2004年8月号
特集
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物流子会社のM&A 主体性にこだわり“脱”物流子会社
AUGUST 2004 20
豊田自動織機と提携し子会社から脱皮
――今年三月、富士電機ホールディングス(HD)、豊
田自動織機、富士物流の三社は業務提携して「TF
ロジスティクス」を発足しました。
この提携を最初に 仕掛けたのは誰だったのでしょうか。
「豊田自動織機です。
昨年の八月くらいに、富士電 機HDに対して物流事業に関する話をしたいという申 し出がありました。
それでお互いの仕事ぶりを見せ合 ったりしたのですが、このときこちらがこだわったの は、富士物流が単なる?駒〞として扱われるのであれ ば話に乗る気はないということです。
我々にはプライ ドがあるし、ずっと『小さくても強い会社』をめざし てきましたからね」 「私がそう申し上げたら豊田自動織機は、『そうでは ない。
我々が考えているのはこういうことなんだ』と 説明してくれました。
いま彼らは本気で物流事業をや ろうとしています。
その一角で富士物流に中核を担っ て欲しいというわけです。
それで実際にそういう枠組 みを半年間かけて作りました。
それが今回の三社によ る事業提携です(次ページの図参照)」 「ALSO(アドバンスト・ロジスティクス・ソリ ューションズ)という会社は、豊田自動織機が二年前 に物流企画のために発足した組織です。
菱食の物流セ ンターを横浜に作ったり、大手スーパーマーケットの 物流センターを小牧に作ったりして、すでに二〇〇億 円くらいを取り扱っている会社です。
トランコムやコ クヨロジテムなどと一緒に新たな事業会社を立ち上げ たり、丸紅とのジョイントベンチャーで定温物流を手 掛けたりもしています」 ――豊田自動織機のなかの「トヨタL&Fカンパニ ー」でロジスティクス事業を手掛ける組織ですね。
「そうです。
六月からは私もALSOの取締役にな りました。
この上にある『AL会議』という全体会議 にも出席して損益から何から全部見ています。
豊田自 動織機の人たちにも富士物流の役員になっていただき ました。
こういう枠組みを作って、ワン・オブ・ゼム ではなく対等でやっているということです」 「豊田自動織機の言うことを聞く会社なら、世の中 にはわんさとあります。
重要なのは、言うことを聞く レベルです。
真意を理解して、同じベクトルで物流改 善に取り組む実働部隊がいなければ、実際問題として 彼らも物流事業をやりようがない。
いざ改善しようと 言うときに、その内容を一番大切な現場がきちんと理 解できないようでは仕方がないのです」 有効な業務提携と独立のバランスに腐心 ――「TFロジスティクス」をめぐる資本関係や事業 の枠組みは、かなり複雑です。
「これは非常に巧妙に作ってあるんです。
いま富士物流への出資は、富士電機HDが二八%で、豊田自 動織機が二六%となっています。
そのうえでTFロジ スティクスへの出資は、豊田自動織機が五一%で、富 士物流が四九%としてある。
営業企画については豊田 自動織機が責任を持ち、損益には富士物流が責任を 持つという構図です」 「我々にとって一番困るのはTFロジスティクスか らの発注が赤字の仕事ばかりになってしまうことです。
だからこそ豊田自動織機にも当社の資本を持ってもら い、TFロジスティクスも連結対象にしてもらった。
富士物流そのものは富士電機HDと豊田自動織機の 二社の持分法による連結会社ですが、筆頭株主とい えども三三%の議決権は持っていません」 「この枠組みは、よほど富士物流がしっかりしてい 「主体性にこだわり“脱”物流子会社」 今年3月、富士電機ホールディングスが保有していた富士物流 の52%の株式のうち、26%が豊田自動織機に売却された。
これ により資本上は、物流子会社から、持分法による関連会社へと 変わった。
「物流子会社という機能はなくなる」(本誌2001年6月 号参照)と言い続けてきた中尾靖博社長に“脱”物流子会社の 考え方を聞いた。
(聞き手・岡山宏之) 富士物流中尾靖博社長 21 AUGUST 2004 なければ機能しません。
大株主である富士電機HDと 豊田自動織機の両方に甘えられないわけで、どちらか の発注だけを安くするなんてことも論外です。
すべて 市場競争のなかでやっていくしかありません。
よく見 ていただくと、この枠組みが絶妙のバランスになって いることをご理解いただけると思います。
それだけに、 ここまで持っていくのは大変でした」 ――この枠組みが完成したのは、いつですか? 「二月十一日です」 ――対外的に発表した三月の直前ですね。
「そうです。
このとき私は香港にいました。
富士電 機HDの専務が国内で交渉をしていたのですが、富士 電機HDの沢社長は深 にいたため、私も深 に出 向いて最終的な相談をしました。
こういう話を国内で やると何かとややこしいんです。
なかには、連結対象 の富士物流がせっかく収益をあげているのに持分法の 適用会社にするのはいかがなものかとか、富士電機グ ループの売り上げが減ってしまうじゃないかといった 異論もありましたからね。
最後は富士電機のトップと 私の二人で決断するしかありませんでした」 ――現在のTFロジスティクスの活動内容は? 「専任の社員は現状では三人だけです。
まあコーデ ィネーターみたいなものですよ。
ここにALSOとか、 富士電機グループからいろいろな案件が持ち込まれる わけですが、すべて他の業務と兼務の担当者が手掛け ています。
富士物流から相応しい人を出したり、コン サルティングが必要であれば豊田自動織機の社員が担 当するといった具合です。
新会社は三年間で一〇〇億 円の受注をめざしています。
初年度二〇億円、二年目 五〇億円、三年目一〇〇億円という計画ですが、すで に商談ベースで三〇億円くらいの仕事があります」 「TFロジスティクスの社長は豊田自動織機の竹内 さんで、副社長は私です。
つまり二人で決めてしまえ ば、それで終わりなんです。
もの凄く話が早い。
それ からね、ここで一つ大事なことは、こういうことをや っていると仲間に入れてくれという会社が出てくるん です。
物流子会社ごと面倒みてくれないかという話が 持ち込まれるわけです」 ――TFロジスティクスが受け皿になって、物流子会 社の再編が進む可能性があるということですか。
「それもありますが、物流子会社そのものが富士物 流なり豊田自動織機の連結対象になって、仕事自体 はTFロジスティクスが手掛ける可能性もあります。
富士物流は、富士通の補修部品の配送を三六五日二 四時間体制で全国的に扱っていますが、このネットワ ークに乗っかりたいという企業がある。
そこが物流子 会社を持っているケースであれば、一緒に吸収してく れとか、面倒をみてくれとかいう話にどうしてもなる。
つまり現在の枠組みからどんどん変化していって、い ずれは共同配送へと向かうことになる」――それが業界プラットフォームへと進化していく。
「そうそう。
同じ部品を使っている会社も少なくな いわけだから、一緒にやればもっと合理化できますか らね。
ただ三年後、五年後に、実際にどう変化してい るのかを読むのは難しい。
今後、変化に応じて全体を 最適化できる仕組みを作っていきます」 M&Aの基本は企業文化の相性 ――業務提携の相手として豊田自動織機を選んだ決 め手はなんだったのでしょう。
「こういう話は、いわゆるカルチャーとか組織を変 革しなければうまくいきません。
豊田自動織機が相手 であれば提携がうまくいくと考えた理由は、この図を みていただくと理解してもらえるのではないでしょう AUGUST 2004 22 か。
これは米国のナドラーとタッシュマンという人が 作った『組織の基本構成と整合性モデル』という組織 開発の有名なモデルです( 図3)」 「組織内の活動というのは『課題』、『人』、『組織』、 『文化・風土』の四つからなります。
まず戦略を立て、 課題が何かを明確にし、そのための組織を作り、マン パワーを配置する。
そうした活動のアウトプットとし ての業績(パフォーマンス)があり、それをまたイン プットして戦略を立てる。
この繰り返しです。
これら が四つの部品のようにピッタリと整合性がとれていな ければ、企業活動は滞ってしまいます」 「この中で見落としがちなのが『文化・風土』です。
たとえば、『共有された見方や物の考え方』に基づい て新しいことをやっていこうとする企業と、これまで 通りにやっていこうとする企業とでは、企業風土に大 きな違いがあります。
どういうことをすれば受け入れ られて、どんなことをしてはいけないといったルール も重要です。
私がM&Aやアライアンスを行うときに は、この『文化・風土』の相性を見るわけです」 ――企業風土といってもいろいろありますね。
「それを解説したのが『戦略的な風土』という表で す( 図4)。
一般的な企業は『反応的』な風土で、も し『不満足な業績の推移』が連続的に発生すると、『過 去の経験』に基づいて、『最小のリスク』をとりなが ら対応しようとします。
ところが『先行的』な企業で は、『予想される業績の低下』に対して、このままで まずいからここで止めようとか、もう少し先を読もう とする。
さらに『探求型』では、『リスクと利益のト レードオフ』を考えて『儲けを逃すな』となる。
最も 進んだ『創造型』の企業風土では、『未来を創り』、『未 知のリスク』にチャレンジしていく」 「この対極が『安定的』な企業です。
こういう組織 は、いよいよどうしようもなくなって潰れるまで何も やらない。
ただ、こういう風土が好ましい場合もあっ て、たとえば伝統工芸に取り組む企業は江戸時代にど うやっていたかを忠実に伝えていく必要がある。
です から一概にどれがいいという話ではありません。
よう は自分たちの企業風土が、世の中のニーズに合ってい るかどうかが重要なんです。
他社と一緒にやるときに は、他社の風土がどれなのかが問題です。
これが合わ ないと同じ物流会社でもうまくいきません」 ――ちなみに中尾社長が目指しているのは? 「やはり『創造的』な風土です。
まあ、現状は『探 求的』くらいのレベルかな。
『儲けを逃がすな』とか、 『不連続な変革』を受け入れるだとかね。
じゃあ、ど んな変革を受け入れるのかというと、従来はなかった まったく新しい変革です。
M&Aには連続性などあり ません。
ある会社と一緒にやるとなったとき、自分た ちは一体どうなってしまうのかと不安になるようでは、 どんどん現状維持へと向かってしまう。
これではダメなんです。
絶えず組織を刺激して『探求型』とか『創 造型』にもっていくことこそが経営です」 JUKI型のM&Aがこれからの課題 ――二〇〇三年五月に中期経営計画を発表したとき には、まだ豊田自動織機との話はなかったはずです。
それにしては、かなり強気の計画ですね。
「当時からM&Aやアライアンスを視野に入れてい ましたからね。
実はこの計画を作ったときの皆の意見 は、売り上げは向こう三年間横這いというものでした。
世の中がどんどんコストダウンで縮小しているのに、 当社だけが伸びるという見込みは絵にかいた餅だと言 われました。
しかし私は、『違う。
志を高くもってや れば必ずできるんだ』と答えた。
M&Aまで視野に入 23 AUGUST 2004 れれば、必ずこうなるはずと考えていたからです。
当 時、具体的な案件があったわけではありませんけどね。
その後、この考えを具体化したのが豊田自動織機との 提携です。
具体化したうちの一つ、と理解してもらっ た方がいいかもしれません」 ――一つとは言っても、かなり大規模な取り組みです。
こんな案件を他にいくつもやるのは難しいのでは? 「それは無理です。
どちらかというと今後は?JU KI型〞でしょうね。
当社は三年前にJUKIの物 流子会社だった東京重機運輸を買収しました。
この 取り組みは先方からも高く評価してもらっています。
JUKIは本業集中というなかで構造改革に取り組 み、債務の圧縮だとか、人件費対策だとかを見事に成 功させた。
今ではJUKIからは物流を任せて良かっ たと言われるし、東京重機運輸の人たちからも一緒に なって良かったと言われています」 「売上規模二〇億円という小さな成功でしたが、我々 にとっては、こうした事例を積み上げていけばいいん だという確信につながっています。
M&Aとかアライ アンスといっても、どっかに買われるとか、傘下に入 るという話だけではありません。
小さくても我々が主 体性を持ってやる。
売上規模が三〇億円とか五〇億 円とかいうクラスで、合理化をやらなければいけない と思っている企業が対象になります。
それが我々と同 じような業種か、あるいは豊田自動織機が熟知してい る業界であれば、さほど手間はかかりません」 社内の人事制度改革も予定通り ――二〇〇一年から三年ほどかけて、富士物流の社内 の人事制度も改革してきました。
「昨年のうちにまず役員からはじめて、成果給、実 力給に全部、仕組みを変革しました。
結果として人件 費の総額が六%減りました。
ここで大事なことは、新 しい人事制度が労働組合の委員会で満場一致で可決 されたことです。
新入社員とか若い人は下がりません。
ただ五〇才くらいのところを下げなければ、全体の仕 組みが機能しなくなっていました。
貰いすぎていたと ころが下がって、人件費の総額も減ったわけです」 「そうやって六%ダウンしましたが、今年の六月と 十二月の賞与では、過去には富士電機並みだった金額 に上乗せをしました。
親会社よりも多くしたというこ とです。
これまでは、そんなことできませんでしたが、 富士電機の連結対象から外れましたからね。
富士電機 グループのなかで一番いい賞与を支給しました」 ――九九年に社長になったわけですが、富士物流にと っては中尾社長の後をどうするかが最大の課題のよう にも見えます。
「サラリーマン経営者の会社というのは基本的にど こでもそうですが、ある人が長くやると、必ずその後 に歪みが出てしまいます。
やはりそこはきちっと後進を育てて、年齢を決めてバトンタッチすべきです。
そ れでもうまくいく仕組みを作らなければいけないんで す。
私に代わる人材については、富士電機グループの なかに一杯いますから、そこはまったく心配していま せん」 ――豊田自動織機との提携が軌道に乗るまで、三年間 程度は自分がという気持ちありませんか。
「そんなものありませんよ。
後任がいないから辞めら れないというのは一番けしからんね。
後任を育てるの はトップの責任です。
ゴルフと仕事はいくらやっても 切りがありません。
どうやっても、これで満足と言え るようにはならない。
でも、やりすぎると、周囲に迷 惑をかけるは、家庭を壊すは、ろくなことがありませ ん。
ほどほどでやめなければと思っています」 なかお・やすひろ95年 富士電機・取締役民生機 器事業本部長、97年富士 電機・常務取締役、99年 4 月富士物流・取締役、 99年6月富士物流・社長 PROFILE
この提携を最初に 仕掛けたのは誰だったのでしょうか。
「豊田自動織機です。
昨年の八月くらいに、富士電 機HDに対して物流事業に関する話をしたいという申 し出がありました。
それでお互いの仕事ぶりを見せ合 ったりしたのですが、このときこちらがこだわったの は、富士物流が単なる?駒〞として扱われるのであれ ば話に乗る気はないということです。
我々にはプライ ドがあるし、ずっと『小さくても強い会社』をめざし てきましたからね」 「私がそう申し上げたら豊田自動織機は、『そうでは ない。
我々が考えているのはこういうことなんだ』と 説明してくれました。
いま彼らは本気で物流事業をや ろうとしています。
その一角で富士物流に中核を担っ て欲しいというわけです。
それで実際にそういう枠組 みを半年間かけて作りました。
それが今回の三社によ る事業提携です(次ページの図参照)」 「ALSO(アドバンスト・ロジスティクス・ソリ ューションズ)という会社は、豊田自動織機が二年前 に物流企画のために発足した組織です。
菱食の物流セ ンターを横浜に作ったり、大手スーパーマーケットの 物流センターを小牧に作ったりして、すでに二〇〇億 円くらいを取り扱っている会社です。
トランコムやコ クヨロジテムなどと一緒に新たな事業会社を立ち上げ たり、丸紅とのジョイントベンチャーで定温物流を手 掛けたりもしています」 ――豊田自動織機のなかの「トヨタL&Fカンパニ ー」でロジスティクス事業を手掛ける組織ですね。
「そうです。
六月からは私もALSOの取締役にな りました。
この上にある『AL会議』という全体会議 にも出席して損益から何から全部見ています。
豊田自 動織機の人たちにも富士物流の役員になっていただき ました。
こういう枠組みを作って、ワン・オブ・ゼム ではなく対等でやっているということです」 「豊田自動織機の言うことを聞く会社なら、世の中 にはわんさとあります。
重要なのは、言うことを聞く レベルです。
真意を理解して、同じベクトルで物流改 善に取り組む実働部隊がいなければ、実際問題として 彼らも物流事業をやりようがない。
いざ改善しようと 言うときに、その内容を一番大切な現場がきちんと理 解できないようでは仕方がないのです」 有効な業務提携と独立のバランスに腐心 ――「TFロジスティクス」をめぐる資本関係や事業 の枠組みは、かなり複雑です。
「これは非常に巧妙に作ってあるんです。
いま富士物流への出資は、富士電機HDが二八%で、豊田自 動織機が二六%となっています。
そのうえでTFロジ スティクスへの出資は、豊田自動織機が五一%で、富 士物流が四九%としてある。
営業企画については豊田 自動織機が責任を持ち、損益には富士物流が責任を 持つという構図です」 「我々にとって一番困るのはTFロジスティクスか らの発注が赤字の仕事ばかりになってしまうことです。
だからこそ豊田自動織機にも当社の資本を持ってもら い、TFロジスティクスも連結対象にしてもらった。
富士物流そのものは富士電機HDと豊田自動織機の 二社の持分法による連結会社ですが、筆頭株主とい えども三三%の議決権は持っていません」 「この枠組みは、よほど富士物流がしっかりしてい 「主体性にこだわり“脱”物流子会社」 今年3月、富士電機ホールディングスが保有していた富士物流 の52%の株式のうち、26%が豊田自動織機に売却された。
これ により資本上は、物流子会社から、持分法による関連会社へと 変わった。
「物流子会社という機能はなくなる」(本誌2001年6月 号参照)と言い続けてきた中尾靖博社長に“脱”物流子会社の 考え方を聞いた。
(聞き手・岡山宏之) 富士物流中尾靖博社長 21 AUGUST 2004 なければ機能しません。
大株主である富士電機HDと 豊田自動織機の両方に甘えられないわけで、どちらか の発注だけを安くするなんてことも論外です。
すべて 市場競争のなかでやっていくしかありません。
よく見 ていただくと、この枠組みが絶妙のバランスになって いることをご理解いただけると思います。
それだけに、 ここまで持っていくのは大変でした」 ――この枠組みが完成したのは、いつですか? 「二月十一日です」 ――対外的に発表した三月の直前ですね。
「そうです。
このとき私は香港にいました。
富士電 機HDの専務が国内で交渉をしていたのですが、富士 電機HDの沢社長は深 にいたため、私も深 に出 向いて最終的な相談をしました。
こういう話を国内で やると何かとややこしいんです。
なかには、連結対象 の富士物流がせっかく収益をあげているのに持分法の 適用会社にするのはいかがなものかとか、富士電機グ ループの売り上げが減ってしまうじゃないかといった 異論もありましたからね。
最後は富士電機のトップと 私の二人で決断するしかありませんでした」 ――現在のTFロジスティクスの活動内容は? 「専任の社員は現状では三人だけです。
まあコーデ ィネーターみたいなものですよ。
ここにALSOとか、 富士電機グループからいろいろな案件が持ち込まれる わけですが、すべて他の業務と兼務の担当者が手掛け ています。
富士物流から相応しい人を出したり、コン サルティングが必要であれば豊田自動織機の社員が担 当するといった具合です。
新会社は三年間で一〇〇億 円の受注をめざしています。
初年度二〇億円、二年目 五〇億円、三年目一〇〇億円という計画ですが、すで に商談ベースで三〇億円くらいの仕事があります」 「TFロジスティクスの社長は豊田自動織機の竹内 さんで、副社長は私です。
つまり二人で決めてしまえ ば、それで終わりなんです。
もの凄く話が早い。
それ からね、ここで一つ大事なことは、こういうことをや っていると仲間に入れてくれという会社が出てくるん です。
物流子会社ごと面倒みてくれないかという話が 持ち込まれるわけです」 ――TFロジスティクスが受け皿になって、物流子会 社の再編が進む可能性があるということですか。
「それもありますが、物流子会社そのものが富士物 流なり豊田自動織機の連結対象になって、仕事自体 はTFロジスティクスが手掛ける可能性もあります。
富士物流は、富士通の補修部品の配送を三六五日二 四時間体制で全国的に扱っていますが、このネットワ ークに乗っかりたいという企業がある。
そこが物流子 会社を持っているケースであれば、一緒に吸収してく れとか、面倒をみてくれとかいう話にどうしてもなる。
つまり現在の枠組みからどんどん変化していって、い ずれは共同配送へと向かうことになる」――それが業界プラットフォームへと進化していく。
「そうそう。
同じ部品を使っている会社も少なくな いわけだから、一緒にやればもっと合理化できますか らね。
ただ三年後、五年後に、実際にどう変化してい るのかを読むのは難しい。
今後、変化に応じて全体を 最適化できる仕組みを作っていきます」 M&Aの基本は企業文化の相性 ――業務提携の相手として豊田自動織機を選んだ決 め手はなんだったのでしょう。
「こういう話は、いわゆるカルチャーとか組織を変 革しなければうまくいきません。
豊田自動織機が相手 であれば提携がうまくいくと考えた理由は、この図を みていただくと理解してもらえるのではないでしょう AUGUST 2004 22 か。
これは米国のナドラーとタッシュマンという人が 作った『組織の基本構成と整合性モデル』という組織 開発の有名なモデルです( 図3)」 「組織内の活動というのは『課題』、『人』、『組織』、 『文化・風土』の四つからなります。
まず戦略を立て、 課題が何かを明確にし、そのための組織を作り、マン パワーを配置する。
そうした活動のアウトプットとし ての業績(パフォーマンス)があり、それをまたイン プットして戦略を立てる。
この繰り返しです。
これら が四つの部品のようにピッタリと整合性がとれていな ければ、企業活動は滞ってしまいます」 「この中で見落としがちなのが『文化・風土』です。
たとえば、『共有された見方や物の考え方』に基づい て新しいことをやっていこうとする企業と、これまで 通りにやっていこうとする企業とでは、企業風土に大 きな違いがあります。
どういうことをすれば受け入れ られて、どんなことをしてはいけないといったルール も重要です。
私がM&Aやアライアンスを行うときに は、この『文化・風土』の相性を見るわけです」 ――企業風土といってもいろいろありますね。
「それを解説したのが『戦略的な風土』という表で す( 図4)。
一般的な企業は『反応的』な風土で、も し『不満足な業績の推移』が連続的に発生すると、『過 去の経験』に基づいて、『最小のリスク』をとりなが ら対応しようとします。
ところが『先行的』な企業で は、『予想される業績の低下』に対して、このままで まずいからここで止めようとか、もう少し先を読もう とする。
さらに『探求型』では、『リスクと利益のト レードオフ』を考えて『儲けを逃すな』となる。
最も 進んだ『創造型』の企業風土では、『未来を創り』、『未 知のリスク』にチャレンジしていく」 「この対極が『安定的』な企業です。
こういう組織 は、いよいよどうしようもなくなって潰れるまで何も やらない。
ただ、こういう風土が好ましい場合もあっ て、たとえば伝統工芸に取り組む企業は江戸時代にど うやっていたかを忠実に伝えていく必要がある。
です から一概にどれがいいという話ではありません。
よう は自分たちの企業風土が、世の中のニーズに合ってい るかどうかが重要なんです。
他社と一緒にやるときに は、他社の風土がどれなのかが問題です。
これが合わ ないと同じ物流会社でもうまくいきません」 ――ちなみに中尾社長が目指しているのは? 「やはり『創造的』な風土です。
まあ、現状は『探 求的』くらいのレベルかな。
『儲けを逃がすな』とか、 『不連続な変革』を受け入れるだとかね。
じゃあ、ど んな変革を受け入れるのかというと、従来はなかった まったく新しい変革です。
M&Aには連続性などあり ません。
ある会社と一緒にやるとなったとき、自分た ちは一体どうなってしまうのかと不安になるようでは、 どんどん現状維持へと向かってしまう。
これではダメなんです。
絶えず組織を刺激して『探求型』とか『創 造型』にもっていくことこそが経営です」 JUKI型のM&Aがこれからの課題 ――二〇〇三年五月に中期経営計画を発表したとき には、まだ豊田自動織機との話はなかったはずです。
それにしては、かなり強気の計画ですね。
「当時からM&Aやアライアンスを視野に入れてい ましたからね。
実はこの計画を作ったときの皆の意見 は、売り上げは向こう三年間横這いというものでした。
世の中がどんどんコストダウンで縮小しているのに、 当社だけが伸びるという見込みは絵にかいた餅だと言 われました。
しかし私は、『違う。
志を高くもってや れば必ずできるんだ』と答えた。
M&Aまで視野に入 23 AUGUST 2004 れれば、必ずこうなるはずと考えていたからです。
当 時、具体的な案件があったわけではありませんけどね。
その後、この考えを具体化したのが豊田自動織機との 提携です。
具体化したうちの一つ、と理解してもらっ た方がいいかもしれません」 ――一つとは言っても、かなり大規模な取り組みです。
こんな案件を他にいくつもやるのは難しいのでは? 「それは無理です。
どちらかというと今後は?JU KI型〞でしょうね。
当社は三年前にJUKIの物 流子会社だった東京重機運輸を買収しました。
この 取り組みは先方からも高く評価してもらっています。
JUKIは本業集中というなかで構造改革に取り組 み、債務の圧縮だとか、人件費対策だとかを見事に成 功させた。
今ではJUKIからは物流を任せて良かっ たと言われるし、東京重機運輸の人たちからも一緒に なって良かったと言われています」 「売上規模二〇億円という小さな成功でしたが、我々 にとっては、こうした事例を積み上げていけばいいん だという確信につながっています。
M&Aとかアライ アンスといっても、どっかに買われるとか、傘下に入 るという話だけではありません。
小さくても我々が主 体性を持ってやる。
売上規模が三〇億円とか五〇億 円とかいうクラスで、合理化をやらなければいけない と思っている企業が対象になります。
それが我々と同 じような業種か、あるいは豊田自動織機が熟知してい る業界であれば、さほど手間はかかりません」 社内の人事制度改革も予定通り ――二〇〇一年から三年ほどかけて、富士物流の社内 の人事制度も改革してきました。
「昨年のうちにまず役員からはじめて、成果給、実 力給に全部、仕組みを変革しました。
結果として人件 費の総額が六%減りました。
ここで大事なことは、新 しい人事制度が労働組合の委員会で満場一致で可決 されたことです。
新入社員とか若い人は下がりません。
ただ五〇才くらいのところを下げなければ、全体の仕 組みが機能しなくなっていました。
貰いすぎていたと ころが下がって、人件費の総額も減ったわけです」 「そうやって六%ダウンしましたが、今年の六月と 十二月の賞与では、過去には富士電機並みだった金額 に上乗せをしました。
親会社よりも多くしたというこ とです。
これまでは、そんなことできませんでしたが、 富士電機の連結対象から外れましたからね。
富士電機 グループのなかで一番いい賞与を支給しました」 ――九九年に社長になったわけですが、富士物流にと っては中尾社長の後をどうするかが最大の課題のよう にも見えます。
「サラリーマン経営者の会社というのは基本的にど こでもそうですが、ある人が長くやると、必ずその後 に歪みが出てしまいます。
やはりそこはきちっと後進を育てて、年齢を決めてバトンタッチすべきです。
そ れでもうまくいく仕組みを作らなければいけないんで す。
私に代わる人材については、富士電機グループの なかに一杯いますから、そこはまったく心配していま せん」 ――豊田自動織機との提携が軌道に乗るまで、三年間 程度は自分がという気持ちありませんか。
「そんなものありませんよ。
後任がいないから辞めら れないというのは一番けしからんね。
後任を育てるの はトップの責任です。
ゴルフと仕事はいくらやっても 切りがありません。
どうやっても、これで満足と言え るようにはならない。
でも、やりすぎると、周囲に迷 惑をかけるは、家庭を壊すは、ろくなことがありませ ん。
ほどほどでやめなければと思っています」 なかお・やすひろ95年 富士電機・取締役民生機 器事業本部長、97年富士 電機・常務取締役、99年 4 月富士物流・取締役、 99年6月富士物流・社長 PROFILE
