2023年7月号
特集

スマート倉庫:その原理、課題、方向性

「ウエアハウジング4・0」  人類はそもそもの始めから、モノの生産を質・量・効率の面で向上させることに努めてきた。
この野心は、集中型発電による機械化とともに、18世紀末に第一次産業革命として結実する。
それはさらに、20世紀初頭の第二次産業革命による分散型の電力エネルギーへと変化し、1970年代の初めには、デジタル化・自動化という第三の革命が到来した。
 そして今日、われわれは新たな革命のとば口に立たされている。
第三革命に続くこの革命は、「インダストリー4・0」という名称で知られる。
インダストリー4・0はスマートファクトリー、サイバー・フィジカル・システム、企業の社会的責任、スマートウエアハウス等を含む幅広い概念だが、われわれがここで扱うのはスマートウエアハウス、あるいは「ウエアハウジング4・0」である。
 一般に、倉庫には入荷・保管・ピッキング・出荷という四つの機能があるが、そこには“スマート”化を施す余地が多分に存在する。
倉庫を基本とする保管機能は、全体的なコスト削減を目的とした高速オペレーションへと軸足を移しつつある。
そのため昨今の倉庫はコストセンターとしてではなく、戦略的優位にかかわるものとして認識され、その名も配送センター(Distribution Center)と呼ばれることが多くなった。
 近年、さまざまなタイプのスマートウエアハウスを議論する研究が現れ、こうした課題に対処するための方向性を提案している。
本稿の主旨は、スマートウエアハウスのデザインおよび新しいタイプの倉庫に関連する研究を、特定・評価・解釈することにある。
 鉄骨の倉庫が初めて建設されたのは、18世紀も終わろうとしていた頃である。
それ以降、倉庫の規模は急速に拡大して専門分化も進んだ。
20世紀には標準化と効率化が進み、倉庫の用途も変化する。
トラックやフォークリフトが出現し、古代ローマ時代から広く使われてきたスキッド・箱・木枠などが、パレットや調整ができるパレットラックへと置き換わったことで、効率的な垂直収納が可能になった。
 倉庫にとって最後の進化は、1960年代以降の技術革命である。
その最大のインパクトはバーコードの登場であり、それがリアルタイムの倉庫管理システム(WMS)と自動化の初期形態を可能にした。
 インダストリー4・0では、これに加えてNB-IoT(ナローバンドIoT)、近距離無線通信(NFC)、RFID、GPS、ワイヤレス・センサー・ネットワーク、Wi-Fi、ロボティクスなどの技術が加わる。
 これまで従来型の倉庫は使い勝手の良いものとされてきたが、いくつかの問題がある。
まず、在庫の保管やピッキングはそれほど容易な作業ではなく、大抵の場合、長い時間がかかる。
多くの人手を必要とする昔ながらの倉庫は、人的資源の浪費という側面からも無視できない。
帳簿上の在庫記録の信憑性という問題もある。
 一方のスマートウエアハウスは、ピックアップ・出荷・記帳などの作業を、おおよそ無人・ペーパーレス・自動で行う。
さらにIoT、ブロックチェーン、ビッグデータ分析、人工知能(AI)、機械学習、ディープラーニング、ロボティクスなどの新しい技術を導入することで、倉庫のオペレーションは根本的に変容する。
 スマートウエアハウスの利点として、以下のことを挙げることができる。
● 従来型倉庫では不可能なリアルタイムの情報を提供する。
● 手作業を最小限に抑えて可能なかぎり自動化し、従業員は価値の高いタスクを遂行する。
● 人的資源を刷新することよりも、インフラのアップデートの方が容易であるため、オペレーションの拡張性が高い。
● 多様な予測モデルによって自動的に意思決定が行われる。
● 顧客の要望やプロセスに変化があっても、従来の倉庫と比較して、新たな条件に容易に適応できる。
● 高価な機器をスマートセンサーで監視するため、稼働しない時間が最小化される。
 逆に欠点となるのは、次のようなことである。
● 従来型と比べ建設コストが割高になる。
● スマートウエアハウスへの移行には、多大な時間と労力が必要である。
● スマートウエアハウスへの移行には、経営幹部の理解と協力が欠かせない。
研究課題 研究課題1:スマートウエアハウス技術が必要とされる倉庫管理のサブカテゴリーとは?  一口に倉庫管理といっても、そこにはさまざまなサブカテゴリーが存在する(図表1。
*以下、三つの図表の単位は、既存研究で言及される頻度を表す)。
中でも最もスマートウエアハウス技術が求められるカテゴリーは、倉庫作業と倉庫管理の二つである。
 何らかのテクノロジーを導入していない倉庫など、今日どこにも存在しない。
顧客の注文は複雑かつ多様、在庫は最低限、そしてリアルタイムの情報が求められるようになった。
従来型のオペレーションではインダストリー4・0に対応できない。
 現代の倉庫管理プロセスでは、在庫管理システム(IMS)・APS(Advanced Planning and Scheduling)・輸送管理システム(TMS)・倉庫管理システム(WMS)・企業資源計画(ERP)など、データベースにもとづくアプリケーションが活躍する。
とりわけ倉庫管理システムには、スマートウエアハウス技術がふんだんに取り入れられている。
 倉庫の「ライフサイクル」とは、製品が倉庫にある時間を指す。
このサイクルを管理するのが倉庫管理システムであり、そこには受注・保管・ピッキング・出荷などの業務が含まれる。
あるいは入庫管理、棚管理、出庫管理、保管管理などに分類する研究者もいる。
 倉庫のパフォーマンスを向上させる技術中、最も期待されるのはRFIDである。
倉庫管理システムの改善という点においてRFIDが貢献するのは、効率性とコスト、さらには自動認識とリアルタイムデータだ。
他にもその(小さい)サイズ、形態の多様性、再使用可能性、比較的安価なコスト、正確性、無線で読み取り可能なこと、等の利点を挙げることができる。
 製品はこうしたプロセスの過程で数多くの相互作用を経るため、倉庫のコア機能の向上に注力することは、倉庫管理の効率を改善することにもつながる。
 倉庫を最適化するその機能とは、製品のアロケーション・ピッキング・識別である。
多くのネット通販業者は、倉庫自動化の一環として、ピック&パックという作業を、「ヒトからモノへ (Person to Goods)」から「モノからヒトへ(Goods to Person)」というやり方に改めた。
 RFIDをはじめIoTをベースとする最新のトラッキング技術を用いれば、システムは複雑なランダム性に対処できるようになる。
ここでいうランダム性とは、空間効率を最大化し、ハンドリングコストを最小化しながら、棚の異なるスロットに製品を割り当てることをいう。
 搬送に関しては、無人搬送車(AGV)の登場が、オペレーションと効率を向上させた。
AGVを支えるのは、オーダーピッキングとバッチハンドリングを指示するオーダー・ピッキング・オペレーション・システム(OPOS)である。
研究課題2:スマートウエアハウス導入の目的とは?  倉庫は時代とともに複雑化し、顧客の要望も新しい形をとるようになってきている。
スマートウエアハウス導入の主な動機は、外部からの圧力、戦略的優位性、データ量の増加、倉庫の複雑性、オペレーションの俊敏性(アジリティ)、顧客の要望等である。
顧客の注文が複雑かつ多様になったことで、倉庫の役割は一変した。
リアルタイムの情報、レスポンスの速さ、正確性が重要になったのである。
 従来型の倉庫や店舗は、もはや購買の新しい潮流(ネット通販など)に向かなくなってしまっている。
膨大なSKU(最少管理単位)の保管には限界があり、現代的な課題と制約に対してタイムリーに対処することができない。
地域に根差すのではなく、インターネットとの常時接続および新たな形のセキュリティが肝要なのだ。
 激しい競争を勝ち抜くため倉庫を効率的に管理することが、現在のサプライチェーンで不可欠となっている。
サプライチェーンのパフォーマンスに倉庫を貢献させる上では、自動認識技術の活用に大きな可能性がある。
 低価格、即納、オーダーメイドの商品が求められる今日、小売業者は、自動化されたWMSを導入した効率的な配送センターを必要としている。
WMSはコストや管理、オペレーションを最適化するためのデータを集める目的で広く普及しているが、その多くはモノを追跡するシステムとして設計されており、オーダーを実行するためのタイムリーかつ正確な情報を提供することはできない。
手入力によるものがほとんどであり、自動のデータ検索やリアルタイムデータは扱わない。
 誤情報の80%はヒューマンエラーによるものであることから、WMSは不適切な情報を完全に排除することができない。
不正確な情報は、需要と供給の両面で不確実性と複雑性をもたらし、物流にも影響を与える。
 (ヒューマン)エラーを原因とするボトルネックを解消して、取得した膨大なデータを処理することができるよう、倉庫システムとサプライチェーンの構成員が一体となり、応答性・柔軟性・アジリティ(俊敏性)の改善を通じたシステム改良を目指さなければならない。
 自動化されたスマートウエアハウスでは、効率的なオーダーピッキングとバッチハンドリングが可能となる。
より良い顧客志向のサービスが実現するだけでなく、戦略的優位性の確立にもつながる。
 ロボティクスやエレクトロニクス、コンピューターの技術が、価格・使いやすさ・機能・他の機器との連携といった面で進歩し、オートメーションの利用は時を追うごとに増えている。
