2023年8月号
特集
特集
「エリア需給」によるネットワークの最適化
輸送トンキロの発生自体を抑制する
物流リソースがひっ迫して、運べなくなる危機が現実化している。
EC化の進展による川下の負荷増大が注目されやすいが、物流の2024年問題による直接的な影響が最も懸念されるのは、むしろBtoBの長距離輸送であろう。
そのため多くの企業が現在、共同輸送や中継輸送拠点の確立、ドライバーによる荷役作業の簡便化、待機時間削減等の施策を進めている。
しかし、国土交通省の統計によれば、全体の輸送トン数は減少しているにもかかわらず、輸送トンキロ(トン数×輸送キロ数)は年々上昇する傾向にある(図表1)。
輸送の足が伸びているわけである。
輸送の改善のみならず、上昇しているトンキロの発生自体を抑制していくことも必要であろう。
SCMの観点から不必要な物流の発生や距離の短縮を進めるのである。
飲料メーカーで先行している「エリア需給」の取り組みが参考になる。
飲料メーカーは全国に自社および委託先を含む複数の生産拠点を持ち、全国の需要に途切れなく商品を供給するための膨大な輸送網を保持している。
季節波動が大きく、需給ギャップに対する横持ち輸送の規模は膨大であり、需要変動リスクが物流負荷に直結しやすいという特性もある。
安定供給と在庫リスク低減を両立するために物流網を効率的に運用することは同業界の元来の課題であり、昨今の物流リソース不足に対しても一早く危機感を募らせてきた。
その一環として異業種との共同配送、発注リードタイムの延長、賞味期限管理の緩和など、製・販を巻き込んだ施策が他業界に先駆けて進んでいる。
そのような一連の施策の中、「運ばない物流」の必要性に着目し、製販物一体の改革によってそれを追求する取り組みが、エリア需給である。
エリア需給とは、全国を複数のブロックに分割し、各ブロック内で需給を完結させる方向に進めることで、消費地と生産地の距離を近づけ、輸送負荷を削減していく施策である(図表2)。
とはいえ、すべてのブロックで需給を完結させるのは、設備投資・生産効率の面から現実的ではない。
委託先を含んだ総合的な生産性・資産効率の維持・向上と、長距離輸送削減の最適バランスを確保していくことが目指す姿である。
飲料業界の固有性に基づく施策に見えるかもしれないが、今後は他業界においても生産の分散化について少なからず検討が進む可能性がある。
また製販物一体となったSCMの改革例としても参考にできるだろう。
われわれアビームコンサルティングでは従来から、飲料メーカーに対してエリア需給を含む生産・物流ネットワークの最適化に関する支援を行ってきた。
その経験を踏まえて以下に、エリア需給推進のポイントを解説していく。
需給ブロックの設定と評価指標 エリア需給におけるブロックの設定は、基本的には生産拠点の立地に応じて検討することになる。
大手飲料メーカーの場合には通常、日本全体を6~8のブロックに分割している。
同業界は元来、委託生産の比重が高いこと、そして分散型生産の傾向が強いことから比較的細かい区割りになっている。
しかも、近年はエリア需給を加速させる必要性からブロック割をより細分化していく傾向が見られる。
エリア需給の効率性を測定するためのKPIは大きく「エリア自給率」「ブロック間転送量」「SCMトータルコスト」の三つである。
これら三つのKPIの変化を捉えて、市場全体を適切な数のブロックに分割して、ブロック間の最適なバランスを実現する施策を展開していくことが、基本的なアプローチである(図表3)。
このうち「エリア自給率」は各ブロックの需要量に対する自ブロックの供給能力の使用率であり、一般的な“食料自給率”と似た概念である。
算出方法は次の通りである。
自給率=(ブロック内生産量−他ブロックへの転送量)÷需要量 例えば自給率が70%の場合、70%は自ブロックの供給能力を活用して、残り30%は他ブロックの供給能力に頼っていることになる。
逆に自ブロックの生産能力を他ブロックに提供している場合には、自給率は低下する。
需要量100に対して生産能力が100あっても、そのうち20を他ブロックに供給していれば自給率は80%となる。
「ブロック間転送量」は文字通りブロック間で転送している物量である。
物流負荷の所在を特定して、ブロック間をまたがる自給率の増減要因を捉えるのに参照する。
基本的に全体の自給率が向上するほど、他ブロックの供給能力を利用する機会は減り、ブロック間転送量は減少する。
「SCMトータルコスト」は生産、保管、物流に掛かるコストの合計値である。
自給率の向上は必ずしもトータルコストと直結しない。
エリア需給の推進によって生産バランスが変化して、外部委託生産コストの追加等が発生することもあるからである。
そのためSCMトータルコストが、コストミニマム・全体最適視点で施策の価値を図るために必要な指標となる。
これまでのわれわれの経験では、各ブロックの自給率はブロック内生産能力の違いから、大量消費地・生産集積地を持つブロックでは70%近くに達する一方、生産集積地から遠方のブロックでは一桁%台であったりと、大きな幅がある。
しかし、各ブロックの自給率が均等になるように区割りをする必要はなく、各市場の個別の課題を特定して、打ち手の効果を確かめられる粒度でブロックを設定する。
エリア需給の推進に向けた具体的施策 (1)生産能力・生産品種配置の最適化 全体のコスト競争力を維持しながら自給率を向上して、物流問題の解消に向けて生産能力および生産品種の配置を最適化していくマネジメントは、委託先を含めた生産配置の見直しと中長期的な設備改編の2点が主要なポイントになる。
具体的には、「a.自社工場の稼働率と委託生産のバランス最適化」と「b.自社生産ラインの能力最適化」に取り組む。
a.自社工場の稼働率と委託生産のバランス最適化 一般に外部に生産を委託する目的は、ピーク需要を吸収して固定費を抑えることである。
しかし、今後はエリア配置の観点から外部委託生産の活用方法を見直すことが、トレンドの一つになってくるであろう。
この施策のポイントは二つある。
一つは、自給率を高めつつ、SCMトータルコストを最小化することを踏まえた中長期的な生産戦略を策定して、バランスのよい配置を決定することである。
そのために各エリアの輸送能力・輸送コストと自社工場のライン生産能力・生産可能品種を前提条件に、委託先の選定・増産パターンを複数設定してシミュレーションを繰り返し、コストミニマムになる組み合わせを特定する。
固定費が大きい自社工場の稼働率の最大化は、資本効率上、今後も重要な目標であることに変わりはない。
そのため基本的には、工場集積地から遠いブロックでは委託生産を拡大して、自社生産能力が高いエリアでは委託生産の比率を下げる方向に進めることになる。
つまり自社工場の能力を大量消費地に集中させることになる。
ポイントの二つ目は、外部委託先を戦略的なパートナーとして位置付け、パートナーが安定的な供給能力を発揮できるような環境を提供することである。
現在の状況では物流支援策を委託先とのアライアンスに組み込むことが必要である。
昨今の物流事情により、委託先も車両の調達には苦慮しており、適時輸送が困難になっている。
特にエリア需給視点では、生産能力の空白地域を埋めるため遠方の委託先を選定することになり、委託先が物流困難地域に立地しており、作っても運べないという状況が発生しやすい。
そこで、ピーク期に先行して委託先から在庫を預かるようにして、自社の物流ネットワークの輸送量が平準化するように在庫輸送を引き当てることで、トータルの供給能力を確保するといった手立てが有効になる。
b.自社生産ラインの能力最適化 長期的には、下記のような自社工場の能力改編を行う。
そのために、中長期の設備投資計画にエリア需給を組み込む。
⃝生産稼働時間・シフトの見直し(能力増強) ⃝生産ライン新造(生産可能品種の追加・能力増強) ⃝生産ライン改編(生産可能品種の改廃) 短期的な計画の最適化による限界を見極め、真に生産能力が必要なエリアと工場を特定して、優先度を明確にすることが必要である。
その場合、ラインの生産能率と稼働時間を目的関数として組み込み、稼働率によってコスト効果が変動するシミュレーションの仕組みを構築すると、コストミニマムと輸送制約の最適バランスを見付けやすくなる。
また、製品戦略とその進捗によって、最適な設備プランは時間と共に変化していく。
