2003年6月号
リーダーシップ論
リーダーシップ論
コラボレーションのための標準化
JUNE 2003 78
標準化の必要性とメリット
顧客価値の実現という課題を突き
詰めていくと、価値創造に関わるす
べてのパートナー企業との「コラボレ
ーション(協働)」をいかにうまく実
現させるかが成功の鍵となってくる。
このコラボレーションを日常業務化す るために必要なツールがITであり、 さらにこのツールとしてのITを企業 間で活用するために必須となるのが標 準(スタンダード)である。
わかりやすい例が、商品パッケージ につけられている商品コードである。
商品コードは、桁数、附番ルール、そ して表記方法(バーコード)が世界 中で統一されている。
そのために、あ らゆる小売店のPOSレジのスキャ ナーで、バーコードを商品コードとし て読み取ることができるのである。
そ して商品コードを自動的にコンピュー ター上に計上することができるのであ る。
また商品コードの数字は、商品を 発注するときの共通商品番号として 複数の企業間で使われている。
これ がなければ、EDIを始め「CRP (連続自動補充プログラム)」や「C PFR(コラボレーティブ・プランニ ング・フォーキャスティング・アン ド・レプレニッシュメント)」や、カテゴリー・マネジメントもすべて機能 しない。
このように、売り手・および買い手 を含めて複数企業間で同じような情 報を交換している場合には、標準化 は非常に重要である。
図1は山崎康 司著「P&Gに見るECR革命」に 紹介されている概念を基にしたものだ が、ポイントは複数企業間で川上・ 川下にまたがって使われるシステムに ついては、オープンな標準が必要とな ってくることである。
標準がなければ、 企業間でのコミュニケーションは円滑 に行われないのである。
例えば、ある先進的な企業間でE DIが導入され、それが効果を上げ たとする。
当然、その企業はそれぞれ 別の取引先に対してもEDIの採用 を要求していく。
こうして業界内の企 業にEDIが普及していくきっかけ ができる。
ところが、そこに業界内で 合意の取れたオープンな標準が存在 しないとどうなるか。
全体としてうま く機能しなくなってしまう。
実際、筆者の身近でも、ある大手 小売業が標準として認識されていな コラボレーションのための標準化 楢村文信 P&G ECRネットワーキング・マネージャー 企業間情報システムの活用で、必ず大きなテーマになるのが標準化の問 題だ。
欧米ではNPOの業界団体に大手企業がボランティアを派遣し、ユ ーザー主導で標準化が進められている。
ライバル企業同士でも、標準化に 関しては協力する体制が整っている。
これに対して日本の取り組みは遅れ ている。
﹇第8回﹈ 図1 企業間アプリケーションの利用が進むと 1対1 パートナーシップ 複数企業間で取り組むものは業界標準化した方が好ましい 1対M N対1 N対M オープン システム化・ 標準プロセス 79 JUNE 2003 いEDIの仕様の採用を得意先に求 めたが、導入開始から三年経っても、 採用が広がらなかった例がある。
大手 小売業ともなると納入先は全てその 要求に従うかというとそうではない。
やはり、新しい仕組みへの対応に時 間がかかる上、中小規模の取引先で は対応人員の問題などがあったよう である。
企業によってデータを送信する手 順(プロトコール)やデータの様式 (フォーマット)が異なっていれば、コ ンピューター間の通訳の役目を果た すトランスレーターの開発が必要にな る。
その時間と手間がEDIの導入 コストを押し上げ、システム投資の回 収を遅らせる。
しかも、それが一つの取引先だけに しか使えないものである場合、どうし ても投資には慎重にならざるを得ない。
逆に、取引先一社だけではなく、他 の全ての取引先をも対象とした標準 規格の導入であるなら、積極的な投 資理由ともなりえる。
オープンスタンダードが必要な、も う一つの理由は「クリティカル・マス (経済的臨界量)」の早期実現という 考え方である。
クリティカル・マスと は、ある新しい仕組みの普及が、一 気に加速し始める分水嶺である。
I Tの世界に「メトカフの法則」と呼 ばれる法則がある。
「ネットワークの コストはその拡大とともに一定(線形 的)にしか増えないが、ネットワーク の価値は尻上り(指数関数的)に増 える」というものである。
携帯電話や電子メールなどのネッ トワーク型のサービスは、利用できる 相手の数が増えるとその付加価値は 高くなる。
サービスを受けるのに必要 なハードの投資に対して、使える相手 が増えて、しかも時間帯などの利用 制限が少なくなれば、投資に対する メリットは大きくなる。
そこで「バリ ュー・フォー・マネー」が実現されれ ば導入が急速に進み始めるのである。
企業間システムも同じである。