しかし同時に、その複雑性も飛躍的に増大している。
 複雑化にともなって倉庫管理の大きな課題となったのが、コントロールと相互作用である。
異なるモノ同士のコミュニケーションには、「モノから環境」「モノからモノ」「モノから人間」という三つのレベルでのイノベーションが必要だ。
研究課題3:スマートウエアハウスの特徴とは?  スマートウエアハウスの一番の特徴は、人の手を(全くもしくはほとんど)介さないオートメーションであるという点にある。
クラウドとの常時接続により、環境および倉庫内の出来事に柔軟に対応することができる。
あらゆる種類のトラッキング能力とデータ収集が可能になったことで、データ管理が重要な要素となってきた。
図表2に主な特徴をまとめた。
 倉庫はもはや、大量のSKUを保管するだけの場所ではない。
顧客からの注文は、多品種少量であることの方が多い。
現代の倉庫は、オーダーのサイクルタイムを短縮してコストを削減することで、高い応答性を実現して顧客サービスを向上させなければならないのである。
 変化する環境において中核となるのは柔軟性であるが、その他にも全体のサイクルタイムを短縮して入出庫の物流を速やかに遂行すること、正確な在庫把握、プロセスマネジメント、保管効率、ピッキングの最適化などがポイントとなる。
最小限の倉庫リソースで迅速に顧客の要望に応えることがそのゴールだ。
 オーダーピッキングの最適化は、オーダーバッチング(複数の物品のピッキング伝票を一つにまとめること)が決め手となる。
これを想定したパブリックウエアハウス(公共倉庫)というコンセプトでは、注文に応じた少量出荷を行う。
 現在の自動化された倉庫は、手動もしくはプログラムを組み込んだ装置で知られている。
自動搬送車、パレタイジングロボット、カートンフローラック、ロータリーストッカー(回転棚)、自動倉庫(AS/RS)などである。
倉庫自動化や配送センターの主役となる自動倉庫は、マテリアルハンドリングのメカニズムそのものである。
 IoTとクラウドコンピューティングの進化形である「モノのコンピューター(CoT=computer of things)」は、クラウドサービスを通じて物理的リソースとマネジメントを結合させる。
一般的かつ簡単な方法によって、場所に関係なくアクセスすることが可能になる。
 現代的な倉庫管理プロセスを支えるものとしては、IoTインフラに加えマルチ・エージェント・システム(MAS)も推奨される。
また、販売システム・WMS・TMS(輸送管理システム)といった異なる管理システムから情報を集め、それらを選別・分類し、アウトプットを意思決定モデルへ提供するような情報処理モジュールもある。
ちなみに、意思決定システムは、自動的にリスク分析を行って最適なワークフローを提案するものである。
研究課題4:スマートウエアハウスの実現にいま活用されている技術とは?  スマートウエアハウスを成立させるために使われる技術の大半は、システムレベルとデータ供給レベルのどちらにも利用される。
図表3は、それぞれの技術が論じられる頻度を表している。
 RFIDは最も重要なIoT技術の一つであり、自動倉庫システムの核心といえる。
RFIDベースのインテリジェントWMS(RFID-IWMS)は、スペースの有効活用、自動認識、倉庫の全プロセスにわたるトラッキング、リアルタイムデータによるオペレーションなどを可能にする。
 “スマート”に自動調整を遂行する倉庫を実現するには、在庫品と倉庫の保管設備の両方にRFIDのタグを貼っておくことが必要である。
このマシン・ツー・マシン(M2M)ネットワークにおいて、棚もしくはその一部は、他のロケーションに自動的に割り当てられる。
IoTインフラとリンクしたボトムアップアプローチによって、自己組織化したシステムが、サプライチェーン内の全ての倉庫と相互接続するのである。
 IoTを基本とするWMSでは、入出庫する全てのアイテムとその動きが自動で制御されて、オーダー数の偏りが自動調整される。
 スマートラベル(バーコード、RFID、自動認識(Auto-ID))が、統合型WMS(iWMS)と通信ネットワーク(有線/無線)を結ぶことで、倉庫に入出庫する全てのアイテムの識別・保管・トラッキング・管理が容易に行えるようになる。
 また、全てのデータを管理・制御し、サプライチェーンの意思決定と計画に役立てることができるよう、WMSはERP(企業資源計画)とも統合される必要がある。
 経路生成アルゴリズムと天井に設置したカメラによって、自動搬送車は臨機応変な自律性を獲得する。
ロボティクス開発は今後、ロボット・コンベアベルト・現場における技術的アプリケーションなどの全てを一つにつなげる、という方向に進んでいくものと考えられる。
 人工現実(AR)は、従業員がスマートグラスを装着して作業することで始動する。
ARで作業プロセスはスピードアップする。
倉庫にある製品や機器を、手持ちのモバイルデバイスでスキャンしたり操作したりする必要がなくなる。
 労働リソースの最適化、構内移動距離の短縮、オーダーピッキングの優先順位付けは、前述のオーダー・ピッキング・オペレーション・システム(OPOS)が担う。
OPOSは、在庫とデータ保存についてWMSと連携する。
 リスクマネジメントも考慮したワークフローの決定には、ワークフロー意思決定システム(WDSS)がある。
その目的とする機能は、リアルタイムデータの取得、潜在的リスクの特定とランク付け、倉庫オペレーションのワークフロー策定である。
 そのためにWDSSには、RFID・階層分析法(AHP)・事例ベース推論(CBR)が組み込まれている。
階層分析法は定量的基準・定性的基準の両方を勘案し、事例ベース推論は以前の解決策を現在の意思決定に役立てる。
研究課題5:スマートウエアハウス移行への課題と戦略とは? ●戦略  RFIDの導入は倉庫システムにとって重要な要素といえる。
単純なトラッキング機能から意思決定システムへとWMSを進化させるにあたっては、正確でタイムリーなオーダー処理情報を提供することが課題になる。
その移行過程で核となる技術として、ARを挙げることができるだろう。
 製品を対象とするトラッキング技術を倉庫全体にまで引き上げることにより、倉庫は自己制御する“スマート”な存在となる。
それを実現するのが、プログラマブル・ロジック・コントローラー(PLC)によって各コンベアを制御するコンベアシステムである。
 もう一つの戦略として、先進WMSにファジィクラスタリング技法を取り入れるというものがある。
この技法は、最適なオーダーピッキングの方法を提案することでプロセスを効率化する。
サイバー・フィジカル・システム(CPS)を援用して、この先進的なWMSをさらに発展させて、いっそうの自律化を図ることも可能だ。
 WMSは将来的に製品間のコラボレーションにまで発展して、保管場所を決めるのは保管単位ということになるかもしれない。
保管場所を決めるためにシステムはまず、製品割当問題(PAP)に取りかかる。
PAPは、空間効率の最大化とコストの最小化を念頭に、製品を倉庫内に分散して保管する。
次に、互換性の制約があるかどうかをチェックする。
棚やスロットに大きさ、容量、製品互換性、やり方、時間などの制約があるかどうかを確認するのである。
 基本的に、全ての要因が製品保管の制限となる可能性がある。
そして最後にIoTインフラがRFIDを、ワイヤレス・センサー・ネットワーク(WSN)、通信オブジェクト、マルチ・エージェント・システムに接続する。
●課題  グローバル化およびサプライチェーンの相互依存性が進んだことで不確実性が増大し、そのことが倉庫管理の大きな課題となっている。
しかし、既存の研究は一定のキャパシティとロケーションに限定されていて、ビッグデータについては手つかずとなっており、異なるシステムにおけるパッシブおよびアクティブRFIDタグの読み取り性能についても、まだ解明は進んでいない。
 また、グローバル化に伴う技術開発により、世界が常時接続の狭い空間になったとしても、多種多様なサプライチェーンメンバーの各システムに、あらゆるシステムが接続できるわけではない。
プログラム言語が標準化されていないため、多様なシステムを連携させることは、企業にとって困難でコストのかかるプロセスである。
しかも初期投資や開発費のほかに、保守運営コストも覚悟しなければならない。
 AIやロボティクスの倉庫における活用に関する知見も不足している。
また、システムが不具合を起こさぬよう、ハードウエアの寿命をもっと延ばし、地域だけでなく市場やグローバルレベルの変化にも、迅速に適応していく必要がある。
 ヒューマンエラーに対しては、耐性を持つだけでなく仕組みとしてそれを排除することが求められるが、人に優しいインターフェースは、その解決策の一つになるだろう。
 スマーウエアハウス実現のもう一つの課題は、システムのセキュリティである。
技術の進歩そのものについて異論を唱える向きはないが、それを受け入れるか否かはまた別問題だ。
システムが収集したデータのプライバシーや機密保持については、いまだ大きな問題となっている。
 倉庫内の製品に互換性がないことから生じる損害も考慮すべきセキュリティリスクであり、こうしたリスクを回避できるシステムである必要がある。
人びとの安全に配慮する必要性は、ここで改めて強調するまでもないだろう。
(翻訳構成 大矢英樹)

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから