2023年7月号
特集
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KURANDO「ロジメーター」――超入門:データを使って現場の効率を上げる
そもそもデータとは何なのか?
本誌読者の皆さんは「データ」という言葉にどのようなイメージを持っているだろうか。
恐らくは、会議のプレゼン資料としてまとめられた各種の統計やグラフなどが思い浮かぶのではないだろうか。
実は、データとはもっと身近なもので、誰もが当たり前のように日常的に使っているものだ。
例えば、ある現場責任者が「明日の作業人員をどうしようか」と、考える場面を想像してほしい。
朝、作業がスタートして現在時刻は午後2時。
既にこれだけの作業が終わっている。
このままトラブルがなければ今日の予定分をすべて終えて少し余裕が出る。
明日は予想作業量から考えて、作業人員は少なめでも大丈夫だろう──現場責任者の思考パターンだ。
すでに消化した作業量、それをこなした作業人員、明日やるべき作業量、今日の作業で気づいた注意点‥‥これらの情報はすべてデータだ。
現場の責任者は、大なり小なりこれらのデータを駆使して判断している。
「現場の勘」という言葉があるが、この「勘」を支えているのは経験値である。
経験値とはすなわち日常的に接するデータ(情報)の集積だ。
コンピュータがなかなか「現場の勘」に勝てないのは、現場の担当者は日々膨大な情報に接しているのに対して、コンピュータに入力されるのは、そのうちごく一部の数値化された情報だけだからだ。
予測を立て、その予測の結果を知ることで、現場の勘はさらに精度が上がる。
そのエビデンスを提示するのはなかなか難しいのだが、例えば、当初は作業員が100人いても一日では終わらなかった作業が、慣れてくると90人でできるようになるなど、誰もが経験しているはずである。
現場の責任者だけではなく、作業員一人一人がデータを蓄積して学習すれば、効率はますます上がる。
特別なツールなどなくても、意志さえあれば、人は自ずと経験から学習し、向上できる。
それは人間の素晴らしい資質だろう。
工場や他業種の現場と比べて物流現場における判断はデータの活用がより重要だ。
というのも、物流はビジネスにおける下流工程に位置するので、市況の急激な変化の影響をもろに受けるからだ。
そのため状況に合わせた柔軟な判断が必要になる。
翌日の人員手配、作業計画はその最たるものだ。
物流は日々の作業量が異なり、事前に処理しておくことは難しく、リードタイムも短いことから、人工(にんく)の計画と手配が、非常に重要なポイントになる。
これまで蓄積してきた曜日別や月末月初の波動、シーズン性、さらに直近の状況などを考慮して、効率的な運用のできる人工を算出することが望ましい。
適正人工の予想ばかりでなく、事前作業で実施できることはあるか、作業員のスキルはどうか、派遣を利用する場合はそのコスト等も検討する。
当日になって急きょ、予想より多くの物量を取り扱うことになった場合でも、その日中に出荷を終える必要がある。
あるいは、当日中に先行して実施するものと、翌日以降に持ち越すものを、仕分けなくてはならない。
作業工程の前後関係も考慮する必要がある。
例えば、入荷が予想より大量で格納が間に合わないと、入荷品が通路をふさいで滞留してしまう。
それでは出荷作業に支障がおきる。
このような場合はまず、その入荷品に「当日出荷分があるかどうか」を見極める。
そして当日出荷分の格納を優先させて、そのほかは作業の邪魔にならないところに一次的に移す、といった判断を下す。
また、ピッキングが終わらないと梱包はできないからといって、「すべての商品をピッキングしたあとに梱包を全員でやればいい」というものではない。
作業場所の広さを考慮に入れて、梱包作業にあたる作業員の数を順次決めていく。
処理量は基本的に投入する作業員の人数で決まるので、ピッキングがすべて終わる前に徐々に梱包の人員を増やしていくなどの対応を行う。
こうした現場運営を効率良く行うには、「どの作業にどれくらい時間がかかるか」「何から作業を完了させると効率が良いのか」を知っておく必要がある。
すべての作業現場に目配りしながら人工を投下して作業を進める順序を的確に組み立てる。
それができないと、トータルの作業完了時間はまったく違ったものになってしまう。
設備の運用においても、その前後の工程がうまく流れずに滞っていると、稼働できない時間が生じる。
例えば、梱包工程に自動梱包機を導入した場合、その処理能力を最大限生かすには、ピッキング済みのオーダーを絶えず準備しておく必要がある。
つまり自動化設備の運用においても、柔軟に動かすことができるマンパワーをどのように使うかが重要だ。
その判断を下す根拠になるものが「データ」なのだ。