食品業界であれば、容器の環境対応や食品ロス対応などから新たな条件が加わることも想定されるであろう。
物流事情のみならず、戦略・環境変化を踏まえた生産ラインの改廃計画立案が求められる。
そのために後述する継続的な分析・シミュレーションが必要になる。
(2)在庫・物流拠点の再配置と需給オペレーションの見直し 生産体制の整備と連動して、物流体制の整備が必要であることは、前段でも触れた通りである。
ただし、個別の生産の改編にその都度、物流体制を合わせていくというアプローチでは、全体最適を欠いてしまう恐れがある。
在庫と物流リソースの配置を戦略的に検討していく必要がある。
やはりポイントが二つある。
「a.在庫配置の上流から下流への移行」と、「b.新しい在庫基準・補充基準の設定」である。
a.在庫配置の上流から下流への移行 このテーマの前提として踏まえておくべきトレンドがある。
昨今の物流リソース不足によって、見込み生産型の製造業で従来は基本系とされてきた在庫の上流配置・マザーセンター型の物流モデルが適用しにくくなっているということである。
従来は、実需に対応して柔軟に生産のアクセル・ブレーキを踏むために、サプライチェーンの上流で在庫を厚く持ち、需要発生タイミングで前線の倉庫(フロントDC)に適時輸送することがベストプラクティスとされていた(図表4の上段)。
しかしながら、車両調達の困難化に伴い、ピーク期の適時・大量輸送が難しくなっている。
特に季節波動の大きい業界でそれが顕著となっていることから、在庫を川上から川下に移す“先送り”が行われている。
ピーク時の車両調達リスクを回避し、輸送能力が調達しやすい時期に在庫を前線の倉庫に送り込むという戦術である。
また、エリア需給を進めると、生産拠点と消費地の距離は短くなるため、上流・下流という従来の捉え方が適切ではなくなってくる。
このような背景により、消費地に近い場所に大型の在庫拠点を構えるモデルがトレンドになりつつある(図表4の下段)。
b.新しい在庫基準・補充基準の設定 一方、下流配置型に移行する場合には、需要変動があった時の在庫リスク対策を考えておかなければならない。
われわれの支援事例においても、先送り後に需給変動が起きた結果、在庫の横持ちが膨れあがるという事態に直面したことがあった。
さらにはピーク期に倉庫の面積が足りなくなり、外部倉庫の借庫を増やしたことが、需給変動時のダメージを広げてしまうということも起きた。
エリア需給による供給構造の変更に対して、物流の仕組みを変えていく必要があることを示した事象であった。
このような問題への対策として、上流配置か下流配置かという2元論ではなく、ハード面とソフト面の両面を考慮した保管・輸送体制を整えるべきである。
ハード面においては前述の通り、消費地に近い位置に上流の在庫保管分も含めて一定の保管能力を持つDCを配置していくことが基本戦略となる。
一方で在庫リスクについては、エリアの特性に応じた在庫基準を明確化して、補充オペレーションを最適化する。
すなわちソフト面で対応するわけである。
エリアによって当然ながら自給率は異なり、輸送のひっ迫の度合いも輸送ルートによって異なる。
それなのにエリアの特性を考慮せずに、画一的な在庫基準や補充基準を用いてしまうことが、不必要な先送りを招いてしまう。
新しい在庫基準・補充基準をエリア需給の推進と共に整備することが必要である。
また、上流配置は完全に止めてしまうのではなく、先送りの基準を作り、不必要な補充とフロント側DCのオーバースペック化を抑制することが重要だ。
保管拠点のサイズ超過は需給の規範を緩め、横持ちや在庫リスクを増大させる要因になる。
エリアに応じた適切な拠点のサイジングが必要である。
継続的なシミュレーションの実施 エリア需給を推進する企業に対する、われわれの生産・物流ネットワーク分析の支援事例を交えて、前述の施策を深化させていく上で必要なシミュレーションの活用方法について説明したい。
単なる実態の可視化だけで、複雑かつ広範なネットワークから課題を特定するのは難しい。
そのため、われわれは製造拠点や物流拠点の配置や能力などの現状のアセットや、物流条件・コスト・在庫基準などの条件をモデル化して、生産~物流が最適に動いた場合の結果をシミュレーションすることを推奨している(図表5)。
