2005年4月号
欧州通信

UPSの中国市場戦略

最新現地レポート   欧州ロジスティクス通信 APRIL 2005 40私は四年前にUPSに入社し いまは同社のサプライ・チ ン・ソリ シ ンズという部隊で 世界的な荷主を担当する部長を務めています 現在は ドイツのデ セルドルフで仕事をしています 一〇〇年近い社歴を持つUPSは 七〇年代までアメリカ国内を中心にサ ビスを提供し 八〇年代から九〇年代にかけて急速にヨ ロ パをはじめとする海外へ小口貨物の物流網を広げていきました UPSがサプライチ ンという概念で本格的に仕事を始めたのは 九〇年代に入 てからのことです 九〇年代前半にロジステ クス・グル プが設立され 九九年の株式公開による市場からの資金調達をはさんで 二〇〇〇年に入ると現在のようなサプライ・チ ン・ソリ シ ンズという組織が出来上がりました 図1 荷主企業のサプライチ ン全体を請け負えるように ロジステ クスや郵便業務にとどまらず コンサルテ ングや金融サ ビスまで提供できるように組織を整えてきました 今やUPSの中核を占める部署に成長しました 私が担当するヨ ロ パの荷主企業の中にも 中国進出を果たした企業が多く それに従 て中国での仕事も増えています 中国における物流の市場規模については 多くの統計数字がありますが その中で私は二〇〇〇 二五〇〇億ドル 二二 二八兆円 という数字が現状に近いと思 ています そのうち 現時点で外部の業者に委託されているのは五%にも達していません ヨ ロ パの物流市場では 四〇%以上が外注されていることを考えると これからますます外注が進むでし うから 多くのロジステ クス業者はそのパイにあずかろうと虎視眈々とチ ンスをうかが ているというのが現状です 二倍の過積載でようやく儲かる しかし中国でのロジステ クスの現場は 効率が悪く サ ビスレベルも低いというのが現実です それは先進国のGDPに対するロジステ クスコストの比率が一〇%前後であるのに比べ 中国では一九%とそのほぼ二倍になることからもわかります またオン・タイム・デリバリ の率も低く 貨物破損の割合は高く 貨物追跡にも難があります 数年前 担当するヨ ロ パの半導体メ カ の中国での仕事を請け負 たとき 一番頭を悩ませたのは エア・サスペンシ ンのついたトラ クを調達することでした 中国の工場から出荷する半導体を空港まで輸送する間に 製品が破損するので エア・サスペンシ ンのついたトラ クは必需品でした 第 3 回UPSの中国市場戦略荷主の要望に従うかたちで中国に進出したUPSサプライ・チ ン・ソリ シ ンズは 中国の国営ロジステ クス業者や地場の業者と共存しながら 四つの成長産業に的を絞 て 荷主からサプライチ ン業務を請け負おうとしている 同社のアンドレアズ・ジ ネツコ部長が欧州3PL会議で中国戦略について語 た 41 APRIL 2005欧米では当たり前の装備であるエア・サスペンシ ンのついたトラ クが ほとんど見つからなか たのです 今ではこの点は解消されましたが ほんの数年前まではこんなレベルでした また中国では過積載でのトラ ク輸送が常態化していることが 貨物の破損やオン・タイム・デリバリ を妨げることにつながります 上海でIT企業を経営している中国人の知り合いが近々 ヨ ロ パのロジステ クス業者と組んで 自動車メ カ のためにロジステ クス業者を立ち上げるという話のついでに こんなことを言 ていました トラ ク輸送で儲けようと考えるのなら 積載量の倍は積まないとムリだ 中国で走 ているトラ クのほとんどが過積載の状態で走 ています これも海外から来たロジステ クス業者にと ては頭の痛い問題です 四タイプのロジステ クス業者中国におけるロジステ クス業者は 主に四つのタイプに分かれます 一つは シノトランスやチ イナポストに代表される国営企業 SOE です 中国に進出しているロジステ クス業者ならシノトランスと何らかの業務提携をしている というほどの巨大国営企業です 国営のロジステ クス業者は約五〇社ほどあり いずれも中国では抜群の存在感を持 ていて 中央や地方の政府と太いパイプを持 ているのも強みです 弱点は その官僚的な企業体質とITやSCMなどのノウハウが不足していることです 二つ目は プライベ トに経営されるロジステ クス業者 というより中小のトラ ク業者です 現在二五〇万社あるともいわれる地場の業者は それぞれの地域に特化した強みを持つ反面 財務体質が脆弱であり ネ ムバリ がないという弱点があります この業者の数字が 数年後には 一〇〇〇万社に膨れ上がるという予想もあります 各種の規制が外れて 少ない資本ではじめることができるトラ ク事業への新規参入が 桁外れに増えるだろうというのです 三つ目は 大手荷主の物流子会社です 中国の大手家電メ カ である海爾集団 ハイア ル やコンピ タメ カ の聯想とい た荷主の子会社が 外販に打 て出ようとしています 例えば 海爾集団は国有企業の雄であり 中国遠洋運輸総公司 COSCO と共同で物流子会社を作 ています 親会社からの安定した貨物があり もちろん中国での仕事のやり方にも精通しています 加えて 部材の調達や完成品の輸送のためにヨ ロ パにも拠点を作り始めています 私の同僚は 物流子会社の実力なんて どこの国でも高がしれている とい て まともに相手にしようとしませんが 私は彼らがち んとした人材を育てて 社内にノウハウを蓄積していけば 将来 われわれの手ごわいライバルになることは十分にありうると考えているのです ぼ たくられる 欧米業者最後がUPSのような欧米系のロジステ 図1 UPSの組織図 UPSUPSアメリカ UPS ロジスティクス・グループ  UPS コンサルティング  UPSメール・ イノベーション  UPS キャピタル  UPS 貨物輸送サービス サプライ・チェーン・ソリューションズ  UPS航空  UPSインターナショナル UPSサプライチェーン・ソリューションズのホームページ APRIL 2005 42クス業者で われわれのほかにフ デ クスやDHL TNTなど約三〇社が市場に参入しています 欧米系の業者は 世界的なネ トワ クを持ちITやSCMとい た先端業務について多くの実績を持 ています しかし 中国国内で全国的なネ トワ クを持つことは不可能に近く 先に挙げた国有の業者や地場の業者を使わなくてはなりません 中国では 欧米の業者とのジ イント・ベンチ はそのノウハウを吸収するための 必要悪 とみなされており ある種敵対的な状況の中で仕事をしなければなりません 先日 中国の物流コンサルタントからこんなことを言われました あなたたちは 運賃交渉して いい値段を手にしたと思うときがあるかもしれません いい値段 を手にすることはできるでし うが まだそれは一番安い値段ではないのです 中国の業者はいつもあなたたちからぼ たくろうとしているのです 彼の言葉は事実でし う UPSは 中国でのビジネスを学ぶための授業料を払 ていると思 ています 三つの工業地帯に集中する四つの花形産業中国の海岸沿いにある三つの工場地域が 成長の大元であることは いろんなところで繰り返し言及されています 北から挙げると 北京近郊にある渤海沿岸地域 上海を中心とした長江デルタ そして広東の珠江デルタです 二〇〇一年の数字では 二九%の人口が集中するこの三つの地域が GDPの四八%を生み出し 八四%の輸出入業務が行われています 今日はそのことを少し別の角度から見てみたいと思います 経済活動が活発なこの地域は言い換えると ロジステ クス業者にと ての花形産業が集中する地域でもあるのです UPSが中国でタ ゲ トとしている産業が四つあります ハイテク産業 アパレル産業 一般消費財産業 自動車産業です 中国のロジステ クス市場で われわれUPSのような業者が取り扱えるのは八七〇億ドルで 残りはバラ貨物や液体貨物とい たものです その八七〇億ドルのうち 六〇〇億ドルは つまり七割近くは 先に挙げた四つの産業から生まれる業務なのです 図2 ですからわれわれは この四つの産業をタ ゲ トにしています 次に各産業についてのロジステ クスのフロ について触れたいと思います ハイテク産業のロジステ クスは 二 三週間という短いリ ドタイムが大きな特徴です 原材料や部材は これまでアジア各国やアメリカ ヨ ロ パから輸入されてきましたが 徐々に中国国内からの調達も多くな ています サプライヤ は 工場までのインバウンド輸送も業務に含まれます 下請け業者のほとんどは 渤海・長江・珠江の三つの地域にある工業パ クに集中しています 完成品は 地場のトラ ク業者を使 て 空港や港まで運び そこから航空便と船便を使 て北アメリカやヨ ロ パへと輸出されますが 一部の製品は節税のためい たん陸路で香港へと運ばれてから輸出されるものもあります 返品に関するロジステ クス業務の需要は高ま ていますが 現時点では各種の規制がそれを妨げています アパレルの調達は中国国内からアパレル産業のリ ドタイムは通常 六 八カ月とい たゆ たりしたものです アパレル産業の工場は 長江と珠江の二カ所に多図2 支払い物流費の7割を占める主要4産業 合計 600億ドル ハイテク産業 171億ドル アパレル産業 189億ドル 29% 32% 15% 一般消費財産業 151億ドル 一般消費財産業 151億ドル 自動車産業 89億ドル 24% 24%   欧州ロジスティクス通信 43 APRIL 2005いのも特徴です 原材料は 主に中国国内で調達され サプライヤ が工場までトラ クで輸送します 外国のメ カ の直接資本が入 た工場やジ イント・ベンチ の工場は少なく 中国資本による下請け工場がほとんどです 外国のメ カ の多くは バイヤ などが詰める事務所を持 ているにすぎません 下請工場は 近くの港までの完成品を輸送します 北アメリカのメ カ は アメリカの港に荷揚げされたときに製品を受け取りますので それまでは下請工場の在庫扱いとなります 輸出の九五%までが船便で 残りが航空便を使います ほとんどの製品は北アメリカかヨ ロ パに輸出されます 次は 一般消費財産業です リ ドタイムは アパレル産業と同じで 六 八カ月です プラスチ クや金属類の原材料は 中国周辺の国々から船便で入 てきます ジ イント・ベンチ による企業が多く 特に珠江デルタに集中する玩具メ カ にはその傾向が強く見られます そして 繁忙期に限り下請け工場を使います 北アメリカの玩具メ カ は 中国に進出を果たした最初の企業群でした 完成品のほとんどが輸出され 中国国内で消費されないのは 中国国内用に製造する免許を手に入れるのが困難だからです ほとんどの製品が 船便で北アメリカへ輸出されます 北アメリカのメ カ が港で製品を受け取るまでの輸送は 中国のジ イント・ベンチ の責任です 自動車工場は上海北部に集中最後に自動車産業です リ ドタイムは比較的に長く 加えて部材不足から起こるラインのスト プを未然に防ぐ目的で大量の在庫を抱えるのが特徴です 中国で生産される車のほとんどは 中国国内で販売されます 部材や半完成品 completeknock‐downkits は北アメリカやヨ ロ パから輸入されます 企業の形態はジ イント・ベンチ で そのほとんどが上海の北側に集ま ています そして 無数の下請けメ カ が生産ラインに近い海岸線に位置しています 完成品は トラ クを使 て 中国全土へと輸送されます これまで詳述してきた四つの産業は今後 一層ロジステ クス業界にと て重要になると思われます いずれの産業も 中国のGDPの成長率を上回る勢いで成長し続けることが予想されているからです 図3 中国でのロジステ クス市場で 欧米の業者が成功を収めるには数々の障壁があるのも事実です しかし今後の市場の発展を考えるとき 無視して通ることのできない市場であるのも確かなのです 本誌欧州特派員 横田増生 13。
8% 12。
5% 8。
8% 7。
9% 中国 GDP 7―8%ハイテク産業 自動車産業 アパレル産業 一般消費財産業 図3 主要4産業の高い成長率 US GDP 2―3%(2001年〜2007年の年平均成長率) 欧州3PL会議で講演するUPSサプライチェーン・ソリューションズのアンドレアズ・ジャネツコ部長

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