経験値と実数字の違い このように物流現場ではさまざまな局面で臨機応変の判断が求められる。
多くの場面で、その判断は「現場の勘」によって支えられている。
それで十分に現場は回っているので問題はない、という考え方もあるだろう。
しかし、筆者はあらためて数字として記録を取り、データを検証してみることを強く推奨する。
「現場の勘」と呼ばれるものの根拠は比較的大まかにとらえた経験値からきている。
そこには誤差が含まれている可能性がある。
日々のルーティンを回すだけであればそれでも問題はないかも知れない。
しかし、状況の変化に対応したり、改善を検討する場合には、間違った判断につながってしまう恐れがある。
例えばここに、ある作業の生産性の高い人と低い人がいる。
両者の作業効率に大きな開きがあることは、誰もが知っている。
しかし、その較差を具体的な数値で答えられるわけではない。
較差が50%なのか、80%なのか、それとも200%なのかによって、対策はずいぶんと変わってくる。
あるいは、特別に能力の高い人がいたり、例外的に能力の低い人がいたりするのか、それとも集団として見た時に生産性の高いグループと低いグループがあるのか、といったことでも判断は変わる。
あてずっぽうの対策では不足があったり過剰であったりムダが生じる。
ある大手通販会社の物流センターを調査した事例を紹介しよう。
その現場では常時50人ほどの作業員が大手アパレルのEC出荷を行っている。
昨今の人手不足対策として自動化設備の導入を検討しており、その投資効果を算定するため現状の作業パフォーマンスを測定した。
生産性の低いスタッフが担当している作業を先に自動化しようという考えもあり、工程全体だけでなく個人別の生産性データも取った。
具体的には各スタッフが一定時間内にピッキングする数量を測定した。
同センターの管理責任者たちの事前の予想では、「有能なベテラン作業者の生産性は平均より3割ほど高く、当日派遣などスポット参加のスタッフは平均を2割ほど下回る程度ではないか」というものだった。
つまり、作業員のピッキングの能力差は50%程度という認識だった。
ところが、実際に測定してみると、上位者は平均よりも8割も多くピッキングしていた。
一方、「スポット参加」は平均よりも5割少ない数量しか消化していなかった。
結果として作業能力の差は3倍にも及んでいた。
この明らかな差分は、自動化設備の導入を待たず、すぐに改善できる可能性があった。
そこで調査結果のデータを基に、作業のどこで差が出るのかを調べたところ、ある商品群をラックから取り出すときに、ちょっとした工夫をするかしないかで作業時間が大きく変わることがわかった。
このセンターではまず、その工夫を作業員全員で共有することで全体の生産性を底上げした。
その上で自動化設備を導入し、狙った通りの効果を上げることに成功した。
着実に効果を出すために さて、ここまでデータを活用することが物流の効率改善につながることについて述べきたが、データを活用するにはまず、データを取得する仕組みを整えることが不可欠である。
以下にその代表的なツールとして、①表計算ソフト、②物流専用のクラウドシステム、③設置型の詳細分析ツールの三つについて、それぞれの特性を説明する。
①表計算ソフト マイクロソフトの「エクセル」をはじめとする表計算ソフトは、説明するまでもないほどポピュラーなツールだ。
安価かつ準備も不要、パソコンを購入した時点でインストールされていることがほとんどなので、ともかく手っ取り早く使える。
かなり高度な数式を組むこともできるし、最近は共同編集機能を使って、複数のパソコンでファイルを共有して、同時に更新することもできるようになっている。
分析機能には何の問題もない。
ただし、担当者が従来から表計算ソフトの扱いに慣れていればいいが、そうでない場合、時間と費用をかけて担当者にソフトの使い方を習得させるというのは現実的ではないだろう。
また、データは紙ベースの情報を集めて手入力することになるため、その手間や入力ミスが課題になる。
一時的な利用ならともかく、継続的に運用するとなると現場の負担はかなり重くなる。
データの収集と入力作業でエネルギーを使い果たしてしまいその先に進めない、という状況に往々にして陥る。
管理部門が「やる」と宣言したのでデータは取っているが、現場では「なんの目的で利用するかわからないまま、エクセルにデータを入力し続けていた」という笑えない話も耳にする。
データの取得に手間がかかり、その割には活用されていない、となれば「本当に役に立つのか」との苦情が出る。
私見ながら、エクセルベースの運用が上手くいかなかったことが、データ活用そのものへの信頼度を落とした大きな要因の一つになったと考えている。
②物流専用のクラウドシステム 手前味噌で恐縮だが、われわれKURANDOの「ロジメーター」をはじめ、物流専用のクラウド管理ツールを利用するのは有効な方法だ。
