2023年8月号
特集

国内回帰・国産回帰に関する企業動向調査

国内回帰が大手から中小に拡大  昨年の後半以降、日本の大手企業が国内市場向け製品の生産拠点や調達先を、海外から国内に移管するとの発表が相次いでいる。
 アパレルメーカーのワールドは、デパート向け商品の国内生産比率を2021年の35%から90%に高める方針を打ち出した。
生活用品メーカーのアイリスオーヤマは、中国で生産していた日本向けプラスチック製の衣装ケースなど計約50品目の生産を22年秋より日本国内の三つの工場に移し始めた。
 電気業界ではパナソニックが、22年に掃除機の生産の一部を中国から国内に移した。
さらに23年度からは一部の国内向け家庭用エアコンの生産も中国から順次移管すると発表している。
JVCケンウッドも22年1月より日本向けカーナビの生産を、インドネシアや中国から日本へ移し始めた。
また同社は23年3月に車載用機器の開発機能をシンガポールから国内に移管している。
 「国産回帰」についても、セブン─イレブン・ジャパンが商品の品質の向上および持続可能な調達を目的に、「カップうどん」に使用する小麦を22年9月にすべて国産に切り替えた。
これらの取り組みはほんの一例に過ぎない。
 経済産業省は、サプライチェーンの強靭化を目的に、生産拠点の集中度が高い製品や、国民が健康的に生活を営むうえで重要な製品を手がける事業を対象に、生産拠点の国内回帰支援策を実施している。
20年度に「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」を設け、20年度補正予算で1次公募を開始、22年の3次公募までに総額5千億円超の予算を投じた。
 1次公募では、補助金予定額1600億円の10倍を超える計約1兆7640億円・1670件の応募があり、最終的に146件(約2478億円)が採択された。
続く2次公募(21年)では280件の応募に対して151件(約2095億円)、3次公募では256件の応募に対して85件(約974億円)がそれぞれ採択される結果となった。
 同政策において「生産拠点の集中度が高い製品・部素材」に挙げられたのは、半導体関連や航空機関連、電動車関連、洋上風力発電関連などである。
そうした事業を国内回帰させることで、さまざまなリスクによって海外の生産ラインがストップしてしまった場合でもサプライチェーンが寸断されないようにすることを狙う。
 他方、「国民が健康な生活を営むうえで重要な製品・部素材」の対象となったのは、消毒用アルコールやサージカルマスク関連など新型コロナ対策のものが中心だった。
また、3次公募では「ウクライナ情勢の影響を受ける原材料等の安定供給対策等のための生産拠点等の整備事業」も対象となり、半導体製造プロセス用ガス関連事業などが採択された。
 さらに23年度には、中堅・中小企業を対象とした「事業再構築補助金」に「サプライチェーン強靱化枠」が新設された。
海外で製造する製品等の国内回帰を進め、国内サプライチェーンの強靱化および地域産業の活性化に取り組む事業者を補助するものである。
対象は過去と今後のいずれか10年間において、市場規模が10%以上拡大する業種・業態に属している製造業に限られるが、先の「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」と比べて範囲が広くなっている。
 こうした政府の支援策によって、今後は国内回帰の動きが大手だけでなく、中小を含めた産業全体に広がっていきそうだ。
国内回帰はサプライチェーンの強靭化のみならず、国内における雇用の創出、生産ノウハウの蓄積、技術革新を導き、国内企業の競争力向上につながると期待されている。
4社に1社が「回帰」を実施/検討  帝国データバンクは22年12月に「国内回帰・国産回帰に関する企業の動向調査」(以下、「TDB国内回帰調査」)を実施した。
全国の2万7163社を対象として、1万1680社の有効回答を得た(本調査の詳細は「景気動向オンライン https://www.tdb-di.com」を参照)。
 同調査によると、海外生産・調達等をしている中小企業を含めた3507社のうち、海外拠点や調達先の国内回帰や第三国へ移転、国産品への変更など、既に何らかの対策を「実施/検討している」企業は40・0%に上った(複数回答、以下同)。
「生産や調達の国内回帰または国産品への変更」を実施/検討している企業に限っても24・6%と約4社に1社を占めた(図表1)。
 また「海外にある製造委託先を国内へ変更」が4・0%、「海外にある自社の海外拠点をすべて国内へ移転」が0・9%、「海外にある自社の海外拠点の一部を国内へ移転」が1・8%と、生産の国内回帰」に該当する項目のいずれかを選択した企業が計6・2%あった [1] 。
 このほかは、「海外拠点を一時停止」が0・9%、「海外拠点の分散、多様化」が6・9%、「上記以外の対策を検討」が11・6%であり、「対策を実施/検討していない」は60・0%だった。
 「対策を実施/検討している」企業を主な業種でみると、特に建設業、アパレル卸売業で、国内回帰・多様化や国産品への変更を実施/検討している割合が高い。
「建設」「繊維・繊維製品・服飾品卸売」はいずれも47・0%と、全体の40・0%を7・0ポイント上回っている。
 建設業界の企業からは「海外拠点の縮小を考えている。
材料の調達についてはケース・バイ・ケース」(土木工事)、「海外から国内への移転ではなく、完全な撤退・廃止を検討している」(築炉工事)などの声が聞かれた。
 また、大手による国内回帰の動きが目立つアパレル業界からは、「中国製品の価格が上昇してきた。
調達先を国内に変更すれば、早く、小ロットで作れる」(衣服・身の回り品卸売)などのコメントがあった。
 ほかにも、「化学品製造」(46・2%)や「建材・家具、窯業・土石製品卸売」(45・5%)は全体より5ポイント以上高くなっている。
「国内・海外の一国だけに限定せず、複数のサプライチェーンに分散化することが必要だと思う」(工業用ゴム製品製造)との声をはじめ、生産拠点の多様化に前向きな様子がうかがえた。
脱・中国依存を6社に1社が実施/検討  エリア的には、中国依存からの脱却を目指す動きが目立っている。
中国に進出している企業のうち約6社に1社が拠点の国内移管・分散などを実施/検討している。
 TDB国内回帰調査の回答企業の進出先を帝国データバンク「国別海外進出企業データ [2] 」を用いて確認したところ、中国への進出が明らかになっている日本企業のうち15・9%が自社拠点の国内回帰または多様化、一時停止を実施/検討 [3] していることが分かった。
 なお、日本企業の進出先として中国は現状で第1位であり、2位がアメリカ、3位がタイの順 [4] であるが、アメリカに進出している企業のうち拠点の国内移管・分散などを実施/検討していると回答した企業は5・0%、同様にタイは8・8%であり、中国と比べて低いレベルにとどまっている [5] 。
 企業からは「中国での製造をベトナムに切り替えるように現地調査を実施して、発注を予定。
予想以上にベトナムの製造能力が上がっている。
すでに米国のアパレル系サプライヤーはベトナムに切り替えていることを確認した」(がん具・娯楽用品卸売)といったコメントがあった。
 他方、「中国との分断は経済的にあり得ないが最低限のリスク分散をしている」(包装用品卸売)というように、脱「中国依存」に難しさを感じている声も複数あった。
「国内回帰」する理由、できない理由  TDB国内回帰調査において、海外調達あるいは輸入品を利用しており、対策を実施/検討している企業1403社にその理由を尋ねた。
その結果、「安定的な調達」が52・7%で最も高かった(複数回答、以下同)(図表2)。
 「中国のOEM先の工場で生産を行っているが、ゼロコロナ政策で工程が組めず、納期が全く読めない状況が続いた」(輸送用機械器具卸売)などの声が聞かれ、サプライチェーンの混乱などを背景とした仕入数量の確保難を解消し、安定調達を目的に国内回帰などを実施/検討している企業が半数を超えた。
 次いで、輸入材価格や輸送費の上昇など「円安により輸入コストが増大」が44・6%だった。
「金属部品の業界では、品質がより良い国産品の価格が輸入品と変わらなくなっているため、すでに国産品への切り替えが行われている。
ただし円安が解消されればまた海外からの調達が増えると思う」(一般機械器具卸売)とあるように、輸入価格の上昇に加え、「品質重視」(24・3%)を理由にしている企業もみられた。
 以下、「リードタイムの短縮」(21・6%)のほか、ロシア・ウクライナ情勢や台湾有事など「地政学的リスクが増大」(21・0%)も約2割となった。
