2023年7月号
特集
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投資のいらない現場改善で「定時に帰ろう」
初めてのセンター運営業務
東北地方の地場運送会社A社は昨年、県内に20店舗あまりを展開する地元の食品スーパーB社から専用センターの運営業務を受託した。
倉庫面積は約1千坪。
納品には車両約20台を投入している。
もともとA社は荷主のB社から輸送業務を受託していた。
その縁で従来はB社が自社運営していたセンターを外部委託に切り替えたいとの打診を受けた。
A社に小売りの専用センターを運営した経験はなかったが、A社はこれを事業領域を拡大するチャンスと要請に応じた。
B社から既存センターの建物をそのまま借り受け、荷主の社員であった物流センター長と社員1人、パートタイマー数名をA社に移籍する形でセンター要員として受け入れた。
同時にA社のドライバー2人を、センター運営のスキルを獲得するため、センター要員に配置転換した。
業務受託の契約料金は、センターの通過金額に一定の比率(パーセンテージ)を乗じて算出する従価料金方式だ。
荷主が過去のセンター運営コストを開示して、そこに販管費を上乗せして算出した金額を元に比率を決定した。
B社の自社運営時代と同じコストで運営すれば、収支が“トントン”になる設定だ。
従来から同センターに出入りしていたA社の見立てでは、これまで同センターでは改善活動がほとんど行われていなかった様子であり、従ってコストダウンの余地は十分にある。
改善すればそれがA社の利益になる──という算段だった。
同センターは365日稼働で食品や日用雑貨などの常温商品を取り扱っている。
1日当たりの平均出荷量はDCとTCを合わせて約5000行。
約2000SKUを保管するDC(Distribution Center)機能と、通過型のTC(Transfer Center)機能を併用している。
毎日、店舗からの注文を正午に締めて、在庫品は当日午後と翌日早朝に店舗に納品する。
TC品は店別に仕分けされた状態で当日夕方に卸から届く。
それをセンターで荷受け検品して翌日早朝に店舗に納品する。
このセンターの改善を筆者がサポートすることになったのは、A社が業務を受託して1年後のことだった。
それまでの当初1年間は、荷主の自社運営時代よりもトラブルが増えたり、「業務委託したら品質が下がった」などと言われないように、従来の運営方法をそのまま踏襲した。
その結果、荷主からの評価は得られたものの、一方で受託前から現場で常態化していた残業が一向に減らない。
極端に物量が少ない日曜日と閑散期以外は、朝8時の始業に対して毎日20時~21時にならないと業務が終了しない状態であった。
17時以降は残業になるので、毎日3時間~4時間の残業が発生していた。
現場の社員たちは「残業手当がなくなってもいい。
定時に帰りたい」と残業が続くことをひどく嫌がっていた。
今回の業務改善のテーマは、経営の視点では、センター業務のコスト削減による採算向上であった。
しかし、それでは現場には響きにくい。
現場が改善に対するモチベーションを高く保てるように、また、現場が改善の結果を分かりやすく実感できるようにするために、「定時に帰ろう」を改善のスローガンに据えた。
改善活動が始まった。
筆者が月に1回、現場を訪問して、センター運営に関する2時間の講義を行い、さらに社員4人にそれぞれ1人1時間の個人指導を行う。
社員4人にはそれぞれの役割に沿った課題を出す。
センター長の課題は、センター収支とパートタイマーのシフト管理。
現場リーダーは生産性向上。
ドライバーから配置展開した残る二人には品質管理と「3S(整理・整頓・清掃)」を担当してもらうことにした。
課題に対して筆者からは考え方だけを提示する。
自分で考えることによってスキルを身に付けてもらうためだ。
なお、システムやマテハン設備などへの大きな投資は避けることにした。
物品の購入も、購入した当月中に投資金額以上の効果が見込めるものに限定した。
改善によって利益が捻出できたらその時には、それを原資として効率化に投資しよう、という方針である。
当日の作業進捗の見える化 まずは現状を調査した。
DC品の入庫・ピッキング・検品、TC品の入庫・検品といった工程別のタイムスケジュールと、1時間ごとのパートタイマーの投入人員数を曜日別に作成して見える化した。
同センターの基本的な業務の流れは、午前中にDC品の入庫、午後からDC品のピッキングと検品、夕方になってTC品の入庫と検品となっている。
夕方以降のTC品の入庫、検品の時間帯が最も作業量が多い。
しかし、パートタイマーの就業時間は一律で9時から17時。