費用面でのハードルは高くない。
使用する現場の規模にもよるが、月額1万円程度から利用できる。
物流現場でデータを取得して、その生産性や収支管理を把握することに目的を絞ったソフトなので、汎用ツールと比べて導入・運用もスムーズだ。
データの取得は、タブレット端末などでその場でタッチ入力。
「手書きの紙→入力」のような転記の手間がない。
データは管理項目にあわせて自動的に集計される。
必要なレポートがすぐに専用のページに表示される。
パソコンからもスマートフォンからも見ることができる。
仕組みがシンプルで結果の表示も簡単なので、運用担当者が異動しても引継ぎが容易で、問題なく活用を続けられる。
③設置型の詳細分析ツール より精度の高いデータを簡易に取得するツールも提供されている。
作業現場の天井に設置した「ロケーター(リーダー)」が、作業者や物品に取りつけられたタグを読み取り、庫内の動きを詳細に把握する。
従来はデータの取得が難しかった作業者の歩行導線や滞留を画面上で再生したり、データの強弱を「ヒートマップ」に視覚化したりできる。
これまで知りえなかった情報にたどりつく可能性がある。
費用としては特定の工程に絞って導入する場合でも数百万円規模のイニシャルコストがかかる。
それでも以前と比べてかなり安くなり、十分に導入を検討できるレベルになっている。
人的投下が多く、かつ専門性の高い繰り返し業務を詳細に分析するなどの上級者向けツールと言える。
ムリをしない運用のススメ 新たにデータ取得を試みるにあたり、気を付けたい点がある。
せっかくデータを取得するのだから、それを有効活用したいと誰しも思う。
しかし、「この際だから」と先々のことまで想定して最初からリッチな情報を取得しようとすると、管理項目が細かくなり過ぎてしまう。
例えば、同じピッキング作業のデータを取得するにも、伝票1枚当たりに記載されたアイテム数別に仕分ける、ピッキングするアイテムのサイズが異なる場合はそれも仕分ける、梱包作業時のバーコード検品・チラシ同梱・封緘はそれぞれ別々にデータを取る──等々どんどん細かくなっていく。
データを取得する項目が多くなれば、当然ながら、作業員の入力回数はそれだけ増える。
集計結果の分析も複雑になる。
新たな仕組みの導入は現場が運用に慣れるまでがひとつのハードルだ。
ところが、運用を開始して、いきなり高い負荷がかかってしまう。
まずはとりかかりやすい、運用しやすいレベルでスタートすることを意識したほうがいい。
「紙での記録→エクセルへの入力」というパターンのデータ取得であれば、10~20程度の業務項目で実施するのが現実的だろう。
それ以上に多くなると、業務項目を選ぶことさえ大変になり、運用に支障をきたす。
物流専用のクラウドツールを利用する場合は、50~100程度の業務項目を設定することが多い。
ただし、この場合も10~20程度の項目からスタートして、運用に慣れていくのに従って細分化していくのが賢明だ。
物足りなく感じるかもしれないが、10~20程度の項目数でも実際にデータが見え始めると、担当者は色々な使い道を自然と思いつくようになる。
どの工程をより細かく取得していくべきかも見えてくる。
自社に固有の作業を解析したい場合も同様だ。
まずは一般的な粒度でデータ取得を行って、その運営が軌道に乗り作業全体の大枠を押さえた上で、細分化していくという段階を踏んだほうがいい。
物流現場は往々にして作業の特殊性にとらわれる傾向がある。
初期段階で大枠をつかむことで、固有作業と一般的な作業をそれぞれどのように処理しているのか、どの割合で発生しているのかも「見える化」される。
それが自社の現場を俯瞰して見直すきっかけになる。
データを取得する仕組みが整ったら次に重要になるのが、取得したデータを振り返る流れだ。
これは事前に仕組み化しておく。
そうしないと日々の業務に追われて担当者がデータを使わなくなってしまう恐れがある。
当社では、荷主や本社の推進担当などと定期的にデータを共有する報告会を作ることを推奨している。
報告会で気づきや問題点を発見できれば、もちろん素晴らしい。
しかし、決してそれだけがゴールではない。
真新しい提案を毎度のように用意して、常に意義のある話し合いをしなければならない、ということもない。
関係者とデータを一緒に確認するだけでも、十分に実りのある時間になる。
ロジメーターを導入して2年になる、ある営業倉庫では、社員一人一人が自分の担当エリアの目標値と結果を自然に意識しながら仕事するようになったという。
目標値と現状を比較する意識が現場レベルの細かい工夫を生み出している。
その積み上げによる効果は明確で、目標値をクリアした達成感が次への意欲を生む好循環が起きている。
ロジメーターの導入事例 ロジメーターを導入してデータ取得に取り組んだお客さまの成功系事例・失敗系事例を以下に簡単に紹介する。
