2003年3月号
特集
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イオンの流通改革 それでも日本の卸は生き残る
MARCH 2003 22
「それでも日本の卸は生き残る」
イオンの直接取引が業界に波紋を呼んでいる。
利害関係者の感 情的な対応に加え、SCMの原則を無視した議論が混乱に拍車を かけている。
そこで今回は本誌連載「ロジスティクス・リーダー シップ論」の特別編として、執筆者の楢村氏に中間流通問題の方 法論をインタビュー形式で訊ねた。
P&G 楢村文信 ECRネットワーキング・マネージャー 中間流通問題の原則 ――欧米型の直接取引、卸の?中抜き〞が日本でも 始まっています。
このまま日本の卸は衰退していくの でしょうか。
「結論から言えば、日本の卸は絶対になくならない。
ただし、卸を通さないモデル、つまり米国型に近いモ デルもこれからは日本に出てくる。
誤解されている方 も多いようですが、米国型イコール卸中抜きという認 識は間違いです。
ウォルマートもホールセラー(卸) を活用しています。
その方がEDLP(エブリデイ・ ロー・プライス)戦略の実現に有効だと判断している からでしょう」 「米国のP&G社とウォルマート社との取引でもホ ールセラーが介在しています。
米国のP&Gでも取引 金額に占めるホールセラーの割合は、売上の五割を超 えています。
最近は小さな規模のメーカーが逆に、先 進的な卸やブローカーの活用を積極的に進めています。
米国と比べて商圏が密集している日本では、それより もはるかに大きな割合で卸が残ると考えられる」 ――商圏密集というのは? 「その前に、中間流通の問題を考える時の基本を押 さえておく必要があります。
出発点となるのは、生産 する場所と販売する場所、つまり工場と店舗のロジッ クが全く異なっているという事実です。
少量品種を大 量生産する――それが生産のロジックです。
それに対 して店舗側では、幅広い品揃えを、欠品しない限り少 量だけ持っていたい。
そうなると工場で生産された製 品を、店舗に納品する前にどこかで一回取りまとめて、 在庫・仕分けを行う必要がある。
それが大前提です。
これは日本に限らず、世界中どこの国であっても、ど んな小売業でも、ここから出発しなくてはならない。
例外は一つの工場で扱い製品全てを作っている場合だ けです。
そんなことを改めて今指摘するのは、日本の 場合、この原則が関係者の共通認識となっていないこ とから議論が起こるのではないかと思うからです」 ――流通加工サービスのためのセンターが、工場と店 の間に、一カ所は必要になる、という話ですね。
「そうです。
そこから最初の問題点が出てくる。
セ ンターを誰が運営するのかという問題です。
また、そ れをどこへ設置するのか。
工場の近くか、それとも店 舗周辺か。
あるいは完全に中間地点に置くのかという 選択肢があります。
このロジックを冷静に見た上で、 モデルを分析しなければならない」 「そこで検討しなければならないのが、小売店を取 り巻く商圏構造がどうなっているのかという問題です。
それが先ほど商圏密集と言った意味です。
例えばウォ ルマートの従来型の店は人口密度の高くないところに 出店しています。
競合の少ない田舎町に大規模店を 出店し、充実した品揃えとEDLPで、そのエリアの 顧客をしっかりと捕まえる。
それを支える補充物流は、 リージョンとか大きなブロック単位で、大型のセンタ ーを設置し、そこに商品を各地から集める。
流通加工 センターから店舗までの補給距離は長く、大型トレー ラーで一気に大型店舗に大量に納品する形です」 「これに対して日本の都市部の場合は、店舗が小さ いので在庫できる量は限られている。
また、道路やバ ックヤードのサイズの問題もあります。
そのため店舗 に近いところに拠点を置く。
そして一気に納品するの ではなく、複数の店を小さなトラックが巡回して多頻 度で納品する形になっている。
米国でもニューヨーク の中心部のような商圏の密度の高い地域には大きなス ーパーストアなどありませんから、日本と似たような 構造になっています」 ロジスティクス・リーダーシップ論《特別編》Interview 23 MARCH 2003 特集1 誰がセンターを運営するか ――誰がセンターを運営するのか、という問題はどう 考えればいいのでしょう。
ウォルマートは自前でセン ターを持っていますね。
「流通加工センターの規模は、そのセンターに、ど れだけの店が連結されるのかによって決まります。
こ れが現在のテクノロジーを考慮すると、消費財だと年 間二〇〇から二五〇億円程度の通過金額が必要にな る。
それだけの規模がないと最新型の情報システムや マテハンを導入したセンターへの投資が回収できない。
それでは二五〇億円の通過金額を実現するには、どれ だけの店舗をネットワークに連結する必要があるのか。
そうやって考えていく必要があります」 「日本でもナショナルチェーンや他のライバルの少 ない、地方の人口密度が高くない地域であれば、大型 で近代的な店舗フォーマットを持ち込み、ウォルマー トに近いモデルが実現できるかも知れない。
しかし東 京を始めとする大消費地は、密集の度合いが高く、し かも小さな食品スーパーやドラッグストアがたくさん ある。
そこに対して小売業がそれぞれ自前で流通加工 センターを作っても採算がとれない。
そうなると、形 態としては小売業と資本関係の全くない卸売業に頼 まざるを得ない」 ――となると、商圏の密集した消費地があり、そして 毎日近所で買い物するという習慣が消費者に残ってい る間は、それに対応する小規模店が残り、その分だけ 卸流通も残るということになりますね。
「しかも日本の地域スーパーには、肥大化した全国 チェーンよりはずっと強いところが少なくない。
その 商圏に対する理解とノウハウを持ち、地域密着でがっ ちり顧客を掴んでいる。
そうしたスーパーは生き残り ます。
そして彼らは規模の問題から調達・物流では基 本的には卸と組まなければならない。
また、大手であ っても流通加工センターなどのアウトソースとして卸 を使うという選択肢があります」 ――日本のコンビニはどう考えればいいですか。
消費 地でも自前のセンターを構えています。
「コンビニのセンターは基本的に在庫を持たない通 過型です。
センターでは卸がピースピッキングまで処 理した商品をルート別にまとめているだけに過ぎませ ん。
それなら二五〇億円もの通過金額は必要ない。
し かし、通過型は中間拠点を増やすことになるので、サ プライチェーンコスト上は好ましくない」 ――結局、ドミナント制という言葉としては日本のコ ンビニやスーパーもウォルマートと同じですが、実際 のモデルは随分違いますね。
「違います。
日本のチェーンストアのほとんどは、ド ミナント制を口にしてはいても、そこで補充ロジステ ィクスのことは考慮せずに出店してきました。
いったん、そうして出店しまえば後からそれを直すのは、容 易ではない」 「その点でイオン・グループの現在の取り組みは注 目に値します。
まず、その取り組みから『グローバル 10 』になった時のイオンの姿が、グローバル小売業と 比較してみて、明確にイメージさせられます。
日本の チェーンストアの販売管理費は現在、売上高の二六か ら二九%程度で、これは欧米のチェーンストアに比べ て遙かに割高です。
営業利益は二%以下。
このままで は勝負にならない。
グローバル競争するためには、ど うしても販管費を下げ利益を改善する必要がある。
そ のことが前提で自己改革を進めている。
外資ばかりが 評価される中、同じ日本人として何とかガンバっても らいたいという気持になりますね」 工場 製造>出荷> この流通加工センターの担い手に は、卸や物流会社へのアウトソース、 小売の自前と、選択肢が存在 顧客ニーズに応じ て、幅広い品揃え を。
スペース制約が あるため、在庫はな るべく少なく 少量品種を集約的 に量産し、高品質の ものを低コストで 取り揃え>仕分け 荷受>保管>ピッキング>出荷> 流通加工センター 店舗 配送> 配送> 荷受>陳列>販売 工場とセンター間 では、規模メリット による効率化を センターと店舗間での最適 輸送の形によって、センター と店舗の距離が制約される 店舗-センター間で は、店舗事情に合わ せた最適化が重要
