2003年8月号
特集
特集
ICタグ狂想曲 夢はまだ何一つ実現できていない
AUGUST 2003 16
タグの値段は確実に下がる
――現在のRFIDブームは多分にバブル的な要素が
入っている気がします。
「結論から言えば、その通りです。
日本で最初にR FIDの可能性を宣伝し始めたのは当社です。
しかし 当初は誰も話を聞いてくれなかった。
何それ? RF ID? オートIDセンターって何? というところ から始まった。
しかし最近では夢の技術だ、将来はバ ラ色だなどといろいろなところで持ち上げられるよう になった。
我々が将来の夢として各方面に語ってきた ことが、あたかも今すぐに実現可能なことだと勘違い されているきらいがあります」 「RFIDは今や完全に独り歩きしています。
我々 は実際にRFIDを使ったシステムを開発して販売す る会社ですから、夢と現実との乖離がよくわかる。
現 段階でRFIDを用いてできることは、ごく一部に限 られています。
少なくともロジスティクスの分野では、 まだ何一つ実用化されていない」 「アパレルの検品作業の簡素化に使われている事例 はありますが、いずれも自社で完結するクローズドな 仕組みのなかでの使用に限定されています。
今はタグ を回収して繰り返し使用できる環境にある企業だけが ロジスティクス管理にRFIDを活用している。
複数 の企業をまたがるロジスティクスにはまだ使われてい ません」 ――そもそも大日本印刷がRFIDの分野に進出した きっかけは。
「もともと当社はICカードやIDカードといった カードの分野からこの世界に入りました。
現在、金融 系のカードでは六割くらいのシェアを持っています。
カードにはキャッシュカードのような接触型とスイカ 「夢はまだ何一つ実現できていない」 大日本印刷はオートIDセンターの中心メンバーであると同時に、 日本におけるICタグ普及のリーダー的な存在だ。
同社は今後10年 間にわたるICタグ普及のロードマップを、3つのフェーズに分けて 整理し、予測している。
石川俊治 大日本印刷ICタグ事業化センター副センター長 オートIDセンター副所長 のような非接触型の二種類があります。
このうち非接 触型カードの技術はそのままRFIDに転用できる。
そのため参入を決めました」 ――ユーザーにとってRFID導入のメリットとは。
「現在、商品に記載されているバーコードの恩恵を 受けているのは小売り側だけです。
バーコードを貼付 しているメーカーサイドには、メリットはほとんどあ りません。
これに対してRFIDはメーカーであれば 生産管理に使用したり、物流業者であれば配送や在 庫管理に活用できる。
バーコードよりもはるかに利用 価値が高い」 ――何が普及の障壁となっているのですか。
「読み取り精度が低いなど技術的な問題もあります が、やはり大きいのはコストの問題です。
要するにチ ップの値段です。
かつては数百円だったチップ一個当 たりの値段は現在、五〇〜一〇〇円程度にまで下が ってきました。
しかし、それでもまだまだ高い。
商品 一つひとつにタグをつけていったり、使い捨てで利用 するとなると、一〇円を切らないとコストメリットが 出せない。
そのため現段階では個体にタグをつける場 合、単価が一〇〇〇円を超える商品でないとコスト的 には合いません」 「しかし、ケースやパレットにタグを貼って物流管 理に利用する場合は、今の値段でも十分にコストを回 収できるはずです。
米国のウォルマートは二〇〇五年 までに取引先一〇〇社に対し、パレットへのタグの貼 付を義務付ける方針を打ち出しました。
個体ではなく、 パレット単位であれば、タグの枚数もそれほど必要と しない。
タグは使い回しができるから採算も取れると 判断したのでしょう」 ――チップの値段は下がりますか。
「大量生産に持ち込めればチップの値段は下がりま 17 AUGUST 2003 す。
現在、チップのベンダーはユーザーに対して『月 に一億〜一〇億個生産しないとコスト的に合わない』 と説明しています。
技術革新が進み、ユーザーも増え、 さらにベンダー間の競争によってチップの値段は今後、 徐々に下がっていくはずです。
既に業者間取引の相場 は、かなりのレベルまで下がっている」 ICタグはバーコードと並存する ――チップの値段を下げていくためにも既存のバーコ ードをすべてRFIDに置き換えていくとオートID センターは主張しています。
「それは一部のメンバーが言っているだけで、オート IDセンターとしての方針ではありません。
バーコー ドをすべてRFIDに置き換えていく必要などまった くない。
バーコードで十分対応できるのであれば、わ ざわざコストを掛けてまでRFIDを導入しなくても いいわけです」 「我々は『ビヨンド・ザ・バーコード(バーコード を超える)』という表現を使っています。
RFIDは バーコードの向こう側にある新しい技術で、バーコー ドが現在持っている機能に新しい機能を付加する技術 であるという認識です。
RFIDとバーコードは必ず 並存します。
RFIDが破損してしまった場合、バッ クアップするのがバーコードであったり、この二つが 連携していくことは極めて重要です。
私は将来、バー コードがついたRFIDが普及していくのではないか と見ています」 ――コストのほかにRFIDの普及に向けた課題はあ りますか。
「システム開発の問題があります。
物流現場で実際 にRFIDを使えるようにするためのアプリケーショ ンを開発していかなければなりません。
同時に現場で の作業手順などのルールをRFIDの使用を前提とし たものに変えていく必要がある。
現在、物流現場の作 業フローはバーコードの使用に合わせたかたちになっ ています。
この仕組みのままでRFIDを導入しても、 一〇〇%のメリットを享受することはできません」 ――バーコードの時と同じようにRFIDの普及にも 相当な時間が掛かりそうですね。
「日本でバーコードが標準化されたのは七八年でし た。
それから六年後の八四年にセブン ―イレブンが初 めて本格的な採用に踏み切った。
これに対して、RF IDは二〇〇一年から今年にかけて標準化が行われ ている。
バーコードの普及と同じであれば、RFID は二〇〇八年頃には本格的な導入が始まることになり ます」 「当社としてはRFIDの普及が今後、三段階で進ん でいくと予測しています。
第一段階(二〇〇二〜二 〇〇五年)ではイベントの入出場管理、工場での在 庫管理などクローズドな世界で利用され、タグは繰り返し使用される。
それが第二段階(二〇〇五〜二〇 一〇年)になると、タグが書籍に標準添付されるよう になって、しかも開かれた世界で利用されるようにな る。
もちろんタグは使い捨てになる。
そして第三段階 (二〇一〇年以降)ではすべての商品にタグが添付さ れ、リーダー(読み取り機)も普及し、バーコードと 同じ位置付けとなると見ています」 「私個人は、もっと早く普及するのではないかと予想 しています。
バーコードの普及に時間が掛かったのは 商品マスターのデータベースを作りこんでいったから です。
バーコードとRFIDはセンサーが違うだけで、 商品マスターのデータベースは基本的に同じものを使 用できる。
バックボーンがある分、RFIDの普及ス ピードのほうが速いはずです」 特集 ICタグ狂想曲 RFIDの普及ステップ 単価が高いため、タグは繰り返し利用 一社完結型のクローズドな範囲での活用に限定 単価の下落でタグは使い捨てに 複数企業をまたがるオープンな範囲で活用される 全ての商品にタグが添付される バーコードと同じ位置付けに 第1段階 (2002〜2005年) 第2段階 (2005〜2010年) 第3段階 (2010年以降)
「結論から言えば、その通りです。
日本で最初にR FIDの可能性を宣伝し始めたのは当社です。
しかし 当初は誰も話を聞いてくれなかった。
何それ? RF ID? オートIDセンターって何? というところ から始まった。
しかし最近では夢の技術だ、将来はバ ラ色だなどといろいろなところで持ち上げられるよう になった。
我々が将来の夢として各方面に語ってきた ことが、あたかも今すぐに実現可能なことだと勘違い されているきらいがあります」 「RFIDは今や完全に独り歩きしています。
我々 は実際にRFIDを使ったシステムを開発して販売す る会社ですから、夢と現実との乖離がよくわかる。
現 段階でRFIDを用いてできることは、ごく一部に限 られています。
少なくともロジスティクスの分野では、 まだ何一つ実用化されていない」 「アパレルの検品作業の簡素化に使われている事例 はありますが、いずれも自社で完結するクローズドな 仕組みのなかでの使用に限定されています。
今はタグ を回収して繰り返し使用できる環境にある企業だけが ロジスティクス管理にRFIDを活用している。
複数 の企業をまたがるロジスティクスにはまだ使われてい ません」 ――そもそも大日本印刷がRFIDの分野に進出した きっかけは。
「もともと当社はICカードやIDカードといった カードの分野からこの世界に入りました。
現在、金融 系のカードでは六割くらいのシェアを持っています。
カードにはキャッシュカードのような接触型とスイカ 「夢はまだ何一つ実現できていない」 大日本印刷はオートIDセンターの中心メンバーであると同時に、 日本におけるICタグ普及のリーダー的な存在だ。
同社は今後10年 間にわたるICタグ普及のロードマップを、3つのフェーズに分けて 整理し、予測している。
石川俊治 大日本印刷ICタグ事業化センター副センター長 オートIDセンター副所長 のような非接触型の二種類があります。
このうち非接 触型カードの技術はそのままRFIDに転用できる。
そのため参入を決めました」 ――ユーザーにとってRFID導入のメリットとは。
「現在、商品に記載されているバーコードの恩恵を 受けているのは小売り側だけです。
バーコードを貼付 しているメーカーサイドには、メリットはほとんどあ りません。
これに対してRFIDはメーカーであれば 生産管理に使用したり、物流業者であれば配送や在 庫管理に活用できる。
バーコードよりもはるかに利用 価値が高い」 ――何が普及の障壁となっているのですか。
「読み取り精度が低いなど技術的な問題もあります が、やはり大きいのはコストの問題です。
要するにチ ップの値段です。
かつては数百円だったチップ一個当 たりの値段は現在、五〇〜一〇〇円程度にまで下が ってきました。
しかし、それでもまだまだ高い。
商品 一つひとつにタグをつけていったり、使い捨てで利用 するとなると、一〇円を切らないとコストメリットが 出せない。
そのため現段階では個体にタグをつける場 合、単価が一〇〇〇円を超える商品でないとコスト的 には合いません」 「しかし、ケースやパレットにタグを貼って物流管 理に利用する場合は、今の値段でも十分にコストを回 収できるはずです。
米国のウォルマートは二〇〇五年 までに取引先一〇〇社に対し、パレットへのタグの貼 付を義務付ける方針を打ち出しました。
個体ではなく、 パレット単位であれば、タグの枚数もそれほど必要と しない。
タグは使い回しができるから採算も取れると 判断したのでしょう」 ――チップの値段は下がりますか。
「大量生産に持ち込めればチップの値段は下がりま 17 AUGUST 2003 す。
現在、チップのベンダーはユーザーに対して『月 に一億〜一〇億個生産しないとコスト的に合わない』 と説明しています。
技術革新が進み、ユーザーも増え、 さらにベンダー間の競争によってチップの値段は今後、 徐々に下がっていくはずです。
既に業者間取引の相場 は、かなりのレベルまで下がっている」 ICタグはバーコードと並存する ――チップの値段を下げていくためにも既存のバーコ ードをすべてRFIDに置き換えていくとオートID センターは主張しています。
「それは一部のメンバーが言っているだけで、オート IDセンターとしての方針ではありません。
バーコー ドをすべてRFIDに置き換えていく必要などまった くない。
バーコードで十分対応できるのであれば、わ ざわざコストを掛けてまでRFIDを導入しなくても いいわけです」 「我々は『ビヨンド・ザ・バーコード(バーコード を超える)』という表現を使っています。
RFIDは バーコードの向こう側にある新しい技術で、バーコー ドが現在持っている機能に新しい機能を付加する技術 であるという認識です。
RFIDとバーコードは必ず 並存します。
RFIDが破損してしまった場合、バッ クアップするのがバーコードであったり、この二つが 連携していくことは極めて重要です。
私は将来、バー コードがついたRFIDが普及していくのではないか と見ています」 ――コストのほかにRFIDの普及に向けた課題はあ りますか。
「システム開発の問題があります。
物流現場で実際 にRFIDを使えるようにするためのアプリケーショ ンを開発していかなければなりません。
同時に現場で の作業手順などのルールをRFIDの使用を前提とし たものに変えていく必要がある。
現在、物流現場の作 業フローはバーコードの使用に合わせたかたちになっ ています。
この仕組みのままでRFIDを導入しても、 一〇〇%のメリットを享受することはできません」 ――バーコードの時と同じようにRFIDの普及にも 相当な時間が掛かりそうですね。
「日本でバーコードが標準化されたのは七八年でし た。
それから六年後の八四年にセブン ―イレブンが初 めて本格的な採用に踏み切った。
これに対して、RF IDは二〇〇一年から今年にかけて標準化が行われ ている。
バーコードの普及と同じであれば、RFID は二〇〇八年頃には本格的な導入が始まることになり ます」 「当社としてはRFIDの普及が今後、三段階で進ん でいくと予測しています。
第一段階(二〇〇二〜二 〇〇五年)ではイベントの入出場管理、工場での在 庫管理などクローズドな世界で利用され、タグは繰り返し使用される。
それが第二段階(二〇〇五〜二〇 一〇年)になると、タグが書籍に標準添付されるよう になって、しかも開かれた世界で利用されるようにな る。
もちろんタグは使い捨てになる。
そして第三段階 (二〇一〇年以降)ではすべての商品にタグが添付さ れ、リーダー(読み取り機)も普及し、バーコードと 同じ位置付けとなると見ています」 「私個人は、もっと早く普及するのではないかと予想 しています。
バーコードの普及に時間が掛かったのは 商品マスターのデータベースを作りこんでいったから です。
バーコードとRFIDはセンサーが違うだけで、 商品マスターのデータベースは基本的に同じものを使 用できる。
バックボーンがある分、RFIDの普及ス ピードのほうが速いはずです」 特集 ICタグ狂想曲 RFIDの普及ステップ 単価が高いため、タグは繰り返し利用 一社完結型のクローズドな範囲での活用に限定 単価の下落でタグは使い捨てに 複数企業をまたがるオープンな範囲で活用される 全ての商品にタグが添付される バーコードと同じ位置付けに 第1段階 (2002〜2005年) 第2段階 (2005〜2010年) 第3段階 (2010年以降)