≪成功系事例≫ 【食品卸A社】50センター以上で運用中/センター規模は20人~200人/導入後1年6カ月 トップの強い意志表示により、本社の改善担当もアサインして積極的に導入に取り組んだ。
取り扱いアイテムや規模などから複数のモデルセンターを選定、それぞれ約半年間の試験運用を行い、効果を確認しながら対象センターを広げていくという手法を取った。
当初は具体的に何のデータを取得すべきか、項目の見立てがつかなかった。
また実際のデータ取得作業は物流パートナーの作業者に実施してもらうことになるため、項目を絞り、記録頻度も抑えてスタートした。
当初は物流パートナーからは導入について後ろ向きな意見も聞かれたという。
センターにおける各業務への投下工数の見える化がスムーズに進み、各種の改善の手立てが見えたところで、あらためて各物流パートナーと取り組みの意義について協議を開始した。
熱心な説明と両者にとってのメリットを提示したことで、対象センター全てに横展開することに成功した。
導入の結果、データに基づいた話し合いを荷主と物流パートナー間で実施できるようになった。
月次の定例ミーティングの内容が向上するとともに、ミーティング用の資料作成など準備の手間も減った。
【物流企業B社】全3拠点で運用中/センター規模は30~80人/導入後2年 多層階施設でフロアごとに生産性管理、予算管理を行っている。
現場の負荷を最小化して、シンプルに各フロアに投入した作業員の人時だけを取得するところからスタートした。
運用に慣れて、見える化のポイントがつかめてくるのに従い、管理のメッシュを細かくしていった。
当初の「どのフロアの業務か」というだけの管理から、「何の作業か」までを捕捉する段階に進み、各作業が予算内で完了できているかを月次で振り返るようにした。
月次ミーティングで各担当が改善ポイントを特定して、次回のミーティングで結果を報告する。
その頻度を次に週次に切り上げた。
現在は現場のチームごとに毎日、予算の振り返りを実施している。
現場の課題にいち早く対応できるようになった。
各チームの達成状況も日次で共有するようになり、他のチームとの切磋琢磨や応援が実現している。
現場が手応えを感じるようになって、より成果が上がるようになり、それがさらにやる気につながる、という良いサイクルが生まれている。
≪失敗系事例≫ 【食品メーカーC社】トライアルを実施したが定着できなかった/センター規模約50人 商品カテゴリー別、取引先別のデータ取得を試みた。
商品カテゴリー×取引先×作業でマスターを作った結果、業務項目数は約400に上った。
タブレット上で項目を選ぶだけでも手間がかかり、取引先ごとに都度切り替えなければならないなど、作業員の負担が想定以上に増えて非難の声が上がった。
業務項目を減らせば改善できる問題であったが、ネガティブな印象を現場に強く与えてしまったため、仕切り直しできなかった。
【アパレルメーカーD社】現場では好評だったが、本社決済が下りず短期利用に終わった/センター規模約150人 改善のポイントを見つけるために物流センター側の判断でデータ取得に着手した。
導入は問題なく進み、利用価値のあるデータが見えるようになった。
現場としてはシーズン波動をはじめとする需要変動の影響を把握するため、継続的に利用したい考えだった。
ところが、本社の審査で継続利用の承認を得られなかった。
データを取得する意味や効果を説明する材料が乏しく、物流現場が期待する見える化の価値を、本社に理解させることができなかった。
早期に本社スタッフ部門を巻き込んだ活動にして、アパレル品の需要変動が物流業務に与えている影響や、データの必要性を経営陣に示すことができていれば、また違った判断があったかも知れない。
データの取得がDXの第一歩 以上、倉庫におけるデータ活用の「超入門」として、データ活用の下準備となる「データ取得」を中心にお伝えした。
これまで物流現場におけるデータ活用は、大手企業の大規模センターなどで限定的に実施されるにとどまっていた。
それが昨今、安価なツールの登場などによって加速度的に広がっている。
しかし、現状では多くの現場はツールを当たり前のように使えるほどのノウハウを備えていない。
様々な業態で「DX」をキーワードにした業務革新が期待されているが、物流の場合はまず基礎的なデータを取得することから始めなければならないのが実態である。
裏を返せばそれがDXへの第一歩なのだ。
実際、取得したデータは現場改善のみならず、「SLA(サービスレベルアグリーメント)」の策定や契約単価の算出にも利用できる。
ロボティクスをはじめとする自動化設備の導入や、管理業務の負担を軽減するシミュレーションシステムなどにも応用できる。
