2003年3月号
現場改善
現場改善
単品管理の徹底で復活した零細卸
事例で学ぶ
現場改善
日本ロジファクトリー
代表 青木正一
MARCH 2003 62
物流を制するものが商流を制する
今回は近年、その業態の要不要論まで囁かれ
ながらも、必死に進化を続ける中小卸売業の物
流改善を通じて、物流を利益獲得の武器へと変
えた企業事例を紹介する。
舞台は古本業界だ。
三 年ほど前、私はある地方都市を地盤とする古本 卸A社の山下部長から「業界の変化にどう対応 していくべきか」という相談を受けた。
A社は山下部長の父親が一五年ほど前に立ち 上げた古本卸で、山下部長は二代目として事実 上、同社の現場を切り盛りする立場にあった。
と いってもA社の年商は数億円程度で家族経営の 域を出ない零細規模。
バブル期のピーク時には 七軒ほどの古本店を展開していたものの、ブッ クオフを始めとした新業態の台頭によって業績 が悪化。
一つひとつ店舗の数が減っていき、つ いには卸売業に特化せざるを得なくなったとい う状態にあった。
同社に限らず、古本業界では近年、多くのフ ランチャイズチェーン本部が出店競争を繰り広 げる一方、単独店や小規模チェーンは軒並み業 績の悪化を余儀なくされている。
もともと古本 業のような中古品販売、リユースビジネスは販 売する商材を購入者より仕入れる、という特殊 な流通構造を持っている。
そのため急激な市場 の拡大は商品需給バランスの逼迫を生み、仕入 れコストを高騰させ、利益を圧迫する要因にな ってしまう。
しかもリユースビジネスは、コンビニのように 常時欲しいものを手に入れ、売れ筋を追う、と いう効率的経営もできない。
仕入れは「売れる ものを売れるだけ」という流通ではなく、「売れ るものも売れないものも一山いくら」という取 引か、多くの廃棄ロスを当初より見込んだ取引 が主流であった。
しかも二度と同じ組み合わせ では購入ができない。
業界の誰もがこの状況に対して問題を感じて いながら、何ら打開策を打てずにいた。
A社も 例外ではなく、現状のやり方を続けていては取引が拡大しても利益が残せない、というジレン マを抱えていた。
このままでは体力勝負になり、 ジリ貧である。
そこでこの時期に将来の成長に 向けた布石を打ちたい、という思いで相談され たのであった(図1)。
このような状況の中、まずは全体的な戦略の 青写真を作ることとなった。
山下部長と今後の 経営戦略についての打ち合わせをする中で、改 めてビジネスフローの確認を行った。
仕入→加 工→流通→販売という流れについては他のビジ ネスと大差ないが、すべての物流コストをこの A社が負担するというのがこのビジネスならで はの特徴だった。
また、「加工」というプロセスも、この業界独 第3回 地方都市の小規模古本卸。
一時は地元に七店舗をチェーン展開する まで手を広げていたが、大手チェーン台頭のあおりを受け、売り上げ が減少。
結局、店を全て閉鎖し、卸に特化せざるを得ないところまで 追い込まれた。
それが現在は逆に大手チェーンを顧客とすることで業 績を拡大させている。
徹底した単品管理が復活の決め手となった。
単品管理の徹底で復活した零細卸 63 MARCH 2003 が、商流を制する」のである。
私達はこの条件 を踏まえて、戦略の構築に取り掛かった。
徹底した「理想の姿」の追求 A社は古本卸として同業他社とは違った特徴 を三つ持っていた。
まず一つは、その商圏だ。
本 社所在地が最大の市場である関東圏からどの同 業他社よりも離れていた。
そのため潤沢な仕入 ができずにいた。
しかしこの「良い仕入が少な い」というデメリットを、「不要なものはなるべ く仕入れない」という発想に転換し、かえって 仕入品についての選別眼(目利き)を非常に強 化していた。
神田の老舗古本店で修業した経験 を持つ山下部長のノウハウと人脈がそれを支え ていた。
二つ目の特徴はITの活用だった。
在庫を一 つひとつマスター登録していた。
この単品管理の マスターを駆使し、店舗サイズごとの中分類での 棚割り、最も売れる商品構成を半自動的に割り 出すプログラムを自社で開発し、アソートに使用 していたのである。