企 業間システムとは、導入すれば効果 が上がるというものではなく、ある規 模まで普及して、初めて本当に効果 が発揮されるのである。
BPRのため のシステムを導入しても、新しいシス テムに完全に移管しなければ、古い高 コストな仕組みを残すことになり成功 とは言えない。
クリティカル・マスを早く実現する ことが投資回収上も重要であり、そ のために欠かせないのがシステムの接 続を容易にするための標準なのである。
標準をきちんと定めることは、取引パ ートナーに対する導入障壁を減らす 上でも重要であり、そこまでを視野に 入れた導入シナリオが必要なのである。
ちなみに欧州のある大手小売業で は、IT投資に対するROIの目標 値を年率二〇%としている。
五年で システム投資を回収するだけの成果 を上げなければならないわけだ。
その ためにも標準規格を採用して、より 早くシステムをフル稼働させ投資回 収を実現しなければならないのである。
標準化のスコープ では、SCMにおける標準化が必 要なのは、どのような領域であろうか。
SCMやB2B・E ―ビジネスなどを 実現するためには、コンピューターを ネットワークで繋げて、自由にデータ 交換や、データ処理を行う上で必要 な部分の標準化を行うことで、最終 的には企業間でのビジネス・アプリケ ーションを連携させなければならない。
しかし、それぞれの企業の独自性を考 えると、ある一定の線引きが必要に なってくる。
米国ECRでは、この問題をテク ノロジー・ピラミッドという考え方を IT基盤標準化推進のメリット コスト削減効果 ・インフラに関する開発・メンテナンス両面でシステム要員の削減 ・業界での共同開発による開発コストの削減 開発と実用化までのスピードアップ ・導入への合意形成から、システム部門での対応スピードがあがることから、投資 コストの早期回収が期待できる 長期的展望に立った投資が可能 ・明確な方向性に基づく投資・開発。
デファクトの方向性が変わることによってシ ステム投資を無駄にするリスクが避けられる 大手から小規模企業までの、一貫した導入による広がり ・特に、小規模企業に対してシステム導入を求める場合、対応力の問題が懸念され るが、業界で一つの標準であればその分、負担が軽減される。
1社だけの対応で あれば、投資が負担になるが、それが全取引企業と使えるのであれば、積極的な 採用理由となる。
結果として、クリティカル・マスの早期実現を可能にする システム統合の円滑化 図2 ECRにおけるテクノロジー・ピラミッド ビジネス アプリケーション インフラストラクチャー コア・テクノロジー スタンダード ハードウェア/システム ソフトウェア ・カテゴリー・マネジメント ・物流支援 ・CRP、CAO ・業績評価支援 ・CPFR ・識別子 ・バーコード・インテリジェント・タグ ・EDI・インターネットプロトコール ・トランザクション処理 ・アーキテクチャー ・データ・アーキテクチャー ・コミュニケーション・アー キテクチャー 第3階層 第2階層 第1階層 米国ECR資料より、筆者翻訳・修正 JUNE 2003 80 使って整理している(図2)。
この考 え方では、テクノロジーを三つの層に 切り分けている。
ベースとなる第一層 には、ハードウェアや、システムを動 かすためのソフトウェア(オペレーテ ィング・システムなど)がある。
第二層はデータ通信のための技術 に関するもので、識別子、バーコード、 EDIが挙げられている。
識別子と は、データ表記に関する体系である。
EDIメッセージの項目の識別の方 法や、商品コードの附番ルールなど が含まれている。
バーコードは商品コ ードなどをスキャナーなど自動データ 認識装置で読み取るための、データ 表記のルールである。
さらに近年注 目を浴びている「インテリジェント・ タグ(自動認識タグ)」もここに含め られる。
EDIはデータ交換のため の通信手順を意味しており、最近の ものとしてインターネットやWEBサ ービスのための通信プロトコールを加 えなければならない。
そして最上位の第三層がビジネス・ アプリケーションと呼ばれている領域 である。
これは図3にあるように、 様々な業務を行う仕組みを指してい る。
ECRでは、POSデータを共 有することが起点であり、このデータ を荷動きの情報として企業間で共有 して活用することで、CAO(コンピ ューター支援による発注)やCRP を行ったり、販売実績の分析から品 揃えや売り場スペース配分を決定し たりしている。
ただし、ECRではビジネス・アプ リケーションとして特定の業務ソフト が指示されているわけではない。
ビジ ネス・アプリケーションそれぞれにつ いての定義はあるが、それを実現する ツールや方法は個別企業で判断する べきだという考え方である。
ECRのゴールはあくまで、先進 的なビジネス・モデルを活用すること で売り上げや利益、ROIなどの実 績を向上することにあり、必ずしもI Tの技術的観点から最も優れている ものを使っているかどうかではない。
