2023年6月号
特集

米Lineage ─ 設立8年で世界最大手に

スタートアップが業界ガリバーを逆転  東洋水産は2008年にワシントン州シアトルの低温倉庫会社Seafreeze Cold Storageを、サンフランシスコの投資会社Bay Grove Capital(ベイグローブ)に売却した。
これが世界最大の低温物流会社Lineage Logistics(リネージュ)の原点となった。
 ベイグローブはこの買収を皮切りにREIT(不動産投資信託)の手法で資金を調達、北米各地の低温倉庫を傘下に収めていった。
そして11年に買収した5社を統合してリネージュを設立した。
 設立時点でリネージュは既に米国8州・40カ所以上に冷蔵倉庫を保有していた。
IARW(国際冷蔵倉庫協会、現Global Cold Chain Alliance)の資料によると、冷蔵設備容積は計約361万立方メートルで北米5位の規模だった。
 さらに14年にリネージュとほぼ同規模のMillard Refrigerated Servicesを買収。
容量を1467万立方メートルに倍増させて、業界2位のSwire Cold Storage(冷蔵倉庫容量862万立方メートル)を追い抜いた。
 業界のガリバー、Americold Logistics(アメリコールド)の2690万立方メートルとは、まだ1・7倍の開きがあったが、その差も年々縮小していく。
19年にPreferred Freezer Services(同943万立方メートル、17年まで世界4位)を買収したことで、アメリコールドを超え最大手に躍り出た。
 続く20年にも3位のSwire Cold Storageを傘下に持つEmergent Cold、21年には7位のKloosterboerを買収。
22年3月現在、リネージュの容量は約7350万立方メートルに達し、アメリコールド(3996万立方メートル)を大きく引き離している。
 アメリコールドは02年にREITに参入して、18年には低温倉庫分野で米国初の上場REITとなっている。
22年5月現在、同分野では米国唯一の上場REITだ。
20年には当時4位のAGRO Merchants Groupの買収にも踏み切ったが、リネージュとの差は開き続けている。
 リネージュが低温物流市場における破壊的企業とみなされているのは、エネルギー効率を高めるテクノロジーを独自開発して倉庫の運用効率を高め続けているためだ。
 低温物流は電力消費の大きな業態であり、リネージュでも電力費が人件費に次ぐコスト要因となっている。
リネージュは設立間もない13年に電力消費を改善するため、科学者やエンジニアを集めて「データ科学チーム」を組成した。
米国エネルギー省の資料によると、リネージュはデータによる低温物流の改革を推進し、そのために専門家チームまで設立した世界最初の企業の1社だという。
 同チームは数学者、物理学者、機械工学者、海洋生物学者、ロボット工学者、SEなどのフルタイム社員で構成されている。
人数は、21年に21人、22年に25人、現在は30人超に増強している。
また、マサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学、米国国立再生可能エネルギー研究所などとR&Dにおける戦略的パートナーシップを結んでいる。
 チームの設立当初は、15年を基準年として10年間でエネルギー原単位(単位当たりの生産活動に伴うエネルギー消費量)を25%削減すると公約していた。
実際にはIoTによる温度制御を駆使して18年には15年比34%削減に成功した。
 同じ18年には、倉庫内をLiDAR(レーザーの反射光で物体の形状や距離を計測するセンサー。
自動運転などに用いられる)でスキャンして空間利用効率を最適化するアルゴリズムを開発して、ラックなどの位置をミリメートル未満まで正確に計測し、物理的に可能な最大限まで配置を効率化するノウハウを確立している。
これを倉庫162カ所に導入して、合計7万4千平方メートル・高さ12メートルの余剰空間を確保し、倉庫コスト4千万ドルを節約した。
 19年にはカリフォルニア州「Mira Loma配送センター」で、電気の使用効率を高めるAIアルゴリズムを導入した。
電気代の安い夜間に、食品を品質に影響しない範囲で規定以上に冷却しておき、昼間の庫内温度上昇防止に役立てる技術だ。
これにより電力費を年間100万ドル以上削減した。
当時の資料によると、32拠点が同アルゴリズムの導入に動いたという。
 20年には、マイナス30度以下の冷気を吹きつけて食品を冷凍する「急速冷凍室」の構造を、航空宇宙分野で使われる高度な流体力学を応用して効率化している。
冷気の噴霧時間を従来比82%短縮し、消費電力を数百万キロワット時削減した。
 こうした取り組みによって同社は、エネルギー消費の改善事例を表彰する米国エネルギー省のBetter Buildings Initiativeにおいて4年連続で表彰されたほか、19年には米ビジネス誌Fast Companyの「最も革新的な企業50社」で総合23位(物流企業では最上位)、データサイエンス部門1位に選出されている。
同誌によるとこのことは同社が、Amazon、ペプシコ、ソニックなどの有力荷主を獲得することに役立ったという。
食料の行き渡る世界をつくる  リネージュは「食料の行き渡る世界をつくる」をパーパスに掲げ、慈善事業でも目標を超える成果を上げ続けている。
「テクノロジーは客のためだけのものではない。
コールドチェーンを改革し、食料の行き渡る世界を実現するというパーパスのためだ」と公式サイトでも明言している。
 パーパスとは、「自社は、どのような社会貢献のため存在するのか」を明確化したもの。
従業員のモチベーションを高め(※)、革新的な企業風土を形成するために必要な要素とされ、重視する企業が増えている。
同社もパーパスを繰り返し明示し、関連した取り組みを積極的に情報発信している。
 19年には同社の従業員たちが個人的に、年間1・8万キログラムを超える食料を寄付し、地元のフードバンクで3800時間を超えるボランティア活動に従事した。
これにより推計100万食が、食料に困窮する家庭に提供された。
 同社は世界各地の拠点で地元フードバンクに協力しており、その活動や困りごとを、提携しているスポーツ選手を通じて情報発信している。
これにより20年には顧客から136万キログラムを超える食料の寄付を受けた。
20年には世界各地でコロナ禍により困窮する家庭に食料支援キャンペーンを実施し、3〜9月の半年間で目標の1億食の寄付を達成した。
 こうした成果を踏まえ、21年10月には300万ドルを拠出して、独立した慈善団体Lineage Foundation for Good(リネージュ慈善財団)を設立した。
設立5年以内に5億食を寄付する目標を掲げたが、設立1年で寄付は2億3900万食に達し、今も勢いは鈍っていないという。
 同財団は160万ドルの補助金を拠出し、地域のフードバンクや学校、諸機関のエッセンシャルワーカーを年間通じてサポートしているほか、自然災害、急病、ウクライナ侵攻などにより困難に見舞われた従業員とその家族への見舞金として1年間で合計40万ドル以上を拠出した。
※一例として、ビジネスSNSのLinkedInが16年にビジネスパーソン3千人に行った調査では、回答者の49%が「人々の生活と社会に良好な影響を与える企業で働けるなら、収入が下がっても問題ない」と答えている

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