現状と最適化結果を定量的に対比することでギャップを捉え、課題を抽出するというアプローチである。
ただし、シミュレーション結果と施策の実現性は別問題なので、現実とのギャップを生んでいる要因を深掘りした上で、課題を抽出することが大切である。
現状のアセットの下で供給計画を見直すことによる、改善のポテンシャルをシミュレーションによって捉えることができる。
個別事例では、輸送能力を制約として、各エリアの供給能力の使い方を変更して、ブロック間の転送量を削減することで、エリア需給率を全国平均で約10ポイント向上、ブロック間転送量を約25%減少といった効果を得ている。
⃝中期的な生産計画の最適化シミュレーション 図表6は現状の生産能力の制約下において、どこで・何を・どれだけつくるのが理想であるのかをトータルコスト最小化の視点でシミュレーションしたものである。
エリア間の動きを意図的に抑制する条件は付けていない。
それでもコストミニマムとエリア自給率が連動する結果を得ており、生産調整の余地があること示している。
このシミュレーションによって、現状のアセットの限界点も明確になる。
たとえば、同一アイテムを複数ブロックで生産する体制を取っているにもかかわらず、ブロック間で製品を送り合っている箇所が見えてくる。
これはいくら生産計画を最適化しても、現状の生産能力では対応しきれないことを示すものであり、該当製品に対するライン改編あるいは委託化を検討することになる。
⃝自社生産・委託生産のバランスに関する分析 図表7は、自社工場・委託工場を横断して、生産量の再配置を品種ごとに分析した資料である。
シミュレーションの結果、ある品種では地方ブロックの増産を進めて、全国の中間位置にある委託工場の生産量を削減することでバランスが改善されることが分かった。
内製よりも委託の方が生産コストは高くなる。
そのため輸送面と生産面のトレードオフを考慮して、エリア需給とトータルコストミニマムの二つの視点から、委託生産の活用エリアを見直す余地を特定した。
⃝生産設備改編計画の検証 工場の稼働率向上・生産コスト最小化に向けた将来の設備能力の仮説を立て、シミュレーションによりその効果を算出する。
将来的な成長目標から需要と生産能力のギャップを捉え、どの製品に対してどの工場の能力を拡張すべきなのか、委託生産を内製化に切り替えるコスト効果も考慮して算定する。
将来的な製品戦略や物流能力の推移も踏まえて、投資価値を定量的に示すことができる。
シミュレーションが意思決定のスピードと確実性を高めることに寄与する。
⃝在庫拠点の立地とサイジングの分析 将来の生産体制の最適化分析と並行して、DCの立地とサイズの最適解を確認する。
エリアの需要分布を与件として、必要なセンターの立地と数、優先度を求める。
さらにはエリア需給体制の下、新センターがどのように機能するのかを確認して、保管機能・通過物量に合わせたサイジングの基礎情報を得る。
継続的にサプライチェーンを更新する 物流リソースの不足が深刻になるにつれて、供給構造を見直すことが必要になってくる。
その際には、エリア需給のように、物流の前提自体を変える取り組みが必須になる。
また、ネットワークの物理的な構造と共に、オペレーションの制約や基準も見直していかなければならない。
このような複雑に絡み合う問題を解くには、データを活用したシミュレーションが不可欠である。
経営層や関係部門に定量的な分析を、仮説と共にロジカルに示すことが成功の要因となる。
しかしながら、エリア需給をはじめとする供給構造の見直しを物流部門が訴求しても合意形成は容易ではないであろう。
実際にエリア需給を推進している企業は、経営レベルでサプライチェーン全体を俯瞰したコーディネート力を重視して、その武器としてデジタル技術を積極的に活用しているという共通点を持っている。
データドリブンでサプライチェーンを設計している(図表8)。
物流問題をはじめサプライチェーンのパラメーターは今後も変化する。
当初の思想と現実のギャップは時間と共に広がっていく。
環境変化とリスクに対応していくには、生産物流ネットワークやオペレーションを継続的に分析して、サプライチェーンの構造を常にアップデートしていく必要がある。