また、「人件費の上昇で、海外での生産コストが上昇」は14・1%と、海外移転の一つの背景であった「海外の人件費の相対的な安さ」というメリットが薄くなっている可能性が示唆された。
 一方、海外調達あるいは輸入品を利用しているが、対策を実施/検討していない企業2104社に対してもその理由を尋ねた。
その結果をみると、やはり「安定的な調達の継続」(48・9%)が最も高く、半数近くにのぼった(図表3)。
 これまで日本企業は人件費など生産にかかるコストの削減や販売の拡大を目的に生産拠点の海外移転を行ってきた。
経済産業省「海外事業活動基本調査」によると、製造業の売上高に占める海外現地法人の割合を示す海外生産比率(国内全法人ベース)は00年度の11・8%から2021年度には25・8%まで上昇して2倍以上に拡大した(図表4)。
 21年度の海外生産比率は、米中貿易摩擦などの影響がみられた19年度および新型コロナの影響が大きかった20年度における低迷から回復した。
1年前からの上昇幅は2・2ポイントであり、生産比率は調査開始以降で最高水準となっている。
 他方、海外設備投資比率はピーク時の13年度に29・4%まで拡大して以降低下が続いた。
近年は横ばい傾向となっていたが、直近の21年度は20・8%となり1年前から1・4ポイント上昇した。
 海外の生産設備に投資してきた分だけ、現地には生産能力は蓄積されている。
そのため、簡単に国内へ移転させることはできず、国内回帰をしない方が引き続き安定的な調達ができると考えている企業が半数近くに上ったわけだ。
 「安定的な調達の継続」の次に多かった理由は、「海外からの調達または輸入品の方が安い」(34・1%)だった。
円安や運送費の上昇などにより、輸入品の価格は上昇しているものの国内で生産するものよりもまだ安価な状況がうかがえる。
 自社生産拠点を持っていない企業からは、「国産材の利用を進めようと努力しているが、供給数量、価格等で輸入品にかなわない」(木材・竹材卸売)との声が聞かれ、国内回帰/国産回帰をしたいものの、国内における生産能力やコストの問題などによりなかなか進めることができない企業が一定数存在した。
 ほかにも、「品質重視」(15・5%)、人件費・輸送費などの「生産・調達コストが増える」(10・5%)などが国内回帰等を講じない理由の上位に並んだ。
現場の人手不足が国内回帰の障壁に  仮に国内生産拠点の設備が整っていたとしても問題点は依然として多い。
第1に生産現場の人手不足である。
TDB国内回帰調査には、「国内工場は人手不足や高齢化が進み、国産品の場合は材料の在庫不安が大きい。
国内回帰したいと思っているが、工場で働きたいと考える人も少なく、働かざるをえない人の労働意欲も低いと考える」(衣服・身の回り品卸売)などのコメントが寄せられていた。
 第2は、物流現場の人手不足である。
モノの輸送がスムーズにできないという問題を指摘できる。
 帝国データバンク「TDB景気動向調査」では毎月、従業員の過不足感を測る「雇用過不足DI(0~100で50を下回れば人手が過剰、上回れば不足)」を算出している。
これによると「製造業」および「運輸・倉庫業」の雇用過不足DI(正社員)は、20年後半より不足感が強まる傾向にあり、今年5月には「製造業」が55・9、「運輸・倉庫業」が63・2と、いずれも過不足感の判断の分かれ目となる50を大きく超えている(図表5)。
 特に運輸・倉庫業は全体(59・6)より3・6ポイントも高い。
トラックドライバーの時間外労働に上限規制がかけられる「2024年問題」が迫るなか、物流現場の人手不足は今後さらに深刻化すると予想される。
 実際、TDB国内回帰調査では、物流企業から「国内回帰で仕事が増えることに期待したい」や「国内回帰の動きが国内市場の活性化、荷動きの増加などの経済好循環につながることを期待している」(ともに一般貨物自動車運送)といった声が聞かれた。
物流の増加にともなう需要増への期待が運輸・倉庫業で高まっている。
 しかしながら、「円安が進行しており国内回帰のメリットは増しているが、当業界では働き方改革の進みが速く、当社が希望する納期通りに仕事を終えることができない状況にある。
そのため、国内回帰して物流量が増加しても対応が難しい」(内航船舶貸渡)などの声もあがっており、人手不足に対する懸念が強まる様子がうかがえた。
