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OCTOBER 2003 34
交通渋滞を緩和するイエローカー
九州最大の商業集積地である福岡・天神地区。 福
岡ダイエーホークスの優勝セールの準備で忙しい各店
舗に、宿敵・阪神タイガースのチームカラーをまとっ
た二トントラックが次々と商品を供給していく。 この
街ではすっかり馴染みとなっている黄色いトラックは
「イエローバード」と呼ばれている。 共同配送を手掛
けるトラックだ。 現在、一日に約二〇台が同地区内を
走り回っている。
イエローバードを送り出している会社は「天神地区
共同輸送」。 九四年に特積みトラック業者ら三六社と
地元金融機関四社の共同出資で設立された。 従来、各
社がそれぞれトラックを仕立てて行っていた天神地区
の商業施設への集配作業を、「天神地区共同輸送」に
業務委託するかたちで一本化。 それによって慢性的な
交通渋滞に見舞われていた同地区の渋滞緩和や環境
負荷の軽減を実現することを目的としている。
「天神地区共同輸送」が手掛ける共同配送の流れはこ
うだ。 まず特積み各社は全国から集まる天神地区向け
の荷物を「天神地区共同輸送」のターミナル拠点に
持ち込む。 「天神地区共同輸送」はその荷物を方面別
に仕分けした後、イエローバードに積み込み、各店舗
に配達する。 その際に、各店舗から出される荷物をイ
エローバードで集荷し、特積み各社に引き渡して全国
各地に発送する。
集配料は荷物一個につき一六〇円。 現在の市場価
格からするとやや高めだ。 それでも特積み各社は共同
配送に参加することで、渋滞などで作業効率が極端に
悪い同地区での集配業務から解放される。 地区内に
余計なトラックを配置しなくてもいい。 共配に参加し
ている特積み会社のある担当者は「実務の部分を丸
岐路を迎えた福岡・天神共配
福岡・天神地区の共同配送が再び、曲がり角に差し掛かってい
る。 事業の黒字転換には成功したものの、取扱貨物量は96年をピ
ークに減少傾向に転じている。 長引く不況の影響でプロジェクト
に参加する特積みトラック業者たちの足並みが乱れてきたことが
原因だ。 (刈屋大輔)
投げすることで営業活動に専念できる」と共同配送の
メリットを説明する。
イエローバードが登場する以前の天神地区の交通渋
滞はひどかった。 納品用のトラックや買い物に訪れた
自家用車による違法駐車が横行し、通行車線が埋め
尽されてしまっていた。 そのため、信号が青に変わっ
ても車がなかなか前に進まない。 常にそんな状況だっ
た。 長年、天神地区で集配作業に従事してきたトラッ
クドライバーは、「あまりに渋滞がひどくて、街中を
走る路線バスが停留所の前で一〇台連なっているのを
見たことがあった」という。
ところが、イエローバードが投入されて以降、街の
様子はガラリと変わった。 依然として自家用車の路上
駐車は目立つものの、トラックのそれは劇的に減った。
車の流れもスムーズになった。 ある調査報告書によれ
ば、この共同配送プロジェクトによって同地区の一日
当たりのトラック台数は共同配送実施前に比べ六五%、
総駐車回数は七二%減少した。 プロジェクトを後方支援してきた国土交通省では
「交通混雑の解消や大気汚染の改善など天神地区の共
同配送は目覚ましい成果を上げている。 その後全国各
地で展開されるようになった市街地共配のモデルケー
スとなっている。 諸外国からの注目度も高い」(岡部
政樹政策統括官付政策調整官付調査係長)と満足し
ている。
三度目のとん挫の危険性も
天神地区での共同配送の取り組みは今回が初めて
ではない。 実はこれまでに二度の仕切直しを余儀なく
されている。 七八年にスタートした最初のプロジェク
トでは、共同配送の実施後に作業請け負い会社が経
営破たんに追い込まれてとん挫した。 その後八七年に