利害関係者の感 情的な対応に加え、SCMの原則を無視した議論が混乱に拍車を かけている。
そこで今回は本誌連載「ロジスティクス・リーダー シップ論」の特別編として、執筆者の楢村氏に中間流通問題の方 法論をインタビュー形式で訊ねた。
P&G 楢村文信 ECRネットワーキング・マネージャー 中間流通問題の原則 ――欧米型の直接取引、卸の?中抜き〞が日本でも 始まっています。
このまま日本の卸は衰退していくの でしょうか。
「結論から言えば、日本の卸は絶対になくならない。
ただし、卸を通さないモデル、つまり米国型に近いモ デルもこれからは日本に出てくる。
誤解されている方 も多いようですが、米国型イコール卸中抜きという認 識は間違いです。
ウォルマートもホールセラー(卸) を活用しています。
その方がEDLP(エブリデイ・ ロー・プライス)戦略の実現に有効だと判断している からでしょう」 「米国のP&G社とウォルマート社との取引でもホ ールセラーが介在しています。
米国のP&Gでも取引 金額に占めるホールセラーの割合は、売上の五割を超 えています。
最近は小さな規模のメーカーが逆に、先 進的な卸やブローカーの活用を積極的に進めています。
米国と比べて商圏が密集している日本では、それより もはるかに大きな割合で卸が残ると考えられる」 ――商圏密集というのは? 「その前に、中間流通の問題を考える時の基本を押 さえておく必要があります。
出発点となるのは、生産 する場所と販売する場所、つまり工場と店舗のロジッ クが全く異なっているという事実です。
少量品種を大 量生産する――それが生産のロジックです。
それに対 して店舗側では、幅広い品揃えを、欠品しない限り少 量だけ持っていたい。
そうなると工場で生産された製 品を、店舗に納品する前にどこかで一回取りまとめて、 在庫・仕分けを行う必要がある。
それが大前提です。
これは日本に限らず、世界中どこの国であっても、ど んな小売業でも、ここから出発しなくてはならない。
例外は一つの工場で扱い製品全てを作っている場合だ けです。
そんなことを改めて今指摘するのは、日本の 場合、この原則が関係者の共通認識となっていないこ とから議論が起こるのではないかと思うからです」 ――流通加工サービスのためのセンターが、工場と店 の間に、一カ所は必要になる、という話ですね。
「そうです。
そこから最初の問題点が出てくる。
セ ンターを誰が運営するのかという問題です。
また、そ れをどこへ設置するのか。
工場の近くか、それとも店 舗周辺か。
あるいは完全に中間地点に置くのかという 選択肢があります。
このロジックを冷静に見た上で、 モデルを分析しなければならない」 「そこで検討しなければならないのが、小売店を取 り巻く商圏構造がどうなっているのかという問題です。
それが先ほど商圏密集と言った意味です。
例えばウォ ルマートの従来型の店は人口密度の高くないところに 出店しています。
競合の少ない田舎町に大規模店を 出店し、充実した品揃えとEDLPで、そのエリアの 顧客をしっかりと捕まえる。
それを支える補充物流は、 リージョンとか大きなブロック単位で、大型のセンタ ーを設置し、そこに商品を各地から集める。
流通加工 センターから店舗までの補給距離は長く、大型トレー ラーで一気に大型店舗に大量に納品する形です」 「これに対して日本の都市部の場合は、店舗が小さ いので在庫できる量は限られている。
また、道路やバ ックヤードのサイズの問題もあります。
そのため店舗 に近いところに拠点を置く。
そして一気に納品するの ではなく、複数の店を小さなトラックが巡回して多頻 度で納品する形になっている。
米国でもニューヨーク の中心部のような商圏の密度の高い地域には大きなス ーパーストアなどありませんから、日本と似たような 構造になっています」 ロジスティクス・リーダーシップ論《特別編》Interview 23 MARCH 2003 特集1 誰がセンターを運営するか ――誰がセンターを運営するのか、という問題はどう 考えればいいのでしょう。
ウォルマートは自前でセン ターを持っていますね。
「流通加工センターの規模は、そのセンターに、ど れだけの店が連結されるのかによって決まります。
こ れが現在のテクノロジーを考慮すると、消費財だと年 間二〇〇から二五〇億円程度の通過金額が必要にな る。
それだけの規模がないと最新型の情報システムや マテハンを導入したセンターへの投資が回収できない。
それでは二五〇億円の通過金額を実現するには、どれ だけの店舗をネットワークに連結する必要があるのか。
そうやって考えていく必要があります」 「日本でもナショナルチェーンや他のライバルの少 ない、地方の人口密度が高くない地域であれば、大型 で近代的な店舗フォーマットを持ち込み、ウォルマー トに近いモデルが実現できるかも知れない。
しかし東 京を始めとする大消費地は、密集の度合いが高く、し かも小さな食品スーパーやドラッグストアがたくさん ある。
そこに対して小売業がそれぞれ自前で流通加工 センターを作っても採算がとれない。
そうなると、形 態としては小売業と資本関係の全くない卸売業に頼 まざるを得ない」 ――となると、商圏の密集した消費地があり、そして 毎日近所で買い物するという習慣が消費者に残ってい る間は、それに対応する小規模店が残り、その分だけ 卸流通も残るということになりますね。
「しかも日本の地域スーパーには、肥大化した全国 チェーンよりはずっと強いところが少なくない。
その 商圏に対する理解とノウハウを持ち、地域密着でがっ ちり顧客を掴んでいる。
そうしたスーパーは生き残り ます。
そして彼らは規模の問題から調達・物流では基 本的には卸と組まなければならない。
また、大手であ っても流通加工センターなどのアウトソースとして卸 を使うという選択肢があります」 ――日本のコンビニはどう考えればいいですか。
消費 地でも自前のセンターを構えています。
「コンビニのセンターは基本的に在庫を持たない通 過型です。
センターでは卸がピースピッキングまで処 理した商品をルート別にまとめているだけに過ぎませ ん。
それなら二五〇億円もの通過金額は必要ない。
し かし、通過型は中間拠点を増やすことになるので、サ プライチェーンコスト上は好ましくない」 ――結局、ドミナント制という言葉としては日本のコ ンビニやスーパーもウォルマートと同じですが、実際 のモデルは随分違いますね。
「違います。
日本のチェーンストアのほとんどは、ド ミナント制を口にしてはいても、そこで補充ロジステ ィクスのことは考慮せずに出店してきました。
いったん、そうして出店しまえば後からそれを直すのは、容 易ではない」 「その点でイオン・グループの現在の取り組みは注 目に値します。
まず、その取り組みから『グローバル 10 』になった時のイオンの姿が、グローバル小売業と 比較してみて、明確にイメージさせられます。
日本の チェーンストアの販売管理費は現在、売上高の二六か ら二九%程度で、これは欧米のチェーンストアに比べ て遙かに割高です。
営業利益は二%以下。
このままで は勝負にならない。
グローバル競争するためには、ど うしても販管費を下げ利益を改善する必要がある。
そ のことが前提で自己改革を進めている。
外資ばかりが 評価される中、同じ日本人として何とかガンバっても らいたいという気持になりますね」 工場 製造>出荷> この流通加工センターの担い手に は、卸や物流会社へのアウトソース、 小売の自前と、選択肢が存在 顧客ニーズに応じ て、幅広い品揃え を。
スペース制約が あるため、在庫はな るべく少なく 少量品種を集約的 に量産し、高品質の ものを低コストで 取り揃え>仕分け 荷受>保管>ピッキング>出荷> 流通加工センター 店舗 配送> 配送> 荷受>陳列>販売 工場とセンター間 では、規模メリット による効率化を センターと店舗間での最適 輸送の形によって、センター と店舗の距離が制約される 店舗-センター間で は、店舗事情に合わ せた最適化が重要
