2003年8月号
ケース
ケース
日産自動車――組織改革
どん底で自覚した部分最適
結局、過去の日産は部分最適ばかりを追求
していた――。
日産自動車のSCM本部SC M企画部の小山彰VPはこう述懐する。
「九九年一〇月に日産リバイバルプラン(N RP)を始めたとき、当社はまさに瀕死の状 態にあった。
とにかく有利子負債を減らし、 どうやって生き残るかが最大の課題だった。
このとき複数のCFT(クロス・ファンクシ ョナル・チーム)での取り組みを通じて見え てきたのが、機能と機能の間に立ちはだかっ ている壁だった」 九九年春に仏ルノーとの資本提携に調印し た後、日産は欧米流の抜本的な企業改革に取 り組んだ。
なかでもルノーからCOO(最高 執行責任者)として送り込まれたカルロス・ ゴーン氏の打ち出した改革手法は、従来の日 産の常識では考えられないものだった。
中堅 社員を中心とするCFTを組織し、彼らに後 にリバイバルプランと呼ばれることになる再 建策の叩き台を作らせたのである。
CFTは全部で九つ設置された。
それぞれ に「事業の発展」や「購買」、「一般管理費」、 「組織と意志決定プロセス」 といったテーマが与えられ、 経営危機から脱却するため の具体策を討議した。
各C FTのまとめ役には四〇代 を中心とする人材を抜擢。
最 AUGUST 2003 34 総勢600人のSCM本部を発足 ゴーン流プロセス改革で納期短縮 日産自動車は2001年12月1日付けでSCM本 部を発足した。
「リバイバルプラン」の成功で すでに経営危機からは脱出しつつあったが、 同社には全社横断的な視点が欠けていた。
SCM本部で企画・マネジメントを担う約50人 の社員に、企業体質を抜本的に改善する役割 が課された。
日産自動車 ――組織改革 日産自動車のSCM本部 SCM企画部の小山彰VP 終的に意志決定を下すのは経営陣という前提 つきながら、CFTには新生・日産の?ある べき姿〞を提案することが求められた。
このときゴーン氏が用いたCFTという手 法は、実は同氏がルノー時代に実践して成果 を収めたものだ。
長年の業績低迷で萎縮して いた日産の組織を活性化する狙いが大きかっ た。
実際、その数カ月後に発表されたリバイ バルプランは、各CFTが約二カ月間かけて 作成した叩き台から生まれることになる。
こ れが日産の再生プランはゴーン氏の押しつけ ではなかったと言われている所以である。
それから約一年半後。
リバイバルプランの 成功で日産の経営に光明がさしてきたとき、 社内に新たな課題が浮上してきた。
過去の自 35 AUGUST 2003 分たちが「部門最適」ばかりを追求していたことを、今さらながらに気付いたのである。
CFTなどの取り組みを通じて、以前に比 べればそうした意識は徐々に払拭されつつあ った。
だが歴史的に各プロセス単位で動いて きた日産が、全体最適へと社内のベクトルを 合わせるのは簡単な話ではなかった。
そもそ もCFTに課された使命そのものが、従来よ りは横断的な業務だったとはいえ個別プロセ スの集合体の域を脱していなかった。
このため日産の社内に、「機能と機能の間 はどうやってカバーするのか。
場合によって は、全社をカバーするCFTがもう一つ必要 なのではないか」(小山VP)という意見が 持ち上がってきた。
だが一〇個目のCFTを 新設するという案は、あまりにも巨大な組織 が必要になってしまうため現実的ではない。
そこで浮上してきたのが、サプライチェーン 管理という切り口による新組織だった。
営業が注文を受けるところから納車までの 全サプライチェーンをカバーする部門があれ ば、機能と機能の間を埋めることができる。
そう考えた同社は、従来は存在しなかった組 織をまったく新たに作る方針を固めた。
二〇 〇一年の夏頃から新組織の具体的な役割など に関する議論を重ね、同年十二月一日付けで SCM本部を発足させた。
新組織で在庫責任を明確化 一時は経営危機がささやかれるほどの状況 に陥ったとはいえ、日産の動かしている物量 が日本有数であることは疑いようのない事実 だ。
同社が二〇〇三年二月期に世界中で生産 した車の台数は二五八万台。
国内だけでも一 四四万台を生産している。
このうち日本国内 で販売したのは八一万台に過ぎないため、約 六〇万台を輸出入によって動かした計算だ。
有価証券報告書にある「運賃および発送諸 費」(連結ベース)だけを見ても、同社の物 流コストは一〇七九億円(二〇〇三年三月 期)と巨額だ。
この膨大なスケールの物流管 理の考え方を、日産はSCM本部の発足とと もに大きく変えた。
それ以前に生産事業本部 のなかにあった「物流統括部」を解散し、生 産から納品に至る物流の管理業務をすべてS CM本部に移管。
サプライチェーン全体を管 理する一環として、各業務を行うように組織 を見直したのである。
現在、SCM本部には総勢六〇〇人の社 員が所属している。
おおよその内訳は、企画 とマネジメントの担当者が五〇人、車両・部 品物流の運営管理に一五〇人、サービス部品 物流の管理に二五〇人。
それに現地組み立て 用のKD(Knock Down )部品物流の管理 一五〇人となっている。
物流実務の運営を管 理する人材は、もともと生産事業部などに所 属していた人たちを、機能ごとSCM本部に 集めてきた(図1)。
しかし、全体の管理を担当するSCM企画 部の五〇人については、「従来の日産には全 図1 SCM本部のカバーする機能領域 サプライチェーン全体の企画&マネージメントおよび 物流企業運営全般を包含した組織 営業部門 生産部門 部品メーカー 車両・部品物流 サービス部品物流 KD部品物流 販売会社 お客様 営業・ 発受注 生産 一括 輸送 域内 輸送 納車 PDI (納車 前整備) 企画・マネージメント 業務運営 標値を設定し、SCM本部はその達成状況を監視している。
そして仮に二カ月連続で未達 の部署があれば警告を発し、いつまでに是正 するようにといった新たな目標を課す。
つまりSCM本部は在庫に対する責任は負 っているが、強制権を持っているわけではな い。
欧米の有力企業では、需給調整を管理す るセクションが在庫調整のために生産ライン を停止する権限まで持っているケースが少な くない。
その点、日産のSCM本部のやり方 は日本的な手法といえるだろう。
それでも、日産がSCM本部を新設した効 果は、現状を見る限り明らかだ。
リバイバル プランに取り組んだ当初、日産の車両および 部品のグローバルの総在庫量は横這いだった。
これが二〇〇一年度以降は順調に減り続けて いる。
同じくグローバルの総物流コストも減 っている。
内部効率の向上という狙いは充分 に果たしていると言っていい(図3)。
目指すは納品リードタイムの半減 もっとも、内部効率の改善ばかりに目を奪 われると、顧客サービスの低下を招く恐れが ある。
一歩間違えると、顧客への平均納期を 一日延ばすことで完成車の在庫を減らすとい った誤った取り組みにも発展しかねない。
顧 客満足という数値化しにくい価値を見失って しまうようでは元も子もない。
どん底から脱出するために熾烈なリストラ を断行した日産は、自分たちが効率一本槍の 企業になってしまうことを危惧した。
だから こそSCM本部を新設したときに、従来の日 産にとっては管轄外だった納車までマネジメ ントの対象領域を広げる必要があった。
ゴーン改革以前の日産には、工場で車両を 組み立てて、これを社内の営業に渡しさえす れば業務完了という雰囲気があった。
系列の 販売会社ですら日産本体から見れば管理の対 象外で、販社への押し込みによって売り上げ ノルマを達成させるという不毛な行為の存在 すらささやかれてきた。
しかし、その場しのぎの社風は変わりつつ あるようだ。
まだSCM本部の役割を議論し AUGUST 2003 36 く存在していなかった機能。
サプライチェー ンという観点で全体を見ている」(SCM本 部SCM企画部の山本貴士課長)のだという。
冒頭で述べた通り、SCM本部が発足する 以前、日産のサプライチェーンを構成する業 務はそれぞれ個別に動いていた。
このため、 例えば在庫削減という同じ改善活動に取り組 んでも、各プロセス内の改善にばかり目が向 きがちだった。
情報システムも各プロセスご とに最適化されており、サプライチェーン全 体を一元管理できる構造ではなかった。
この状況から脱却するために、SCM本部 は二つの目標を掲げている。
「内部効率の向 上」と「納期を軸としたCS(顧客満足)の 向上」である。
一つ目の内部効率の向上につ いては、具体的なターゲットとして「コスト」 と「在庫」を挙げている。
全体最適を図るこ とでサプライチェーン上のトータル在庫を適 正化するという、SCMらしい試みである (図2)。
従来の日産では、「在庫を減らさなければ という気持ちそのものが弱かった。
みんな口 では在庫を減らそうと言ってはいたが、減ら なければ誰かが困るとか、誰かの評価にバツ がつくわけではなかった。
ところが現在では、 結果が出なければ、間違いなく私と何人かの 人たちの責任が問われる」と小山VP。
もっとも在庫削減のために、SCM本部に 特別な権限が与えられているわけではない。
SCM本部と関係部署は毎月、在庫量の目 内部効率 納期を軸にしたC/Sの向上 (コスト・在庫) の向上 図2 日産がSCMに取り組んだ狙い 情報の一元化による プロセスの可視可 制約の緩和による 生産・輸送弾力性の向上 業務効率化による 流速の向上 現 在 将 来 営業 生産 営業 生産 物流 物流 販売 販売 予測精度 生産制約 販売の波 輸送制約 業務スタイル の違い 分断されたシステム ていた二〇〇一年の夏頃、小山VPはゴーン 氏に対して「新しい組織がカバーするのは販 社まででいいのか?」と尋ねたことがあった。
これに対するゴーン氏の回答は明快だった。
「違う。
カスタマーにデリバリーするところま でだ」 むろん小山VPとしては、納車まで含む全 業務プロセスをSCM本部の管理対象にした いという構想を当初から抱いていた。
だがリ ードタイムにしろ、在庫量にしろ、資本関係 からいえば純粋に別会社である販売会社の業 務まで管理すべきなのかという迷いもあった。
それで半ば経営陣の覚悟を試すような気持ち で、ゴーン氏に上記 の問いをぶつけた。
このときのゴーン 氏の回答で意を強く した小山VPは、さ らに次のように語る。
「実はまだ足りない。
極端なことを言えば 廃車になるまで、つ まり車のライフサイ クル全般をみなけれ ばいけないと個人的 には考えている。
た だ現時点で投入でき る経営資源の問題 もある。
とりあえず 当面は顧客に届ける ところまでのサプライチェーンをどう作るかに力点を置き、ゆくゆくはその先まで考えて いきたい」 具体的に現在、SCM本部が注力しようと しているのは「納期を軸としたCSの向上」 である。
昨年、日産は「納期」に関連してS CM本部が何をやるべきかを明確にする狙い で、外部のコンサルタント会社を使って市場 調査を行っている。
「納期回答のタイミング 別の満足度」や「納期遵守率別の満足度」、さ らには国内主要メーカーの納期遵守率の比較 といった項目についてアンケート調査を実施 したのである。
そこから浮かび上がってきたのは、契約日 から数日以内に正確な納期回答を行えば確実 に顧客満足度が高まるという当たり前の課題 だった。
調査でのライバル企業との比較では、 日産が納期を約束するタイミングはライバル と同等かそれ以下のレベルという評価が出た。
そして納期遵守率については、ライバルより 劣っているという厳しい結果だった。
これにより日産が「CSの向上」を図るた めには、納期回答のタイミングを適正化し、 約束した日時を誠実に守る必要があるという ことが改めて明らかになった。
SCM本部で は現在、受注から納車にいたるリードタイム の短縮に取り組んでいる。
各プロセスごとに 現状を分析し、それぞれに目標を設定して最 適化を図る。
例えば「生販同期化プロジェクト」の延長 線上に位置する業務プロセスの見直しでは、 従来は一〇日単位だった計画調整サイクルを 週単位に短縮し、予測精度の向上を図ること によって生産待ちの時間を短縮しようとして いる。
最終の生産計画を確定するリードタイ ムも短縮し、販社の業務プロセスも見直す。
結果として、トータルリードタイムを半減さ せることを目指している 米国で進む「ICON」プロジェクト SCM本部ではグローバルベースの物流コ スト削減にも取り組んできた。
日産はルノー との協業を進めるため、社内に複数のCCT (クロス・カンパニー・チーム)を設置して いる。
各チームでは両社の協業関係のシナジ ー効果を最大化できるように、分野別の戦略 策定から実行までを手掛けている。
CCTはそれぞれ「購買」や「製造・物 流」、「車両開発」、「日本」、「ヨーロッパ」な どの機能や地域ごとに組織されている。
各C CTに対して、SCM本部は人材を派遣し、 ともすれば機能やエリア単位で部分最適に陥 りがちな活動を、サプライチェーンの全体最 適というコンセプトに引き留める役割を担っ ている。
SCM本部としての独自プロジェクトも進 めている。
昨年から米国で段階的に導入した ICON(=Integrated Customer Order Network: 通称アイコン)プロジェクトでは、 Webサイトを使ってサプライチェーン上の 37 AUGUST 2003 (%) 5.0 1999年度 2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 0.0 -5.0 -10.0 -15.0 -20.0 -25.0 -30.0 NRP NISSAN180 0.0% 0.2% -5.9% -8% -14% -19% 図3 在庫削減は順調に進んでいる グローバルに総在庫(車両、部品)を一元管理 生産フレキシビリティ向上、リードタイム短縮etcにより寄与 AUGUST 2003 38 在庫情報を関係者が共有する取り組みを進め ている。
以前から存在していたアイデアを具 体化しただけと謙遜するが、SCM本部が主 導することでより広い狙いを持つプロジェク トとなったことは間違いない。
一般に米国人の車に関する購買行動は、日 本人とは大きく異なる。
日本のようにディー ラーに正式発注してから数週間後の納車を待 つというスタイルではなく、米国ではディー ラーの店頭に展示してある車両を、来店者が その日のうちに乗って帰るという買い方が少 なくない。
このため米国市場で販売機会ロスを防ぐた めには、売れ筋の車両在庫を充分に持つとい うのが従来の常識だった。
実は日産としては、 従来よりこの販売スタイルが絶対的なものな のかどうか疑問を抱いていた。
顧客の満足す るリードタイムをきちっと守れるのであれば、 在庫販売からの脱却も可能なのではないかと 考えていた。
これを実証するのがICONプロジェクト の狙いの一つだ。
プロジェクトでは、あらか じめ消費者に対して、日産の北米の販社が持 つ完成車の在庫を「販社在庫」、「輸送中」、 「生産中」に分けて情報提供する。
事前に情 報を発信することで、店頭在庫がないために 取りこぼしていた商機を取り込み、さらに店 頭の在庫を減らすことで管理コストの削減や、 売れ残りによる値引きロスといったリスクを 回避しようとしている。
ICONにはインターネットの即時性を利用して、顧客への情報提供の精度を高める機 能もついている。
また、Webを通じて集ま る情報を活用し、日産自身の業務改善にも役 立てようという取り組みもある。
すでに、こ こに集まってくる情報を使った需要予測を行 っており、その精度がかなり高いことも確認 できている。
まさに従来の日産の「ビジネス モデルを変えていく取り組み」(小山VP)と いっても誇張ではない。
SCM本部は、このICONのプロジェク ト・マネジメントを手掛ける一方で、プロジ ェクトの現場での活動がSCM本部の掲げる コンセプトに合致しているかどうかを常にチ ェックしている。
ICONそのものは、まだ 導入段階のため一部の機能しか使えないが、 来春には業務プロセスの自動化なども含めた フル機能が揃う予定だ(図5)。
いずれ同様の取り組みを、日本や欧州で行 うことも視野に入れている。
SCM企画部で ICONプロジェクトを担当している諏訪二 朗主担は、「すでに日本とか欧州で展開する ことも可能だ。
ただ北米のシステムと違って、 まだサイト上で顧客が選んだ車の納期回答を 自動で返したり、住所から最寄りのディーラ ーを紹介するといった機能がない。
この部分 さえ別に付加すれば使えると思う」という。
ICONを日本でも展開するかどうかは実 際には未定だが、日本市場にとっても興味深 い取り組みといえる。
こうしたIT関連の話 を紹介すると、いかにもSCM部門らしいと 感じる向きもあるかもしれないが、実は日産 は、日本ではSCMソフトの類は一切導入し ていない。
「ITはあくまでも実務をサポー トする仕組みに過ぎない」という立場から、 まずは業務プロセスを作ることに注力してい る。
こうした姿勢が正しかったことは明らかだ ろう。
すでにSCM本部が提唱してきた、顧 客を起点に考えるという意識はかなり日産 の社内に浸透してきたという。
だが小山V PはSCM本部の成果にまだまだ満足して いない。
「これまで我々は、企画部門として四、五 年先に何をやるかを主に考えてきた。
だから コンセプトのアウトプットはかなり出せたつ もりだが、実務のアウトプットとなると私自 身も不満を持っている。
今後はより一層、 我々のコンセプトに対する社内での認知度を 高めながら、同時に実際のアウトプットを出 していかなければならない」 SCM本部の活動からは、日産の復活が後 ろ向きのリストラだけの成果ではなかったこ とが伝わってくる。
もっとも業績こそ復活し たとはいえ、現在の日産が総合力でまだライ バルの後塵を拝していることは言うまでもな い。
これから数年間のうちに本当に強いヒッ ト車を世に送り出すことができるのか。
SC M本部の真価も、そのときに改めて問われる ことになる。
(岡山宏之)
日産自動車のSCM本部SC M企画部の小山彰VPはこう述懐する。
「九九年一〇月に日産リバイバルプラン(N RP)を始めたとき、当社はまさに瀕死の状 態にあった。
とにかく有利子負債を減らし、 どうやって生き残るかが最大の課題だった。
このとき複数のCFT(クロス・ファンクシ ョナル・チーム)での取り組みを通じて見え てきたのが、機能と機能の間に立ちはだかっ ている壁だった」 九九年春に仏ルノーとの資本提携に調印し た後、日産は欧米流の抜本的な企業改革に取 り組んだ。
なかでもルノーからCOO(最高 執行責任者)として送り込まれたカルロス・ ゴーン氏の打ち出した改革手法は、従来の日 産の常識では考えられないものだった。
中堅 社員を中心とするCFTを組織し、彼らに後 にリバイバルプランと呼ばれることになる再 建策の叩き台を作らせたのである。
CFTは全部で九つ設置された。
それぞれ に「事業の発展」や「購買」、「一般管理費」、 「組織と意志決定プロセス」 といったテーマが与えられ、 経営危機から脱却するため の具体策を討議した。
各C FTのまとめ役には四〇代 を中心とする人材を抜擢。
最 AUGUST 2003 34 総勢600人のSCM本部を発足 ゴーン流プロセス改革で納期短縮 日産自動車は2001年12月1日付けでSCM本 部を発足した。
「リバイバルプラン」の成功で すでに経営危機からは脱出しつつあったが、 同社には全社横断的な視点が欠けていた。
SCM本部で企画・マネジメントを担う約50人 の社員に、企業体質を抜本的に改善する役割 が課された。
日産自動車 ――組織改革 日産自動車のSCM本部 SCM企画部の小山彰VP 終的に意志決定を下すのは経営陣という前提 つきながら、CFTには新生・日産の?ある べき姿〞を提案することが求められた。
このときゴーン氏が用いたCFTという手 法は、実は同氏がルノー時代に実践して成果 を収めたものだ。
長年の業績低迷で萎縮して いた日産の組織を活性化する狙いが大きかっ た。
実際、その数カ月後に発表されたリバイ バルプランは、各CFTが約二カ月間かけて 作成した叩き台から生まれることになる。
こ れが日産の再生プランはゴーン氏の押しつけ ではなかったと言われている所以である。
それから約一年半後。
リバイバルプランの 成功で日産の経営に光明がさしてきたとき、 社内に新たな課題が浮上してきた。
過去の自 35 AUGUST 2003 分たちが「部門最適」ばかりを追求していたことを、今さらながらに気付いたのである。
CFTなどの取り組みを通じて、以前に比 べればそうした意識は徐々に払拭されつつあ った。
だが歴史的に各プロセス単位で動いて きた日産が、全体最適へと社内のベクトルを 合わせるのは簡単な話ではなかった。
そもそ もCFTに課された使命そのものが、従来よ りは横断的な業務だったとはいえ個別プロセ スの集合体の域を脱していなかった。
このため日産の社内に、「機能と機能の間 はどうやってカバーするのか。
場合によって は、全社をカバーするCFTがもう一つ必要 なのではないか」(小山VP)という意見が 持ち上がってきた。
だが一〇個目のCFTを 新設するという案は、あまりにも巨大な組織 が必要になってしまうため現実的ではない。
そこで浮上してきたのが、サプライチェーン 管理という切り口による新組織だった。
営業が注文を受けるところから納車までの 全サプライチェーンをカバーする部門があれ ば、機能と機能の間を埋めることができる。
そう考えた同社は、従来は存在しなかった組 織をまったく新たに作る方針を固めた。
二〇 〇一年の夏頃から新組織の具体的な役割など に関する議論を重ね、同年十二月一日付けで SCM本部を発足させた。
新組織で在庫責任を明確化 一時は経営危機がささやかれるほどの状況 に陥ったとはいえ、日産の動かしている物量 が日本有数であることは疑いようのない事実 だ。
同社が二〇〇三年二月期に世界中で生産 した車の台数は二五八万台。
国内だけでも一 四四万台を生産している。
このうち日本国内 で販売したのは八一万台に過ぎないため、約 六〇万台を輸出入によって動かした計算だ。
有価証券報告書にある「運賃および発送諸 費」(連結ベース)だけを見ても、同社の物 流コストは一〇七九億円(二〇〇三年三月 期)と巨額だ。
この膨大なスケールの物流管 理の考え方を、日産はSCM本部の発足とと もに大きく変えた。
それ以前に生産事業本部 のなかにあった「物流統括部」を解散し、生 産から納品に至る物流の管理業務をすべてS CM本部に移管。
サプライチェーン全体を管 理する一環として、各業務を行うように組織 を見直したのである。
現在、SCM本部には総勢六〇〇人の社 員が所属している。
おおよその内訳は、企画 とマネジメントの担当者が五〇人、車両・部 品物流の運営管理に一五〇人、サービス部品 物流の管理に二五〇人。
それに現地組み立て 用のKD(Knock Down )部品物流の管理 一五〇人となっている。
物流実務の運営を管 理する人材は、もともと生産事業部などに所 属していた人たちを、機能ごとSCM本部に 集めてきた(図1)。
しかし、全体の管理を担当するSCM企画 部の五〇人については、「従来の日産には全 図1 SCM本部のカバーする機能領域 サプライチェーン全体の企画&マネージメントおよび 物流企業運営全般を包含した組織 営業部門 生産部門 部品メーカー 車両・部品物流 サービス部品物流 KD部品物流 販売会社 お客様 営業・ 発受注 生産 一括 輸送 域内 輸送 納車 PDI (納車 前整備) 企画・マネージメント 業務運営 標値を設定し、SCM本部はその達成状況を監視している。
そして仮に二カ月連続で未達 の部署があれば警告を発し、いつまでに是正 するようにといった新たな目標を課す。
つまりSCM本部は在庫に対する責任は負 っているが、強制権を持っているわけではな い。
欧米の有力企業では、需給調整を管理す るセクションが在庫調整のために生産ライン を停止する権限まで持っているケースが少な くない。
その点、日産のSCM本部のやり方 は日本的な手法といえるだろう。
それでも、日産がSCM本部を新設した効 果は、現状を見る限り明らかだ。
リバイバル プランに取り組んだ当初、日産の車両および 部品のグローバルの総在庫量は横這いだった。
これが二〇〇一年度以降は順調に減り続けて いる。
同じくグローバルの総物流コストも減 っている。
内部効率の向上という狙いは充分 に果たしていると言っていい(図3)。
目指すは納品リードタイムの半減 もっとも、内部効率の改善ばかりに目を奪 われると、顧客サービスの低下を招く恐れが ある。
一歩間違えると、顧客への平均納期を 一日延ばすことで完成車の在庫を減らすとい った誤った取り組みにも発展しかねない。
顧 客満足という数値化しにくい価値を見失って しまうようでは元も子もない。
どん底から脱出するために熾烈なリストラ を断行した日産は、自分たちが効率一本槍の 企業になってしまうことを危惧した。
だから こそSCM本部を新設したときに、従来の日 産にとっては管轄外だった納車までマネジメ ントの対象領域を広げる必要があった。
ゴーン改革以前の日産には、工場で車両を 組み立てて、これを社内の営業に渡しさえす れば業務完了という雰囲気があった。
系列の 販売会社ですら日産本体から見れば管理の対 象外で、販社への押し込みによって売り上げ ノルマを達成させるという不毛な行為の存在 すらささやかれてきた。
しかし、その場しのぎの社風は変わりつつ あるようだ。
まだSCM本部の役割を議論し AUGUST 2003 36 く存在していなかった機能。
サプライチェー ンという観点で全体を見ている」(SCM本 部SCM企画部の山本貴士課長)のだという。
冒頭で述べた通り、SCM本部が発足する 以前、日産のサプライチェーンを構成する業 務はそれぞれ個別に動いていた。
このため、 例えば在庫削減という同じ改善活動に取り組 んでも、各プロセス内の改善にばかり目が向 きがちだった。
情報システムも各プロセスご とに最適化されており、サプライチェーン全 体を一元管理できる構造ではなかった。
この状況から脱却するために、SCM本部 は二つの目標を掲げている。
「内部効率の向 上」と「納期を軸としたCS(顧客満足)の 向上」である。
一つ目の内部効率の向上につ いては、具体的なターゲットとして「コスト」 と「在庫」を挙げている。
全体最適を図るこ とでサプライチェーン上のトータル在庫を適 正化するという、SCMらしい試みである (図2)。
従来の日産では、「在庫を減らさなければ という気持ちそのものが弱かった。
みんな口 では在庫を減らそうと言ってはいたが、減ら なければ誰かが困るとか、誰かの評価にバツ がつくわけではなかった。
ところが現在では、 結果が出なければ、間違いなく私と何人かの 人たちの責任が問われる」と小山VP。
もっとも在庫削減のために、SCM本部に 特別な権限が与えられているわけではない。
SCM本部と関係部署は毎月、在庫量の目 内部効率 納期を軸にしたC/Sの向上 (コスト・在庫) の向上 図2 日産がSCMに取り組んだ狙い 情報の一元化による プロセスの可視可 制約の緩和による 生産・輸送弾力性の向上 業務効率化による 流速の向上 現 在 将 来 営業 生産 営業 生産 物流 物流 販売 販売 予測精度 生産制約 販売の波 輸送制約 業務スタイル の違い 分断されたシステム ていた二〇〇一年の夏頃、小山VPはゴーン 氏に対して「新しい組織がカバーするのは販 社まででいいのか?」と尋ねたことがあった。
これに対するゴーン氏の回答は明快だった。
「違う。
カスタマーにデリバリーするところま でだ」 むろん小山VPとしては、納車まで含む全 業務プロセスをSCM本部の管理対象にした いという構想を当初から抱いていた。
だがリ ードタイムにしろ、在庫量にしろ、資本関係 からいえば純粋に別会社である販売会社の業 務まで管理すべきなのかという迷いもあった。
それで半ば経営陣の覚悟を試すような気持ち で、ゴーン氏に上記 の問いをぶつけた。
このときのゴーン 氏の回答で意を強く した小山VPは、さ らに次のように語る。
「実はまだ足りない。
極端なことを言えば 廃車になるまで、つ まり車のライフサイ クル全般をみなけれ ばいけないと個人的 には考えている。
た だ現時点で投入でき る経営資源の問題 もある。
とりあえず 当面は顧客に届ける ところまでのサプライチェーンをどう作るかに力点を置き、ゆくゆくはその先まで考えて いきたい」 具体的に現在、SCM本部が注力しようと しているのは「納期を軸としたCSの向上」 である。
昨年、日産は「納期」に関連してS CM本部が何をやるべきかを明確にする狙い で、外部のコンサルタント会社を使って市場 調査を行っている。
「納期回答のタイミング 別の満足度」や「納期遵守率別の満足度」、さ らには国内主要メーカーの納期遵守率の比較 といった項目についてアンケート調査を実施 したのである。
そこから浮かび上がってきたのは、契約日 から数日以内に正確な納期回答を行えば確実 に顧客満足度が高まるという当たり前の課題 だった。
調査でのライバル企業との比較では、 日産が納期を約束するタイミングはライバル と同等かそれ以下のレベルという評価が出た。
そして納期遵守率については、ライバルより 劣っているという厳しい結果だった。
これにより日産が「CSの向上」を図るた めには、納期回答のタイミングを適正化し、 約束した日時を誠実に守る必要があるという ことが改めて明らかになった。
SCM本部で は現在、受注から納車にいたるリードタイム の短縮に取り組んでいる。
各プロセスごとに 現状を分析し、それぞれに目標を設定して最 適化を図る。
例えば「生販同期化プロジェクト」の延長 線上に位置する業務プロセスの見直しでは、 従来は一〇日単位だった計画調整サイクルを 週単位に短縮し、予測精度の向上を図ること によって生産待ちの時間を短縮しようとして いる。
最終の生産計画を確定するリードタイ ムも短縮し、販社の業務プロセスも見直す。
結果として、トータルリードタイムを半減さ せることを目指している 米国で進む「ICON」プロジェクト SCM本部ではグローバルベースの物流コ スト削減にも取り組んできた。
日産はルノー との協業を進めるため、社内に複数のCCT (クロス・カンパニー・チーム)を設置して いる。
各チームでは両社の協業関係のシナジ ー効果を最大化できるように、分野別の戦略 策定から実行までを手掛けている。
CCTはそれぞれ「購買」や「製造・物 流」、「車両開発」、「日本」、「ヨーロッパ」な どの機能や地域ごとに組織されている。
各C CTに対して、SCM本部は人材を派遣し、 ともすれば機能やエリア単位で部分最適に陥 りがちな活動を、サプライチェーンの全体最 適というコンセプトに引き留める役割を担っ ている。
SCM本部としての独自プロジェクトも進 めている。
昨年から米国で段階的に導入した ICON(=Integrated Customer Order Network: 通称アイコン)プロジェクトでは、 Webサイトを使ってサプライチェーン上の 37 AUGUST 2003 (%) 5.0 1999年度 2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 0.0 -5.0 -10.0 -15.0 -20.0 -25.0 -30.0 NRP NISSAN180 0.0% 0.2% -5.9% -8% -14% -19% 図3 在庫削減は順調に進んでいる グローバルに総在庫(車両、部品)を一元管理 生産フレキシビリティ向上、リードタイム短縮etcにより寄与 AUGUST 2003 38 在庫情報を関係者が共有する取り組みを進め ている。
以前から存在していたアイデアを具 体化しただけと謙遜するが、SCM本部が主 導することでより広い狙いを持つプロジェク トとなったことは間違いない。
一般に米国人の車に関する購買行動は、日 本人とは大きく異なる。
日本のようにディー ラーに正式発注してから数週間後の納車を待 つというスタイルではなく、米国ではディー ラーの店頭に展示してある車両を、来店者が その日のうちに乗って帰るという買い方が少 なくない。
このため米国市場で販売機会ロスを防ぐた めには、売れ筋の車両在庫を充分に持つとい うのが従来の常識だった。
実は日産としては、 従来よりこの販売スタイルが絶対的なものな のかどうか疑問を抱いていた。
顧客の満足す るリードタイムをきちっと守れるのであれば、 在庫販売からの脱却も可能なのではないかと 考えていた。
これを実証するのがICONプロジェクト の狙いの一つだ。
プロジェクトでは、あらか じめ消費者に対して、日産の北米の販社が持 つ完成車の在庫を「販社在庫」、「輸送中」、 「生産中」に分けて情報提供する。
事前に情 報を発信することで、店頭在庫がないために 取りこぼしていた商機を取り込み、さらに店 頭の在庫を減らすことで管理コストの削減や、 売れ残りによる値引きロスといったリスクを 回避しようとしている。
ICONにはインターネットの即時性を利用して、顧客への情報提供の精度を高める機 能もついている。
また、Webを通じて集ま る情報を活用し、日産自身の業務改善にも役 立てようという取り組みもある。
すでに、こ こに集まってくる情報を使った需要予測を行 っており、その精度がかなり高いことも確認 できている。
まさに従来の日産の「ビジネス モデルを変えていく取り組み」(小山VP)と いっても誇張ではない。
SCM本部は、このICONのプロジェク ト・マネジメントを手掛ける一方で、プロジ ェクトの現場での活動がSCM本部の掲げる コンセプトに合致しているかどうかを常にチ ェックしている。
ICONそのものは、まだ 導入段階のため一部の機能しか使えないが、 来春には業務プロセスの自動化なども含めた フル機能が揃う予定だ(図5)。
いずれ同様の取り組みを、日本や欧州で行 うことも視野に入れている。
SCM企画部で ICONプロジェクトを担当している諏訪二 朗主担は、「すでに日本とか欧州で展開する ことも可能だ。
ただ北米のシステムと違って、 まだサイト上で顧客が選んだ車の納期回答を 自動で返したり、住所から最寄りのディーラ ーを紹介するといった機能がない。
この部分 さえ別に付加すれば使えると思う」という。
ICONを日本でも展開するかどうかは実 際には未定だが、日本市場にとっても興味深 い取り組みといえる。
こうしたIT関連の話 を紹介すると、いかにもSCM部門らしいと 感じる向きもあるかもしれないが、実は日産 は、日本ではSCMソフトの類は一切導入し ていない。
「ITはあくまでも実務をサポー トする仕組みに過ぎない」という立場から、 まずは業務プロセスを作ることに注力してい る。
こうした姿勢が正しかったことは明らかだ ろう。
すでにSCM本部が提唱してきた、顧 客を起点に考えるという意識はかなり日産 の社内に浸透してきたという。
だが小山V PはSCM本部の成果にまだまだ満足して いない。
「これまで我々は、企画部門として四、五 年先に何をやるかを主に考えてきた。
だから コンセプトのアウトプットはかなり出せたつ もりだが、実務のアウトプットとなると私自 身も不満を持っている。
今後はより一層、 我々のコンセプトに対する社内での認知度を 高めながら、同時に実際のアウトプットを出 していかなければならない」 SCM本部の活動からは、日産の復活が後 ろ向きのリストラだけの成果ではなかったこ とが伝わってくる。
もっとも業績こそ復活し たとはいえ、現在の日産が総合力でまだライ バルの後塵を拝していることは言うまでもな い。
これから数年間のうちに本当に強いヒッ ト車を世に送り出すことができるのか。
SC M本部の真価も、そのときに改めて問われる ことになる。
(岡山宏之)
