2023年6月号
特集
特集
ニチレイロジグループ本社 梅澤一彦 社長 「DXを加速して働き方改革の先に進む」
ペーパーレス化は全方向に波及した
──梅澤社長はニチレイロジがDXの推進部隊として新設した業務革新推進部の責任者を2017年に務めた時に、DXのグランドデザインとなる5カ年計画を策定したと聞いています。
それから実際に5年が経ち、できたこと、できなかったこと、分かってきたことは何ですか。
「この5年間で特に力を入れたのが、DCと呼んでいる保管型倉庫のペーパーレス化です。
入荷検品から格納、配換え、ピッキング、出荷検品までの一連の工程をタブレットを使って作業するかたちに改めた。
一方で全国50拠点に『トラック事前予約システム』を導入しました。
そのうち車両台数の多い30拠点は完全予約制にした。
そして予約システムとWMSをしっかりと連携させました」 「このことが、あらゆる方向に波及してさまざまな効果を生んでいます。
一つは現場サイドと事務所サイドの情報共有です。
現状の作業状況をリアルタイムで可視化したことで、その日の作業の終了時間をBIツールで予測して、遅れそうなフロアがあれば、違うフロアから応援にいかせる、といったことができるようになった。
アイテム別の出荷実績を基に格納するロケーションを推奨する機能も実装できた。
作業ステータスと車両ステータスの一元管理も実現しました」 「ベテラン作業員の暗黙知を形式知化することもできました。
例えば冷凍庫内のピッキングは従来、動線が一筆書きになる順番でリストを表示していました。
しかし、実際にはベテランは自分で作業順を工夫していた。
摘みとる数や箱の強度などを考慮して作業が楽になるようにしていた。
そのやり方をタブレットで指示できるようにしました。
しかも作業済みパレットの枚数が最小になるように指示を出す。
これは相当に効果がありました」 「そして何より働き方が変わりました。
事務職は物流センター内にいる必要がなくなった。
それでもトラブルがあった時にはすぐ来てほしいというセンター長もいるので、まずは東西のターミナル駅にサードプレイスオフィス『SateCo(サテコ)』を置いて、何かあれば30分以内に駆けつけられるようにしています。
最終的には物流センターの管理を在宅勤務にすることを視野に置いています」 「ジョブシェアリングも始まっています。
これまで都心部の大規模センターは処理量が多いため、残業時間も長くなる傾向にありました。
しかし、入出荷の登録や名義変更、デリバリーオーダーなどの業務はデジタル化されて場所を選ばなくなっているので、比較的負荷が小さいセンターに一部を負担してもらう。
一方で小規模センターは人数が限られているので誰かが体調を崩して休んだりすれば急に回らなくなってしまう。
そこで他のセンターの業務の一部を肩代わりすることで定員を追加したりできる」 ──ペーパーレス化によって、そこまで大きく仕事のやり方が変わることを事前に想定していたのですか。
「想定していました。
『これは業務改革でありながら、同時に働き方改革でもある。
一石二鳥だ』と当初から言っていました。
従来は紙と一緒に移動して、終わったら整理してと、紙に仕事をさせられているようなところがありました。
私自身、紙ベースの管理には限界があることを嫌というほど経験してきました。
お客さまに納得性のある提案や透明性のあるコストを提示したくても、その基になるデータがない。
自分でストップウォッチを持って現場で作業を計測しないといけない、ということでは継続的にデータはとれない。
デジタル化の必要性を強く感じていました」 ──同じ17年にニチレイグループは「働き方改革方針」を定めて、「働く場所や時間といった就業環境に自由度を持たせた制度を導入し、状況に合わせて選択できるようにする」ことを宣言しています。
「業務を革新しない限り、働き方の自由度を高めることはできません。
しかも、物流事業者の当社としては、事務職だけでなく現場で実務についている従業員の働き方も変えないと、改革は掛け声倒れになってしまう。
現場の省人化や『誰でもできる化』が必要でした。
さらには、顧客エンゲージメントを高める、サービス品質を高める、サービスラインを増やす、データを活用したソリューションを展開する等々、われわれがやりたいと思っていたことは、すべて業務革新の波及効果として解決できると考えました。
ペーパーレス化、デジタル化がその前提でした」 ──当初描いたグラウンドデザインはほぼ実現できたのでしょうか。
「まだまだやることはあります。
紙でオーダーしていたところはデータを取れるようになりましたが、構内の横搬送や縦搬送、ピッキング後のユニットロード管理など、まだデータの抜け漏れがある。
最適な人員配置も、推奨はできるようになったけれど、具体的な作業指示まで自動化したい。
車両の動態情報を基に到着に合わせてプル型でジャスト・イン・タイムの作業指示を出すことも視野に入れています」 ──出荷準備がJITである必要はありますか。
「冷凍品なので早く出庫し過ぎると溶けてしまうんです。
もう一度しまうことになる。
それでは作業だけでなくスペースももったいない」 ──DXの当面のゴールは? 「最終的には標準作業時間に基づく予実分析を実現したい。
工程別の標準作業時間に合わせて作業計画を立て人員を配置する。
それを実績と照らし合わせて分析して、例えば標準時間から大きく外れて生産性が低かった作業があれば、その原因を紐解いていく。
そうやって継続的にオペレーションを改善していくアナリスト人材を育成していきます。
経営と現場の真ん中に立ち、経営が求める生産性や品質を意識しながら現場を指導する。
逆に現場の声を吸い上げて経営に届ける。
機械化の必要性を判断したり、場合によっては顧客から指示された作業与件の変更を要請する。
これからの物流業のカギになる人材だと考えています」 日本の低温物流を世界の標準に ──近年の業績を見ると海外事業が成長を牽引しています。
「国内も今後10年くらいは伸ばしていけると見ています。
人口は減っても低温物流の利用頻度や利用シーンは増えていますから。
しかし、その先となると分かりません。
そのためメーンのエンジンが機能しているうちにサブエンジンを育てようと、いろいろな取り組みをしています。
その一つが海外事業です。
大きな成長を期待できる分野として積極的に投資しています」 「私が社長になってすぐ、ロジグループの独自の経営理念を刷新しました。
『国内№1の高度な低温物流を世界のスタンダードへ』というものです。
国内ではトップランナーとして新しいことにどんどん取り組み、日本市場に根差したハイエンドのサービスをブラッシュアップしていく。
そしてそのサービスを生かせる海外の市場に、タイミング良く移植していく。
それが今は欧州と東南アジアです」 ──世界市場に目を向けると低温物流は、最大手の米リネージュ(Lineage Logistics)と2番手の米アメリコールド(Americold Logistics)がREITの手法で同業者の買収を重ねて、この10年で爆発的に冷蔵設備能力を伸ばしています。
「われわれも研究はしています。
欧州では競合することもある。
彼らの冷蔵設備能力は桁外れです。
しかし、当社が調べた限り、低温物流事業の売り上げにはそれほど大きな差はありません。
設備能力当たりの売り上げはわれわれのほうが何倍も大きい。
つまり彼らとはサービスメニューが違うと推測しています」 「われわれ物流事業者はサービス業であり、売り切り型のメーカーや投資会社とはビジネスモデルが違います。
オペレーションやソリューションの利用体験価値をお客さまに評価いただいている限り、お客さまは離れない。
ストック型で収益を積み上げていける。
そのため当社にとっては顧客生涯価値の最大化が何より大切です。
売ったり買ったりのフロー型で金利にも左右されるようなやり方は、一時的に儲かることはあっても、環境が変わればお客さまに迷惑をかけることになるかも知れない。
もちろんROIC(投下資本利益率)の向上には取り組んでいきますが、われわれの基本姿勢はこれからも維持していきます」
それから実際に5年が経ち、できたこと、できなかったこと、分かってきたことは何ですか。
「この5年間で特に力を入れたのが、DCと呼んでいる保管型倉庫のペーパーレス化です。
入荷検品から格納、配換え、ピッキング、出荷検品までの一連の工程をタブレットを使って作業するかたちに改めた。
一方で全国50拠点に『トラック事前予約システム』を導入しました。
そのうち車両台数の多い30拠点は完全予約制にした。
そして予約システムとWMSをしっかりと連携させました」 「このことが、あらゆる方向に波及してさまざまな効果を生んでいます。
一つは現場サイドと事務所サイドの情報共有です。
現状の作業状況をリアルタイムで可視化したことで、その日の作業の終了時間をBIツールで予測して、遅れそうなフロアがあれば、違うフロアから応援にいかせる、といったことができるようになった。
アイテム別の出荷実績を基に格納するロケーションを推奨する機能も実装できた。
作業ステータスと車両ステータスの一元管理も実現しました」 「ベテラン作業員の暗黙知を形式知化することもできました。
例えば冷凍庫内のピッキングは従来、動線が一筆書きになる順番でリストを表示していました。
しかし、実際にはベテランは自分で作業順を工夫していた。
摘みとる数や箱の強度などを考慮して作業が楽になるようにしていた。
そのやり方をタブレットで指示できるようにしました。
しかも作業済みパレットの枚数が最小になるように指示を出す。
これは相当に効果がありました」 「そして何より働き方が変わりました。
事務職は物流センター内にいる必要がなくなった。
それでもトラブルがあった時にはすぐ来てほしいというセンター長もいるので、まずは東西のターミナル駅にサードプレイスオフィス『SateCo(サテコ)』を置いて、何かあれば30分以内に駆けつけられるようにしています。
最終的には物流センターの管理を在宅勤務にすることを視野に置いています」 「ジョブシェアリングも始まっています。
これまで都心部の大規模センターは処理量が多いため、残業時間も長くなる傾向にありました。
しかし、入出荷の登録や名義変更、デリバリーオーダーなどの業務はデジタル化されて場所を選ばなくなっているので、比較的負荷が小さいセンターに一部を負担してもらう。
一方で小規模センターは人数が限られているので誰かが体調を崩して休んだりすれば急に回らなくなってしまう。