そのプロセスと組織を確立することが、今日の企業にとっての重要なアジェンダである。
EC化の進展による川下の負荷増大が注目されやすいが、物流の2024年問題による直接的な影響が最も懸念されるのは、むしろBtoBの長距離輸送であろう。
そのため多くの企業が現在、共同輸送や中継輸送拠点の確立、ドライバーによる荷役作業の簡便化、待機時間削減等の施策を進めている。
しかし、国土交通省の統計によれば、全体の輸送トン数は減少しているにもかかわらず、輸送トンキロ(トン数×輸送キロ数)は年々上昇する傾向にある(図表1)。
輸送の足が伸びているわけである。
輸送の改善のみならず、上昇しているトンキロの発生自体を抑制していくことも必要であろう。
SCMの観点から不必要な物流の発生や距離の短縮を進めるのである。
飲料メーカーで先行している「エリア需給」の取り組みが参考になる。
飲料メーカーは全国に自社および委託先を含む複数の生産拠点を持ち、全国の需要に途切れなく商品を供給するための膨大な輸送網を保持している。
季節波動が大きく、需給ギャップに対する横持ち輸送の規模は膨大であり、需要変動リスクが物流負荷に直結しやすいという特性もある。
安定供給と在庫リスク低減を両立するために物流網を効率的に運用することは同業界の元来の課題であり、昨今の物流リソース不足に対しても一早く危機感を募らせてきた。
その一環として異業種との共同配送、発注リードタイムの延長、賞味期限管理の緩和など、製・販を巻き込んだ施策が他業界に先駆けて進んでいる。
そのような一連の施策の中、「運ばない物流」の必要性に着目し、製販物一体の改革によってそれを追求する取り組みが、エリア需給である。
エリア需給とは、全国を複数のブロックに分割し、各ブロック内で需給を完結させる方向に進めることで、消費地と生産地の距離を近づけ、輸送負荷を削減していく施策である(図表2)。
とはいえ、すべてのブロックで需給を完結させるのは、設備投資・生産効率の面から現実的ではない。
委託先を含んだ総合的な生産性・資産効率の維持・向上と、長距離輸送削減の最適バランスを確保していくことが目指す姿である。
飲料業界の固有性に基づく施策に見えるかもしれないが、今後は他業界においても生産の分散化について少なからず検討が進む可能性がある。
また製販物一体となったSCMの改革例としても参考にできるだろう。
われわれアビームコンサルティングでは従来から、飲料メーカーに対してエリア需給を含む生産・物流ネットワークの最適化に関する支援を行ってきた。
その経験を踏まえて以下に、エリア需給推進のポイントを解説していく。
需給ブロックの設定と評価指標 エリア需給におけるブロックの設定は、基本的には生産拠点の立地に応じて検討することになる。
大手飲料メーカーの場合には通常、日本全体を6~8のブロックに分割している。
同業界は元来、委託生産の比重が高いこと、そして分散型生産の傾向が強いことから比較的細かい区割りになっている。
しかも、近年はエリア需給を加速させる必要性からブロック割をより細分化していく傾向が見られる。
エリア需給の効率性を測定するためのKPIは大きく「エリア自給率」「ブロック間転送量」「SCMトータルコスト」の三つである。
これら三つのKPIの変化を捉えて、市場全体を適切な数のブロックに分割して、ブロック間の最適なバランスを実現する施策を展開していくことが、基本的なアプローチである(図表3)。
このうち「エリア自給率」は各ブロックの需要量に対する自ブロックの供給能力の使用率であり、一般的な“食料自給率”と似た概念である。
算出方法は次の通りである。
自給率=(ブロック内生産量−他ブロックへの転送量)÷需要量 例えば自給率が70%の場合、70%は自ブロックの供給能力を活用して、残り30%は他ブロックの供給能力に頼っていることになる。
逆に自ブロックの生産能力を他ブロックに提供している場合には、自給率は低下する。
需要量100に対して生産能力が100あっても、そのうち20を他ブロックに供給していれば自給率は80%となる。
「ブロック間転送量」は文字通りブロック間で転送している物量である。
物流負荷の所在を特定して、ブロック間をまたがる自給率の増減要因を捉えるのに参照する。
基本的に全体の自給率が向上するほど、他ブロックの供給能力を利用する機会は減り、ブロック間転送量は減少する。
「SCMトータルコスト」は生産、保管、物流に掛かるコストの合計値である。
自給率の向上は必ずしもトータルコストと直結しない。
エリア需給の推進によって生産バランスが変化して、外部委託生産コストの追加等が発生することもあるからである。
そのためSCMトータルコストが、コストミニマム・全体最適視点で施策の価値を図るために必要な指標となる。
これまでのわれわれの経験では、各ブロックの自給率はブロック内生産能力の違いから、大量消費地・生産集積地を持つブロックでは70%近くに達する一方、生産集積地から遠方のブロックでは一桁%台であったりと、大きな幅がある。
しかし、各ブロックの自給率が均等になるように区割りをする必要はなく、各市場の個別の課題を特定して、打ち手の効果を確かめられる粒度でブロックを設定する。
エリア需給の推進に向けた具体的施策 (1)生産能力・生産品種配置の最適化 全体のコスト競争力を維持しながら自給率を向上して、物流問題の解消に向けて生産能力および生産品種の配置を最適化していくマネジメントは、委託先を含めた生産配置の見直しと中長期的な設備改編の2点が主要なポイントになる。
具体的には、「a.自社工場の稼働率と委託生産のバランス最適化」と「b.自社生産ラインの能力最適化」に取り組む。
a.自社工場の稼働率と委託生産のバランス最適化 一般に外部に生産を委託する目的は、ピーク需要を吸収して固定費を抑えることである。
しかし、今後はエリア配置の観点から外部委託生産の活用方法を見直すことが、トレンドの一つになってくるであろう。
この施策のポイントは二つある。
一つは、自給率を高めつつ、SCMトータルコストを最小化することを踏まえた中長期的な生産戦略を策定して、バランスのよい配置を決定することである。
そのために各エリアの輸送能力・輸送コストと自社工場のライン生産能力・生産可能品種を前提条件に、委託先の選定・増産パターンを複数設定してシミュレーションを繰り返し、コストミニマムになる組み合わせを特定する。
固定費が大きい自社工場の稼働率の最大化は、資本効率上、今後も重要な目標であることに変わりはない。
そのため基本的には、工場集積地から遠いブロックでは委託生産を拡大して、自社生産能力が高いエリアでは委託生産の比率を下げる方向に進めることになる。
つまり自社工場の能力を大量消費地に集中させることになる。
ポイントの二つ目は、外部委託先を戦略的なパートナーとして位置付け、パートナーが安定的な供給能力を発揮できるような環境を提供することである。
現在の状況では物流支援策を委託先とのアライアンスに組み込むことが必要である。
昨今の物流事情により、委託先も車両の調達には苦慮しており、適時輸送が困難になっている。
特にエリア需給視点では、生産能力の空白地域を埋めるため遠方の委託先を選定することになり、委託先が物流困難地域に立地しており、作っても運べないという状況が発生しやすい。
そこで、ピーク期に先行して委託先から在庫を預かるようにして、自社の物流ネットワークの輸送量が平準化するように在庫輸送を引き当てることで、トータルの供給能力を確保するといった手立てが有効になる。
b.自社生産ラインの能力最適化 長期的には、下記のような自社工場の能力改編を行う。
そのために、中長期の設備投資計画にエリア需給を組み込む。
⃝生産稼働時間・シフトの見直し(能力増強) ⃝生産ライン新造(生産可能品種の追加・能力増強) ⃝生産ライン改編(生産可能品種の改廃) 短期的な計画の最適化による限界を見極め、真に生産能力が必要なエリアと工場を特定して、優先度を明確にすることが必要である。
その場合、ラインの生産能率と稼働時間を目的関数として組み込み、稼働率によってコスト効果が変動するシミュレーションの仕組みを構築すると、コストミニマムと輸送制約の最適バランスを見付けやすくなる。
また、製品戦略とその進捗によって、最適な設備プランは時間と共に変化していく。
食品業界であれば、容器の環境対応や食品ロス対応などから新たな条件が加わることも想定されるであろう。
物流事情のみならず、戦略・環境変化を踏まえた生産ラインの改廃計画立案が求められる。
そのために後述する継続的な分析・シミュレーションが必要になる。
(2)在庫・物流拠点の再配置と需給オペレーションの見直し 生産体制の整備と連動して、物流体制の整備が必要であることは、前段でも触れた通りである。
ただし、個別の生産の改編にその都度、物流体制を合わせていくというアプローチでは、全体最適を欠いてしまう恐れがある。
在庫と物流リソースの配置を戦略的に検討していく必要がある。
やはりポイントが二つある。
「a.在庫配置の上流から下流への移行」と、「b.新しい在庫基準・補充基準の設定」である。
a.在庫配置の上流から下流への移行 このテーマの前提として踏まえておくべきトレンドがある。
昨今の物流リソース不足によって、見込み生産型の製造業で従来は基本系とされてきた在庫の上流配置・マザーセンター型の物流モデルが適用しにくくなっているということである。
従来は、実需に対応して柔軟に生産のアクセル・ブレーキを踏むために、サプライチェーンの上流で在庫を厚く持ち、需要発生タイミングで前線の倉庫(フロントDC)に適時輸送することがベストプラクティスとされていた(図表4の上段)。
しかしながら、車両調達の困難化に伴い、ピーク期の適時・大量輸送が難しくなっている。
特に季節波動の大きい業界でそれが顕著となっていることから、在庫を川上から川下に移す“先送り”が行われている。
ピーク時の車両調達リスクを回避し、輸送能力が調達しやすい時期に在庫を前線の倉庫に送り込むという戦術である。
また、エリア需給を進めると、生産拠点と消費地の距離は短くなるため、上流・下流という従来の捉え方が適切ではなくなってくる。
このような背景により、消費地に近い場所に大型の在庫拠点を構えるモデルがトレンドになりつつある(図表4の下段)。
b.新しい在庫基準・補充基準の設定 一方、下流配置型に移行する場合には、需要変動があった時の在庫リスク対策を考えておかなければならない。
われわれの支援事例においても、先送り後に需給変動が起きた結果、在庫の横持ちが膨れあがるという事態に直面したことがあった。
さらにはピーク期に倉庫の面積が足りなくなり、外部倉庫の借庫を増やしたことが、需給変動時のダメージを広げてしまうということも起きた。
エリア需給による供給構造の変更に対して、物流の仕組みを変えていく必要があることを示した事象であった。
このような問題への対策として、上流配置か下流配置かという2元論ではなく、ハード面とソフト面の両面を考慮した保管・輸送体制を整えるべきである。
ハード面においては前述の通り、消費地に近い位置に上流の在庫保管分も含めて一定の保管能力を持つDCを配置していくことが基本戦略となる。
一方で在庫リスクについては、エリアの特性に応じた在庫基準を明確化して、補充オペレーションを最適化する。
すなわちソフト面で対応するわけである。
エリアによって当然ながら自給率は異なり、輸送のひっ迫の度合いも輸送ルートによって異なる。
それなのにエリアの特性を考慮せずに、画一的な在庫基準や補充基準を用いてしまうことが、不必要な先送りを招いてしまう。
新しい在庫基準・補充基準をエリア需給の推進と共に整備することが必要である。
また、上流配置は完全に止めてしまうのではなく、先送りの基準を作り、不必要な補充とフロント側DCのオーバースペック化を抑制することが重要だ。
保管拠点のサイズ超過は需給の規範を緩め、横持ちや在庫リスクを増大させる要因になる。
エリアに応じた適切な拠点のサイジングが必要である。
継続的なシミュレーションの実施 エリア需給を推進する企業に対する、われわれの生産・物流ネットワーク分析の支援事例を交えて、前述の施策を深化させていく上で必要なシミュレーションの活用方法について説明したい。
単なる実態の可視化だけで、複雑かつ広範なネットワークから課題を特定するのは難しい。
そのため、われわれは製造拠点や物流拠点の配置や能力などの現状のアセットや、物流条件・コスト・在庫基準などの条件をモデル化して、生産~物流が最適に動いた場合の結果をシミュレーションすることを推奨している(図表5)。
現状と最適化結果を定量的に対比することでギャップを捉え、課題を抽出するというアプローチである。
ただし、シミュレーション結果と施策の実現性は別問題なので、現実とのギャップを生んでいる要因を深掘りした上で、課題を抽出することが大切である。
現状のアセットの下で供給計画を見直すことによる、改善のポテンシャルをシミュレーションによって捉えることができる。
個別事例では、輸送能力を制約として、各エリアの供給能力の使い方を変更して、ブロック間の転送量を削減することで、エリア需給率を全国平均で約10ポイント向上、ブロック間転送量を約25%減少といった効果を得ている。
⃝中期的な生産計画の最適化シミュレーション 図表6は現状の生産能力の制約下において、どこで・何を・どれだけつくるのが理想であるのかをトータルコスト最小化の視点でシミュレーションしたものである。
エリア間の動きを意図的に抑制する条件は付けていない。
それでもコストミニマムとエリア自給率が連動する結果を得ており、生産調整の余地があること示している。
このシミュレーションによって、現状のアセットの限界点も明確になる。
たとえば、同一アイテムを複数ブロックで生産する体制を取っているにもかかわらず、ブロック間で製品を送り合っている箇所が見えてくる。
これはいくら生産計画を最適化しても、現状の生産能力では対応しきれないことを示すものであり、該当製品に対するライン改編あるいは委託化を検討することになる。
⃝自社生産・委託生産のバランスに関する分析 図表7は、自社工場・委託工場を横断して、生産量の再配置を品種ごとに分析した資料である。
シミュレーションの結果、ある品種では地方ブロックの増産を進めて、全国の中間位置にある委託工場の生産量を削減することでバランスが改善されることが分かった。
内製よりも委託の方が生産コストは高くなる。
そのため輸送面と生産面のトレードオフを考慮して、エリア需給とトータルコストミニマムの二つの視点から、委託生産の活用エリアを見直す余地を特定した。
⃝生産設備改編計画の検証 工場の稼働率向上・生産コスト最小化に向けた将来の設備能力の仮説を立て、シミュレーションによりその効果を算出する。
将来的な成長目標から需要と生産能力のギャップを捉え、どの製品に対してどの工場の能力を拡張すべきなのか、委託生産を内製化に切り替えるコスト効果も考慮して算定する。
将来的な製品戦略や物流能力の推移も踏まえて、投資価値を定量的に示すことができる。
シミュレーションが意思決定のスピードと確実性を高めることに寄与する。
⃝在庫拠点の立地とサイジングの分析 将来の生産体制の最適化分析と並行して、DCの立地とサイズの最適解を確認する。
エリアの需要分布を与件として、必要なセンターの立地と数、優先度を求める。
さらにはエリア需給体制の下、新センターがどのように機能するのかを確認して、保管機能・通過物量に合わせたサイジングの基礎情報を得る。
継続的にサプライチェーンを更新する 物流リソースの不足が深刻になるにつれて、供給構造を見直すことが必要になってくる。
その際には、エリア需給のように、物流の前提自体を変える取り組みが必須になる。
また、ネットワークの物理的な構造と共に、オペレーションの制約や基準も見直していかなければならない。
このような複雑に絡み合う問題を解くには、データを活用したシミュレーションが不可欠である。
経営層や関係部門に定量的な分析を、仮説と共にロジカルに示すことが成功の要因となる。
しかしながら、エリア需給をはじめとする供給構造の見直しを物流部門が訴求しても合意形成は容易ではないであろう。
実際にエリア需給を推進している企業は、経営レベルでサプライチェーン全体を俯瞰したコーディネート力を重視して、その武器としてデジタル技術を積極的に活用しているという共通点を持っている。
データドリブンでサプライチェーンを設計している(図表8)。
物流問題をはじめサプライチェーンのパラメーターは今後も変化する。
当初の思想と現実のギャップは時間と共に広がっていく。
環境変化とリスクに対応していくには、生産物流ネットワークやオペレーションを継続的に分析して、サプライチェーンの構造を常にアップデートしていく必要がある。
そのプロセスと組織を確立することが、今日の企業にとっての重要なアジェンダである。
