2023年6月号
特集

【解説】マルチテナント型の開発競争が本格化

プロロジスが「本気」案件  低温倉庫はこれまで、不動産デベロッパーが賃貸案件として参入するには壁が高かった。
一般的なドライ倉庫とは異なり、冷凍・冷蔵設備が必要なことなどからコストがかさみ、高い専門性が求められる上、ドライ倉庫のような活発に投資される賃貸マーケットも存在していなかったからだ。
 外資系投資会社の関係者は「ドライ倉庫と違い、賃料も需給バランスが働いていないため、そもそもどれくらいの賃料が適正なのか、どれくらいで投資金額を回収できるのかもあいまいだった」と振り返る。
 不動産デベロッパーが冷凍冷蔵倉庫を開発することはあっても、あらかじめ有力なテナントを確保してから建設するBTS型が一般的だった。
「広くテナントを募るマルチテナント型はあまりに難易度が高く、とても手を付けようとは思わなかった」と、別のデベロッパー関係者が回顧する。
 しかし、そうした状況は大きく変わってきた。
その潮目を感じさせた案件として、物流や不動産の業界関係者が注目した一つが、有機野菜の宅配などを手掛けるオイシックス・ラ・大地向けに、プロロジスが神奈川県海老名市で開発、2021年に竣工した「プロロジスパーク海老名2」だ。
 BTS型ではあるが、オイシックスの要望を踏まえ、延べ床面積3万8510平方メートルの全館を10度帯の冷蔵倉庫として建設した。
その規模の大きさなどから、競合のデベロッパーをはじめ関係者から「プロロジスの本気度が伝わってきた」との声が聞かれた。
 プロロジスの山田御酒会長は「完成した建物に後から冷蔵庫を設置するのと、建設しながら冷蔵庫を設置していくのとでは工期が圧倒的に違い、コストも抑えられる」と開発手法のメリットを強調する。
 東京都江東区辰巳で22年8月に提供開始を発表した都市型物流施設「プロロジスアーバン東京辰巳1」では、日本市場から撤退したドイツの小売業大手メトログループが使っていた店舗を改修、全館を冷凍冷蔵対応とした。
 山田会長は「ドライ倉庫ではなかなか差別化が難しい。
立地と(賃料などの)経済条件の戦いになってしまう。
そういうレースには参加したくない。
今回のように付加価値のある施設を手掛けていきたい」と力説する。
BTS型で培った経験を生かしてマルチテナント型の冷凍冷蔵倉庫の開発にも意欲を見せる。
 茨城県古河市ではマルチテナント型とBTS型の物流施設を複数、同一エリア内に建設する「プロロジス古河プロジェクト フェーズ2」が進行中だ。
冷凍冷蔵用途にも対応できるよう、特別高圧電力を受電する計画を打ち出している。
大和ハウスはマルチテナントにも自信  シービーアールイー(CBRE)は22年4月に「コールドストレージ─冷凍冷蔵倉庫の市場概況と見通し─」と題したリポートで、冷凍冷蔵倉庫の市場を次のように解説、「ECを通じた冷凍・冷蔵食品の購入量は今後も増加傾向と考えられる」との見方を示した。
● 冷凍冷蔵倉庫は設備の投資負担が重いことなどから、建物と設備を一体で建設するのが一般的、現存するコールドストレージは大手企業の自社開発・自社所有がほとんど。
● 市場が急拡大している賃貸型物流施設の中でも、首都圏の大規模なマルチテナント型に入居するテナント企業の取り扱い荷物の22%を占めている。
● eコマースは今後も伸びが見込まれ、その中には冷凍・冷蔵食品が含まれている。
将来も少しずつ購入量が増えていくと予想される。
● 食品ECの積極的な担い手は大手低温物流企業ではなく、中小・新興の物流企業が多いため、初期投資が大きく稼働まで時間を要する自社開発よりも、すぐにコールドストレージを立ち上げられる賃貸型を志向する傾向がある。
 今後の開発形態としては、常温と冷凍・冷蔵食品の異なる温度帯の食品をまとめて保管・配送できる利便性や賃貸面積確保の自由度を考慮し、賃貸物流施設のデベロッパーが一部のスペースをあらかじめ冷凍・冷蔵対応にする使われ方がさらに一般化していく、とのシナリオを示している。
 こうした見立てに沿うかのように、大手デベロッパーはBTS型に加えて、マルチテナント型の冷凍冷蔵倉庫の可能性に熱い視線を送る。
大和ハウス工業が沖縄県豊見城市で22年に開発した「DPL沖縄豊見城Ⅱ」は冷凍・冷蔵・定温(15~20度)・常温の4温度帯に対応可能な設計を採用。
低温加工のコールドチェーンで求められる品質・衛生管理ができるよう配慮している。
 同施設は24時間体制の通関や深夜の発着が可能な沖縄那覇空港から約5キロメートル、浦添ふ頭から11キロメートルに立地する。
空運・海運を利用した国際物流拠点として運営できるため、冷凍冷蔵倉庫の機能を持たせた。
 同社関係者は「地方エリアでも立地を吟味すれば、マルチテナント型の冷凍冷蔵倉庫は十分に可能性がある。
そこは地方で開発を重ねてきた当社だからこそ見いだせる強みでもある」と自信をのぞかせる。
日本GLPは専門チームの人員増強  日本GLPは22年10月、神戸市内でJA三井リース建物と連携し、全館冷凍冷蔵対応の物流施設「(仮称)六甲プロジェクト」に着手する方針を公表した。
竣工後に日本GLPが施設を取得、関西を地盤とする運送会社の藤原運輸(大阪市西区)が1棟借りする予定。
 近隣の神戸港は国際コンテナ戦略港湾として国際海上コンテナターミナル整備事業が進められている。
そこに保管効率の高い全館冷凍・冷蔵物流施設を開発すれば幅広い需要が見込めると日本GLPは展望している。
 同社は既に国内で冷凍・冷蔵物流施設を20物件以上手掛けている。
今後、全館冷凍冷蔵対応の物流施設を着実に増やしていくため、社内の冷凍冷蔵専門チームの人員を増強するなどの対応を視野に入れている。
 ある不動産業界関係者は「物流施設もドライ倉庫は大量供給が続いてコモディティ(一般)化し、差別化が難しくなってきた。
開発用地や建設費が高騰する中、高い賃料を設定できる冷凍冷蔵倉庫は自社の独自性を出せる新たな領域として着目できる。
専門性が求められるため、手掛けられるのは新規参入組ではなく、必然的に物流施設開発の経験を蓄積してきた主力デベロッパーに限られるところも魅力」と語る。
 これまで冷凍冷蔵倉庫事業者は減価償却が終わった倉庫を使い続けることで、賃料を抑えて荷物を集めるケースが多かった。
しかし、最近は建築費や電気代の高騰もあり、外部の賃貸型冷凍冷蔵倉庫に目を向ける動きが出てきた。
他の大手物流不動産デベロッパー関係者は「冷凍冷蔵倉庫事業者がバッファーとして借りるようになってくれれば、市場の拡大が期待できる」と注視している。

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