最も作業量の多い時間帯には社員4人と、残業ができる一部のパートタイマーしか残っていない。
一方で午前中は人員が過剰という、いびつな配置になっていた。
作業量に合わせてパートタイマーの勤務時間を変更する必要があるとの結論になり、パートタイマーのそれぞれの契約更新のタイミングで勤務時間を変更して、夕方の要員を多く確保することにした。
次に着手したのが、業務終了予定時間の見える化だ。
これはセンター長が担当した。
受注が確定した時点で当日の業務終了予定時間を算出する。
工程別に「受注量÷人時生産性÷人時」で所要作業時間を求め、「作業開始時間+所要作業時間」で作業終了予定時間を算出した。
全工程の作業終了予定時間が業務終了予定時間である。
そして倉庫内の作業指示書を置く場所に大型のホワイトボードを設置して、その上半分を使って「本日の業務終了予定時間:○○時○○分」と青のマーカーで書き込んだ。
ホワイトボードの下半分には、生産性を5%高めた場合の業務終了予定時間を「業務終了目標時間:○○時○○分」と今度は赤のマーカーで書き込むようにした。
作業者が作業指示書を取りに来る時はもちろん、遠くからでも掲示が見えるようにした(図1)。
結果は上々だった。
「がんばってこの時間までに終わる」という具体的な目標が自然と目に入るようにしたことで、パートタイマーを含めた全員が奮起した。
1カ月が経過した頃には、週に2日〜3日は目標時間をクリアできるようになっていた。
同センターは少人数の職場ということもあってか、現場の連帯感が非常に強いことも大きく影響したと思う。
一方、業務終了予定時間は、その算定を始めた当初は必ずかなりの誤差が出るものだ。
予定時間を算出するための人時生産性は平均値に過ぎず、実際の日々の人時生産性は上下するからだ。
ズレを少なくするには、例えば曜日別の生産性を算出して計算に適用する、直近数日間(例えば14日間)の平均の生産性を更新しながら適用する、などの方法を用いる。
もちろん、作業改善によって人時生産性の変動自体を少なくしていくことも重要である。
業務終了予定時間の見える化の運用を始めて次の訪問日となる1カ月後、作業指示書置き場に、もう一つホワイトボードを追加した。
新しいホワイトボードには、終了予定と終了目標時間を行程別に細分化して記載して、さらに工程別の作業の進捗状況を「○○%」と表示した。
進捗は社員の手計算だ。
1時間ごとに更新してその都度ホワイトボードに書き込む。
効果は想定した以上だった。
パートタイマーも含めて作業者は進捗状況をチラチラ見ながら作業を進めるようになった。
特に1時間に1回、社員が進捗状況を更新する時には、全員がホワイトボードに注目する。
担当している工程が順調なのか遅れているのか、気になるのだ。
進捗が遅れている工程の作業者は、遅れていることを理解すると、遅れを取り戻そうと必死になる。
社員もまた、物量が多い夕方以降は現場で作業を応援をするかたわら、工程別の進捗状況を確認して配置変更を指示する。
こうして業務終了予定時間と終了目標時間に加えて、行程別の進捗状況を見える化することにより、業務終了時間は徐々にではあるが早まっていった。
業務終了予定時間を超過する日は1カ月間で数日だけとなった。
日々の損益の見える化 作業進捗の見える化と同時に進めていたのが、日々の損益の見える化だ。
パートタイマーのシフトは、ほぼ曜日別に固定されており、曜日別の人員数は長年見直しがされていなかった。
作業量に合った勤務シフトになっていないことは容易に想像できた。
そこで、固定化されたシフトが日々の損益にどれだけ影響しているのかを見える化するため、日次損益管理の運用に取り組んだ。
日次損益管理の導入にあたって大切なことは、「可能な限り入力項目を簡素化して、継続できるようにすること」だ。
各項目の算出・入力が煩雑になると集計作業が負担になり、途中で挫折してしまうことが多い。
そこで今回は、人件費以外の費用を、前年の年間実績値を日割り計算して予め損益シートに入れておき、毎日の入力項目は、売上高の予測と実績値、社員とパートタイマーの人件費のみとした。
日次損益管理の運用上のポイントがもう一つある。
「毎日の入力作業はパートタイマーのシフト管理者が行う」ことだ。
同センターではセンター長がシフトを管理しているので、センター長が日次損益管理表を作ることになる。
経営者でも経理担当でもなく、シフト作成者が自分でデータを入力することで、自分が決めたシフトが、利益をもたらしているのか、それとも損失を与えているのか、実感させるためである。
シフトが損益に直結することを実感できれば、「利益を出すためにシフトをどう組むか」頭を捻るようになる。
日次損益管理を実施したことによって、毎週、常に赤字となる曜日が特定された。
