2023年6月号
特集

大日本印刷 フィリピンで小規模店舗向けの低温配送網

トライシクルドライバーが低温配送  大日本印刷は2023年2月、フィリピンのマニラ首都圏で低温領域のラストワンマイル物流の実証事業を行った。
独自開発の配送管理システムと電源不要の断熱ボックスを用いて、現地の三輪バイクタクシー(トライシクル)ドライバーなどが冷凍商品を配達した。
 大日本印刷は自動車部品メーカーとしての側面を持っている。
車の内装などで使用される加飾フィルムや外装プラスチックパーツなどの外装関連品といった幅広い製品を自動車メーカーに供給することで自動車産業に関与してきた。
さらに近年は各種モビリティを活用したMaaS(Mobility as a Service)などの新たな事業の開発に力を入れている。
 同社のモビリティ事業部の神戸博文新事業開発部SEA事業開発チームリーダーは「自動車産業では今後、『CASE革命』が本格化すると言われている。
それを見据えて、当社のモビリティ事業部では自動車を含む各種モビリティを用いた新たなサービスを作り出していくための取り組みを展開している」と話す。
 複数のサービスの開発と展開を並行して進めている。
その一つが自動運転モビリティの運行管理システムだ。
自動運転EVの配車予約や呼び出しなどを行う。
国内のリゾート施設内などで実際に運用されている。
通信型タッチパネル式屋外デジタルサイネージの「DNPモビリティポート」も開発した。
駅やバス停、公共施設近辺などにこのポートを設置し、交通結節点としてオンデマンドタクシーなど域内の多様なモビリティをシームレスにつなぐ。
東京、大阪、三重など複数の地域で実証実験を進めている。
 これらの主に旅客を軸としたサービスと並んで、物流分野のサービスとして開発を進めているのが、フィリピンのラストワンマイルプラットフォームだ。
18年にフィンテックサービスをフィリピンなどで展開する日本企業のGlobal Mobility Service(GMS)に出資したことがきっかけとなった。
 フィリピンではトライシクルが都市内交通の一翼を担っている。
しかしトライシクルドライバーの多くはローンを組んで自分の車両を購入することができず、車両をレンタルして業務を行っている。
そこで、GMSは金融機関などと協力してドライバーの信用力を可視化する新たなフィンテックサービスを開発。
IoTデバイスなども活用して、従来は与信審査を通過できなかった人がローンやリースなどで車両を入手できる仕組みを整備した。
 資本業務提携契約の締結以降、大日本印刷はGMSとモビリティ関連での新たなサービスの展開を模索し、複数の案の中から最終的にトライシクルドライバーをラストワンマイルの配送に活用するサービスの構築を目指すことになった。
 具体的な事業展開に向けて22年2月に大日本印刷と日本ユニシス(現・BIPROGY)グループのユニアデックス、GMSの3社でジョイントベンチャーの3Q DASH TECHNOLOX(3QX)をフィリピンで設立した。
 大日本印刷が開発したデジタル配送管理システムをユニアデックスの現地関連会社がクラウド化し、これを用いたプラットフォームを3QXが運営する。
運送事業者向けのデジタル配送管理システムとしての展開を進め、段階的に荷主とドライバーを結びつけるマッチングプラットフォームを整備していく計画となっている。
マニラの実証事業で手応え  サービス構築に向け23年2月に現地で実証事業を行った。
実施地区は東京23区よりやや広いマニラ首都圏および近郊。
2月10日から16日までは配送業務経験のないドライバー5人、2月20日と21日の2日間は配送業務経験のないドライバー3人と配送業務の経験がある冷蔵・冷凍食品卸と小売のドライバー2人が参加した。
 冷凍食品の輸送には大日本印刷が開発したDNP多機能断熱ボックス(多機能断熱ボックス)を用いた。
電源なしで内部の温度を長時間一定範囲内で保つことができる。
日本では、既に物流分野で複数の利用実績がある。
 フィリピンでの実証事業にはバイクに積載可能な約60リットルの多機能断熱ボックスを用いた。
ピックアップポイントに配置した多機能断熱ボックスに保冷剤を入れてボックス内の温度を下げた後、冷凍食品と冷菓を格納した多機能断熱ボックスをバイクに積載して出発。
車両はマニラ首都圏内に3カ所程度設置した荷降ろし拠点に向かう。
拠点に到着したドライバーは荷降ろし作業を再現するため、多機能断熱ボックスを一度開放。
作業を終えたら再び多機能断熱ボックスを閉めて次の荷降ろし拠点へと移動する。
1ルートの走行距離は15キロから20キロ程度、4時間から5時間走行して、最初のピックアップポイントに戻る。
 輸送中のボックス内の温度は搭載した温度ロガーによって記録している。
配送状況モニタリング、配送結果データなどとあわせて情報を収集した。
多機能断熱ボックスは内部の温度を一定時間保つことができるよう設計されている。
今回の実証事業でも積み込み地点で保冷剤を投入して設定した冷凍状態を6時間近い走行後にも保つことができた。
 ドライバーは大日本印刷が開発して、3QXが現地で運用するデジタル配送管理システムのアプリをスマホにインストールして使用する。
管理者側では配送手順などをアプリ経由でドライバーに指示する。
ドライバーは荷物の積載や荷降ろし、配達完了といった作業内容をアプリに入力。
その情報とGPSの位置情報を基に管理者側は配送ステータスをリアルタイムで把握する。
実証事業では配送ルートを毎日変更した。
荷降ろし場所3カ所の回り方を複数設定して、実証事業に参加したドライバーが毎回異なるルートを走るようにした。
 「今回の実証事業は大きく三つの課題に対する効果を検証した。
一つは電話などを使ったアナログなドライバー手配をデジタル配送管理システムの活用によって効率化すること。
二つ目はマイクロなコールドチェーンの構築によって小規模商店などへの配達が可能になるかを検証すること。
そして三つ目はトライシクルドライバーの業務の幅を配送まで拡大することによって新たな雇用を創出すること。
いずれの課題に対しても一定の手応えを得ることができた」とSEA事業開発チームの平尾顕太郎氏は語る。
 マニラ首都圏などではスーパーやコンビニなどといったモダントレードと呼ばれる小売店には冷凍車両によって冷凍品が運ばれているが、伝統的な小規模商店などはコスト面の問題などでその対象から基本的には外れている。
新たなラストワンマイルを整備することで、従来は冷凍品を販売できなかった小売店や外食店舗向けのコールドチェーン構築の一翼を担うことを目指していく。
 「モノの動きの最適化と人の動きの最適化によって社会課題を解決していきたい。
その際に軸となるのは各種モビリティ。
旅客輸送と貨物輸送の両方を視野に入れてサービスを作り込んでいきたい」と神戸SEA事業開発チームリーダーは語り、事業化に向けた取り組みをさらに加速させる方針だ。

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから