2004年8月号
経営講義

物流子会社にとっての3PL

多摩大学大学院CLOコース AUGUST 2004 30 3PLへの失望 物流子会社であるか否かにかかわ らず、ひと頃、物流改革の究極の決 め手として誰もが口にしたのは、アウ トソーシングによる「3PL」であっ た。
ところが、この3PLに対するか つてのような熱気がこのところいささ か冷めてきた感がある。
一体何故で あろうか。
熱しやすく冷めやすい日本人の気 質によるところなしとはしないが、何 よりも荷主側から見て、期待したほ どの成果があがっていないという現状 に対する失望感と、3PL側にとっ ての計画段階を含めた能力不足、運 用上の困難性によるところが大きい といえるだろう。
それに加えて、3PLの発祥国と も先進国とも云えるアメリカにおける 3PLビジネスが、すべて大成功と はいえない状況にあることが伝わって くるに及んで、荷主企業の経営者が 3PLに対してかなり懐疑的になっ てきたことも一因となっている。
これ に伴い物流子会社の間に見られた3 PLブームも、その熱を失いつつある ように見える。
そもそも日本の荷主企業が物流子 会社を設立する動機はどのようなも のであろうか。
この二〇年余りの間 に日本には多くの物流子会社が設立 された。
しかし、経営ビジョンとして 設立当初から「3PL」を明確に掲 げてきた企業は極めて少ない。
荷主 企業が子会社を設立した狙いは大方、 以下のようなものである。
?物流費用の外部流出を減らす ?親企業としてコアビジネスに集中 する ?物流費用低減のため物流部門を市 場競争にさらす、あるいは他企業 の物流サービスを受けやすくする 中には目標として明示されること は少ないもののの、 ?親企業のリストラ要員の受け皿と する ?子会社化することにより賃金水準 を調整する 等々を目標とし、??のようにあ まり芳しくない理由が本音という場 合もある。
いずれにしてもこれらは、荷主企 業経営者の「物流の本質」に対する認識不足を露呈していると言える。
こ のような認識を持った荷主企業の物 流子会社から、3PL事業の成功を 聞くことはないであろう。
なぜなら、 3PLが機能するためには、荷主企 業側にロジスティクスを経営戦略と して位置づけ、調達・生産・販売・ 物流等の部門やサプライチェーンメ ンバー間の枠を越えた「統合ロジス ティクス・マネジメント」への決意と 物流子会社にとっての3PL 物流の本質に対する認識の低い荷主企業の物流子会社が、3P L事業に成功することはあり得ない。
3PLの導入は単なる物流 業務の外注ではない。
荷主企業にとって3PLは、経営判断に基 づくリソースの再配分を意味している。
●●● 多摩大学大学院 教授 水嶋康雅 31 AUGUST 2004 ジスティクス・サービスのプロバイダ ーとしての能力を持っていることが要 求される。
そして何よりも、荷主と 3PL企業との間に「秘密保持」と 「約束履行」に関しての信頼関係がな ければ3PLは本質的に成り立たな い。
机上のシミュレーションの域を出 ないコスト削減・リードタイム短縮 や、3PL企業側には都合がよいが荷主側には大きな投資を伴うような システム構築を必要とする提言では、 受け入れられるはずはない。
実際、R OIの不明確なシステム先行型の提 言に荷主企業は疑問を呈するように なってきている。
また競争会社への情報漏洩という 点は、3PLが荷主企業の子会社で ある場合にはリスクは小さいが、少な くとも一業種一社という契約ではな い3PLの場合には荷主企業側の大 きな懸念材料になる。
3PL側から見れば、特定の荷主 企業のために開発したサービスやシス テムを、荷主の競合他社にも提供で きれば、システム投資の償却費やコ ストの低減に役立つ。
しかしそれによ って荷主企業は競業他社に対する競 争優位性を失ってしまう。
このよう な問題が信頼関係を必要とする3P Lビジネスには常にまとわりついてい る。
3PL導入の条件 3PL導入を別の視点から見てみ よう。
まず、3PL導入のための必 要条件や求められる能力を列挙すれ ば次のようなものとなる。
3PL導入の必要条件 ▼適切な物流情報システム ▼高度な人的資源の配分 ▼海外サービス網の充実 ▼採算性の可能性とその保証 求められる能力 ▼コンサルティング能力―ロジステ ィクス・サービス・プロバイダー ▼グローバルなサービス ▼情報開示と能力に係わる信頼性 導入困難な理由▼先行投資負担を荷主はしない ▼採算性に対する不安は拭えない ▼情報システム化への取り組み遅れ さらに重要なことは物流サービス を3PLに依存する場合、どの範囲 までをアウトソースするのかという決 定である。
実行が不可欠だからである。
統合ロジスティクス・マネジメント とは供給連鎖全体を通して物流の各 機能とプロセスを融合し、協調・統 合することによって、供給連鎖全体 の最適化を図ることに他ならない。
これはすなわち企業内の調達、生 産、販売、物流などの諸機能担当各 部門それぞれの部門最大利益追求・ 部門最適化を越えて、供給連鎖全体 の最適化のための説得・調整・協調 を行い、共通の目標認識の下に企業 内の各機能の遂行を図ることはもち ろんのこと、他企業・組織との業務 提携・統合を進めることをも意味し ている。
そして「基本ロジスティクス用語 辞典」(一九九七年 白桃書房)は次 のように3PLを解説している。
「サードパーティロジスティクス」 荷主企業に対しその立場にたって ?ロジスティクス・サービスを戦略的 に提供する事業者を活用すること。
荷 主企業の本業への集約と規制緩和に よる利用運送事業の自由化によって その事業が大きく発展した。
事業者は荷主企業との長期契約に 基づいて?荷主と情報を共有し、?荷 主のサプライチェーンマネジメントを 含めて全面的に物流を担当することが 多い。
?専門性を活かした提案と?物 流情報システムの提供を主とし、実運 送は傭車や利用運送によるものが一 般的で、コスト低減の利益を契約に よって荷主と折半する。
(○内数字と太字は筆者) 物流・ロジスティクスの本質的役 割は「価値の発現」である。
(詳しく は筆者編著『「価値発現」のロジステ ィクス』―二〇〇四年 白桃書房― 参 照)このことを理解しない荷主企業 が、前記のような動機によって物流 部門の子会社化を図ったとしても、? の「ロジスティクス・サービスを戦略 的に提供」できる人材が配置される ことはまずないであろう。
?に云う、「専門性」の存在や、? の「物流情報システム」構築がなさ れているかどうかも疑問である。
? 「情報の共有」と、?「全面的に物流 を担当する」ためには、まず荷主企 業の経営戦略の目指すところを理解 し、それとの整合性の取れた物流戦 略を立案する能力を持つだけではな く、オペレーションレベルの物流業務 を管理する専門性を備えていること が必要となる。
3PL企業には、端的に云えばロ ロジスティクス経営講義 AUGUST 2004 32 物流サービスを経営レベルからオ ペレーションのレベルまで概略すれば 次の通りである。
1 . 戦略レベル ▼会社経営戦略目標・ミッションと の整合性 ▼物流戦略・マネジメント ・部門間戦略目標の調整:在庫量 の決定 ・改善方針・目標設定 ・サービス水準の設定 ・コスト水準の設定 2 . 物流プランニングレベル ▼物流拠点配置 ▼輸配送システム ▼荷役方式 ▼情報システム ・在庫管理 ・受発注処理・追跡 ・輸配送 ▼費用と予算作成 ▼各種ベンチマーク ・各計画指標との差異分析(コス ト/ サービス・レベル) 3 . 物流オペレーションレベル―受発 注処理・物流作業とその管理― ▼作業マニュアル作成 ▼受発注処理 ▼荷役・梱包作業 ▼流通加工 ▼保管 ▼車両手配 ▼人員手配・作業工数算出 ▼各種費用見積 ▼物流業者選定・コスト実績・作 業・サービス実績把握 以上の業務領域のどこまでを、対 価はいくらで、どの企業に委託するの かというのは、まさに経営判断である。
荷主企業にとって3PLの導入は単 なる外注先の選定ではあり得ない。
荷主企業の経営者がロジスティク スの本質を理解し、顧客起点のロジ スティクスを経営戦略として位置付 けることが3PLの出発点となる。
そ して、そのために必要な人材を含む リソースの適正な配分を行うことに よって、物流子会社のモラールアッ プを図り、専門性を高める施策を講 ずる。
それによって信頼関係を築く ことが可能となる。
それが迂遠のようであっても子会 社による3PLサービスの成功への 近道となるのである。
水嶋康雅(みずしま・やすまさ) 多摩大学大学院教授。
現在、ソニー顧問、ネプ チューン・オリエント・ラインズならびにAPLロ ジスティクス社外取締役を務める。
東京外国語大 学卒業、ニューヨーク大学経営大学院中退。
ソニ ーで、ドイツ現地法人開設・代表取締役、新潟ソ ーワ代表取締役(出向)、タムロン代表取締役(出 向)、ソニー人事開発グループ本部長、物流本部 本部長、パーソナルビデオ事業本部本部長、ビデ オ開発本部本部長、コンポーネントカンパニー・ エグゼクティブバイスプレジデント、物流並びに 調達統括役員、ソニーロジスティックス代表取締 役社長(ソニー株式会社取締役、執行役員上席常 務)などを歴任。
主な著書に「『価値発現』のロジ スティクス」(2004年5月 白桃書房)がある。
PROFILE 「価値発現」概念に基づくロジスティクスを、 企業経営の重要戦略として位置づけ、企業目 標達成のための全体最適かつ有効な物流戦略 立案能力と実践的問題解決能力の育成を目指 す。
そのために、ロジスティクスが企業にお けるモノの調達・生産・販売を通して最終顧 客に至るサプライチェーンにおいて、モノと サービスに係わる時間と場所を司る中核的役割を担い、企業競争力を左右する経営戦略で あることを理解することが必要となる。
具体的には「顧客満足起点のロジスティク ス」を商品開発・技術革新、生産力、販売力 と並ぶ企業競争力の源泉と位置づけ、物流業 務レベルのみならず、インベントリー・キャ リング・コスト管理と資源の有効活用を中心 とした財務戦略面からの評価をも行う。
さら にロジスティクスを基軸とする有効かつ効果 的組織運営・リーダーシップ、危機管理、環 境対応、情報化技術当にも言及する。
実践・応用能力の向上を目指す授業である。
そのために海運、空運、陸運、倉庫、港湾、 フォワーダー、物流子会社、3PLなどの事 業領域における実務経験豊富な経営者による 特別講義をはさみ、供給連鎖全体を理解する とともに、各事業領域の現状と将来、その特 殊性、問題点、環境対応、事業戦略などにつ いて講義と討論を通じて理解を深め、グロー バル企業のチーフ・ロジスティクス・エグゼ クティブ、あるいはロジスティクス企業経営 者に必要な知見と資質の向上を図る。
ロジスティクス経営管理論 ――部分効率化を超えた 全体最適追求のロジスティクス概論 CLOコース担当講座 上記テーマに依拠しながら、事業特性に適 合した創造的でかつ効果的で、しかもロジス ティクスに対する社会的認知度の向上とロジ スティシャンのモラール・アップに寄与する 企業の経営管理概念・モデルを各人の自由な 提言と全員参加の討論を通じて構築する。
ロジスティクス経営管理論演習 ――創造的かつ有効・効果的 経営管理モデルの構築 企業論で得た知見を基盤として、ロジステ ィクス経営の実践的構想力の深化・向上を図 り、プレゼンテーション能力をも高めるため の戦略的演習をおこなう。
そのために、各人 による提言を中心として、全員参加の討論を 通じて、各事業領域に適しているだけではな く、独創性のある戦略モデルの構築に挑戦す る。
参考文献は、ロジスティクス領域に限る ことなく、調達・生産管理・マーケッティン グ・販売・財務・人事政策など幅広く経営全 般におよび、それらの著作の事前レビューが 期待されている。
ロジスティクス企業論演習 ――独創的ロジスティクス戦略モデルの構築グローバルビジネスを展開する企業の「ロ ジスティクス戦略及び企業行動の実際」とと もに、「これを支えるロジスティクス・サー ビス・プロバイダー企業との関係」を総合 的・統合的に理解し、ロジスティクス経営の ロジスティクス企業論 ――グローバル企業のロジスティクス戦略と サービス・プロバイダー

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