さらに三つ目として、A社は Webシステム構築ができるSEを採用し、イン ターネット中古書籍販売サイトを開設して いた。
ただし、この三つ以外は他の同業卸、フラン チャイズチェーン本部よりも明らかに分が悪か った。
山下部長と社長のみが経営に強い危機感 を持ち、現場は経営に関する知識もない状態で あった。
しかも在庫のマスター登録には大変な 手間がかかっていた 本には基本的に三種類のコードがついている。
一つが出版業界の標準コードである「ISBN」、 さらに主にコンビニで使用されるJANコード、 そして雑誌専用のTコードの三種類だ。
このほ か中小規模の出版社の書籍や発行が古いものな ど、全くコードがついていないものを含めると計 四種類に分かれる。
これをマスター登録するには、何をどう処理 するか、A社が独自で考えなければならなかっ た。
しかも、一つひとつの入力は基本的に手作 業だ。
手間とコストがマスター管理の悩みの種 で、A社自慢の単品管理も売れ筋の一部の在庫 にとどまっていた。
この現状を踏まえ、私達は経営の理想の姿を 考えた。
山下部長の思いは「私たちの付加価値 を認めてくれるお客様に対して商売をしたい」と いうものであった。
また、現状では売り上げの 波動が大きく、「収入の安定化」も重要な鍵だっ た。
この二つを両立させるために必要な条件を 抽出し、理想の姿を情報と物流を強みとした「高 付加価値型リテールサポーター」とした(図2)。
次に私達は経営を持続させる条件を考えた。
中 小企業において絶対的に必要な視点は、「確実な 売上高を獲得できる顧客、もしくはサービス」を 持つことである。
そして確実に競争に勝つため には、他社に負けない「価格」を一発で提示で きるコスト構造を持つことであった。
山下部長と私は、まず主力商品となっていた 「新店オープニングパッケージ」についてのサー ビス内容を詰めた。
このオープニングパッケージ とは、新たに古本店や漫画喫茶などを開店する ために必要な商品を、開封した時点から棚にす ぐ陳列できるようにセットアップしたものである。
他社はこのパッケージについて、単品レベル での納品情報をお客様に提供することができず 特のものだ。
仕入れた商品、すなわち古本をク リーニング・メンテナンスし、納品先(多くは 店舗)の棚にそのまま陳列できるようカテゴリ ー別に梱包し、納品を行うのである。
結局、このオペレーションフローの完成度が 高ければ競争に勝つことが出来るであろうし、コ ストセーブのノウハウが構築されれば、利益の 確保も容易になる。
まさに「物流を制する企業 図1 中古(リユース)ビジネスの構造 販売側のメリット ●自社に価格決定権がある ●高粗利、高収益 ●仕入単価が安い ●比較的ローコストで出店できる ●商品寿命が長い ●お客様のイメージが良い 販売側のデメリット ●仕入が不安定かつ、欲しくない 商品も仕入れなければならない ●一時期に同じものが入荷する ●在庫管理しにくい ●チャンスロスが多い ●労働集約型で効率化が困難 ●効率よく売るには再加工が必要 (店舗業務負担増加) お客様のメリット ●安く商品が買える ●新旧通じ比較的品揃えが多い ●新品が廃盤、品切れでも商品が 手に入る ●商品を売ることが出来る ●リサイクルのイメージ お客様のデメリット ●買取価格が安い ●欲しいときに欲しいものが手に 入らない ●新しい商品が買えない ●安さ以外のサービスに乏しい ●売るときの手続きが煩雑 ●各店舗の販売価格がまちまち (価格に対する不信感) 販売 店舗 お客様 買取 循環型流通システム MARCH 2003 64 にいた。
また、あえてそれをしようとも考えてい なかった。
あまりに手間と時間がかかりすぎ、要 求されるコストではとても割に合わなかったから である。
これに対して我々は単品管理技術をア ピールすることで業界内でのシェアアップを目 指そうと考えた。
パッケージをすべて単品レベ ルで構築し、セットアップする事前にお客様に 納品予定商品の情報を提供できる体制作りを目 指したのだ。