実際、アプリケーションそのものより も、どうやってアプリケーションを有 効に機能させるかの方が、競争上は 重要な課題となる。
また、このテクノロジー・ピラミッ ドでは、ビジネスモデルと、ハード・ OSの間にデータ共有のための技術 層が独立して存在しており、データ共 有がSCM実施の上での鍵であるこ とを示している。
近年B2B・E ―ビジネスの世界で は、データ交換の言語にXML ( eXtensible Mark-up Language )が 用いられている。
XMLで書かれたデ ータは、コンピューターが自動的に書 かれているデータの内容を認識するこ とができる。
その際、標準化された記 法を用いていれば、様々なハードやO Sであっても対応できるようになって いる。
いわゆる「WEBサービス」と 呼ばれるものである。
これによって、パートナーの持つデ ータの呼び出しや、企業間でのアプリ ケーション連携が実現され、よりダイ ナミックな形でのECRが実現でき る。
そのため、この現在ECRを推 進する組織ではXMLを使ったメッ セージ標準(ダグとスキーマ)の開発 が急速に進められている。
業務プロセスも標準化する 一部には、仕組みやプロセスの標 図3 ビジネス・アプリケーションの連携 サプライヤー ※米国ECR資料より、著者翻訳 販売予測 発注管理 売掛管理 商品 マスター管理 納入価格と 販売促進管理 店舗直送 発注量計算 スキャン検品 (倉庫レベル) 輸送管理 自動在庫管理 商品 マスター管理 納入価格と 販売促進管理 クロス ドッキング 自動倉庫管理 システム 発注管理 買掛管理 継続卸棚 システム 店舗からの 発注量計算 カテゴリー& 売場スペース管理 店舗の品揃え 計画立案 スキャン検品 (店舗レベル) POS スキャン POS履歴 販売予測 81 JUNE 2003 準化が広く進むことで、他社との差 別化が難しくなると考える人がいる。
これも短絡的な見方と言わざるを得 ない。
むしろ、差別化や多様化を進 めるためにこそ、標準化が必要になる のである。
米国のVICS(米国流通標準化 機構)ではCPFRのための標準が 定められている。
しかし、そこで定義 されているのは、基本となるビジネス プロセス、CPFRを行う上で必要 なメッセージ定義とそのメッセージタ グ(識別子)だけである。
この標準を ベースに企業は実際の運用プロセス をパートナー企業と構築している。
様々なパッケージ・ソフトを連携させ て一つの業務モデルを作り上げる、そ のクリエイティビティが差別性を生み 出しているのである。
実際にコラボレーションを日常的 に行うには、データの記述方法だけで なく業務プロセスの標準化が必要に なってくる。
取引先との意思決定や 業務プロセスが異なっていると、当然 のことながら、いくらデータが共有さ れていようとコラボレーションするこ とはできない。
実はこの部分が企業間 でSCMを行う上で非常に大変な部 分である。
欧米では、これらの標準に ついてはベストプラクティスをもとに 開発を行っている。
CPFRやカテゴリー・マネジメ ントでは標準的な業務プロセスとして の「9ステップ」や「8ステップ」(本 連載二〇〇三年一月号参照)と呼ば れるものが定められている。
これらの 標準はITの標準とは違って柔軟性 があり、標準を元に双方の企業間で 変更を行っている。
また業務プロセスの標準化が必要 になるもう一つの理由は、やはりIT との関連性である。
もともとIT自 体が業務モデルを支えるツールである ため、システム開発上でも業務モデル の分析および標準化が必要になる。
特 に最近は複数のシステム間の連携が 前提となることから、業務プロセスの モデル化が重要になっている。
ビジネ ス モ デ ル を 記 述 す る 「 U M L ( Unified Modeling Language )」と 呼ばれる標準化された方法なども注 目されている。
CPFRやカテゴリー・マネジメ ントのシステムを構築する上で、標準 化された業務モデルの存在は、開発 の手間を軽くし、パッケージ化を容易 にする。
そのためCPFR関連のI Tベンダーを見ても、VICSが開 発した標準モデル(本連載二〇〇三 年二月号参照)に準拠したアプリケ ーションであることを、販売上の訴求 ポイントにする傾向がある。
標準化ではライバルも手を結ぶ ところで、こうしたEDIや業務 プロセスなどのSCMに必要な標準 は、どのようにして作られているのだ ろうか。
消費財業界で世界的なデフ ァクトになりつつあるECRの場合、 そのビジネス・モデルを支える標準の 合意形成はECR推進組織の中で行 われている。
ECRは九二年に米国で研究会が 作られ、翌九三年には業界のイニシ アティブとして推進組織が発足。
