2023年7月号
特集

ワコール流通 3D画像で庫内の動きをシミュレーション

主力拠点を増築し在庫管理を一元化  ワコール流通は大手下着メーカーのワコールホールディングスのグループ物流会社だ。
ワコールの物流部門を2000年に分社化して設立した。
23年4月1日現在の従業員数は協力会社の196人を含めて761人。
1日当たり平均約20万枚の衣類を処理している。
 滋賀県守山市に本社と基幹拠点の「守山流通センター」を置き、京都市伏見区内の2カ所(伏見流通センター北館・南館)と群馬県館林市(館林流通センター)の計4カ所に物流拠点を構えている。
 このうち主力の守山流通センターを、20年7月から22年1月にかけて増築した。
延床面積を従来の4万平方メートルから1・6倍の6万4千平方メートルに拡大。
ワコールの全商品の在庫を同センターに集約した。
 増築の目的は大きく二つ。
一つは拡大するECへの対応だ。
直営店向けや卸売用のBtoBの在庫と、EC向けの在庫を一元化して、伏見流通センターで取り扱っているセール品を除く全ての注文は守山流通センターで対応できるようにする。
そのために外部倉庫を利用していたBtoC物流を守山流通センターに取り込んだ。
 そして、もう一つの目的は、「マテハン機器を活用し将来に向けて業務の省人化・平準化を図ること」とワコール流通の池田直人事業管理部DX推進課課長は説明する。
これまでに、RFIDタグを自動で読み取るRFIDゲート(3基)、ゲート開閉式の仕分けシステム「GAS(ゲート・アソート・システム)」(13ユニット)、AGV(無人搬送車)17台などの設備を導入している。
 3Dシミュレーションツール「FlexSim(フレックスシム)」の利用も開始した。
コンピュータ画面上に仮想の工場や物流センターを組み立て、モノの流れや人・機器・設備などの稼働データをシミュレーションする。
米FlexSim Software Products社製で日本ではゼネテックが販売代理店を務めている。
 フレックスシムには、コンベヤーや作業台、在庫置き場、作業員、AGV、トラックなどの「オブジェクト」が用意されている。
それを画面上に配置して、モノの流れを設定すると、画面上で各設備や人・ロボット・車両が動き始めて、稼働状況や処理量などをリアルタイムで計測できる。
 ワコール流通では従来、倉庫内の棚のレイアウトや動線を最適化するために、実際に棚を動かし、ストップウォッチで作業時間を計測するといった方法を取っていた。
現場にいる作業者全員に取り組みを説明して協力してもらうが、1フロア全体を検証するには半日~1日はかかる。
終了するのは営業時間外に及んでしまうこともあった。
 「何より、レイアウトと動線の変化を事前に見られないことが悩みだった。
そのために理想通りの検証結果が得られないこともあり、人員と時間の浪費を課題に感じていた」と池田課長は振り返る。
 フレックスシムの活用で大きく二つの改善が実現した。
一つは庫内レイアウトと動線の最適化だ。
年間出庫数量が2ブランド合計で700万枚に上る下着ブランド「アンフィ」と「ウンナナクール」を取り扱っている3階フロアで23年3月に実施した。
 担当者はまず、現状の棚のレイアウト、コンテナボックスを画面上に配置して、作業者の動線を書き込み、2ブランドの出庫実績データをソフトに取り込んだ。
その上で現場からの意見も参考に、配置や動線を調整していった。
 その都度、フレックスシムが想定作業時間・出荷枚数・人数を自動算出する。
1回当たりのシミュレーション時間は10分程度。
10パターン程度のシミュレーションを繰り返した。
 「その過程で、出荷頻度別に商品を色分けしてみようという意見が出た。
どの棚に多頻度の商品が集まっているのかを可視化することができた。
これが最終案の決め手になった」と出庫管理課の山中智尋氏は話す。
 最終案には以下の要素を反映した。
● ピッキング作業員の動線が一筆書きになるようにする。
● 出荷が多頻度の商品は、1段当たり6ボックスが入る3段の棚を使う。
一つの棚に3段×6=18SKUを格納する。
● 少頻度商品は、1段当たり6ボックスが入る5段の棚を使い、一番上の段はストック用に利用する。
一つの棚に4段×6=24SKUを格納する。
 これによって次のような効果を期待できるとのシミュレーション結果が出た。
● 42人必要だった作業が38人で対応可能になる ● 年間作業時間(人時)を4万3千時間から3万9千時間に削減できる ● 1時間当たりの処理数が217枚から240枚にアップする  実際にレイアウトを変更したところ、1時間当たりの処理数は、シミュレーションの試算を上回る256枚にアップした。
これは庫内作業員の生産性の平均値でシミュレーションしたためと推測された。
そして、フロアに約260平方メートルの空きが生まれた。
このスペースは現在、在庫保管と返品作業に利用している。
 出庫管理課の樋上美香チーフは「今までは検証の際、全員が納得する配置にすることが難しかった。
今回も事前に『出荷頻度が少ない商品とはいえ5段棚の周りは混雑するのでは‥‥』と不安視する声もあった。
しかし結果的には『変更して楽になった』と言ってもらえた」と笑顔を見せる。
自動化投資を最適化  もう一つ、自動化のシミュレーションにも取り組んだ。
従来は各フロアでピッキングした商品を作業者が台車に乗せてエレベーターまで搬送して、仕分け・梱包・出荷作業場のフロアに降ろしていた。
この搬送業務をAGVと垂直搬送機で自動化した。
 フレックスシムの画面上にAGV、垂直搬送機を配置して、AGVの移動ルートや速度を調節してシミュレーションを行った。
その結果、例えば、7台のAGVが必要と考えていたフロアが6台で対応可能だと分かった。
搬送の前後にあたる作業工程の人時削減にもつながった。
 山田時弘事業管理部人事総務課課長は「人と人のつながりも強まった」という。
レイアウトや動線の改善案を可視化して共有できるようになったことから、スタッフ間の意見交換が活発になった。
 フレックスシムのシミュレーション画面上のオブジェクトの配置やモノの流れは、マウスのドラッグ&ドロップで感覚的に操作できる。
しかし、ソフトの導入にあたり最初に対象となるセンターの組み立てやスペックを入力して基礎プログラムを組む必要がある。
これはITスキルを持つ人材でないとハードルが高い。
 ワコール流通はシステム開発会社のコンピューターマネージメントからITの運用支援を受けており、守山流通センターには同社西日本システム統括部の佐竹萌氏が常駐している。
フレックスシムの導入でも佐竹氏がゼネテックからレクチャーを受け、約1カ月かけて基礎プログラムを開発した。
いったん基礎プログラムが出来上がってしまえば、後は何度でもシミュレーションできる。
 ただし、「守山流通センターは出庫枚数が多く、データ処理量が膨大なので運用には工夫が必要」と佐竹氏。
例えば1カ月分の作業を分析する場合でも、1週間ごとにデータを分割して結果を合算するといったアプローチが有効という。
守山流通センターでは今後は他のフロアでも3Dシミュレーションを活用して改善を進めていく考えだ。

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