強みを貫いて利益を出す 私達は、兎にも角にも他社に負けない「価格」 を一発で出すための業務改善に邁進することと なった。
作業工程において最もコストがかかる 部分は「加工工程」である。
現場改善において は特に人員の動きについて見直し、多能工化を 徹底した。
まずは生産性をアップさせるための 作業工程の機械化、従来分割されていた工程の 集約化をおこなった。
単品管理を行うためには入荷時検品作業の時 間短縮が鍵である。
しかし処理時間は一向に短 くならない。
目標とした生産性要求に、現場ス タッフがくじけそうになることもしばしばであっ た。
しかし生産性が頭打ちになるたび必ずその 時点で作業をやめ、工程上の問題追及と改善策 を即座に出すようにして改善を進めた。
それは 「惰性で間違ったやり方を続けても目標は達成で きない」というA社社長の持論からであった。
また保管時にすべての商品が目視できる状態 になるように、棚の増設、梱包資材の見直しな どで人員生産性を向上させ、その上で間接部門 の作業を徹底的に減らした。
棚の増設は、これ も社長が地元の友人をつてに大工を呼び、手作 りで棚を組ませた。
このほか、ありとあらゆる出 費を見直し、ローコスト運営を徹底した。
間接的な業務を削減するために、営業情報は すべて山下部長に一本化した。
山下部長が携帯 電話を受け、すぐに現場責任者に生産の指示を 出す。
労務管理が必要ないように事前準備と支 持伝達はすべて朝礼・夕礼で報告させるように した。
他にも大学ノートに議事を輪番制で記載 していくなど、とにかく「省コスト・省時間・ 省工程・省管理・省人化」を徹底し尽くした。
このことにより、改善前より約一五%の加工 工程数短縮とコスト削減が達成された。
しかも 今までは一部の商品にしか採用していなかった 単品管理を、すべての取扱商品に採用すること ができた。
単品管理導入の効果は絶大であり、こ のことにより、今まで十分に対応出来ていなか ったオープニングパッケージ受注→納品を連続 して対応できるようになった。
これらの取り組みによって、A社は価格面で 負けることがほとんどなくなっていた。
それどこ ろか「どうしてA社はそのような価格が出せる のか、現場を見せて欲しい」という声が顧客よ り頻繁にかかるようになった。
そして、ほとんど の顧客が現場を見た後に契約書にサインをした。
今までにあった「イメージした商品と違う」と いうクレームも、ほぼ皆無になった。
従来の競合他社との競争については十分に勝 ち残っていける感触はつかめてきた。
しかし、山 下部長には次の懸念が頭の中にあった。
それは 「市場そのものの縮小」である。
新店オープンは 景気に大きく左右される。
いくら供給が満たさ れても、店が立ち上がらないことには商品は動 かない。
実際に仕入商品も長年の不景気の影響 でバリエーションが減り、油断するとすぐに不 良在庫の山になる。
業界全体が拡大するごとにこの悩みが深刻に なることは目に見えていた。
次の商品を生み出 さなければ後がない。
そこで考えたのが「在庫 管理業務代行」と「滞留在庫販売」というサー ビスである。
自社の苦しんだ課題は、必ず同業 者も苦しんでいる課題のはずだ‥‥。
在庫管理 図2 新しいビジネスモデル 1. 相場形成機能 2. 商品調達機能(仕入れる技術) 3. アソートメント技術(売る技術) 4. 高精度商品管理機能 1. ローコスト・高品質な商品加工技術 2. トータルピッキング機能 3. 納品及び陳列機能 4. 在庫管理機能 1. デッドストック・スリーピングストック 処理技術 2. 産廃処理技術 最終処理技術 情報と物流の融合 仕入先 A社 納品先 高付加価値型 リテールサポーター C D ビデオ BOOK 什 器 NEXT ONE 一般顧客 専門店(ショップ) まんが喫茶 メディアFC 一般小売店 催 事 新規異業種 (100円ショップなど) 情報 物流 65 MARCH 2003 業務は特に業界内では「誰も触らないテーマ」 であった。
従来、自社内で商品調達をしているので卸は 必要ない、と話していた大手チェーン本部へ提 案書を持ち込み、実際に現場を見学してもらっ た。
滞留在庫に悩む大手メディア卸に対しては、 滞留している在庫を単品管理化し、インターネ ットで検索、購入できるようシステムを構築し て提供した。
その結果、大手チェーン本部の物 流業務のすべてを一年がかりで受注することに 成功した。
大手メディア卸では、営業担当がそっぽを向 いて触りもしなかった商品を、顧客に直接選択 してもらえるようにした。
これによってサービス 開始一カ月で四〇〇万円超の売り上げを計上す ることができた。
これらのサービスが受け入れら れたことに好感触を得た山下部長は、全体的な 戦略を再構築しなおした(図3)。
大きな方向性としては、まず中心には最終顧 客である一般消費者との接点を、インターネッ トと単品管理技術の融合によって作り上げるこ とが目標である。
現在、A社はこの事業戦略を ベースに、物流サービスの強化によって業績を 向上させている。
一時は二億円程度にまで下が っていた売上高が今や六億円を突破した。
A社 は「単品管理」という古くて新しいテーマを徹 底追求することで生き残りへの道筋をつけた。
卸生き残りのための条件 現在、国内の経済環境は更に厳しさを増して おり、まさに生き残りをかけた大きな淘汰の波 が押し寄せている。
今後は、いままで「業種・ 業態」という先入観によって切り分けられてい た商流全体の非効率をいち早く解決した企業が 成長する。
それは「物流」と「情報」の高度な 融合によってもたらされる。
商流全体を熟知し た人間と、強い基本機能を持つ物流事業者の組 み合わせによって可能になると私は確信してい る。
その意味で卸業者と物流事業者は非常に戦 略的なパートナーとなりうる。
「日本の流通は卸がダメにしている」という論調 が大いに幅をきかせていた時期があった。
曰く、 「日本の流通は国際的に見て多段階の構造であり、 この部分に非常に多くのコストがかかっている。
この構造を早期に打破しない限り、国際的な競 争に勝てない」というものであり、事実、その ような構造の業種も存在している。
それは昨今 の大手商社の事業規模縮小、地域卸の広域化な どに象徴されており、大手企業同士の取引にお ける多段階流通は今後も解消されていくものと 考えられる。
しかし、国内中小、中堅企業を主たる得意先 に持つ卸売業は今後もその機能を特化させて生 き残るものと考えられる。
一つは「卸の五機能」 と呼ばれる主要機能の磨き込みである。
それは・ 品揃え、ロット調整力、ファイナンス、リテー ルサポート、物流の各機能強化である。
そして、今後確実に必要とされるノウハウと して、省人化ノウハウ、省時間ノウハウ、省管 理ノウハウの三つが必要とされる。
簡単に言え ば、「人手も時間もかけずに、今まで以上のサー ビスをローコストで提供する」仕事を要求され 続けているということである。
特に従来は「手間」を売上対象、あるいは取 引口座維持の武器としてきた卸にとって、?品揃 え、ロット調整力、ファイナンス、リテールサポ ート、物流〞の機能と、?省人化・省時間・省 管理〞の追及は必須になる。
本来は、二律相反 する課題であるが、それが両立されなければ、同 業態他社との競争に打ち勝つことは出来ない。
大企業になるほど、卸の持っていた機能を自 社内で代替できる人材と資金力を確保しやすい。
卸の存在意義は必然的に中堅、中小企業におい て高くなる。
今はいたずらに「サービスメニュ ー」などを増やしている場合ではなく、「基本機 能」を徹底強化することが最大の課題となって いるのである。
現業務深耕 新規業種・業態進出 現業務 Web物流受託 加工技術 品揃え技術 単品管理技術 滞留在庫処理技術 開店支援 商品卸 現業務規模拡大 百貨店・GMS・ 理美容室 購買代理業 消耗品備品 什機類 ローコストオペレーション 大手チェーン店・新刊書店・ レンタルビデオ店等への導入 Web構築技術 コンサルティング 戦略的提携 物流業務 一括受託 図書館・幼稚園・学校・病院・老人 ホームなどへの廉価提供 閉店物件 機器卸 古書販売代行 図3 事業展開マトリクス インターネット通販 コミックレンタル まんが喫茶
舞台は古本業界だ。
三 年ほど前、私はある地方都市を地盤とする古本 卸A社の山下部長から「業界の変化にどう対応 していくべきか」という相談を受けた。
A社は山下部長の父親が一五年ほど前に立ち 上げた古本卸で、山下部長は二代目として事実 上、同社の現場を切り盛りする立場にあった。
と いってもA社の年商は数億円程度で家族経営の 域を出ない零細規模。
バブル期のピーク時には 七軒ほどの古本店を展開していたものの、ブッ クオフを始めとした新業態の台頭によって業績 が悪化。
一つひとつ店舗の数が減っていき、つ いには卸売業に特化せざるを得なくなったとい う状態にあった。
同社に限らず、古本業界では近年、多くのフ ランチャイズチェーン本部が出店競争を繰り広 げる一方、単独店や小規模チェーンは軒並み業 績の悪化を余儀なくされている。
もともと古本 業のような中古品販売、リユースビジネスは販 売する商材を購入者より仕入れる、という特殊 な流通構造を持っている。
そのため急激な市場 の拡大は商品需給バランスの逼迫を生み、仕入 れコストを高騰させ、利益を圧迫する要因にな ってしまう。
しかもリユースビジネスは、コンビニのように 常時欲しいものを手に入れ、売れ筋を追う、と いう効率的経営もできない。
仕入れは「売れる ものを売れるだけ」という流通ではなく、「売れ るものも売れないものも一山いくら」という取 引か、多くの廃棄ロスを当初より見込んだ取引 が主流であった。
しかも二度と同じ組み合わせ では購入ができない。
業界の誰もがこの状況に対して問題を感じて いながら、何ら打開策を打てずにいた。
A社も 例外ではなく、現状のやり方を続けていては取引が拡大しても利益が残せない、というジレン マを抱えていた。
このままでは体力勝負になり、 ジリ貧である。
そこでこの時期に将来の成長に 向けた布石を打ちたい、という思いで相談され たのであった(図1)。
このような状況の中、まずは全体的な戦略の 青写真を作ることとなった。
山下部長と今後の 経営戦略についての打ち合わせをする中で、改 めてビジネスフローの確認を行った。
仕入→加 工→流通→販売という流れについては他のビジ ネスと大差ないが、すべての物流コストをこの A社が負担するというのがこのビジネスならで はの特徴だった。
また、「加工」というプロセスも、この業界独 第3回 地方都市の小規模古本卸。
一時は地元に七店舗をチェーン展開する まで手を広げていたが、大手チェーン台頭のあおりを受け、売り上げ が減少。
結局、店を全て閉鎖し、卸に特化せざるを得ないところまで 追い込まれた。
それが現在は逆に大手チェーンを顧客とすることで業 績を拡大させている。
徹底した単品管理が復活の決め手となった。
単品管理の徹底で復活した零細卸 63 MARCH 2003 が、商流を制する」のである。
私達はこの条件 を踏まえて、戦略の構築に取り掛かった。
徹底した「理想の姿」の追求 A社は古本卸として同業他社とは違った特徴 を三つ持っていた。
まず一つは、その商圏だ。
本 社所在地が最大の市場である関東圏からどの同 業他社よりも離れていた。
そのため潤沢な仕入 ができずにいた。
しかしこの「良い仕入が少な い」というデメリットを、「不要なものはなるべ く仕入れない」という発想に転換し、かえって 仕入品についての選別眼(目利き)を非常に強 化していた。
神田の老舗古本店で修業した経験 を持つ山下部長のノウハウと人脈がそれを支え ていた。
二つ目の特徴はITの活用だった。
在庫を一 つひとつマスター登録していた。
この単品管理の マスターを駆使し、店舗サイズごとの中分類での 棚割り、最も売れる商品構成を半自動的に割り 出すプログラムを自社で開発し、アソートに使用 していたのである。
さらに三つ目として、A社は Webシステム構築ができるSEを採用し、イン ターネット中古書籍販売サイトを開設して いた。