そ の後、ヨーロッパ、アジア、南米へと 取り組みが拡がった。
そして九九年 には世界約四〇カ国で展開されるよ うになった。
これらが一緒になって九 九年一〇月に、世界中で統一された 標準を推進するための組織として「G CI(グローバル・コマース・イニシ アティブ)」が設立された。
GCIにはジョンソン&ジョンソン、 ユニ・リーバ、ネスレ、P&G、コ カ・コーラ、クラフトなど世界的な消 費財メーカーに、カルフール、アホー ルド、テスコメトロなどの国際小売業 GCI ボード・メンバー AEON Auchan Albertsons Boots Company plc Carrefour Delhaize Group SA E. Wong S.A. Federated Merchandising Group Fleming Grupo PAo de Acucar Kingfischer Marks & Spencer plc Metro Pickユn Pay Royal Ahold NV Sears Roebuck Target Corporation / AMC Tesco plc Wegman Food Markets, Inc Ajinomoto British American Tabaco The Coca-Cola Company Danone Georgia-Pacific Corporation Gillete Groupo Crystal S.A. H. J. Heinz Henkel Johnson & Johnson Kao Kodak Kraft Foods L'Oreal Mars Inc. Masterfoods Nestle-br Philips Lihgting Polo / Ralph Lauren Procter & Gamble J. M. Smucker Company Sara Lee Unilever (2003年4月現在) JUNE 2003 82 がボードメンバーとして参加している。
日本からも味の素、イオン、花王が参 加している。
現在、消費財の業界の標 準は、このGCIと、従来から業界標 準規格を管理していたNPOの「EA N」と「UCC」の協力体制の中で開 発そして普及・推進が進められている。
このようなアプローチは消費財業界 だけではない。
筆者のよく知る中では コンピューター業界でも、「ロゼッタ ネット」と呼ばれる民間企業のコンソ ーシアムが標準化を進めている。
この ロゼッタネットもやはり現在は米国の UCCの傘下となっている。
ここで大切なのは、標準の取り決め がユーザー主導だという点である。
こ のような業界団体では実際、その標準 を使うことになる当事者企業の担当者 が集まって議論を重ねている。
ECR の場合は、UCCやEANと共に、E DIやコードに関するワーキンググル ープを作り、製造業と流通業を代表す る二人の共同議長が協力して意見をま とめながら業界標準を作っている。
といっても、全てを一から開発する のではなく、既存のUCCやEANの 標準をベースに、すでにデファクト化 しているものは、その運用を推進し、 何らかの理由で使われていないものは 見直しを行い、仕様変更などを進めて いく。
この過程で関係する企業や業界 団体をどれだけ巻き込めるかがポイン トになる。
最終的には、業界内で広く 使われることが目標である以上、関連 する団体の企業のコンセンサスが重要 なのである。
欧米では大手企業がボランティアで、 このような業界組織やワーキンググル ープの運営に人を派遣している。
ワー キンググループ自身はオープンなもの で、参加資格の制限はない。
中小規模 の企業でも参加しやすいように、参加 の度合いもある程度選べるようになっ ている。
それでも中堅以下の企業がこ うした業界活動を負担するのは実際に は容易ではない。
大手主導ということには、抵抗を感 じる向きもあるかもしれない。
しかし 現実の取引で一番問題になるのは、主 要な大手取引先がそれぞれ違う規格を 採用してしまうことである。
これに対 して、こうした団体では競合企業同士 が協力しあって標準を開発している。
標準化すべき部分は、競争をして独自 システムを開発するよりも、協力する ことが最終的には顧客価値を高められ るという認識があるのである。
日本でもIT化推進の必要性は十分 に認識されているが、欧米と比べると 遅々とした印象がある。
IT基盤の標 準化の遅れに、その原因の一端がある と筆者は考えている。
この部分のテコ 入れが今後重要な課題となってくるで あろう。
ならむら・ふみのぶ P&GでECRネットワーキング・マネー ジャーとして活動するかたわら、学習院マ ネジメントスクールでDSCM(ディマン ド&サプライチェーン・マネジメント)コー スのオーガナイザーを務めている。
89年神 戸大学経済学部卒業。
同年、P&Gファー・ イースト・インク入社。
95年、広報マネー ジャー。
98年から現職。
日本ダイレクトマ ーケティング学会理事。
PROFILE
このコラボレーションを日常業務化す るために必要なツールがITであり、 さらにこのツールとしてのITを企業 間で活用するために必須となるのが標 準(スタンダード)である。
わかりやすい例が、商品パッケージ につけられている商品コードである。
商品コードは、桁数、附番ルール、そ して表記方法(バーコード)が世界 中で統一されている。
そのために、あ らゆる小売店のPOSレジのスキャ ナーで、バーコードを商品コードとし て読み取ることができるのである。
そ して商品コードを自動的にコンピュー ター上に計上することができるのであ る。
また商品コードの数字は、商品を 発注するときの共通商品番号として 複数の企業間で使われている。
これ がなければ、EDIを始め「CRP (連続自動補充プログラム)」や「C PFR(コラボレーティブ・プランニ ング・フォーキャスティング・アン ド・レプレニッシュメント)」や、カテゴリー・マネジメントもすべて機能 しない。
このように、売り手・および買い手 を含めて複数企業間で同じような情 報を交換している場合には、標準化 は非常に重要である。
図1は山崎康 司著「P&Gに見るECR革命」に 紹介されている概念を基にしたものだ が、ポイントは複数企業間で川上・ 川下にまたがって使われるシステムに ついては、オープンな標準が必要とな ってくることである。
標準がなければ、 企業間でのコミュニケーションは円滑 に行われないのである。
例えば、ある先進的な企業間でE DIが導入され、それが効果を上げ たとする。
当然、その企業はそれぞれ 別の取引先に対してもEDIの採用 を要求していく。
こうして業界内の企 業にEDIが普及していくきっかけ ができる。
ところが、そこに業界内で 合意の取れたオープンな標準が存在 しないとどうなるか。
全体としてうま く機能しなくなってしまう。
実際、筆者の身近でも、ある大手 小売業が標準として認識されていな コラボレーションのための標準化 楢村文信 P&G ECRネットワーキング・マネージャー 企業間情報システムの活用で、必ず大きなテーマになるのが標準化の問 題だ。
欧米ではNPOの業界団体に大手企業がボランティアを派遣し、ユ ーザー主導で標準化が進められている。
ライバル企業同士でも、標準化に 関しては協力する体制が整っている。
これに対して日本の取り組みは遅れ ている。
﹇第8回﹈ 図1 企業間アプリケーションの利用が進むと 1対1 パートナーシップ 複数企業間で取り組むものは業界標準化した方が好ましい 1対M N対1 N対M オープン システム化・ 標準プロセス 79 JUNE 2003 いEDIの仕様の採用を得意先に求 めたが、導入開始から三年経っても、 採用が広がらなかった例がある。
大手 小売業ともなると納入先は全てその 要求に従うかというとそうではない。
やはり、新しい仕組みへの対応に時 間がかかる上、中小規模の取引先で は対応人員の問題などがあったよう である。
企業によってデータを送信する手 順(プロトコール)やデータの様式 (フォーマット)が異なっていれば、コ ンピューター間の通訳の役目を果た すトランスレーターの開発が必要にな る。
その時間と手間がEDIの導入 コストを押し上げ、システム投資の回 収を遅らせる。
しかも、それが一つの取引先だけに しか使えないものである場合、どうし ても投資には慎重にならざるを得ない。
逆に、取引先一社だけではなく、他 の全ての取引先をも対象とした標準 規格の導入であるなら、積極的な投 資理由ともなりえる。
オープンスタンダードが必要な、も う一つの理由は「クリティカル・マス (経済的臨界量)」の早期実現という 考え方である。
クリティカル・マスと は、ある新しい仕組みの普及が、一 気に加速し始める分水嶺である。
I Tの世界に「メトカフの法則」と呼 ばれる法則がある。
「ネットワークの コストはその拡大とともに一定(線形 的)にしか増えないが、ネットワーク の価値は尻上り(指数関数的)に増 える」というものである。
携帯電話や電子メールなどのネッ トワーク型のサービスは、利用できる 相手の数が増えるとその付加価値は 高くなる。
サービスを受けるのに必要 なハードの投資に対して、使える相手 が増えて、しかも時間帯などの利用 制限が少なくなれば、投資に対する メリットは大きくなる。
そこで「バリ ュー・フォー・マネー」が実現されれ ば導入が急速に進み始めるのである。
企業間システムも同じである。
企 業間システムとは、導入すれば効果 が上がるというものではなく、ある規 模まで普及して、初めて本当に効果 が発揮されるのである。
BPRのため のシステムを導入しても、新しいシス テムに完全に移管しなければ、古い高 コストな仕組みを残すことになり成功 とは言えない。
クリティカル・マスを早く実現する ことが投資回収上も重要であり、そ のために欠かせないのがシステムの接 続を容易にするための標準なのである。
標準をきちんと定めることは、取引パ ートナーに対する導入障壁を減らす 上でも重要であり、そこまでを視野に 入れた導入シナリオが必要なのである。
ちなみに欧州のある大手小売業で は、IT投資に対するROIの目標 値を年率二〇%としている。
五年で システム投資を回収するだけの成果 を上げなければならないわけだ。
その ためにも標準規格を採用して、より 早くシステムをフル稼働させ投資回 収を実現しなければならないのである。
標準化のスコープ では、SCMにおける標準化が必 要なのは、どのような領域であろうか。
SCMやB2B・E ―ビジネスなどを 実現するためには、コンピューターを ネットワークで繋げて、自由にデータ 交換や、データ処理を行う上で必要 な部分の標準化を行うことで、最終 的には企業間でのビジネス・アプリケ ーションを連携させなければならない。
しかし、それぞれの企業の独自性を考 えると、ある一定の線引きが必要に なってくる。
米国ECRでは、この問題をテク ノロジー・ピラミッドという考え方を IT基盤標準化推進のメリット コスト削減効果 ・インフラに関する開発・メンテナンス両面でシステム要員の削減 ・業界での共同開発による開発コストの削減 開発と実用化までのスピードアップ ・導入への合意形成から、システム部門での対応スピードがあがることから、投資 コストの早期回収が期待できる 長期的展望に立った投資が可能 ・明確な方向性に基づく投資・開発。
デファクトの方向性が変わることによってシ ステム投資を無駄にするリスクが避けられる 大手から小規模企業までの、一貫した導入による広がり ・特に、小規模企業に対してシステム導入を求める場合、対応力の問題が懸念され るが、業界で一つの標準であればその分、負担が軽減される。
1社だけの対応で あれば、投資が負担になるが、それが全取引企業と使えるのであれば、積極的な 採用理由となる。
結果として、クリティカル・マスの早期実現を可能にする システム統合の円滑化 図2 ECRにおけるテクノロジー・ピラミッド ビジネス アプリケーション インフラストラクチャー コア・テクノロジー スタンダード ハードウェア/システム ソフトウェア ・カテゴリー・マネジメント ・物流支援 ・CRP、CAO ・業績評価支援 ・CPFR ・識別子 ・バーコード・インテリジェント・タグ ・EDI・インターネットプロトコール ・トランザクション処理 ・アーキテクチャー ・データ・アーキテクチャー ・コミュニケーション・アー キテクチャー 第3階層 第2階層 第1階層 米国ECR資料より、筆者翻訳・修正 JUNE 2003 80 使って整理している(図2)。
この考 え方では、テクノロジーを三つの層に 切り分けている。
ベースとなる第一層 には、ハードウェアや、システムを動 かすためのソフトウェア(オペレーテ ィング・システムなど)がある。
第二層はデータ通信のための技術 に関するもので、識別子、バーコード、 EDIが挙げられている。
識別子と は、データ表記に関する体系である。
EDIメッセージの項目の識別の方 法や、商品コードの附番ルールなど が含まれている。
バーコードは商品コ ードなどをスキャナーなど自動データ 認識装置で読み取るための、データ 表記のルールである。
さらに近年注 目を浴びている「インテリジェント・ タグ(自動認識タグ)」もここに含め られる。
EDIはデータ交換のため の通信手順を意味しており、最近の ものとしてインターネットやWEBサ ービスのための通信プロトコールを加 えなければならない。
そして最上位の第三層がビジネス・ アプリケーションと呼ばれている領域 である。
これは図3にあるように、 様々な業務を行う仕組みを指してい る。
ECRでは、POSデータを共 有することが起点であり、このデータ を荷動きの情報として企業間で共有 して活用することで、CAO(コンピ ューター支援による発注)やCRP を行ったり、販売実績の分析から品 揃えや売り場スペース配分を決定し たりしている。
ただし、ECRではビジネス・アプ リケーションとして特定の業務ソフト が指示されているわけではない。
ビジ ネス・アプリケーションそれぞれにつ いての定義はあるが、それを実現する ツールや方法は個別企業で判断する べきだという考え方である。
ECRのゴールはあくまで、先進 的なビジネス・モデルを活用すること で売り上げや利益、ROIなどの実 績を向上することにあり、必ずしもI Tの技術的観点から最も優れている ものを使っているかどうかではない。
実際、アプリケーションそのものより も、どうやってアプリケーションを有 効に機能させるかの方が、競争上は 重要な課題となる。
また、このテクノロジー・ピラミッ ドでは、ビジネスモデルと、ハード・ OSの間にデータ共有のための技術 層が独立して存在しており、データ共 有がSCM実施の上での鍵であるこ とを示している。
近年B2B・E ―ビジネスの世界で は、データ交換の言語にXML ( eXtensible Mark-up Language )が 用いられている。
XMLで書かれたデ ータは、コンピューターが自動的に書 かれているデータの内容を認識するこ とができる。
その際、標準化された記 法を用いていれば、様々なハードやO Sであっても対応できるようになって いる。
いわゆる「WEBサービス」と 呼ばれるものである。
これによって、パートナーの持つデ ータの呼び出しや、企業間でのアプリ ケーション連携が実現され、よりダイ ナミックな形でのECRが実現でき る。
そのため、この現在ECRを推 進する組織ではXMLを使ったメッ セージ標準(ダグとスキーマ)の開発 が急速に進められている。
業務プロセスも標準化する 一部には、仕組みやプロセスの標 図3 ビジネス・アプリケーションの連携 サプライヤー ※米国ECR資料より、著者翻訳 販売予測 発注管理 売掛管理 商品 マスター管理 納入価格と 販売促進管理 店舗直送 発注量計算 スキャン検品 (倉庫レベル) 輸送管理 自動在庫管理 商品 マスター管理 納入価格と 販売促進管理 クロス ドッキング 自動倉庫管理 システム 発注管理 買掛管理 継続卸棚 システム 店舗からの 発注量計算 カテゴリー& 売場スペース管理 店舗の品揃え 計画立案 スキャン検品 (店舗レベル) POS スキャン POS履歴 販売予測 81 JUNE 2003 準化が広く進むことで、他社との差 別化が難しくなると考える人がいる。
これも短絡的な見方と言わざるを得 ない。
むしろ、差別化や多様化を進 めるためにこそ、標準化が必要になる のである。
米国のVICS(米国流通標準化 機構)ではCPFRのための標準が 定められている。
しかし、そこで定義 されているのは、基本となるビジネス プロセス、CPFRを行う上で必要 なメッセージ定義とそのメッセージタ グ(識別子)だけである。
この標準を ベースに企業は実際の運用プロセス をパートナー企業と構築している。
様々なパッケージ・ソフトを連携させ て一つの業務モデルを作り上げる、そ のクリエイティビティが差別性を生み 出しているのである。
実際にコラボレーションを日常的 に行うには、データの記述方法だけで なく業務プロセスの標準化が必要に なってくる。
取引先との意思決定や 業務プロセスが異なっていると、当然 のことながら、いくらデータが共有さ れていようとコラボレーションするこ とはできない。
実はこの部分が企業間 でSCMを行う上で非常に大変な部 分である。
欧米では、これらの標準に ついてはベストプラクティスをもとに 開発を行っている。
CPFRやカテゴリー・マネジメ ントでは標準的な業務プロセスとして の「9ステップ」や「8ステップ」(本 連載二〇〇三年一月号参照)と呼ば れるものが定められている。
これらの 標準はITの標準とは違って柔軟性 があり、標準を元に双方の企業間で 変更を行っている。
また業務プロセスの標準化が必要 になるもう一つの理由は、やはりIT との関連性である。
もともとIT自 体が業務モデルを支えるツールである ため、システム開発上でも業務モデル の分析および標準化が必要になる。
特 に最近は複数のシステム間の連携が 前提となることから、業務プロセスの モデル化が重要になっている。
ビジネ ス モ デ ル を 記 述 す る 「 U M L ( Unified Modeling Language )」と 呼ばれる標準化された方法なども注 目されている。
CPFRやカテゴリー・マネジメ ントのシステムを構築する上で、標準 化された業務モデルの存在は、開発 の手間を軽くし、パッケージ化を容易 にする。
そのためCPFR関連のI Tベンダーを見ても、VICSが開 発した標準モデル(本連載二〇〇三 年二月号参照)に準拠したアプリケ ーションであることを、販売上の訴求 ポイントにする傾向がある。
標準化ではライバルも手を結ぶ ところで、こうしたEDIや業務 プロセスなどのSCMに必要な標準 は、どのようにして作られているのだ ろうか。
消費財業界で世界的なデフ ァクトになりつつあるECRの場合、 そのビジネス・モデルを支える標準の 合意形成はECR推進組織の中で行 われている。
ECRは九二年に米国で研究会が 作られ、翌九三年には業界のイニシ アティブとして推進組織が発足。
そ の後、ヨーロッパ、アジア、南米へと 取り組みが拡がった。
そして九九年 には世界約四〇カ国で展開されるよ うになった。
これらが一緒になって九 九年一〇月に、世界中で統一された 標準を推進するための組織として「G CI(グローバル・コマース・イニシ アティブ)」が設立された。
GCIにはジョンソン&ジョンソン、 ユニ・リーバ、ネスレ、P&G、コ カ・コーラ、クラフトなど世界的な消 費財メーカーに、カルフール、アホー ルド、テスコメトロなどの国際小売業 GCI ボード・メンバー AEON Auchan Albertsons Boots Company plc Carrefour Delhaize Group SA E. Wong S.A. Federated Merchandising Group Fleming Grupo PAo de Acucar Kingfischer Marks & Spencer plc Metro Pickユn Pay Royal Ahold NV Sears Roebuck Target Corporation / AMC Tesco plc Wegman Food Markets, Inc Ajinomoto British American Tabaco The Coca-Cola Company Danone Georgia-Pacific Corporation Gillete Groupo Crystal S.A. H. J. Heinz Henkel Johnson & Johnson Kao Kodak Kraft Foods L'Oreal Mars Inc. Masterfoods Nestle-br Philips Lihgting Polo / Ralph Lauren Procter & Gamble J. M. Smucker Company Sara Lee Unilever (2003年4月現在) JUNE 2003 82 がボードメンバーとして参加している。
日本からも味の素、イオン、花王が参 加している。
現在、消費財の業界の標 準は、このGCIと、従来から業界標 準規格を管理していたNPOの「EA N」と「UCC」の協力体制の中で開 発そして普及・推進が進められている。
このようなアプローチは消費財業界 だけではない。
筆者のよく知る中では コンピューター業界でも、「ロゼッタ ネット」と呼ばれる民間企業のコンソ ーシアムが標準化を進めている。
この ロゼッタネットもやはり現在は米国の UCCの傘下となっている。
ここで大切なのは、標準の取り決め がユーザー主導だという点である。
こ のような業界団体では実際、その標準 を使うことになる当事者企業の担当者 が集まって議論を重ねている。
ECR の場合は、UCCやEANと共に、E DIやコードに関するワーキンググル ープを作り、製造業と流通業を代表す る二人の共同議長が協力して意見をま とめながら業界標準を作っている。
といっても、全てを一から開発する のではなく、既存のUCCやEANの 標準をベースに、すでにデファクト化 しているものは、その運用を推進し、 何らかの理由で使われていないものは 見直しを行い、仕様変更などを進めて いく。
この過程で関係する企業や業界 団体をどれだけ巻き込めるかがポイン トになる。
最終的には、業界内で広く 使われることが目標である以上、関連 する団体の企業のコンセンサスが重要 なのである。
欧米では大手企業がボランティアで、 このような業界組織やワーキンググル ープの運営に人を派遣している。
ワー キンググループ自身はオープンなもの で、参加資格の制限はない。
中小規模 の企業でも参加しやすいように、参加 の度合いもある程度選べるようになっ ている。
それでも中堅以下の企業がこ うした業界活動を負担するのは実際に は容易ではない。
大手主導ということには、抵抗を感 じる向きもあるかもしれない。
しかし 現実の取引で一番問題になるのは、主 要な大手取引先がそれぞれ違う規格を 採用してしまうことである。
これに対 して、こうした団体では競合企業同士 が協力しあって標準を開発している。
標準化すべき部分は、競争をして独自 システムを開発するよりも、協力する ことが最終的には顧客価値を高められ るという認識があるのである。
日本でもIT化推進の必要性は十分 に認識されているが、欧米と比べると 遅々とした印象がある。
IT基盤の標 準化の遅れに、その原因の一端がある と筆者は考えている。
この部分のテコ 入れが今後重要な課題となってくるで あろう。
ならむら・ふみのぶ P&GでECRネットワーキング・マネー ジャーとして活動するかたわら、学習院マ ネジメントスクールでDSCM(ディマン ド&サプライチェーン・マネジメント)コー スのオーガナイザーを務めている。
89年神 戸大学経済学部卒業。
同年、P&Gファー・ イースト・インク入社。
95年、広報マネー ジャー。
98年から現職。
日本ダイレクトマ ーケティング学会理事。
PROFILE