当社に寄せられる相談内容も、ツールの導入だけでなく、取得したデータの効率的な活用方法に関するものが増えてきている。
そのニーズに対応した、安価に利活用してもらえるソリューションの開発を目下進めている。
恐らくは、会議のプレゼン資料としてまとめられた各種の統計やグラフなどが思い浮かぶのではないだろうか。
実は、データとはもっと身近なもので、誰もが当たり前のように日常的に使っているものだ。
例えば、ある現場責任者が「明日の作業人員をどうしようか」と、考える場面を想像してほしい。
朝、作業がスタートして現在時刻は午後2時。
既にこれだけの作業が終わっている。
このままトラブルがなければ今日の予定分をすべて終えて少し余裕が出る。
明日は予想作業量から考えて、作業人員は少なめでも大丈夫だろう──現場責任者の思考パターンだ。
すでに消化した作業量、それをこなした作業人員、明日やるべき作業量、今日の作業で気づいた注意点‥‥これらの情報はすべてデータだ。
現場の責任者は、大なり小なりこれらのデータを駆使して判断している。
「現場の勘」という言葉があるが、この「勘」を支えているのは経験値である。
経験値とはすなわち日常的に接するデータ(情報)の集積だ。
コンピュータがなかなか「現場の勘」に勝てないのは、現場の担当者は日々膨大な情報に接しているのに対して、コンピュータに入力されるのは、そのうちごく一部の数値化された情報だけだからだ。
予測を立て、その予測の結果を知ることで、現場の勘はさらに精度が上がる。
そのエビデンスを提示するのはなかなか難しいのだが、例えば、当初は作業員が100人いても一日では終わらなかった作業が、慣れてくると90人でできるようになるなど、誰もが経験しているはずである。
現場の責任者だけではなく、作業員一人一人がデータを蓄積して学習すれば、効率はますます上がる。
特別なツールなどなくても、意志さえあれば、人は自ずと経験から学習し、向上できる。
それは人間の素晴らしい資質だろう。
工場や他業種の現場と比べて物流現場における判断はデータの活用がより重要だ。
というのも、物流はビジネスにおける下流工程に位置するので、市況の急激な変化の影響をもろに受けるからだ。
そのため状況に合わせた柔軟な判断が必要になる。
翌日の人員手配、作業計画はその最たるものだ。
物流は日々の作業量が異なり、事前に処理しておくことは難しく、リードタイムも短いことから、人工(にんく)の計画と手配が、非常に重要なポイントになる。
これまで蓄積してきた曜日別や月末月初の波動、シーズン性、さらに直近の状況などを考慮して、効率的な運用のできる人工を算出することが望ましい。
適正人工の予想ばかりでなく、事前作業で実施できることはあるか、作業員のスキルはどうか、派遣を利用する場合はそのコスト等も検討する。
当日になって急きょ、予想より多くの物量を取り扱うことになった場合でも、その日中に出荷を終える必要がある。
あるいは、当日中に先行して実施するものと、翌日以降に持ち越すものを、仕分けなくてはならない。
作業工程の前後関係も考慮する必要がある。
例えば、入荷が予想より大量で格納が間に合わないと、入荷品が通路をふさいで滞留してしまう。
それでは出荷作業に支障がおきる。
このような場合はまず、その入荷品に「当日出荷分があるかどうか」を見極める。
そして当日出荷分の格納を優先させて、そのほかは作業の邪魔にならないところに一次的に移す、といった判断を下す。
また、ピッキングが終わらないと梱包はできないからといって、「すべての商品をピッキングしたあとに梱包を全員でやればいい」というものではない。
作業場所の広さを考慮に入れて、梱包作業にあたる作業員の数を順次決めていく。
処理量は基本的に投入する作業員の人数で決まるので、ピッキングがすべて終わる前に徐々に梱包の人員を増やしていくなどの対応を行う。
こうした現場運営を効率良く行うには、「どの作業にどれくらい時間がかかるか」「何から作業を完了させると効率が良いのか」を知っておく必要がある。
すべての作業現場に目配りしながら人工を投下して作業を進める順序を的確に組み立てる。
それができないと、トータルの作業完了時間はまったく違ったものになってしまう。
設備の運用においても、その前後の工程がうまく流れずに滞っていると、稼働できない時間が生じる。
例えば、梱包工程に自動梱包機を導入した場合、その処理能力を最大限生かすには、ピッキング済みのオーダーを絶えず準備しておく必要がある。
つまり自動化設備の運用においても、柔軟に動かすことができるマンパワーをどのように使うかが重要だ。
その判断を下す根拠になるものが「データ」なのだ。
経験値と実数字の違い このように物流現場ではさまざまな局面で臨機応変の判断が求められる。
多くの場面で、その判断は「現場の勘」によって支えられている。
それで十分に現場は回っているので問題はない、という考え方もあるだろう。