ただし、この三つ以外は他の同業卸、フラン チャイズチェーン本部よりも明らかに分が悪か った。
山下部長と社長のみが経営に強い危機感 を持ち、現場は経営に関する知識もない状態で あった。
しかも在庫のマスター登録には大変な 手間がかかっていた 本には基本的に三種類のコードがついている。
一つが出版業界の標準コードである「ISBN」、 さらに主にコンビニで使用されるJANコード、 そして雑誌専用のTコードの三種類だ。
このほ か中小規模の出版社の書籍や発行が古いものな ど、全くコードがついていないものを含めると計 四種類に分かれる。
これをマスター登録するには、何をどう処理 するか、A社が独自で考えなければならなかっ た。
しかも、一つひとつの入力は基本的に手作 業だ。
手間とコストがマスター管理の悩みの種 で、A社自慢の単品管理も売れ筋の一部の在庫 にとどまっていた。
この現状を踏まえ、私達は経営の理想の姿を 考えた。
山下部長の思いは「私たちの付加価値 を認めてくれるお客様に対して商売をしたい」と いうものであった。
また、現状では売り上げの 波動が大きく、「収入の安定化」も重要な鍵だっ た。
この二つを両立させるために必要な条件を 抽出し、理想の姿を情報と物流を強みとした「高 付加価値型リテールサポーター」とした(図2)。
次に私達は経営を持続させる条件を考えた。
中 小企業において絶対的に必要な視点は、「確実な 売上高を獲得できる顧客、もしくはサービス」を 持つことである。
そして確実に競争に勝つため には、他社に負けない「価格」を一発で提示で きるコスト構造を持つことであった。
山下部長と私は、まず主力商品となっていた 「新店オープニングパッケージ」についてのサー ビス内容を詰めた。
このオープニングパッケージ とは、新たに古本店や漫画喫茶などを開店する ために必要な商品を、開封した時点から棚にす ぐ陳列できるようにセットアップしたものである。
他社はこのパッケージについて、単品レベル での納品情報をお客様に提供することができず 特のものだ。
仕入れた商品、すなわち古本をク リーニング・メンテナンスし、納品先(多くは 店舗)の棚にそのまま陳列できるようカテゴリ ー別に梱包し、納品を行うのである。
結局、このオペレーションフローの完成度が 高ければ競争に勝つことが出来るであろうし、コ ストセーブのノウハウが構築されれば、利益の 確保も容易になる。
まさに「物流を制する企業 図1 中古(リユース)ビジネスの構造 販売側のメリット ●自社に価格決定権がある ●高粗利、高収益 ●仕入単価が安い ●比較的ローコストで出店できる ●商品寿命が長い ●お客様のイメージが良い 販売側のデメリット ●仕入が不安定かつ、欲しくない 商品も仕入れなければならない ●一時期に同じものが入荷する ●在庫管理しにくい ●チャンスロスが多い ●労働集約型で効率化が困難 ●効率よく売るには再加工が必要 (店舗業務負担増加) お客様のメリット ●安く商品が買える ●新旧通じ比較的品揃えが多い ●新品が廃盤、品切れでも商品が 手に入る ●商品を売ることが出来る ●リサイクルのイメージ お客様のデメリット ●買取価格が安い ●欲しいときに欲しいものが手に 入らない ●新しい商品が買えない ●安さ以外のサービスに乏しい ●売るときの手続きが煩雑 ●各店舗の販売価格がまちまち (価格に対する不信感) 販売 店舗 お客様 買取 循環型流通システム MARCH 2003 64 にいた。
また、あえてそれをしようとも考えてい なかった。
あまりに手間と時間がかかりすぎ、要 求されるコストではとても割に合わなかったから である。
これに対して我々は単品管理技術をア ピールすることで業界内でのシェアアップを目 指そうと考えた。
パッケージをすべて単品レベ ルで構築し、セットアップする事前にお客様に 納品予定商品の情報を提供できる体制作りを目 指したのだ。
強みを貫いて利益を出す 私達は、兎にも角にも他社に負けない「価格」 を一発で出すための業務改善に邁進することと なった。
作業工程において最もコストがかかる 部分は「加工工程」である。
現場改善において は特に人員の動きについて見直し、多能工化を 徹底した。
まずは生産性をアップさせるための 作業工程の機械化、従来分割されていた工程の 集約化をおこなった。
単品管理を行うためには入荷時検品作業の時 間短縮が鍵である。
しかし処理時間は一向に短 くならない。
目標とした生産性要求に、現場ス タッフがくじけそうになることもしばしばであっ た。
しかし生産性が頭打ちになるたび必ずその 時点で作業をやめ、工程上の問題追及と改善策 を即座に出すようにして改善を進めた。
それは 「惰性で間違ったやり方を続けても目標は達成で きない」というA社社長の持論からであった。
また保管時にすべての商品が目視できる状態 になるように、棚の増設、梱包資材の見直しな どで人員生産性を向上させ、その上で間接部門 の作業を徹底的に減らした。
棚の増設は、これ も社長が地元の友人をつてに大工を呼び、手作 りで棚を組ませた。
このほか、ありとあらゆる出 費を見直し、ローコスト運営を徹底した。
間接的な業務を削減するために、営業情報は すべて山下部長に一本化した。
山下部長が携帯 電話を受け、すぐに現場責任者に生産の指示を 出す。
労務管理が必要ないように事前準備と支 持伝達はすべて朝礼・夕礼で報告させるように した。
他にも大学ノートに議事を輪番制で記載 していくなど、とにかく「省コスト・省時間・ 省工程・省管理・省人化」を徹底し尽くした。
このことにより、改善前より約一五%の加工 工程数短縮とコスト削減が達成された。
しかも 今までは一部の商品にしか採用していなかった 単品管理を、すべての取扱商品に採用すること ができた。
単品管理導入の効果は絶大であり、こ のことにより、今まで十分に対応出来ていなか ったオープニングパッケージ受注→納品を連続 して対応できるようになった。
これらの取り組みによって、A社は価格面で 負けることがほとんどなくなっていた。
それどこ ろか「どうしてA社はそのような価格が出せる のか、現場を見せて欲しい」という声が顧客よ り頻繁にかかるようになった。
そして、ほとんど の顧客が現場を見た後に契約書にサインをした。
今までにあった「イメージした商品と違う」と いうクレームも、ほぼ皆無になった。
従来の競合他社との競争については十分に勝 ち残っていける感触はつかめてきた。
しかし、山 下部長には次の懸念が頭の中にあった。
それは 「市場そのものの縮小」である。
新店オープンは 景気に大きく左右される。
いくら供給が満たさ れても、店が立ち上がらないことには商品は動 かない。
実際に仕入商品も長年の不景気の影響 でバリエーションが減り、油断するとすぐに不 良在庫の山になる。
業界全体が拡大するごとにこの悩みが深刻に なることは目に見えていた。
次の商品を生み出 さなければ後がない。
そこで考えたのが「在庫 管理業務代行」と「滞留在庫販売」というサー ビスである。
自社の苦しんだ課題は、必ず同業 者も苦しんでいる課題のはずだ‥‥。
在庫管理 図2 新しいビジネスモデル 1. 相場形成機能 2. 商品調達機能(仕入れる技術) 3. アソートメント技術(売る技術) 4. 高精度商品管理機能 1. ローコスト・高品質な商品加工技術 2. トータルピッキング機能 3. 納品及び陳列機能 4. 在庫管理機能 1. デッドストック・スリーピングストック 処理技術 2. 産廃処理技術 最終処理技術 情報と物流の融合 仕入先 A社 納品先 高付加価値型 リテールサポーター C D ビデオ BOOK 什 器 NEXT ONE 一般顧客 専門店(ショップ) まんが喫茶 メディアFC 一般小売店 催 事 新規異業種 (100円ショップなど) 情報 物流 65 MARCH 2003 業務は特に業界内では「誰も触らないテーマ」 であった。
従来、自社内で商品調達をしているので卸は 必要ない、と話していた大手チェーン本部へ提 案書を持ち込み、実際に現場を見学してもらっ た。
