2023年6月号
特集
特集
中国におけるコールドチェーン産業の発展
フードロスと冷蔵設備の環境負荷
腐敗や劣化が生じやすい生鮮食品・薬品・ワクチン等の品質と価値を保持するためには、冷蔵サプライチェーン、すなわち「コールドチェーン」の存在が必要不可欠である。
本稿ではその中でも、コールドチェーン市場の75%近くを占める食品コールドチェーンを取り上げる。
コールドチェーンは、食肉処理や収穫から消費者の購買に至るサプライチェーンの一形態として定義することができる。
コールドチェーンのインフラが完備されていない発展途上国においては、年間2億トンを超える生鮮食料品が失われており、コールドチェーン産業の発展が急務である。
一方、先進諸国のコールドチェーンは、90%以上の果物・野菜、ほぼ100%の食肉・家禽類の流通を担っている。
発展途上国のコールドチェーンが概して未発達であるとはいっても、インドと中国での成長には目覚ましいものがある。
本稿では特に、中国における成長要因とその現状、そして環境への影響を明らかにしていきたい。
コールドチェーンの市場価値は、2019年から25年にかけ世界全体で15%以上成長することが見込まれている。
その中でもとりわけ中国市場の成長は急速であり、15年の230億ドルが20年には560億ドルに達するとされている。
コールドチェーンの飛躍的発展は、中国におけるフードロス削減に大きく貢献する可能性をもつ。
中国では15年1年間で1億3千万トンの果物、690万トンの食肉が廃棄されたと報告されている。
全世界の総生産量のうち野菜の60%、果物と食肉の30%、卵と水産物の40%を中国が消費していることからすると、コールドチェーンによって削減されるフードロスの割合がたとえわずかであっても、その絶対量は予想以上に大きいものとなるだろう。
不適当な施設や取り扱いによるフードロスは、食品産業に年間約7500億ドルもの損失をもたらしている。
また食糧生産に費やされた天然資源の浪費にもつながっており、これは二酸化炭素換算量(GtCO2)で4・4ギガトンもの温室効果ガス排出に相当する。
そうしたことから、コールドチェーンが完全に統合された暁には、フードロスとそれに付随する炭素排出および経済的損失の削減が期待されるのである。
しかし、コールドチェーン設備は、「冷媒漏れ」やエネルギー消費によって大量の炭素を排出する。
10年に発表された研究論文は、世界全体の炭素排出量の10%がコールドチェーン由来であり、世界の電力の15%は冷蔵関連によって消費されているとしている。
また07年のある報告書によると、英国における炭素排出量の3・0〜3・5%は食品の冷蔵が原因である。
世界の冷蔵倉庫キャパシティは、10年から18年に4億5800万立方メートルから6億1600万立方メートルに増えた。
その結果、より多くのエネルギーが必要となり、冷媒漏れも増大した。
世界の炭素排出量のうち冷蔵が占める割合は、同10〜18年の期間を通して3・5%を維持した。
しかしながら、冷蔵業界および世界の排出の絶対量自体は増えており、そのことはしっかりと認識しておく必要があるだろう。
世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃よりも十分に低く保ち、1・5℃に抑えるという、15年のパリ協定で示された目標を達成するには、冷蔵由来を含む世界全体の排出がこれ以上増えることなく、直ちにピークを迎えて減少傾向に転じる必要がある。
したがってコールドチェーン技術の利点を考慮する場合、コールドチェーン産業からの排出増とフードロス、この2つのトレードオフを理解することが極めて重要な意味をもつのである。
急成長するコールドチェーン産業をサポートするため、研究者たちはコールドチェーンのバリューチェーン、ロジスティクス、オペレーションマネジメント、冷蔵技術、ライフサイクルGHG(温室効果ガス)排出量などについて取り組んでいる。
また、意思決定に役立てるため、先行研究のレビューによって業界の全体像を提示しようという試みにも事欠かない。
しかし、こうしたレビューは主として過去データの集積が対象であり、環境への影響を評価する枠組などを提示するものではない。
本稿では、中国におけるコールドチェーン産業の成長要因および現状を分析するため、まず具体例を提示し、それを環境影響メソッドへとつなげていく。
コールドチェーン物流と冷蔵技術 コールドチェーンを他のサプライチェーンから区別する特徴は、温度管理された設備を運用すること、そして生鮮品の保存期間が短いことである。
腐りやすいという食品の性質上、特別に管理された物流プロセスが必要とされ、その結果、常温の製品と比べて全体的に環境負荷が大きくなる。
図表1は、食品の製造から消費に至るコールドチェーンの全サービスサイクルである。
主に予冷・加工(冷凍、梱包)、冷蔵保管、冷蔵輸配送、冷蔵品販売などから構成される。
コールドチェーンの第1段階である予冷の目的は、収穫物または加工食品を保存に適した温度にすることである。
一般に生鮮食品は、サプライチェーンを通じて収穫後が最も高い温度帯となる。
そのため予冷を施してフィールドヒート(収穫直後の作物が持つ熱)を下げることで、生鮮食品の保存期間を伸ばすのである。
例えば0〜2℃まで予冷された果物は、その後のコールドチェーンの下流においても品質を保持しやすいがことが証明されている。
予冷技術には従来型倉庫のやり方の他に、ハイドロクーリング・強制通風冷却・真空冷却などの先進技術がある。
とりわけ強制通風による予冷は、効率的で適用が容易な上に低コストであるため、大規模な予冷設備やインフラと比較して有望な選択肢となる。
冷蔵保管(倉庫、小売店舗)および冷蔵輸送は、冷媒蒸発・圧縮・凝縮・膨張などの熱力学的冷凍サイクルにもとづく冷蔵技術に支えられている。
通常、冷蔵倉庫のコンプレッサーは電気により、冷蔵車の場合は車両エンジンや電気モーターもしくは補助エンジンによって動く。
冷媒とは冷蔵システムにおける作業流体のことである。
現在、冷蔵保管設備の冷媒としては、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、R744(二酸化炭素)、R717(アンモニア)などが広く用いられており、冷蔵車ではHFCが一般的となっている。
冷蔵システムそのものはクローズドシステムとして設計されているが、冷媒漏れや廃棄による温室効果ガス排出は避けられない。
ごく一般的に用いられるHCFC(R22等)はオゾン層を破壊し、従来からあるHFCは地球温暖化係数(GWP)が高い。
冷媒漏れは深刻な気候変動に直結する。
オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書では、オゾン層破壊冷媒(HCFC)の段階的廃止が提案され、さらにその後のキガリ改正では、地球温暖化係数の高い冷媒(HFC)の段階的削減が採択された。
つまり現在は将来的にクリーンな冷媒の普及が待ち望まれている状況にあるわけである。
さらに、冷蔵設備の炭素排出量としては、そもそもエネルギー消費によるものが多く、コールドチェーン施設からの排出量のおよそ70%〜80%を占める。
コールドチェーンの各段階からの排出量は、食品の種類・温度帯・状態・保存期間などによって異なる。
サーモンのコールドチェーンを例に取ると、生産および冷蔵倉庫からが40%、長距離の冷蔵輸送が35%となる。
その残りが冷蔵の短距離輸送と小売店のショーケースである。
主な工程の他に、冷媒および冷蔵庫の製造、コールドチェーンのオペレーションズ・マネジメント(OM)なども欠かせない要素だ。
製造セクターが無ければ冷蔵設備とならないし、OMはコールドチェーン資源の有効活用に役立つ。
上流から下流に至るコールドチェーンの各メンバー同士の関係を緊密にするため、先進的なOMプラットフォームも開発されている。
また、コールドチェーンロジスティクスのオペレーションを向上させるために開発された“ビッグデータ”プラットフォームは、コールドチェーンの各段階を統合し、運用効率を改善する可能性を秘めている。
コールドチェーンの発展 中国のコールドチェーン産業の現状は、キャパシティーの絶対量は多いものの1人当たり換算では見劣りするという、中国経済全般に共通するパターンを踏襲している。
また、既存のコールドチェーン資源は、全国民に等しく分配されているわけではない。
中国西部・北部におけるコールドチェーンの普及は、南部・東部のそれに遠く及ばない。
経済発展と需要の変化 コールドチェーン資源の豊富さは、生活水準の高さの証である。
図表2は、9カ国の1人当たりGDPと冷蔵倉庫のキャパシティを示したものである。
1人当たりGDPが高いほど冷蔵倉庫も多くなる傾向が認められる。
先進国の冷蔵倉庫キャパシティは、発展途上国のそれを大きく上回っており、経済発展の水準とコールドチェーンの発展には明確な相関関係のあることがわかる。
過去数十年にわたる中国の急速な経済発展は、都市化の進展と所得の向上をもたらし、それがコールドチェーンの発展につながっている。
実際に、中国の冷蔵倉庫のキャパシティは、10年の5400万立方メートルから18年には1億500万立方メートルにまで拡大した。
コールドチェーンの発展は、食品の生産および消費・サプライチェーン・食品品質へのこだわり等の変化と連動している。
中国では穀物の消費量が減り、食品の生産構造は、果物・野菜・畜産物・水産物など高付加価値の農水産物へと軸足を移しつつある。
2000年には6・3%にすぎなかった高級品の割合は、18年には農業生産額全体の64・1%を占めるまでになった。
また、中国のコールドチェーン市場の内訳は、園芸植物(野菜、果物、花き等)が44・8%、・水産物が29・9%、食肉が12・6%である。
食の安全と品質への意識の高まりも、コールドチェーン発展の推進力となっている。
サプライチェーンの環境を厳密に管理する必要があるため、コールドチェーンには、食の安全と品質がある程度担保されるという利点があるからである。
コールドチェーンの規制・規格 中国のコールドチェーン業界には、食品の品質と安全を維持するためのさまざまな規制や業界規格が存在する。
食品業界では食の安全が何より優先されるのである。
08年に起きた粉ミルクへのメラミン混入事件は、食の安全に国民の関心を集めることになった。
15年に中国政府は09年版の食品安全法を改定・施行して食品市場への検査を強化し、生産から消費までのルールをさらに明確化した。
同法には、農産物の生産・取り扱い・輸送などに関する規制や規格が200以上盛り込まれている。
しかしながら、こうした基準の多くは食品物流の特定の段階をカバーしているに過ぎず、コールドチェーンそのものを対象とした国家規格は20に満たない。
また、こうした規格はあくまで「望ましい」という扱いにすぎず、実際問題として忠実に実行することは困難だと考えられていたため、コールドチェーン業界に対する影響は限定的だった。
強制力のある国家規格(GB31605―2020)が成立したのは、ようやく20年になってからのことである。
この国家規格は管理および記録のルール、温度帯、保管・流通・コールドチェーンの各段階の間の輸送の手順など、コールチェーンプロセスの全体を対象とした規制となっている。
人口、食糧生産、消費 中国におけるコールドチェーン資源の地理的分布を理解するには、各省の人口・食糧生産・消費の違いを見れば一目瞭然である。
人口の90%以上は、国土全体の45%にも満たない北京周辺の各省、中央部および南東部の各地域に集住している。
新疆ウイグル自治区、チベット自治区、甘粛省、青海省などの西部は人口が少ない。
高価な生鮮食品は穀物と比べて冷蔵の条件が厳しく、そのことが冷蔵倉庫の分布に影響を与えている。
図表3は各省の食糧生産量であり、パイの大きさはその生産量を示すが、ここには地域差がはっきりと現れている。
一般的に、人口の多い省はその分、食糧生産量も多い傾向にある。
北部および中央部の省は国全体の穀物の大半を生産しており、黒竜江省と河南省だけで生産量全体のおよそ20%を占める。
一方、水産物については沿岸地方が主な産地となっている。
山東省、広東省、福建省、浙江省、江蘇省で水産物の50%以上を産出する。
食肉および野菜・果物・花きの生産は全国に広がっている。
ただしチベットや青海省はその標高や気候条件のため、穀物・野菜・果物の生産がほとんど行われていない。
新鮮な野菜や果物は賞味期限が比較的短いため、「農場から地元市場へ」というビジネスモデルが基本である。
しかし、農産物に地域差があっても、中国の消費者は多種多様な食品を全国どこでも入手することができる。
これは中国にコールドチェーンが整備されてきたことで、果物や野菜の地域を越えたグローバルなサプライチェーンが成立したからである。
食品サプライチェーンの距離が長くなればなるほど、商品の価値を保つための冷蔵システムが必要とされる。
食品流通ネットワークにおいて、コールドチェーンロジスティクスがより重要性を増すと期待される理由はここにある。
消費する側でも、顧客の購買行動は徐々に変化している。
食品小売業では、個人商店が集まる昔ながらの生鮮食品市場が依然として大きな割合を占めるが、大型小売店や大手スーパーマーケットのシェアが着実に伸びている。
eコマースもまた、フードデリバリーサービスを通じて食品小売業界の姿を変えつつある。
eコマースは、中国の消費者にとって重要な要素である食品へのアクセスの利便性を向上させる。
大手スーパーとeコマースの隆盛は、コールドチェーン普及の追い風なのである。
伝統的な生鮮食品マーケットと比較して、大手スーパーやeコマースでは、上流から下流まで一貫したコールドチェーンサービスにより、生鮮品の流通には不可欠な厳密な品質管理が可能となる。
全体として、食糧生産の特徴と小売市場の変化が、中国におけるコールドチェーン発展の追い風となっているということがいえるだろう。
コールドチェーンの施設とサービス 上述のとおり、中国のコールドチェーン産業はまだ揺籃期にあるものの、経済発展と高品質な食品への需要増に伴い、コールドチェーン施設の数は劇的に増加している。
14年に7600万立方メートルだった冷蔵倉庫のキャパシティは、18年には1億立方メートルを越え、冷蔵車の台数も約18万台に達した。
冷蔵倉庫キャパシティは、18年現在で米国とインドに次ぐ規模である。
だがその急速な成長にもかかわらず、コールドチェーンの発展にはいくつかの課題がある。
まず何よりも、1人当たりのコールドチェーン資源がいまだ貧弱なことが挙げられる。
1人当たりの冷蔵倉庫キャパシティは、中国が0・075立方メートルであるのに対し、インドで0・111立方メートル、米国では0・40立方メートルに達する。
中国のコールドチェーン施設にはまだまだ発展の余地があることがわかる。
さらに図表4が示すように、経済的に豊かな地域ほどキャパシティも大きい傾向があるなど、地域格差が著しい。
青果物の生産量が多いためか、キャパシティの15%は中央部(河南省等)にあるし、沿岸部も人口と需要が多いので、冷蔵倉庫の多い地域となっている。
また、冷蔵車の87%は、北部・東部・中央部の15省にある。
こうしたことは、人口稠密な先進地域ほど、コールドチェーンの普及が進んでいることを物語っている。
しかし、北西部では、コールドチェーン需要に対して供給が追いついていないとの指摘もある。
北西部は高品質の食肉生産が盛んで産出量が多いにもかかわらず、この地域には充分なコールドチェーン設備が整備されていないのである。
リソースに地理的な偏りがあることで、冷蔵倉庫に空きが目立つ地域もある。
空室率は19年1月の8・2%が6月には10・6%に上昇した。
特に江蘇省の省都・南京市の空室率は37%に上る。
中国のコールドチェーンのビジネス面についていうと、上位100社の売り上げを合計しても、市場全体の10%にも届かないほど細分化されている。
その結果、市場の細分化とコールドチェーン設備の偏在が、コールドチェーンステージ間の断絶を招く事態となっている。
つまり、食品ロジスティクスの全工程を冷蔵設備でカバーすることが、必ずしも保証されていないのである。
従来のコールドチェーンサービスは、冷蔵倉庫の賃貸・冷蔵輸送・都市部の配送等であった。
そこにコールドチェーンの川上から川下までをつなぐ統合ソリューションが登場して、3PLがサプライチェーン全体の冷蔵サービスを開始した。
さらにIT技術の飛躍的発展によって、生鮮食品の先進的なeコマースやコールドチェーンサービスのIoTモデルが台頭して、地域におけるコールドチェーンの階層構造が統合され、運営効率も上昇したのである。
本稿ではその中でも、コールドチェーン市場の75%近くを占める食品コールドチェーンを取り上げる。
コールドチェーンは、食肉処理や収穫から消費者の購買に至るサプライチェーンの一形態として定義することができる。
コールドチェーンのインフラが完備されていない発展途上国においては、年間2億トンを超える生鮮食料品が失われており、コールドチェーン産業の発展が急務である。
一方、先進諸国のコールドチェーンは、90%以上の果物・野菜、ほぼ100%の食肉・家禽類の流通を担っている。
発展途上国のコールドチェーンが概して未発達であるとはいっても、インドと中国での成長には目覚ましいものがある。
本稿では特に、中国における成長要因とその現状、そして環境への影響を明らかにしていきたい。
コールドチェーンの市場価値は、2019年から25年にかけ世界全体で15%以上成長することが見込まれている。
その中でもとりわけ中国市場の成長は急速であり、15年の230億ドルが20年には560億ドルに達するとされている。
コールドチェーンの飛躍的発展は、中国におけるフードロス削減に大きく貢献する可能性をもつ。
中国では15年1年間で1億3千万トンの果物、690万トンの食肉が廃棄されたと報告されている。
全世界の総生産量のうち野菜の60%、果物と食肉の30%、卵と水産物の40%を中国が消費していることからすると、コールドチェーンによって削減されるフードロスの割合がたとえわずかであっても、その絶対量は予想以上に大きいものとなるだろう。
不適当な施設や取り扱いによるフードロスは、食品産業に年間約7500億ドルもの損失をもたらしている。
また食糧生産に費やされた天然資源の浪費にもつながっており、これは二酸化炭素換算量(GtCO2)で4・4ギガトンもの温室効果ガス排出に相当する。
そうしたことから、コールドチェーンが完全に統合された暁には、フードロスとそれに付随する炭素排出および経済的損失の削減が期待されるのである。
しかし、コールドチェーン設備は、「冷媒漏れ」やエネルギー消費によって大量の炭素を排出する。
10年に発表された研究論文は、世界全体の炭素排出量の10%がコールドチェーン由来であり、世界の電力の15%は冷蔵関連によって消費されているとしている。
また07年のある報告書によると、英国における炭素排出量の3・0〜3・5%は食品の冷蔵が原因である。
世界の冷蔵倉庫キャパシティは、10年から18年に4億5800万立方メートルから6億1600万立方メートルに増えた。
その結果、より多くのエネルギーが必要となり、冷媒漏れも増大した。
世界の炭素排出量のうち冷蔵が占める割合は、同10〜18年の期間を通して3・5%を維持した。
しかしながら、冷蔵業界および世界の排出の絶対量自体は増えており、そのことはしっかりと認識しておく必要があるだろう。
世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃よりも十分に低く保ち、1・5℃に抑えるという、15年のパリ協定で示された目標を達成するには、冷蔵由来を含む世界全体の排出がこれ以上増えることなく、直ちにピークを迎えて減少傾向に転じる必要がある。
したがってコールドチェーン技術の利点を考慮する場合、コールドチェーン産業からの排出増とフードロス、この2つのトレードオフを理解することが極めて重要な意味をもつのである。
急成長するコールドチェーン産業をサポートするため、研究者たちはコールドチェーンのバリューチェーン、ロジスティクス、オペレーションマネジメント、冷蔵技術、ライフサイクルGHG(温室効果ガス)排出量などについて取り組んでいる。
また、意思決定に役立てるため、先行研究のレビューによって業界の全体像を提示しようという試みにも事欠かない。
しかし、こうしたレビューは主として過去データの集積が対象であり、環境への影響を評価する枠組などを提示するものではない。
本稿では、中国におけるコールドチェーン産業の成長要因および現状を分析するため、まず具体例を提示し、それを環境影響メソッドへとつなげていく。
コールドチェーン物流と冷蔵技術 コールドチェーンを他のサプライチェーンから区別する特徴は、温度管理された設備を運用すること、そして生鮮品の保存期間が短いことである。
腐りやすいという食品の性質上、特別に管理された物流プロセスが必要とされ、その結果、常温の製品と比べて全体的に環境負荷が大きくなる。
図表1は、食品の製造から消費に至るコールドチェーンの全サービスサイクルである。
主に予冷・加工(冷凍、梱包)、冷蔵保管、冷蔵輸配送、冷蔵品販売などから構成される。
コールドチェーンの第1段階である予冷の目的は、収穫物または加工食品を保存に適した温度にすることである。
一般に生鮮食品は、サプライチェーンを通じて収穫後が最も高い温度帯となる。
そのため予冷を施してフィールドヒート(収穫直後の作物が持つ熱)を下げることで、生鮮食品の保存期間を伸ばすのである。
例えば0〜2℃まで予冷された果物は、その後のコールドチェーンの下流においても品質を保持しやすいがことが証明されている。
予冷技術には従来型倉庫のやり方の他に、ハイドロクーリング・強制通風冷却・真空冷却などの先進技術がある。
とりわけ強制通風による予冷は、効率的で適用が容易な上に低コストであるため、大規模な予冷設備やインフラと比較して有望な選択肢となる。
冷蔵保管(倉庫、小売店舗)および冷蔵輸送は、冷媒蒸発・圧縮・凝縮・膨張などの熱力学的冷凍サイクルにもとづく冷蔵技術に支えられている。
通常、冷蔵倉庫のコンプレッサーは電気により、冷蔵車の場合は車両エンジンや電気モーターもしくは補助エンジンによって動く。
冷媒とは冷蔵システムにおける作業流体のことである。
現在、冷蔵保管設備の冷媒としては、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、R744(二酸化炭素)、R717(アンモニア)などが広く用いられており、冷蔵車ではHFCが一般的となっている。
冷蔵システムそのものはクローズドシステムとして設計されているが、冷媒漏れや廃棄による温室効果ガス排出は避けられない。
ごく一般的に用いられるHCFC(R22等)はオゾン層を破壊し、従来からあるHFCは地球温暖化係数(GWP)が高い。
冷媒漏れは深刻な気候変動に直結する。
オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書では、オゾン層破壊冷媒(HCFC)の段階的廃止が提案され、さらにその後のキガリ改正では、地球温暖化係数の高い冷媒(HFC)の段階的削減が採択された。
つまり現在は将来的にクリーンな冷媒の普及が待ち望まれている状況にあるわけである。
さらに、冷蔵設備の炭素排出量としては、そもそもエネルギー消費によるものが多く、コールドチェーン施設からの排出量のおよそ70%〜80%を占める。
コールドチェーンの各段階からの排出量は、食品の種類・温度帯・状態・保存期間などによって異なる。
サーモンのコールドチェーンを例に取ると、生産および冷蔵倉庫からが40%、長距離の冷蔵輸送が35%となる。
その残りが冷蔵の短距離輸送と小売店のショーケースである。
主な工程の他に、冷媒および冷蔵庫の製造、コールドチェーンのオペレーションズ・マネジメント(OM)なども欠かせない要素だ。
製造セクターが無ければ冷蔵設備とならないし、OMはコールドチェーン資源の有効活用に役立つ。
上流から下流に至るコールドチェーンの各メンバー同士の関係を緊密にするため、先進的なOMプラットフォームも開発されている。
また、コールドチェーンロジスティクスのオペレーションを向上させるために開発された“ビッグデータ”プラットフォームは、コールドチェーンの各段階を統合し、運用効率を改善する可能性を秘めている。
コールドチェーンの発展 中国のコールドチェーン産業の現状は、キャパシティーの絶対量は多いものの1人当たり換算では見劣りするという、中国経済全般に共通するパターンを踏襲している。
また、既存のコールドチェーン資源は、全国民に等しく分配されているわけではない。
中国西部・北部におけるコールドチェーンの普及は、南部・東部のそれに遠く及ばない。
経済発展と需要の変化 コールドチェーン資源の豊富さは、生活水準の高さの証である。
図表2は、9カ国の1人当たりGDPと冷蔵倉庫のキャパシティを示したものである。
1人当たりGDPが高いほど冷蔵倉庫も多くなる傾向が認められる。
先進国の冷蔵倉庫キャパシティは、発展途上国のそれを大きく上回っており、経済発展の水準とコールドチェーンの発展には明確な相関関係のあることがわかる。
過去数十年にわたる中国の急速な経済発展は、都市化の進展と所得の向上をもたらし、それがコールドチェーンの発展につながっている。
実際に、中国の冷蔵倉庫のキャパシティは、10年の5400万立方メートルから18年には1億500万立方メートルにまで拡大した。
コールドチェーンの発展は、食品の生産および消費・サプライチェーン・食品品質へのこだわり等の変化と連動している。
中国では穀物の消費量が減り、食品の生産構造は、果物・野菜・畜産物・水産物など高付加価値の農水産物へと軸足を移しつつある。
2000年には6・3%にすぎなかった高級品の割合は、18年には農業生産額全体の64・1%を占めるまでになった。
また、中国のコールドチェーン市場の内訳は、園芸植物(野菜、果物、花き等)が44・8%、・水産物が29・9%、食肉が12・6%である。
食の安全と品質への意識の高まりも、コールドチェーン発展の推進力となっている。
サプライチェーンの環境を厳密に管理する必要があるため、コールドチェーンには、食の安全と品質がある程度担保されるという利点があるからである。
コールドチェーンの規制・規格 中国のコールドチェーン業界には、食品の品質と安全を維持するためのさまざまな規制や業界規格が存在する。
食品業界では食の安全が何より優先されるのである。
08年に起きた粉ミルクへのメラミン混入事件は、食の安全に国民の関心を集めることになった。
15年に中国政府は09年版の食品安全法を改定・施行して食品市場への検査を強化し、生産から消費までのルールをさらに明確化した。
同法には、農産物の生産・取り扱い・輸送などに関する規制や規格が200以上盛り込まれている。
しかしながら、こうした基準の多くは食品物流の特定の段階をカバーしているに過ぎず、コールドチェーンそのものを対象とした国家規格は20に満たない。
また、こうした規格はあくまで「望ましい」という扱いにすぎず、実際問題として忠実に実行することは困難だと考えられていたため、コールドチェーン業界に対する影響は限定的だった。
強制力のある国家規格(GB31605―2020)が成立したのは、ようやく20年になってからのことである。
この国家規格は管理および記録のルール、温度帯、保管・流通・コールドチェーンの各段階の間の輸送の手順など、コールチェーンプロセスの全体を対象とした規制となっている。
人口、食糧生産、消費 中国におけるコールドチェーン資源の地理的分布を理解するには、各省の人口・食糧生産・消費の違いを見れば一目瞭然である。
人口の90%以上は、国土全体の45%にも満たない北京周辺の各省、中央部および南東部の各地域に集住している。
新疆ウイグル自治区、チベット自治区、甘粛省、青海省などの西部は人口が少ない。
高価な生鮮食品は穀物と比べて冷蔵の条件が厳しく、そのことが冷蔵倉庫の分布に影響を与えている。
図表3は各省の食糧生産量であり、パイの大きさはその生産量を示すが、ここには地域差がはっきりと現れている。
一般的に、人口の多い省はその分、食糧生産量も多い傾向にある。
北部および中央部の省は国全体の穀物の大半を生産しており、黒竜江省と河南省だけで生産量全体のおよそ20%を占める。
一方、水産物については沿岸地方が主な産地となっている。
山東省、広東省、福建省、浙江省、江蘇省で水産物の50%以上を産出する。
食肉および野菜・果物・花きの生産は全国に広がっている。
ただしチベットや青海省はその標高や気候条件のため、穀物・野菜・果物の生産がほとんど行われていない。
新鮮な野菜や果物は賞味期限が比較的短いため、「農場から地元市場へ」というビジネスモデルが基本である。
しかし、農産物に地域差があっても、中国の消費者は多種多様な食品を全国どこでも入手することができる。
これは中国にコールドチェーンが整備されてきたことで、果物や野菜の地域を越えたグローバルなサプライチェーンが成立したからである。
食品サプライチェーンの距離が長くなればなるほど、商品の価値を保つための冷蔵システムが必要とされる。
食品流通ネットワークにおいて、コールドチェーンロジスティクスがより重要性を増すと期待される理由はここにある。
消費する側でも、顧客の購買行動は徐々に変化している。
食品小売業では、個人商店が集まる昔ながらの生鮮食品市場が依然として大きな割合を占めるが、大型小売店や大手スーパーマーケットのシェアが着実に伸びている。
eコマースもまた、フードデリバリーサービスを通じて食品小売業界の姿を変えつつある。
eコマースは、中国の消費者にとって重要な要素である食品へのアクセスの利便性を向上させる。
大手スーパーとeコマースの隆盛は、コールドチェーン普及の追い風なのである。
伝統的な生鮮食品マーケットと比較して、大手スーパーやeコマースでは、上流から下流まで一貫したコールドチェーンサービスにより、生鮮品の流通には不可欠な厳密な品質管理が可能となる。
全体として、食糧生産の特徴と小売市場の変化が、中国におけるコールドチェーン発展の追い風となっているということがいえるだろう。
コールドチェーンの施設とサービス 上述のとおり、中国のコールドチェーン産業はまだ揺籃期にあるものの、経済発展と高品質な食品への需要増に伴い、コールドチェーン施設の数は劇的に増加している。
14年に7600万立方メートルだった冷蔵倉庫のキャパシティは、18年には1億立方メートルを越え、冷蔵車の台数も約18万台に達した。
冷蔵倉庫キャパシティは、18年現在で米国とインドに次ぐ規模である。
だがその急速な成長にもかかわらず、コールドチェーンの発展にはいくつかの課題がある。
まず何よりも、1人当たりのコールドチェーン資源がいまだ貧弱なことが挙げられる。
1人当たりの冷蔵倉庫キャパシティは、中国が0・075立方メートルであるのに対し、インドで0・111立方メートル、米国では0・40立方メートルに達する。
中国のコールドチェーン施設にはまだまだ発展の余地があることがわかる。
さらに図表4が示すように、経済的に豊かな地域ほどキャパシティも大きい傾向があるなど、地域格差が著しい。
青果物の生産量が多いためか、キャパシティの15%は中央部(河南省等)にあるし、沿岸部も人口と需要が多いので、冷蔵倉庫の多い地域となっている。
また、冷蔵車の87%は、北部・東部・中央部の15省にある。
こうしたことは、人口稠密な先進地域ほど、コールドチェーンの普及が進んでいることを物語っている。
しかし、北西部では、コールドチェーン需要に対して供給が追いついていないとの指摘もある。
北西部は高品質の食肉生産が盛んで産出量が多いにもかかわらず、この地域には充分なコールドチェーン設備が整備されていないのである。
リソースに地理的な偏りがあることで、冷蔵倉庫に空きが目立つ地域もある。
空室率は19年1月の8・2%が6月には10・6%に上昇した。
特に江蘇省の省都・南京市の空室率は37%に上る。
中国のコールドチェーンのビジネス面についていうと、上位100社の売り上げを合計しても、市場全体の10%にも届かないほど細分化されている。
その結果、市場の細分化とコールドチェーン設備の偏在が、コールドチェーンステージ間の断絶を招く事態となっている。
つまり、食品ロジスティクスの全工程を冷蔵設備でカバーすることが、必ずしも保証されていないのである。
従来のコールドチェーンサービスは、冷蔵倉庫の賃貸・冷蔵輸送・都市部の配送等であった。
そこにコールドチェーンの川上から川下までをつなぐ統合ソリューションが登場して、3PLがサプライチェーン全体の冷蔵サービスを開始した。
さらにIT技術の飛躍的発展によって、生鮮食品の先進的なeコマースやコールドチェーンサービスのIoTモデルが台頭して、地域におけるコールドチェーンの階層構造が統合され、運営効率も上昇したのである。