しかし、筆者はあらためて数字として記録を取り、データを検証してみることを強く推奨する。
「現場の勘」と呼ばれるものの根拠は比較的大まかにとらえた経験値からきている。
そこには誤差が含まれている可能性がある。
日々のルーティンを回すだけであればそれでも問題はないかも知れない。
しかし、状況の変化に対応したり、改善を検討する場合には、間違った判断につながってしまう恐れがある。
例えばここに、ある作業の生産性の高い人と低い人がいる。
両者の作業効率に大きな開きがあることは、誰もが知っている。
しかし、その較差を具体的な数値で答えられるわけではない。
較差が50%なのか、80%なのか、それとも200%なのかによって、対策はずいぶんと変わってくる。
あるいは、特別に能力の高い人がいたり、例外的に能力の低い人がいたりするのか、それとも集団として見た時に生産性の高いグループと低いグループがあるのか、といったことでも判断は変わる。
あてずっぽうの対策では不足があったり過剰であったりムダが生じる。
ある大手通販会社の物流センターを調査した事例を紹介しよう。
その現場では常時50人ほどの作業員が大手アパレルのEC出荷を行っている。
昨今の人手不足対策として自動化設備の導入を検討しており、その投資効果を算定するため現状の作業パフォーマンスを測定した。
生産性の低いスタッフが担当している作業を先に自動化しようという考えもあり、工程全体だけでなく個人別の生産性データも取った。
具体的には各スタッフが一定時間内にピッキングする数量を測定した。
同センターの管理責任者たちの事前の予想では、「有能なベテラン作業者の生産性は平均より3割ほど高く、当日派遣などスポット参加のスタッフは平均を2割ほど下回る程度ではないか」というものだった。
つまり、作業員のピッキングの能力差は50%程度という認識だった。
ところが、実際に測定してみると、上位者は平均よりも8割も多くピッキングしていた。
一方、「スポット参加」は平均よりも5割少ない数量しか消化していなかった。
結果として作業能力の差は3倍にも及んでいた。
この明らかな差分は、自動化設備の導入を待たず、すぐに改善できる可能性があった。
そこで調査結果のデータを基に、作業のどこで差が出るのかを調べたところ、ある商品群をラックから取り出すときに、ちょっとした工夫をするかしないかで作業時間が大きく変わることがわかった。
このセンターではまず、その工夫を作業員全員で共有することで全体の生産性を底上げした。
その上で自動化設備を導入し、狙った通りの効果を上げることに成功した。
着実に効果を出すために さて、ここまでデータを活用することが物流の効率改善につながることについて述べきたが、データを活用するにはまず、データを取得する仕組みを整えることが不可欠である。
以下にその代表的なツールとして、①表計算ソフト、②物流専用のクラウドシステム、③設置型の詳細分析ツールの三つについて、それぞれの特性を説明する。
①表計算ソフト マイクロソフトの「エクセル」をはじめとする表計算ソフトは、説明するまでもないほどポピュラーなツールだ。
安価かつ準備も不要、パソコンを購入した時点でインストールされていることがほとんどなので、ともかく手っ取り早く使える。
かなり高度な数式を組むこともできるし、最近は共同編集機能を使って、複数のパソコンでファイルを共有して、同時に更新することもできるようになっている。
分析機能には何の問題もない。
ただし、担当者が従来から表計算ソフトの扱いに慣れていればいいが、そうでない場合、時間と費用をかけて担当者にソフトの使い方を習得させるというのは現実的ではないだろう。
また、データは紙ベースの情報を集めて手入力することになるため、その手間や入力ミスが課題になる。
一時的な利用ならともかく、継続的に運用するとなると現場の負担はかなり重くなる。
データの収集と入力作業でエネルギーを使い果たしてしまいその先に進めない、という状況に往々にして陥る。
管理部門が「やる」と宣言したのでデータは取っているが、現場では「なんの目的で利用するかわからないまま、エクセルにデータを入力し続けていた」という笑えない話も耳にする。
データの取得に手間がかかり、その割には活用されていない、となれば「本当に役に立つのか」との苦情が出る。
私見ながら、エクセルベースの運用が上手くいかなかったことが、データ活用そのものへの信頼度を落とした大きな要因の一つになったと考えている。
②物流専用のクラウドシステム 手前味噌で恐縮だが、われわれKURANDOの「ロジメーター」をはじめ、物流専用のクラウド管理ツールを利用するのは有効な方法だ。
費用面でのハードルは高くない。
使用する現場の規模にもよるが、月額1万円程度から利用できる。
物流現場でデータを取得して、その生産性や収支管理を把握することに目的を絞ったソフトなので、汎用ツールと比べて導入・運用もスムーズだ。
データの取得は、タブレット端末などでその場でタッチ入力。
「手書きの紙→入力」のような転記の手間がない。
データは管理項目にあわせて自動的に集計される。
必要なレポートがすぐに専用のページに表示される。
パソコンからもスマートフォンからも見ることができる。
仕組みがシンプルで結果の表示も簡単なので、運用担当者が異動しても引継ぎが容易で、問題なく活用を続けられる。
③設置型の詳細分析ツール より精度の高いデータを簡易に取得するツールも提供されている。
作業現場の天井に設置した「ロケーター(リーダー)」が、作業者や物品に取りつけられたタグを読み取り、庫内の動きを詳細に把握する。
従来はデータの取得が難しかった作業者の歩行導線や滞留を画面上で再生したり、データの強弱を「ヒートマップ」に視覚化したりできる。
これまで知りえなかった情報にたどりつく可能性がある。
費用としては特定の工程に絞って導入する場合でも数百万円規模のイニシャルコストがかかる。
それでも以前と比べてかなり安くなり、十分に導入を検討できるレベルになっている。
人的投下が多く、かつ専門性の高い繰り返し業務を詳細に分析するなどの上級者向けツールと言える。
ムリをしない運用のススメ 新たにデータ取得を試みるにあたり、気を付けたい点がある。
せっかくデータを取得するのだから、それを有効活用したいと誰しも思う。
しかし、「この際だから」と先々のことまで想定して最初からリッチな情報を取得しようとすると、管理項目が細かくなり過ぎてしまう。
例えば、同じピッキング作業のデータを取得するにも、伝票1枚当たりに記載されたアイテム数別に仕分ける、ピッキングするアイテムのサイズが異なる場合はそれも仕分ける、梱包作業時のバーコード検品・チラシ同梱・封緘はそれぞれ別々にデータを取る──等々どんどん細かくなっていく。
データを取得する項目が多くなれば、当然ながら、作業員の入力回数はそれだけ増える。
集計結果の分析も複雑になる。
新たな仕組みの導入は現場が運用に慣れるまでがひとつのハードルだ。
ところが、運用を開始して、いきなり高い負荷がかかってしまう。
まずはとりかかりやすい、運用しやすいレベルでスタートすることを意識したほうがいい。
「紙での記録→エクセルへの入力」というパターンのデータ取得であれば、10~20程度の業務項目で実施するのが現実的だろう。
それ以上に多くなると、業務項目を選ぶことさえ大変になり、運用に支障をきたす。
物流専用のクラウドツールを利用する場合は、50~100程度の業務項目を設定することが多い。
ただし、この場合も10~20程度の項目からスタートして、運用に慣れていくのに従って細分化していくのが賢明だ。
物足りなく感じるかもしれないが、10~20程度の項目数でも実際にデータが見え始めると、担当者は色々な使い道を自然と思いつくようになる。
どの工程をより細かく取得していくべきかも見えてくる。
自社に固有の作業を解析したい場合も同様だ。
まずは一般的な粒度でデータ取得を行って、その運営が軌道に乗り作業全体の大枠を押さえた上で、細分化していくという段階を踏んだほうがいい。
物流現場は往々にして作業の特殊性にとらわれる傾向がある。
初期段階で大枠をつかむことで、固有作業と一般的な作業をそれぞれどのように処理しているのか、どの割合で発生しているのかも「見える化」される。
それが自社の現場を俯瞰して見直すきっかけになる。
データを取得する仕組みが整ったら次に重要になるのが、取得したデータを振り返る流れだ。
これは事前に仕組み化しておく。
そうしないと日々の業務に追われて担当者がデータを使わなくなってしまう恐れがある。
当社では、荷主や本社の推進担当などと定期的にデータを共有する報告会を作ることを推奨している。
報告会で気づきや問題点を発見できれば、もちろん素晴らしい。
しかし、決してそれだけがゴールではない。
真新しい提案を毎度のように用意して、常に意義のある話し合いをしなければならない、ということもない。
関係者とデータを一緒に確認するだけでも、十分に実りのある時間になる。
ロジメーターを導入して2年になる、ある営業倉庫では、社員一人一人が自分の担当エリアの目標値と結果を自然に意識しながら仕事するようになったという。
目標値と現状を比較する意識が現場レベルの細かい工夫を生み出している。
その積み上げによる効果は明確で、目標値をクリアした達成感が次への意欲を生む好循環が起きている。
ロジメーターの導入事例 ロジメーターを導入してデータ取得に取り組んだお客さまの成功系事例・失敗系事例を以下に簡単に紹介する。
≪成功系事例≫ 【食品卸A社】50センター以上で運用中/センター規模は20人~200人/導入後1年6カ月 トップの強い意志表示により、本社の改善担当もアサインして積極的に導入に取り組んだ。
取り扱いアイテムや規模などから複数のモデルセンターを選定、それぞれ約半年間の試験運用を行い、効果を確認しながら対象センターを広げていくという手法を取った。
当初は具体的に何のデータを取得すべきか、項目の見立てがつかなかった。
また実際のデータ取得作業は物流パートナーの作業者に実施してもらうことになるため、項目を絞り、記録頻度も抑えてスタートした。
当初は物流パートナーからは導入について後ろ向きな意見も聞かれたという。
センターにおける各業務への投下工数の見える化がスムーズに進み、各種の改善の手立てが見えたところで、あらためて各物流パートナーと取り組みの意義について協議を開始した。
熱心な説明と両者にとってのメリットを提示したことで、対象センター全てに横展開することに成功した。
導入の結果、データに基づいた話し合いを荷主と物流パートナー間で実施できるようになった。
月次の定例ミーティングの内容が向上するとともに、ミーティング用の資料作成など準備の手間も減った。
【物流企業B社】全3拠点で運用中/センター規模は30~80人/導入後2年 多層階施設でフロアごとに生産性管理、予算管理を行っている。
現場の負荷を最小化して、シンプルに各フロアに投入した作業員の人時だけを取得するところからスタートした。
運用に慣れて、見える化のポイントがつかめてくるのに従い、管理のメッシュを細かくしていった。
当初の「どのフロアの業務か」というだけの管理から、「何の作業か」までを捕捉する段階に進み、各作業が予算内で完了できているかを月次で振り返るようにした。
月次ミーティングで各担当が改善ポイントを特定して、次回のミーティングで結果を報告する。
その頻度を次に週次に切り上げた。
現在は現場のチームごとに毎日、予算の振り返りを実施している。
現場の課題にいち早く対応できるようになった。
各チームの達成状況も日次で共有するようになり、他のチームとの切磋琢磨や応援が実現している。
現場が手応えを感じるようになって、より成果が上がるようになり、それがさらにやる気につながる、という良いサイクルが生まれている。
≪失敗系事例≫ 【食品メーカーC社】トライアルを実施したが定着できなかった/センター規模約50人 商品カテゴリー別、取引先別のデータ取得を試みた。
商品カテゴリー×取引先×作業でマスターを作った結果、業務項目数は約400に上った。
タブレット上で項目を選ぶだけでも手間がかかり、取引先ごとに都度切り替えなければならないなど、作業員の負担が想定以上に増えて非難の声が上がった。
業務項目を減らせば改善できる問題であったが、ネガティブな印象を現場に強く与えてしまったため、仕切り直しできなかった。
【アパレルメーカーD社】現場では好評だったが、本社決済が下りず短期利用に終わった/センター規模約150人 改善のポイントを見つけるために物流センター側の判断でデータ取得に着手した。
導入は問題なく進み、利用価値のあるデータが見えるようになった。
現場としてはシーズン波動をはじめとする需要変動の影響を把握するため、継続的に利用したい考えだった。
ところが、本社の審査で継続利用の承認を得られなかった。
データを取得する意味や効果を説明する材料が乏しく、物流現場が期待する見える化の価値を、本社に理解させることができなかった。
早期に本社スタッフ部門を巻き込んだ活動にして、アパレル品の需要変動が物流業務に与えている影響や、データの必要性を経営陣に示すことができていれば、また違った判断があったかも知れない。
データの取得がDXの第一歩 以上、倉庫におけるデータ活用の「超入門」として、データ活用の下準備となる「データ取得」を中心にお伝えした。
これまで物流現場におけるデータ活用は、大手企業の大規模センターなどで限定的に実施されるにとどまっていた。
それが昨今、安価なツールの登場などによって加速度的に広がっている。
しかし、現状では多くの現場はツールを当たり前のように使えるほどのノウハウを備えていない。
様々な業態で「DX」をキーワードにした業務革新が期待されているが、物流の場合はまず基礎的なデータを取得することから始めなければならないのが実態である。
裏を返せばそれがDXへの第一歩なのだ。
実際、取得したデータは現場改善のみならず、「SLA(サービスレベルアグリーメント)」の策定や契約単価の算出にも利用できる。
ロボティクスをはじめとする自動化設備の導入や、管理業務の負担を軽減するシミュレーションシステムなどにも応用できる。
当社に寄せられる相談内容も、ツールの導入だけでなく、取得したデータの効率的な活用方法に関するものが増えてきている。
そのニーズに対応した、安価に利活用してもらえるソリューションの開発を目下進めている。
