2023年8月号
特集

海外論文 リショアリング(自国回帰)最新文献レビュー

オフショアリングからの転換  バリューチェーンの海外へのオフショアリングは、オペレーションやSCMから国際取引まで、幅広い分野の研究者が長年注目してきたテーマである。
 アウトソーシング、あるいは海外直接投資という形をとるオフショアリングとは、企業がバリューチェーンのアクティビティ(業務)を自国から海外へと移転させることであり、コスト削減・収益拡大・現地事情やノウハウの習得・柔軟性の向上などを目的とする。
 オフショアリングではアクティビティを細かく分けて海外へと移し、異なるロケーションだからこそ得られる分業の利点や優位性を活用する。
そしてアウトソーシング(外部化)および「キャプティブオフショアリング」(現地に子会社を設立するやり方)は、オフショアリングを補完する戦略だ。
一般に外部化は、自社よりも高い価値を創造する専門的なサプライヤーが存在し、しかもそれがコアビジネスではない場合の選択肢といえる。
 しかしながら近年、そのオフショアリングを見直す動きが拡がっている。
多くの研究者は、バリューチェーンアクティビティのうちでも、特に生産活動を自国または自国周辺地域へと回帰させる事例を指摘しており、それを「リショアリング」と呼んでいる。
この傾向はとりわけ欧州と米国において顕著である。
 オフショアリングという従来の方針を撤回してリショアリングへと動く理由としては、進出相手国における品質の低下、戦略の転換、外部環境の変化などを挙げることができる。
 リショアリングを実施するには、当然ながらそれに先立つオフショアリングが前提となる。
そのオフショアリングで得られていた良好な環境・学習機会・効率性・柔軟性等の潜在的メリットが、何らかの原因によって失われてくる。
すると例えば、管理の強化や立地に由来する諸問題の解決、あるいはリショアリングという新たな戦略から得られる新たな利益を見越して、企業はアクティビティを自国へ回帰させるという選択肢を検討し始めるわけである。
 その背景には、近年の貿易戦争・武力紛争・パンデミックといった世界的出来事に加え、ナショナリズムの高まりや物流費の高騰などがある。
 またリショアリングは、品質やその他の問題への対症療法としてだけではなく、レジリエンスを強化してサプライチェーンの機能不全を回避する予防的戦略としても勢いを増していくものと思われる。
したがって、グローバルサプライチェーンにまつわる従来からの(および潜在的な)脆弱性に対処しなければならない企業にとって、自国もしくは自国周辺地域市場へのリショアリングは、結果として魅力的なオプションになり得る可能性をもっているのである。
 リショアリングについては数多くの研究論文が発表されている。
それらはリショアリングの背景にある動機や阻害要因、あるいはデジタルイノベーションや持続可能性といったリロケーションを促す要因を対象とした研究から、方法論的アプローチ、特定の産業に的を絞った研究のレビューまで、その範囲は多岐にわたる。
 しかしながら、現時点でこの現象についての文献をある程度網羅的に調査した研究は、57の論文を対象とした1件だけ(Barbieri et al.,2018)であり、しかもこれには2017年以降に発表された膨大な数の論文は含まれていない(図表1)。
 次々と発表される論文は、リショアリング研究の基礎として多大な貢献を果たしている。
しかしこれらはどれも網羅的とは言い難く、シナリオが変わりつづける昨今のグローバルビジネスを鑑みれば、極めて動きの速い現象であるリショアリングの全体像をとらえ切れていない。
そこで本稿では、リショアリングに関するタイムリーな概況と研究の現状を読者に提供することを目的としたい。
 本稿は135件に及ぶ先行研究を基にしている。
これらの分析から、われわれはリショアリングの(ⅰ)動機、(ⅱ)外的要因、(ⅲ)意思決定、(ⅳ)実施、(ⅴ)成果という5項目からなるフレームワークを提示し、既存の研究を整理しながら議論を進めて行くことにする。
リショアリングの動機  リショアリングという決断の背後にあるさまざまな理由を解明することは、学術的に最も注目されている分野である。
企業のこうした取り組みの背景にあるものとして、先行研究では一般に次の3つの理由が挙げられる。
 まずリショアリングに至る前提として、当然ながらオフショアリングとの関係性が問われることになる。
つまり、オフショアリングとリショアリングの関係性について、先行するオフショアリングにまつわる弱点がリショアリングの引き金となる、という観点から分析がなされる。