第3部行政主導のエリア共配を検証
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いうルールになっている。
また、サービスレベルの維持という観点から共同配
送への参加を見送る特積み会社も出始めた。 例えば
貨物追跡。 この共同配送では特積み各社と「天神地
区共同輸送」の情報システムが連携を取れていないた
め、末端までの細かな貨物追跡が不可能なのだ。 特積
み各社の情報システム上では、ターミナルで「天神地
区共同輸送」側に荷物を引き渡した時点で「配達完
了」となってしまう。
天神地区共同輸送の杉内課長は「まさかドライバ
ーが各社のハンディターミナルを何本も腰にぶら下げ
ながら集配作業を行うわけにもいかない。 各社の貨物
追跡システムときちんと連携の取れる独自の情報シス
テムを構築しなければ、取扱個数の減少に歯止めを掛
けることはできないだろう」と分析する。
多くの課題を抱えながらも「天神地区共同輸送」が
共同配送事業を継続できているのは、取扱個数の落
ち込みによる減収を他事業の収入でカバーできたためだ。 実は現在、同社ではターミナル拠点の一部スペー
スを地場の食品小売りに賃貸している。 店別仕分け
用の物流センターとしてターミナルを活用している小
売りから転がり込む賃貸料で、会社全体としての収支
バランスを保っているのが実情だ。
しかし、いまの状況は決して好ましいとは言えない。
本来、「天神地区共同輸送」は共同配送単独で事業を
成り立たせるという触れ込みだったはずだからだ。 問
題点の解決を先送りして現状に甘んじていれば、取扱
個数の落ち込みが加速し、三度目のとん挫に追い込ま
れてしまう可能性も否定できない。 杉内課長は「今後
は問題点の解消と並行して、集配エリアの拡大など、
取扱個数の確保に向けた対策を色々と検討していき
たい」としている。
再びプロジェクトが立ち上がったが、取扱個数の伸び
悩みが続いて行き詰まり状態に陥ってしまった。
三度目の正直となった九四年スタートの現プロジェ
クトでは過去の反省を踏まえて、「各社のエゴを排除
するため全員参加の企業型運営方式を採用した」こ
となどが奏功、前述したように大きな成果を上げるこ
とができた。 運営会社の「天神地区共同輸送」は九
九年度に累積赤字を一掃し、黒字転換に成功。 二〇
〇二年度には株主への配当も始めた。 ただし、「完全
に軌道に乗ったとは言い切れない。 まだまだ課題は多
く残されている」(天神地区共同輸送の杉内忠久業務
課長)というのが実情だという。
懸念材料の一つは取扱個数の落ち込みが激しい点。
「天神地区共同輸送」の年間取扱個数は九六年度の一
四〇万個をピークに下降線を辿っている。 二〇〇一
年度の取扱個数は一二〇万個だった。 長引く不況の
影響で天神地区でやり取りされる荷物の量が相対的
に減少していることが主因として挙げられている。 だ
が、「天神地区共同輸送」にとってそれ以上の頭痛の
タネは、特積み各社が自社便による集配作業を強化
したことによって取扱量が減っている点だ。
ある特積み会社の幹部は「共同配送にはお客さんの
顔が見えにくくなるという欠点がある。 物量が落ち込
んでいるのを受けて、いまは各社ともお客さんを囲い
込むことに必死だ。 自社集配に切り替えていく会社は
今後も増えていくに違いない」と指摘する。
そもそも「天神地区共同輸送」には共同配送対象
地区の集配作業をすべて自分たちに委託させるといっ
た拘束力が与えられていない。 業務を委託するかどう
かの判断は特積み各社に委ねられている。 営業戦略上、
自社で集配したほうがいいと判断した場合、特積み各
社は「天神地区共同輸送」を利用しなくてもいい、と
天神地区で活躍する共同配送トラック
『イエローバード』
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