期契約のもとで利用している。
 ただし、BTS型倉庫の工期は2年を要することも珍しくない。
それに対してテナントが求める立ち上げまでのリードタイムは年々短期化している。
BTS型を新設していたら間に合わないケースが増えつつある。
ECニーズなどの拡大が物流ネットワークの再編を促し、短期的にも柔軟に利用したい荷主や3PLが確実に増えていることが背景にある。
 こうしたテナントニーズの高まりを受け、物流不動産施設のデベロッパーは早期に高単価で倉庫をリース可能なマルチテナント型の賃貸冷蔵倉庫の開発を積極的に推進している。
 マルチテナント型の冷蔵倉庫には解決すべき技術的な課題も少なくはない。
例えば、冷凍冷蔵倉庫は貨物に応じて施設の改修が生じることも多く、賃貸物件では柔軟に対応しにくい。
冷却設備の騒音により音を気にする他テナントとの共存も難しい。
匂い移りが生じてしまう──などである。
 これらの課題は入居可能対象者の範囲を狭めることになる。
そのため普通倉庫のケースと同様に、マルチテナント型の冷蔵倉庫が一気に普及するとは考えにくい。
それでも、農産物や加工食品、食品ECなどの分野では、低温物流ネットワークの再編が今後も継続・強化されていくことが予想されることから、マルチテナント型施設の開発と利用ニーズの拡大は当面は続くと予想される。
 以上、本稿では、低温物流市場の展望として、保管貨物の増加、流通構造の変化による冷蔵倉庫物流拠点の再編、施設の老朽化による建替によって冷蔵倉庫への投資が拡大することを指摘した。
そして、需要と供給のギャップを埋めるかたちで賃貸型冷蔵倉庫の普及が進む可能性が高いことを述べた。
 こうした環境変化が進んでいく中、輸配送の結節点となる庫内荷役の省力化・機械化はどこまで進展していくか、最新のテクノロジーがどのように冷蔵倉庫に導入されていくかが、当面の注目点の一つになるだろう。

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