基本的に物量が少ない曜日であった。
作業量に対して投入人員が多過ぎるのだ。
曜日別の物量に合わせたシフトの修正が必要だった。
ただし、当初2カ月間はシフトは変更せず、センター長がデータの入力に慣れて、売り上げ(≒物量)の予測精度を高めること、そして日々の損益の傾向を分析することに集中した。
そして3カ月目から順次パートタイマーの雇用契約の更新に合わせて、少しずつシフトを変更していった。
ちなみに、日別損益の売り上げ(≒物量)の予測精度であるが、筆者の経験則では、予測と実績の乖離の月平均が5%以内に収まるようになるまでには、6カ月~9カ月を必要とする。
それだけかけて運用に慣れてきても、予測と実績が10%以上乖離する日が月のうち数回は出る。
予測精度はそう一朝一夕には上がらないものなのである。
また、シフトを変更する際に同時に開始したのが「勝敗表」の導入だ。
日々の損益の結果を確認して、黒字の日は「〇(勝ち)」、赤字の日は「×(負け)」を損益管理表に記入する。
もちろん勝敗の入力もシフト管理者が行う。
導入当初は勝ち・負けの数がほぼ拮抗していた。
これを毎月勝ち越せるようになることを目標にした。
毎月勝ち越せるようになったら次は勝率を上げていくことを目指す。
ゲーム感覚を取り入れることで、日次損益管理に対するモチベーションを高め、継続を促す仕掛けである(図2)。
作業手順の見える化 このセンターには、作業マニュアルや手順書といった類のものが存在しなかった。
作業手順は口頭で伝えられるだけで、教わった作業者はメモや記憶を頼りに作業を進める。
そうするうちに人によって作業手順に少しずつ違いが出てきてしまう。
そこで業務改善に着手するにあたり、工程別に標準の作業手順を定義して、それを「手順書」として見える化して標準化を図った。
また、手順書の作成は、生産性管理を担当する現場リーダーの役目とした。
最初に現場リーダー自身が認識している作業手順を工程別に書き起こした。
次に書き起こした手順書と他の作業者の実際の作業手順を比較した。
手順のどこに作業者による違いがあるのか。
違った手順がある場合は、どちらの手順が望ましいのかを考えるのだ。
手順書と比較する作業者として、作業生産性の高い人、平均的な人、低い人の3人を選んだ。
三つのタイプの手順を比較することで、生産性が高い人の手順に生産性を高める工夫があるならば、それを標準的な手順に採用して、全体の生産性を底上げしようという目論見だ。
実際、作業者によって手順はかなり違っていた。
例えばピッキング。
ピッキングの際には棚から取り出した商品と、ピッキング指示書に記載されたJANコードの下5桁を参照することで、正しくピッキングができているかを確認するルールになっている。
その際に生産性が高い作業者は、ピッキングリストでロケーションを確認し、商品を取り出す前──すなわちピッキングリストから目を離す前、ケースピッキングであればリストを手放す前──にピッキングリストに記載されたJANコードを記憶してから商品のJANコードを確認する。
ところが生産性の低い作業者は、ピッキングリストでロケーションを確認し、ピッキングリストから目を離してから(ケースピッキングであればピッキングリストを手放してから)商品を取り出し、再びピッキングリストを見て、あるいは手に取ってJANコードを確認して、ピッキングした商品のJANコードと照合していた。
わずかな違いであるが、この他にも細かな手順の違いがいくつも発見された。
それらが積もり積もって作業者間による生産性に影響していることが分かった。
こうして現場リーダーが3タイプの作業者の作業手順を比較して、最も生産性が高まると思われる手順を標準として、工程別の作業手順書を2カ月かけて作成した。
なお、これは手順書には表れない部分ではあるが、生産性が高い作業者は両手を無駄なく使うことが多かった。
片方の手を遊ばせばないように左右の手が別々の仕事をするのである。
例えば先ほどのピッキング作業では、右手でピッキングリストを置きながら、同時に左手で商品を取り出している。
一般の作業者は、まずピッキングリストを置いてから商品を取り出す。
左右の手で別々の仕事をするというのは、できる人とできない人がいるので、これについては標準とはしないものの、生産性を上げるための「ポイント」として手順書に書き留めた。
標準手順書が完成した工程から随時、全作業員に標準手順の説明を行った。
さらに各工程の作業場に作業手順を図示した大型の掲示ボートを設置した。
作業者がいつでも標準手順を確認できるようにしたのである。
⃝3メートルルール 掲示物を使って見える化する際のルールの一つとして「3メートルルール」を設定した。
「掲示物は3メートル以上離れたところからでも見える大きさで掲示する」というルールである。
業務終了予定・目標時間と進捗状況を記したホワイトボードや標準作業手順書の掲示物などに、このルールを適用している。
ルールは3メートル「以上」である。
倉庫のどこからでも見える大きさであるに越したことはない。
例えば、倉庫ロケーション番号の1文字目が通路番号なのであれば、それがピッキング作業のスタート地点から見えるようにする工夫が必要である。
そもそも近づいて見なければ読めないような掲示物など、誰も見ないと思った方が良い。
⃝3秒ルール これも掲示物で見える化する際のルールの一つだ。
「掲示物の文字量は、3秒以内で読み終える内容であること」。
現場に設置されたホワイトボードにA4用紙で「昨日○○の誤出荷がありました。
原因は△△によるものでした。
皆さん気を付けてください」などと書かれた注意書きを見ることがあるが、忙しい作業の合間に、果たしてどれだけの人が読むだろうか。
全員に周知したいのであれば、該当商品のピッキングロケーションの棚に「誤出荷注意!」とだけ大きく書いた紙を貼り付ければよい。
それでピッキング作業者は注意を払う。
誤出荷の原因などは、「誤出荷注意!」の下に小さく書いて、読みたい人が読めるようにするだけで十分だ。
⃝カラーコントロール 「頭上注意!」や「誤出荷注意!」など、作業者に注意を促したい場合は、いわゆる「警告色」と言われる赤系の色か、黒色と黄色の縞模様を使用する。
人間の脳は文字を読まなくても、警告色を目で捉えるだけで、注意を促されていることを認識する。
一方、通常の掲示物には無色の用紙に赤系以外の文字を使用する。
さらに、納品先の店舗別に色を変えるという工夫をした。
同センターでは店舗別の積込みレーンを設けて、出荷後の商品を搭載したカーゴテナーを並べている。
まれに庫内作業員が違う店舗のレーンにカーゴテナーを並べてしまい、ドライバーも間違いに気付かずそのまま荷台に積み込んでしまうことがあった。
積込みレーンは、店舗ごとに床にペンキで枠を描いて仕切り、枠の中に店舗番号と店舗名を書いている。
その店舗番号と店舗名を、店舗別に異なる色に塗り替えた。
カーゴテナーに張り付ける店舗番号と店舗名を記載した用紙も、店舗ごとに決めた色に合わせることで、店舗レーンに搬送する作業の効率化と間違いの防止を図った。
⃝赤札作戦 食品を対象に、賞味期限まで1カ月以内となった商品に赤い用紙を貼り付ける「赤札作戦」を実施した。
年に数回、センター内で食品の賞味期限切れが発生することがあった。
賞味期限切れの商品をそのまま出荷してしまうことがないよう、賞味期限まで1カ月以内の商品に「赤札」を貼って注意喚起したのだ。
これはセンターに時々訪れる荷主の食品部門の関係者や役員に「日付が古い商品がこんなにあるので特売などで処分してください!」と無言で訴えるためでもあった。
案の定、赤札は荷主の役員の目にとまったようで、2カ月後に訪問した時には、赤札の数が10分の1以下になっていた。
作戦成功である。
⃝3歩ルール 「定時に帰ろう」のスローガンを実現するためには、夕方に入庫して当日中に出荷しなければならないTC商品の検品・梱包工程の処理を早めることが最大の課題であった。
前述の作業手順を見直し標準化を図りながら、同時に検品・梱包作業に使用する備品や消耗品置き場の見える化を図った。
具体的には作業机に配置されているカッターナイフ、ガムテープ、セロハンテープなどの備品・消耗品や、店舗ラベル、作業指示書などを、作業者から最も近くなるように配置した。
それぞれの配置場所には備品・消耗品を撮影・印刷した用紙を貼り付けて場所を固定した。
机の上には置けない段ボールや緩衝材などの置き場には「3歩ルール」を適用した。
「検品・梱包作業者は、立ち位置から3歩以内で必要な備品・消耗品を全て取り出すことができること」というルールである。
作業机や作業者の立ち位置から3歩以内の範囲を赤のビニールテープで囲い、その枠内に全ての備品・消耗品が置かれているか、一目で分かるようにした。
一連の改善で生産性は30%以上アップ これらの一連の見える化手法の他に、センターレイアウトの変更や商品ロケーション変更などのオーソドックスな改善や、特売商品の入庫日を通常より3日前倒しすることで特売の仕分けを出荷量の少ない日に作業したりと、種々の改善を進めた。
その結果、「定時に帰ろう」のスローガンを、ほぼ達成した。
連休前などは残業が発生するものの、通常日は定時前に業務が終了している。
センター全体の生産性は30%以上向上した。
それによって月々の収支は全ての月で黒字となった。
実を言うと、筆者がコンサルティングに入った時点では、センターの収支はトントンの状態であった。