 こうした文脈の具体例としては、事前の費用算定の詰めの甘さに起因する「隠れコスト」や、オフショアで経験する品質問題などがある。
リショアリングとそれに先立つオフショアリングの関係性については、こうした動きの根底にあるそもそもの要因が、移転後どのように変化していくかに焦点を絞った研究もいくつかある。
 次に、進出相手国の状況変化への対応という側面がある。
オフショアリングが、進出先の環境に何らかのビジネスチャンスがあることによって促進されるとするなら、もしその環境に変化が生じれば、企業はオフショアリングを一から見直し、結果としてリショアリングという決断に至ることもあるだろう。
環境変化とは例えば、本国と進出先のコスト面での差が縮小する、現地でのリソース入手が不可能になる、成長の機会が失われるなどである。
 3つ目は自国でノウハウが失われるリスク、顧客の不評の高まり、政府の政策転換など、いずれにせよ自国に直接関係する要因である。
また、競争戦略再構築の一環として、海外事業の一部を国内回帰させることもある。
同様に、サプライチェーン戦略の転換が、より高度なレジリエンス・柔軟性・品質や、“made in”効果に頼る必要性を生じさせることもしばしばである。
リショアリングの外的要因  多種多様な外的要因がリショアリングの各局面、とりわけ意思決定に影響を与えることが知られている。
1つは各企業レベルの要因である。
すなわち企業の規模、移転する製品のタイプ、市場セグメント、産業構造などがリショアリングの方向性を決定したり、あるいは制約条件になる。
特に、企業規模・産業構造・歴史的発展に関連するコンピテンシーは、リショアリングの基礎的条件であり、意思決定とその成功に直結することになる。
 だが、企業に関係する要因だけが重要というわけではない。
外部環境の変化もリショアリングの大きな動機であり、オフショアリングのパフォーマンスに大きな影響を与える。
業界あるいはグローバルレベルの外的要因(専門的な才能・サプライヤー・熟練労働者の活用、金融危機、昨今のパンデミックによるサプライチェーンの混乱、持続可能性への懸念、現地へ投資を呼び込むための政策など)のすべては、リショアリングのあらゆる側面に影響を及ぼすことになる。
リショアリングの意思決定  リショアリングの意思決定はこれまで、主にロケーション・ガバナンスモード・範囲という3つの側面に即して論じられてきた。
まずロケーションについてだが、オフショアリングの原理的説明とまったく同様に、リショアリングという動きは、当初から地理的要素が中心的な要素として説明されてきた。
 Fratocchi et al.(2014)は、リロケーションの最終的な移転先次第でそれぞれ状況が異なるとして、移転先が自国内の場合は「バックショアリング」、自国周辺は「ニアショアリング」、自国からはるかに離れることを「オフショアリング」と、3種に明確に区別している。
 リショアリングに関する研究論文は、自国への回帰という動きのみか、もしくは自国および自国周辺地域へというものが大半であったが、最近では後者の2つの選択肢の間の違いや、特定のソリューションが必要となる諸条件に焦点を当てた研究も現れてきている(Merino et al., 2021)。
 リショアリングの意思決定に関する2つ目は、進出先と自国で採用される調達モードについてである。
これは「作るか、買うか」という選択肢を意味しており、4つのバリエーションがある。
 海外で自社生産していたものを自国での自社生産に切り換える、そして海外でアウトソーシングしていたものを自国内でのアウトソーシングにするという場合、調達モードに変化はない。
一方、海外で自社生産していたものを自国でのアウトソーシングに変えるのと、海外でアウトソーシングしていたものを自国で自社生産する際には、調達モード自体が変化することになる。
こうした調達方法の違いにより、組織形態は全く異なるものになる。
 オフショアリングの場合は、企業の効率を向上させる重要戦略であるアウトソーシングとともに分析されるケースが多いが、リショアリングの調達モードは、極めて多様であり複数のさまざまな要因に左右される。
特にリショアリング時の調達戦略については、オフショアリング時の経験、社内のリソースやコンピテンシー、サプライヤー等の状況次第で決まるため、リロケーションに伴って内製化するかサプライヤーに頼るかは千差万別である。
 アクティビティをどこへどのようにしてリショアリングするかというテーマもさることながら、何を移転させるかというのも基本的な要素である。
 リショアリングとは、生産その他アクティビティの移転という意味合いであるが、その範囲は極めて限られたものから全面的なリロケーションまで、無数の段階があり得る。
オフショアリングが、企業のグローバルバリューチェーン(GVC)の細分化を招来することがあるように、リショアリングもまた、特定のアクティビティだけを対象とするケースがある。
 したがってこういったリロケーションは、高度に「選択的」であるだけでなく、グローバルサプライチェーンの大がかりな再編成の一部となり、そこではあるアクティビティは本国へと回収され、それと並行して他のアクティビティはオフショアへ転出するケースなどもある。
 リショアリングの意思決定プロセスにおけるダイナミクスを調査した文献も、少数であるが存在する。
こうした研究では、利用可能かもしくは実行可能な代替案の分析、あるいは多岐にわたる事前のリスク分析や費用便益分析の重要性、などが強調されている。
 またGrey et.al.(2017)は、リショアリングという意思決定が、母国への愛着や特定の工業地区への帰属意識といった個人的な感情や思い入れ等、ヒューリスティクス(発見的方法)や浅慮にもとづくケースがあることを指摘している。
リショアリングの実施  意思決定後の実施段階は、これに先立つオフショアリングの際と同様、アクティビティの解体・移転・再統合を特徴とする、バリューチェーンの再編成としてとらえることができる。
自国や自国周辺地域への移転と直接関係するこのフェーズは、意思決定の内容次第でがらりと変わってくる。
リロケーションの目的や範囲、そして両国での調達方法などによって、企業内の再編成のレベルは多種多様となるのである。
 初期段階で重要なのは、リショアリングをサポートする態勢を整えることである。
ここで企業は、利用可能なリソースとコンピテンシーを評価し、移転プロジェクトに取り組む準備ができているかどうか判断し、本国への統合を見据えたトレーニングプログラムを組む。
 この再編は、両ロケーションで採用される範囲や調達方法によって変わり、オフショアにおけるさまざまなタイプの事業売却、製造キャパシティの解体、ビジネスネットワークの変革などに及ぶが、両国で生じる市場の変化にも影響を受けることになる。
先行研究では実施フェーズについて、潜在的な障壁、迅速あるいは段階的な移行、立ち上げに要する期間、ビジネスネットワークなどが、実施に必要な前提条件(または障壁)として指摘されている。
リショアリングの成果  リショアリングの直接的な成果を扱った論文は、オフショアリング時と比較した場合のパフォーマンス、移転プロジェクトを推進する動機とその効果などを、プロセスおよび企業レベルで調査したものがいくつか存在するのみである。
 Johansson et al.(2019)は、オフショアリングおよびリショアリングに至る要因とその効果について検証を行っている。
通常、オフショアリングの理由は、安価な労働力によるコストの効率化にある。
一方で自国への再移転は、特別なコンピテンシーの必要性や市場近接性によるものであり、それらが高品質の製品、柔軟性、物流コストの削減につながる。
 リショアリングによる企業のパフォーマンスの変化について、確かなことを言うのは難しい。
しかしながら大企業の場合、再移転するのが業務のほんの一部であったとしても、リショアリングの発表が株価にプラスに働くこともある。
 異なる文脈からリショアリング効果を評価する研究も紹介しておこう。
例えばグローバルバリューチェーン(GVC)という観点からは、リショアリングによってサプライチェーンアクティビティの高度な管理ができるようになり、それがGVCをアップグレードする契機となり得る。
それと同時に、リショアリングの意思決定は、その企業の取引先も含めたネットワーク全体がかかわるが、移転の影響を受けてそのプロセスも変化していくことになる。
 さらにGrappi et al.(2020)は、リショアリングに対して社員の示す反応はポジティブなものであり、それが組織にとってプラスに働くという分析を行っている。
彼らはさらに、リショアリングには消費者に対する効果も期待できるとしている。
特に、自国への回帰という戦略が、消費者のエスノセントリズム(自国中心主義)に訴えかけ、さまざまな感情的共感を得られるとして、リショアリングを決行した企業を愛顧する消費者の性向や行動を「消費者のリショアリング感情」と名付けている。

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