 問題点の第3は、国内にも自然災害の発生や感染症の拡大、電力供給の不安など生産活動の支障となるさまざまなリスクが潜んでいることだ。
内閣府が発表した「平成24年度 年次経済財政報告(経済財政政策担当大臣報告)」によれば、11年3月に発生した東日本大震災により、企業の約7割がサプライチェーン寸断の影響を受けた。
 また、経済産業省が発表した「2022年版 ものづくり白書」によると、地政学的リスク・社会情勢の変化により企業が影響を受けた事業活動について、「国内からの調達」は58・9%と6割近くが影響を受けている。
他方、「海外からの調達」は65・5%と、国内からの調達よりも高いが、海外・国内の間にそれほど大きな違いはなかった。
さらなる強靭化政策、DX推進政策を  これまで日本でみられてきた国内回帰の動きは「円安」が主な背景だった。
しかし、ここ数年のそれは地政学的リスクや新型コロナによる影響に円安の進行が背景として加わっている。
そのため今回の国内回帰の動きは従来よりも進展の度合いが大きくなることが予想される。
 円安基調が続くなか一部では、日本市場向けのみならず、海外向けの生産を国内に戻して輸出するといった動きを期待する声もある。
しかし、リードタイムの長期化や移転コストなどのデメリットを考えると現実的とはいえず、今回の国内回帰は国内市場向けが中心となるだろう。
しかも、これまで見てきた通り、国内回帰にはその障壁となるさまざまな問題も存在している。
 米中貿易摩擦やウクライナ情勢、さらには台湾有事などの地政学的リスク、自然災害、感染症の拡大による生産活動の停止など、サプライチェーンにはさまざまなリスクが依然として潜んでいる。
そのリスクを軽減させる手段は必ずしも国内回帰だけではない。
むしろ、国内における非常事態も想定して拠点をグローバルに分散・再配置することも一案だろう。
政府もASEANなど第三国への生産拠点の多元化を支援する「海外サプライチェーン多元化等支援事業」を設けるなど、対策を強化している。
 それと同時に、人手不足問題への対応策として、ロボットやIoT、AIなどのデジタル技術を活用した業務の自動化や省人化の推進も欠かせない。
それによって人件費の抑制や生産性の向上といった効果を期待できるだけでなく、女性や外国人など多様な人材を活用する道が拓ける。
 政府や行政には今後もサプライチェーンの強靭化に向けて、国内回帰および生産拠点の分散、多様化を支援する政策の継続・強化が求められる。
ただし、支援の対象は、長期的な産業競争力の強化という観点から、高い成長性が見込まれ、新たな価値を生み出すことのできる分野に絞るべきである。
 デジタル技術や今までなかった新しいテクノロジーを、国際競争力の向上につなげていくことも欠かせない。
デジタル化・DX推進に向けた政策が、サプライチェーン強靭化のためにもますます求められよう。
脚注 [1]『生産の国内回帰』は、「海外にある自社の海外拠点をすべて国内へ移転」「海外にある自社の海外拠点の一部を国内へ移転」「海外にある製造委託先を国内へ変更」のいずれかを選択した企業。
『生産や調達の国内回帰または国産品への変更』は『生産の国内回帰』「調達先を海外から国内へ変更」「輸入品から国産品へ変更」のいずれかを選択した企業。
「対策を実施/検討している」は『生産や調達の国内回帰または国産品への変更』「海外拠点を一時停止」「海外拠点の分散、多様化」「上記以外の対策を検討」のいずれかを選択した企業 [2]「国別海外進出企業データ」は帝国データバンクが提供するパッケージ型商品。
事業所、または関係会社(何らかの資本・人的関係があると判断できる企業)が指定国に存在する日本企業のリストデータ [3]『自社拠点の国内回帰または多様化、一時停止』は、「海外にある自社の海外拠点をすべて国内へ移転」「海外にある自社の海外拠点の一部を国内へ移転」「海外拠点を一時停止」「海外拠点の分散、多様化」のいずれかを選択した企業 [4]日本企業の進出国ランキングは外務省「海外進出日系企業拠点数調査 2021年調査結果」より [5]「国別海外進出企業データ」上で複数の国に進出した企業を除き、「中国」「アメリカ」「タイ」それぞれ一国のみに進出している企業のみを対象とした

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから