2023年8月号
特集

キリンビバレッジ 門前倉庫を全国展開して返品抑制にも利用

運転・拘束時間2万4千時間削減  キリンビバレッジが製造・販売する清涼飲料は、紅茶飲料、コーヒー飲料、炭酸飲料、スポーツ飲料と多岐にわたる。
数百種類の原材料を使用し、委託先を含めて北海道から九州まで全国40カ所以上の工場で製造している。
 同社に限らず、清涼飲料は寒暖の変化など天候要因によって需要が大きく変動するため、1日の中でさえ生産量を何度も見直すことが珍しくない。
それに伴い原材料の発注もめまぐるしく変更される。
朝、翌日までに100トン欲しいと発注したものを、午後に当日中70トンに変更、夕方には「やっぱり翌日100トン」に戻す、といった具合だ。
 こうした調整を怠れば、巨額の機会損失や大量の食品廃棄につながる。
原材料を飲料工場にストックしておくことも保管スペースの制約上難しい。
そのため「原材料の発注変更は清涼飲料業界において必要悪と認識されてきた」とキリンホールディングスの宇津木将調達部原料グループ主査は説明する。
 それがサプライヤーや物流業者にとっては大きな負荷となってきた。
顧客の工場ごとに原材料の供給拠点を設けることはコスト面から現実的ではなく、突然の少量オーダーであっても遠く離れた工場まで輸送する非効率が常態化していた。
 宇津木主査は「買い手である飲料メーカーの立場が強かった時代にはそれでもまかり通っていたが、改善が必要だという問題意識は社内にも存在していた」と振り返る。
 2018年にトラック運転手の労働時間制限も盛り込んだ働き方改革関連法案が成立、輸送需給がいっそうひっ迫していくことが予想されたことをきっかけに本格的に対策に乗り出した。
 宇津木主査がプロジェクトリーダーを務め、従来から研究してきた「門前倉庫」の設置を検討した。
製造工場の近隣に原材料倉庫を置いて、そこに一定の在庫を置くことで長距離輸送の頻度を抑える。
 サプライヤーは門前倉庫の在庫量が基準値を下回らない限り、自社に都合の良いタイミングとロットで補充すればいい。
工場側は必要量だけ在庫から取り出して使用する。
サプライヤーは輸送頻度を減らして積載率を高めることができる。
工場側は発注業務が基本的に不要になる。
 物流業者から提案を募ったところ4社から応募があった。
門前倉庫にはサプライヤー各社の調達が集中するので、安定運営にはスキルが求められる。
しかも、それを全国各地で展開しなければならない。
4社の提案内容を比較検討した結果、三井倉庫と組むことに決めた。
 19年10月から、原料のうち使用量が大きく常温保管可能な紅茶葉と乳原材料を対象に、紅茶飲料の生産量が大きいキリンビバレッジの湘南工場(神奈川県寒川町)と滋賀工場(滋賀県多賀町)を中心にして、試験運用を開始した。
同社が年間に調達する紅茶葉と乳原材料の50%以上を両工場で使用しており、改善効果が大きいと見込んだ。
 三井倉庫の既存物件の一部を、キリンビバレッジが賃借するかたちで、両工場にそれぞれ1カ所ずつ門前倉庫を用意した。
門前倉庫への納品は各サプライヤーが手配する。
 20年2月までの5カ月間で、両工場合わせて対象となる原材料約6千トンを、門前倉庫を使って調達した。
その結果、いずれも年換算で、二酸化炭素排出量約250トン、輸送距離100キロ以上のトラック台数約1千台、ドライバーの運転・拘束時間約6千時間を削減できた。
事前の想定通りの効果だった。
 この結果を踏まえて、20年4月から門前倉庫を本格的に横展開した。
原材料使用量の多い工場を、生産委託先の工場を含めて全国20拠点選んだ。
対象とする原材料は常温保管可能な200種類以上(年間使用量は合計約3万トン)に広げた。
 門前倉庫は、試験運用時と同様、キリンビバレッジが三井倉庫の既存倉庫の一部を賃借した。
各門前倉庫は、1カ所から複数箇所の工場をカバーする。
例えば最も規模が大きい厚木門前倉庫は、三井倉庫厚木事務所内に立地し、保管スペースは約3300平方メートルあり、神奈川県内や静岡県内の3〜4工場を担当している。
 各門前倉庫には、原則として対象とする原材料を全種類集めている。
門前倉庫内は原材料別に保管スペースを区分し、季節ごとの調達量の変化などに合わせて区分けを調整している。
 この時点で、対象原材料の17年輸送実績を基に、二酸化炭素排出の削減量は年間約1千トン(削減率約80%)、輸送距離100キロ以上のトラックの削減台数は約4千台(同約63%)、ドライバーの運転・拘束時間の削減量は約2万4千時間と試算した。
ただし、年ごとに各原材料の使用量など諸条件は大きく変わるため、実際の削減効果を算出することは難しいという。
 サプライヤーへのアンケート調査では、「急なトラックの手配が大きな負担となっていたが、それが解消された」「1日に3回発生していた受発注業務が2日に1回に減り、負担が軽くなった」など、良好な回答が寄せられている。
門前倉庫開設後は“運びたいときに輸送できる”ようになったため、サプライヤー間での混載もやりやすくなった。
 23年7月現在まで、門前倉庫の取り組み内容に大きな変更はない。
門前倉庫の面積やロケーションは、必要に応じて最適化している。
また、より飲料工場に近い位置へのリロケーションも検討している。
梱包材の損傷による返品も減らす  門前倉庫を応用して返品輸送を削減する準備も進めている。
 原材料の輸送時に、品質には影響がない傷や汚れが梱包材に発生することがある。
サプライヤーの拠点からキリンビバレッジの工場に直送していたこれまでは、受け取って開梱する(=荷の責任がキリンビバレッジに移る)まで原材料品質への影響が分からなかったため、慎重を期して、梱包材のダメージが認められた場合は返品し、代わりの品を再送してもらうことが多かった。
特に輸入品は梱包ダメージが生じやすく、粉乳だけでも年間100回程度は返品が発生していた。
 だが、門前倉庫を設けたことで、工場に納入する前にサプライヤー側でダメージを検証できるようになった。
品質に影響がないと判断した場合、サプライヤーは品質保証シールを貼付する。
キリンビバレッジは、同シールが貼られた原材料は返品せず使用するというスキームだ。
既に品質保証シールのデザインが決定すれば開始できる段階まで来ており、早ければ8月にもスタートする。
 内容物に影響がない梱包材どまりのダメージを問題視するのは、世界でも日本くらいだと言われている。
門前倉庫プロジェクトの現リーダーを務めるキリンホールディングス調達部 原料・資材グループの福田良裕氏は、「荷主として、運ぶ側に不必要な負担はかけられない。
物流会社に選ばれる荷主となるため、非効率な商慣行を改めていきたい」と意気込みを見せている。

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