滞留在庫に悩む大手メディア卸に対しては、 滞留している在庫を単品管理化し、インターネ ットで検索、購入できるようシステムを構築し て提供した。
その結果、大手チェーン本部の物 流業務のすべてを一年がかりで受注することに 成功した。
大手メディア卸では、営業担当がそっぽを向 いて触りもしなかった商品を、顧客に直接選択 してもらえるようにした。
これによってサービス 開始一カ月で四〇〇万円超の売り上げを計上す ることができた。
これらのサービスが受け入れら れたことに好感触を得た山下部長は、全体的な 戦略を再構築しなおした(図3)。
大きな方向性としては、まず中心には最終顧 客である一般消費者との接点を、インターネッ トと単品管理技術の融合によって作り上げるこ とが目標である。
現在、A社はこの事業戦略を ベースに、物流サービスの強化によって業績を 向上させている。
一時は二億円程度にまで下が っていた売上高が今や六億円を突破した。
A社 は「単品管理」という古くて新しいテーマを徹 底追求することで生き残りへの道筋をつけた。
卸生き残りのための条件 現在、国内の経済環境は更に厳しさを増して おり、まさに生き残りをかけた大きな淘汰の波 が押し寄せている。
今後は、いままで「業種・ 業態」という先入観によって切り分けられてい た商流全体の非効率をいち早く解決した企業が 成長する。
それは「物流」と「情報」の高度な 融合によってもたらされる。
商流全体を熟知し た人間と、強い基本機能を持つ物流事業者の組 み合わせによって可能になると私は確信してい る。
その意味で卸業者と物流事業者は非常に戦 略的なパートナーとなりうる。
「日本の流通は卸がダメにしている」という論調 が大いに幅をきかせていた時期があった。
曰く、 「日本の流通は国際的に見て多段階の構造であり、 この部分に非常に多くのコストがかかっている。
この構造を早期に打破しない限り、国際的な競 争に勝てない」というものであり、事実、その ような構造の業種も存在している。
それは昨今 の大手商社の事業規模縮小、地域卸の広域化な どに象徴されており、大手企業同士の取引にお ける多段階流通は今後も解消されていくものと 考えられる。
しかし、国内中小、中堅企業を主たる得意先 に持つ卸売業は今後もその機能を特化させて生 き残るものと考えられる。
一つは「卸の五機能」 と呼ばれる主要機能の磨き込みである。
それは・ 品揃え、ロット調整力、ファイナンス、リテー ルサポート、物流の各機能強化である。
そして、今後確実に必要とされるノウハウと して、省人化ノウハウ、省時間ノウハウ、省管 理ノウハウの三つが必要とされる。
簡単に言え ば、「人手も時間もかけずに、今まで以上のサー ビスをローコストで提供する」仕事を要求され 続けているということである。
特に従来は「手間」を売上対象、あるいは取 引口座維持の武器としてきた卸にとって、?品揃 え、ロット調整力、ファイナンス、リテールサポ ート、物流〞の機能と、?省人化・省時間・省 管理〞の追及は必須になる。
本来は、二律相反 する課題であるが、それが両立されなければ、同 業態他社との競争に打ち勝つことは出来ない。
大企業になるほど、卸の持っていた機能を自 社内で代替できる人材と資金力を確保しやすい。
卸の存在意義は必然的に中堅、中小企業におい て高くなる。
今はいたずらに「サービスメニュ ー」などを増やしている場合ではなく、「基本機 能」を徹底強化することが最大の課題となって いるのである。
現業務深耕 新規業種・業態進出 現業務 Web物流受託 加工技術 品揃え技術 単品管理技術 滞留在庫処理技術 開店支援 商品卸 現業務規模拡大 百貨店・GMS・ 理美容室 購買代理業 消耗品備品 什機類 ローコストオペレーション 大手チェーン店・新刊書店・ レンタルビデオ店等への導入 Web構築技術 コンサルティング 戦略的提携 物流業務 一括受託 図書館・幼稚園・学校・病院・老人 ホームなどへの廉価提供 閉店物件 機器卸 古書販売代行 図3 事業展開マトリクス インターネット通販 コミックレンタル まんが喫茶