そのためコンサルティング費用分だけ赤字になった。
それが現在はコンサルティング費用も全て回収した上で安定して利益を出している。
この結果に筆者も胸を撫で下ろしているところである。
倉庫面積は約1千坪。
納品には車両約20台を投入している。
もともとA社は荷主のB社から輸送業務を受託していた。
その縁で従来はB社が自社運営していたセンターを外部委託に切り替えたいとの打診を受けた。
A社に小売りの専用センターを運営した経験はなかったが、A社はこれを事業領域を拡大するチャンスと要請に応じた。
B社から既存センターの建物をそのまま借り受け、荷主の社員であった物流センター長と社員1人、パートタイマー数名をA社に移籍する形でセンター要員として受け入れた。
同時にA社のドライバー2人を、センター運営のスキルを獲得するため、センター要員に配置転換した。
業務受託の契約料金は、センターの通過金額に一定の比率(パーセンテージ)を乗じて算出する従価料金方式だ。
荷主が過去のセンター運営コストを開示して、そこに販管費を上乗せして算出した金額を元に比率を決定した。
B社の自社運営時代と同じコストで運営すれば、収支が“トントン”になる設定だ。
従来から同センターに出入りしていたA社の見立てでは、これまで同センターでは改善活動がほとんど行われていなかった様子であり、従ってコストダウンの余地は十分にある。
改善すればそれがA社の利益になる──という算段だった。
同センターは365日稼働で食品や日用雑貨などの常温商品を取り扱っている。
1日当たりの平均出荷量はDCとTCを合わせて約5000行。
約2000SKUを保管するDC(Distribution Center)機能と、通過型のTC(Transfer Center)機能を併用している。
毎日、店舗からの注文を正午に締めて、在庫品は当日午後と翌日早朝に店舗に納品する。
TC品は店別に仕分けされた状態で当日夕方に卸から届く。
それをセンターで荷受け検品して翌日早朝に店舗に納品する。
このセンターの改善を筆者がサポートすることになったのは、A社が業務を受託して1年後のことだった。
それまでの当初1年間は、荷主の自社運営時代よりもトラブルが増えたり、「業務委託したら品質が下がった」などと言われないように、従来の運営方法をそのまま踏襲した。
その結果、荷主からの評価は得られたものの、一方で受託前から現場で常態化していた残業が一向に減らない。
極端に物量が少ない日曜日と閑散期以外は、朝8時の始業に対して毎日20時~21時にならないと業務が終了しない状態であった。
17時以降は残業になるので、毎日3時間~4時間の残業が発生していた。
現場の社員たちは「残業手当がなくなってもいい。
定時に帰りたい」と残業が続くことをひどく嫌がっていた。
今回の業務改善のテーマは、経営の視点では、センター業務のコスト削減による採算向上であった。
しかし、それでは現場には響きにくい。
現場が改善に対するモチベーションを高く保てるように、また、現場が改善の結果を分かりやすく実感できるようにするために、「定時に帰ろう」を改善のスローガンに据えた。
改善活動が始まった。
筆者が月に1回、現場を訪問して、センター運営に関する2時間の講義を行い、さらに社員4人にそれぞれ1人1時間の個人指導を行う。
社員4人にはそれぞれの役割に沿った課題を出す。
センター長の課題は、センター収支とパートタイマーのシフト管理。
現場リーダーは生産性向上。
ドライバーから配置展開した残る二人には品質管理と「3S(整理・整頓・清掃)」を担当してもらうことにした。
課題に対して筆者からは考え方だけを提示する。
自分で考えることによってスキルを身に付けてもらうためだ。
なお、システムやマテハン設備などへの大きな投資は避けることにした。
物品の購入も、購入した当月中に投資金額以上の効果が見込めるものに限定した。
改善によって利益が捻出できたらその時には、それを原資として効率化に投資しよう、という方針である。
当日の作業進捗の見える化 まずは現状を調査した。
DC品の入庫・ピッキング・検品、TC品の入庫・検品といった工程別のタイムスケジュールと、1時間ごとのパートタイマーの投入人員数を曜日別に作成して見える化した。
同センターの基本的な業務の流れは、午前中にDC品の入庫、午後からDC品のピッキングと検品、夕方になってTC品の入庫と検品となっている。
夕方以降のTC品の入庫、検品の時間帯が最も作業量が多い。
しかし、パートタイマーの就業時間は一律で9時から17時。
最も作業量の多い時間帯には社員4人と、残業ができる一部のパートタイマーしか残っていない。
一方で午前中は人員が過剰という、いびつな配置になっていた。
作業量に合わせてパートタイマーの勤務時間を変更する必要があるとの結論になり、パートタイマーのそれぞれの契約更新のタイミングで勤務時間を変更して、夕方の要員を多く確保することにした。
次に着手したのが、業務終了予定時間の見える化だ。
これはセンター長が担当した。
受注が確定した時点で当日の業務終了予定時間を算出する。
工程別に「受注量÷人時生産性÷人時」で所要作業時間を求め、「作業開始時間+所要作業時間」で作業終了予定時間を算出した。
全工程の作業終了予定時間が業務終了予定時間である。
そして倉庫内の作業指示書を置く場所に大型のホワイトボードを設置して、その上半分を使って「本日の業務終了予定時間:○○時○○分」と青のマーカーで書き込んだ。
ホワイトボードの下半分には、生産性を5%高めた場合の業務終了予定時間を「業務終了目標時間:○○時○○分」と今度は赤のマーカーで書き込むようにした。
作業者が作業指示書を取りに来る時はもちろん、遠くからでも掲示が見えるようにした(図1)。
結果は上々だった。
「がんばってこの時間までに終わる」という具体的な目標が自然と目に入るようにしたことで、パートタイマーを含めた全員が奮起した。
1カ月が経過した頃には、週に2日〜3日は目標時間をクリアできるようになっていた。
同センターは少人数の職場ということもあってか、現場の連帯感が非常に強いことも大きく影響したと思う。
一方、業務終了予定時間は、その算定を始めた当初は必ずかなりの誤差が出るものだ。
予定時間を算出するための人時生産性は平均値に過ぎず、実際の日々の人時生産性は上下するからだ。
ズレを少なくするには、例えば曜日別の生産性を算出して計算に適用する、直近数日間(例えば14日間)の平均の生産性を更新しながら適用する、などの方法を用いる。
もちろん、作業改善によって人時生産性の変動自体を少なくしていくことも重要である。
業務終了予定時間の見える化の運用を始めて次の訪問日となる1カ月後、作業指示書置き場に、もう一つホワイトボードを追加した。
新しいホワイトボードには、終了予定と終了目標時間を行程別に細分化して記載して、さらに工程別の作業の進捗状況を「○○%」と表示した。
進捗は社員の手計算だ。
1時間ごとに更新してその都度ホワイトボードに書き込む。
効果は想定した以上だった。
パートタイマーも含めて作業者は進捗状況をチラチラ見ながら作業を進めるようになった。
特に1時間に1回、社員が進捗状況を更新する時には、全員がホワイトボードに注目する。
担当している工程が順調なのか遅れているのか、気になるのだ。
進捗が遅れている工程の作業者は、遅れていることを理解すると、遅れを取り戻そうと必死になる。
社員もまた、物量が多い夕方以降は現場で作業を応援をするかたわら、工程別の進捗状況を確認して配置変更を指示する。
こうして業務終了予定時間と終了目標時間に加えて、行程別の進捗状況を見える化することにより、業務終了時間は徐々にではあるが早まっていった。
業務終了予定時間を超過する日は1カ月間で数日だけとなった。
日々の損益の見える化 作業進捗の見える化と同時に進めていたのが、日々の損益の見える化だ。
パートタイマーのシフトは、ほぼ曜日別に固定されており、曜日別の人員数は長年見直しがされていなかった。
作業量に合った勤務シフトになっていないことは容易に想像できた。
そこで、固定化されたシフトが日々の損益にどれだけ影響しているのかを見える化するため、日次損益管理の運用に取り組んだ。
日次損益管理の導入にあたって大切なことは、「可能な限り入力項目を簡素化して、継続できるようにすること」だ。
各項目の算出・入力が煩雑になると集計作業が負担になり、途中で挫折してしまうことが多い。
そこで今回は、人件費以外の費用を、前年の年間実績値を日割り計算して予め損益シートに入れておき、毎日の入力項目は、売上高の予測と実績値、社員とパートタイマーの人件費のみとした。
日次損益管理の運用上のポイントがもう一つある。
「毎日の入力作業はパートタイマーのシフト管理者が行う」ことだ。
同センターではセンター長がシフトを管理しているので、センター長が日次損益管理表を作ることになる。
経営者でも経理担当でもなく、シフト作成者が自分でデータを入力することで、自分が決めたシフトが、利益をもたらしているのか、それとも損失を与えているのか、実感させるためである。
シフトが損益に直結することを実感できれば、「利益を出すためにシフトをどう組むか」頭を捻るようになる。
日次損益管理を実施したことによって、毎週、常に赤字となる曜日が特定された。
基本的に物量が少ない曜日であった。
作業量に対して投入人員が多過ぎるのだ。
曜日別の物量に合わせたシフトの修正が必要だった。
ただし、当初2カ月間はシフトは変更せず、センター長がデータの入力に慣れて、売り上げ(≒物量)の予測精度を高めること、そして日々の損益の傾向を分析することに集中した。
そして3カ月目から順次パートタイマーの雇用契約の更新に合わせて、少しずつシフトを変更していった。
ちなみに、日別損益の売り上げ(≒物量)の予測精度であるが、筆者の経験則では、予測と実績の乖離の月平均が5%以内に収まるようになるまでには、6カ月~9カ月を必要とする。
それだけかけて運用に慣れてきても、予測と実績が10%以上乖離する日が月のうち数回は出る。
予測精度はそう一朝一夕には上がらないものなのである。
また、シフトを変更する際に同時に開始したのが「勝敗表」の導入だ。
日々の損益の結果を確認して、黒字の日は「〇(勝ち)」、赤字の日は「×(負け)」を損益管理表に記入する。
もちろん勝敗の入力もシフト管理者が行う。
導入当初は勝ち・負けの数がほぼ拮抗していた。
これを毎月勝ち越せるようになることを目標にした。
毎月勝ち越せるようになったら次は勝率を上げていくことを目指す。
ゲーム感覚を取り入れることで、日次損益管理に対するモチベーションを高め、継続を促す仕掛けである(図2)。
作業手順の見える化 このセンターには、作業マニュアルや手順書といった類のものが存在しなかった。
作業手順は口頭で伝えられるだけで、教わった作業者はメモや記憶を頼りに作業を進める。
そうするうちに人によって作業手順に少しずつ違いが出てきてしまう。
そこで業務改善に着手するにあたり、工程別に標準の作業手順を定義して、それを「手順書」として見える化して標準化を図った。
また、手順書の作成は、生産性管理を担当する現場リーダーの役目とした。
最初に現場リーダー自身が認識している作業手順を工程別に書き起こした。
次に書き起こした手順書と他の作業者の実際の作業手順を比較した。
手順のどこに作業者による違いがあるのか。
違った手順がある場合は、どちらの手順が望ましいのかを考えるのだ。
手順書と比較する作業者として、作業生産性の高い人、平均的な人、低い人の3人を選んだ。
三つのタイプの手順を比較することで、生産性が高い人の手順に生産性を高める工夫があるならば、それを標準的な手順に採用して、全体の生産性を底上げしようという目論見だ。
実際、作業者によって手順はかなり違っていた。
例えばピッキング。
ピッキングの際には棚から取り出した商品と、ピッキング指示書に記載されたJANコードの下5桁を参照することで、正しくピッキングができているかを確認するルールになっている。
その際に生産性が高い作業者は、ピッキングリストでロケーションを確認し、商品を取り出す前──すなわちピッキングリストから目を離す前、ケースピッキングであればリストを手放す前──にピッキングリストに記載されたJANコードを記憶してから商品のJANコードを確認する。
ところが生産性の低い作業者は、ピッキングリストでロケーションを確認し、ピッキングリストから目を離してから(ケースピッキングであればピッキングリストを手放してから)商品を取り出し、再びピッキングリストを見て、あるいは手に取ってJANコードを確認して、ピッキングした商品のJANコードと照合していた。
わずかな違いであるが、この他にも細かな手順の違いがいくつも発見された。
それらが積もり積もって作業者間による生産性に影響していることが分かった。
こうして現場リーダーが3タイプの作業者の作業手順を比較して、最も生産性が高まると思われる手順を標準として、工程別の作業手順書を2カ月かけて作成した。
なお、これは手順書には表れない部分ではあるが、生産性が高い作業者は両手を無駄なく使うことが多かった。
片方の手を遊ばせばないように左右の手が別々の仕事をするのである。
例えば先ほどのピッキング作業では、右手でピッキングリストを置きながら、同時に左手で商品を取り出している。
一般の作業者は、まずピッキングリストを置いてから商品を取り出す。
左右の手で別々の仕事をするというのは、できる人とできない人がいるので、これについては標準とはしないものの、生産性を上げるための「ポイント」として手順書に書き留めた。
標準手順書が完成した工程から随時、全作業員に標準手順の説明を行った。
さらに各工程の作業場に作業手順を図示した大型の掲示ボートを設置した。
作業者がいつでも標準手順を確認できるようにしたのである。
⃝3メートルルール 掲示物を使って見える化する際のルールの一つとして「3メートルルール」を設定した。
「掲示物は3メートル以上離れたところからでも見える大きさで掲示する」というルールである。
業務終了予定・目標時間と進捗状況を記したホワイトボードや標準作業手順書の掲示物などに、このルールを適用している。
ルールは3メートル「以上」である。
倉庫のどこからでも見える大きさであるに越したことはない。
例えば、倉庫ロケーション番号の1文字目が通路番号なのであれば、それがピッキング作業のスタート地点から見えるようにする工夫が必要である。
そもそも近づいて見なければ読めないような掲示物など、誰も見ないと思った方が良い。
⃝3秒ルール これも掲示物で見える化する際のルールの一つだ。
「掲示物の文字量は、3秒以内で読み終える内容であること」。
現場に設置されたホワイトボードにA4用紙で「昨日○○の誤出荷がありました。
原因は△△によるものでした。
皆さん気を付けてください」などと書かれた注意書きを見ることがあるが、忙しい作業の合間に、果たしてどれだけの人が読むだろうか。
全員に周知したいのであれば、該当商品のピッキングロケーションの棚に「誤出荷注意!」とだけ大きく書いた紙を貼り付ければよい。
それでピッキング作業者は注意を払う。
誤出荷の原因などは、「誤出荷注意!」の下に小さく書いて、読みたい人が読めるようにするだけで十分だ。
⃝カラーコントロール 「頭上注意!」や「誤出荷注意!」など、作業者に注意を促したい場合は、いわゆる「警告色」と言われる赤系の色か、黒色と黄色の縞模様を使用する。
人間の脳は文字を読まなくても、警告色を目で捉えるだけで、注意を促されていることを認識する。
一方、通常の掲示物には無色の用紙に赤系以外の文字を使用する。
さらに、納品先の店舗別に色を変えるという工夫をした。
同センターでは店舗別の積込みレーンを設けて、出荷後の商品を搭載したカーゴテナーを並べている。
まれに庫内作業員が違う店舗のレーンにカーゴテナーを並べてしまい、ドライバーも間違いに気付かずそのまま荷台に積み込んでしまうことがあった。
積込みレーンは、店舗ごとに床にペンキで枠を描いて仕切り、枠の中に店舗番号と店舗名を書いている。
その店舗番号と店舗名を、店舗別に異なる色に塗り替えた。
カーゴテナーに張り付ける店舗番号と店舗名を記載した用紙も、店舗ごとに決めた色に合わせることで、店舗レーンに搬送する作業の効率化と間違いの防止を図った。
⃝赤札作戦 食品を対象に、賞味期限まで1カ月以内となった商品に赤い用紙を貼り付ける「赤札作戦」を実施した。
年に数回、センター内で食品の賞味期限切れが発生することがあった。
賞味期限切れの商品をそのまま出荷してしまうことがないよう、賞味期限まで1カ月以内の商品に「赤札」を貼って注意喚起したのだ。
これはセンターに時々訪れる荷主の食品部門の関係者や役員に「日付が古い商品がこんなにあるので特売などで処分してください!」と無言で訴えるためでもあった。
案の定、赤札は荷主の役員の目にとまったようで、2カ月後に訪問した時には、赤札の数が10分の1以下になっていた。
作戦成功である。
⃝3歩ルール 「定時に帰ろう」のスローガンを実現するためには、夕方に入庫して当日中に出荷しなければならないTC商品の検品・梱包工程の処理を早めることが最大の課題であった。
前述の作業手順を見直し標準化を図りながら、同時に検品・梱包作業に使用する備品や消耗品置き場の見える化を図った。
具体的には作業机に配置されているカッターナイフ、ガムテープ、セロハンテープなどの備品・消耗品や、店舗ラベル、作業指示書などを、作業者から最も近くなるように配置した。
それぞれの配置場所には備品・消耗品を撮影・印刷した用紙を貼り付けて場所を固定した。
机の上には置けない段ボールや緩衝材などの置き場には「3歩ルール」を適用した。
「検品・梱包作業者は、立ち位置から3歩以内で必要な備品・消耗品を全て取り出すことができること」というルールである。
作業机や作業者の立ち位置から3歩以内の範囲を赤のビニールテープで囲い、その枠内に全ての備品・消耗品が置かれているか、一目で分かるようにした。
一連の改善で生産性は30%以上アップ これらの一連の見える化手法の他に、センターレイアウトの変更や商品ロケーション変更などのオーソドックスな改善や、特売商品の入庫日を通常より3日前倒しすることで特売の仕分けを出荷量の少ない日に作業したりと、種々の改善を進めた。
その結果、「定時に帰ろう」のスローガンを、ほぼ達成した。
連休前などは残業が発生するものの、通常日は定時前に業務が終了している。
センター全体の生産性は30%以上向上した。
それによって月々の収支は全ての月で黒字となった。
実を言うと、筆者がコンサルティングに入った時点では、センターの収支はトントンの状態であった。
そのためコンサルティング費用分だけ赤字になった。
それが現在はコンサルティング費用も全て回収した上で安定して利益を出している。
この結果に筆者も胸を撫で下ろしているところである。