そこで他のセンターの業務の一部を肩代わりすることで定員を追加したりできる」 ──ペーパーレス化によって、そこまで大きく仕事のやり方が変わることを事前に想定していたのですか。
「想定していました。
『これは業務改革でありながら、同時に働き方改革でもある。
一石二鳥だ』と当初から言っていました。
従来は紙と一緒に移動して、終わったら整理してと、紙に仕事をさせられているようなところがありました。
私自身、紙ベースの管理には限界があることを嫌というほど経験してきました。
お客さまに納得性のある提案や透明性のあるコストを提示したくても、その基になるデータがない。
自分でストップウォッチを持って現場で作業を計測しないといけない、ということでは継続的にデータはとれない。
デジタル化の必要性を強く感じていました」 ──同じ17年にニチレイグループは「働き方改革方針」を定めて、「働く場所や時間といった就業環境に自由度を持たせた制度を導入し、状況に合わせて選択できるようにする」ことを宣言しています。
「業務を革新しない限り、働き方の自由度を高めることはできません。
しかも、物流事業者の当社としては、事務職だけでなく現場で実務についている従業員の働き方も変えないと、改革は掛け声倒れになってしまう。
現場の省人化や『誰でもできる化』が必要でした。
さらには、顧客エンゲージメントを高める、サービス品質を高める、サービスラインを増やす、データを活用したソリューションを展開する等々、われわれがやりたいと思っていたことは、すべて業務革新の波及効果として解決できると考えました。
ペーパーレス化、デジタル化がその前提でした」 ──当初描いたグラウンドデザインはほぼ実現できたのでしょうか。
「まだまだやることはあります。
紙でオーダーしていたところはデータを取れるようになりましたが、構内の横搬送や縦搬送、ピッキング後のユニットロード管理など、まだデータの抜け漏れがある。
最適な人員配置も、推奨はできるようになったけれど、具体的な作業指示まで自動化したい。
車両の動態情報を基に到着に合わせてプル型でジャスト・イン・タイムの作業指示を出すことも視野に入れています」 ──出荷準備がJITである必要はありますか。
「冷凍品なので早く出庫し過ぎると溶けてしまうんです。
もう一度しまうことになる。
それでは作業だけでなくスペースももったいない」 ──DXの当面のゴールは? 「最終的には標準作業時間に基づく予実分析を実現したい。
工程別の標準作業時間に合わせて作業計画を立て人員を配置する。
それを実績と照らし合わせて分析して、例えば標準時間から大きく外れて生産性が低かった作業があれば、その原因を紐解いていく。
そうやって継続的にオペレーションを改善していくアナリスト人材を育成していきます。
経営と現場の真ん中に立ち、経営が求める生産性や品質を意識しながら現場を指導する。
逆に現場の声を吸い上げて経営に届ける。
機械化の必要性を判断したり、場合によっては顧客から指示された作業与件の変更を要請する。
これからの物流業のカギになる人材だと考えています」 日本の低温物流を世界の標準に ──近年の業績を見ると海外事業が成長を牽引しています。
「国内も今後10年くらいは伸ばしていけると見ています。
人口は減っても低温物流の利用頻度や利用シーンは増えていますから。
しかし、その先となると分かりません。
そのためメーンのエンジンが機能しているうちにサブエンジンを育てようと、いろいろな取り組みをしています。
その一つが海外事業です。
大きな成長を期待できる分野として積極的に投資しています」 「私が社長になってすぐ、ロジグループの独自の経営理念を刷新しました。
『国内№1の高度な低温物流を世界のスタンダードへ』というものです。
国内ではトップランナーとして新しいことにどんどん取り組み、日本市場に根差したハイエンドのサービスをブラッシュアップしていく。
そしてそのサービスを生かせる海外の市場に、タイミング良く移植していく。
それが今は欧州と東南アジアです」 ──世界市場に目を向けると低温物流は、最大手の米リネージュ(Lineage Logistics)と2番手の米アメリコールド(Americold Logistics)がREITの手法で同業者の買収を重ねて、この10年で爆発的に冷蔵設備能力を伸ばしています。
「われわれも研究はしています。
欧州では競合することもある。
彼らの冷蔵設備能力は桁外れです。
しかし、当社が調べた限り、低温物流事業の売り上げにはそれほど大きな差はありません。
設備能力当たりの売り上げはわれわれのほうが何倍も大きい。
つまり彼らとはサービスメニューが違うと推測しています」 「われわれ物流事業者はサービス業であり、売り切り型のメーカーや投資会社とはビジネスモデルが違います。
オペレーションやソリューションの利用体験価値をお客さまに評価いただいている限り、お客さまは離れない。
ストック型で収益を積み上げていける。
そのため当社にとっては顧客生涯価値の最大化が何より大切です。
売ったり買ったりのフロー型で金利にも左右されるようなやり方は、一時的に儲かることはあっても、環境が変わればお客さまに迷惑をかけることになるかも知れない。
もちろんROIC(投下資本利益率)の向上には取り組んでいきますが、われわれの基本姿勢はこれからも維持していきます」
