2002年1月号
ケース

トランコム―― 求車求貨

JANUARY 2002 42 年間一億円稼ぐ女性社員 名古屋市中心部の繊維問屋街にあるオフィ スビルの一室に、店頭公開物流企業トランコ ムのアソシエ名古屋配車センターがある。
電 話の着信音が絶えることなく鳴り響くこのオ フィスでは、二十代前半の女性たちが楽しそ うに受話器を次から次へと取っている。
彼女 たちの両耳は常に受話器で塞がっている状態 だ。
「アジャスター」と呼ばれる彼女たちの仕事 はトラック運送業者への帰り荷の斡旋だ。
運 送業者に片っ端から電話を掛けて荷物と空き 車を探し出し、条件が合うものをひとつひと つ結びつけて、手数料収入を得ている。
朝八 時から夕方六時までひたすらこの作業を繰り 返す。
一日に数万円の手数料を稼ぐことが彼 女たちに与えられた任務だ。
「○×ですぅ。
大阪までの四平(ヨンピラ= 四トン平ボディー車)空いていません? 三 五(三万五〇〇〇円)でどうですか? OK ですか? ありがとうございますぅ。
じゃあ、 また後で電話しますね」 どうやら取引が成立したようだ。
電話を切 った女性は早速、配車用ノートの受取運賃の 欄に四万円、支払運賃の欄に三万五〇〇〇 円、そして最後に手数料の欄に五〇〇〇円と 書き込んだ。
これで一仕事終わりだ。
彼女は荷物の運び手を探す側と運ぶ荷物を 求める側に数回電話を掛けただけで五〇〇〇 年商57億円誇る“日本一の水屋” 収入増狙いマッチングを分業化 トラックに帰り荷を斡旋する「アジャス ター」の1日の処理件数には限界があった。
2002年2月の配車センター集約に伴い、アジ ャスターの役割分担を明確にしてマッチン グ作業のスピード化や成約率の向上を図る。
現有戦力で2006年3月期に水屋収入200億円 という目標を達成するため、ビジネスモデ ルの改革に乗り出す。
トランコム ―― 求車求貨 評価に反映される仕組みになっているので皆、真剣だ」と宮地克巳物流情報サービス西日本 ブロック統括マネージャーは説明する。
現在、トランコムには「物流情報サービス 事業」と呼ぶ帰り荷の斡旋ビジネスを展開す る拠点が関東、中部、大阪地区に計一五カ所 ある。
そこでは連日、アジャスターがひたす ら電話を掛けまくるアソシエ名古屋配車セン ターと同じような光景が見られる。
アジャスターの数は一五拠点で計七八人。
男性五七人、女性二一人という内訳だ。
この 人数で年間十三万件、一日平均四五〇件の 帰り荷斡旋依頼を処理している。
サービスを 利用する会社は登録数で全国四五〇〇社。
こ のうち常時取引があるのは二〇〇〇〜三〇〇 〇社に上る。
「ベースカーゴを持たずに、こ れだけの規模で事業を展開している企業は他 に存在しないのではないか。
日本一だと自負 している」と武部芳宣社長は満足する。
水屋親方をスカウト トラックに帰り荷を斡旋するビジネスは俗 に水屋(みずや)業と呼ばれている。
現在、 日本には数千の水屋が存在すると言われてい るが、その多くは個人事業主で、アパートの 一室に電話線を数本引き込み、全国各地から 求車求貨情報を入手し条件の合う情報をマッ チングして運賃の一〇%前後を仲介手数料と して徴収している。
水屋業は電話を片手に情報を右から左へ流 43 JANUARY 2002 円を稼ぎ出したのだ。
ただし、今回マッチン グした分のマージンは、いまひとつの水準。
渋い表情を浮かべている。
多い時には一回の マッチングで数万円稼ぐことができるケース もあるという。
女性アジャスター五人で運営されているア ソシエ名古屋配車センターの年間売り上げ (獲得運賃)は五億円を超える。
彼女たちは 前述したような電話でのやり取りだけで一人 当たり年間に一億円以上を稼ぎ出すというか ら驚きだ。
「アジャスターたちは互いに一日 にどれだけ手数料を得られるか競い合いなが ら仕事をしている。
日々の結果が個人の業績 すだけでマージンを抜く傍流の物流ビジネス ということもあって、世間体はあまりよくな い。
しかし、日本の物流市場には古くからあ る業態で、法的にも認められている商売だ。
トランコムがこの分野に進出したのは八二 年のことだった。
知人から水屋業のビジネス モデルとその旨味を聞いて「水屋は輸送秩序 を乱すけしからん連中だという風潮があった が、私はそうは思わなかった。
安い価格でサ ービスを提供できるということは競争力があ る証拠だ。
これは商売になる」と直感した武 部社長が、中部地区で水屋業を営んでいた一 人親方を招聘したのがきっかけだ。
以来、こ の親方が中心となって事業化を推進。
トラン コム社員に水屋業のノウハウを徹底的に叩き 込み、数多くのアジャスターを育て上げてき た。
当初、トランコムは中部地区を中心に水屋 業を営んでいた。
しかしその後、アジャスタ ーとして一本立ちできる社員が増えてきたこ とに伴い、拠点網を関東地区にまで拡大。
さ らに昨年には関西地区への進出を果たしてい る。
業績も堅調だ。
二〇〇〇年三月期、「物流 情報サービス事業」の売上高は約三九億円だ ったが、翌二〇〇一年三月期には約五七億円 と、前期比四五%増を記録した。
さらに今期 (二〇〇二年三月期)は七三億円を見込んで いる。
一方、同社の収益を支えてきた共同配送事 アジャスターは次々と電話を取っていく(配車センターの様子) JANUARY 2002 44 業は二〇〇一年三月期、収入が前期比九・ 一%減で終わった。
貸切輸送事業も前期比で 増収こそ記録したが、今後は大きな成長が見 込めない。
それだけに物流情報サービス事業 に対する期待は大きい。
トランコムの二〇〇一年三月期の全売上高 は一五一億二六〇〇万円。
このうち物流情報 サービス事業は全体の三七・五%を占める。
今期はさらにその比率が高まることが予想さ れる。
「将来、物流情報サービス事業は二〇 〇一年三月期に収入が前期比で九〇%以上 伸びたロジスティクス・マネジメント事業と 並ぶ、新たな収益の柱の一つになる」と武部 社長の鼻息は荒い。
参入相次ぐ水屋市場 武部社長の強気な姿勢には根拠がある。
「日 本国内におけるトラックの積載率は五〇%と 言われているが、実際にはもっと低いのでは ないか」(宮地マネージャー)と目されている。
それだけ物流業者にとって帰り荷の確保は切 実な悩みとなっており、今後も水屋業へのニ ーズは萎むどころか、さらに膨らむと確信し ているからだ。
実際、トランコムと同様、水屋業にビジネ スチャンスを見出している企業は多く、求車 求貨システム事業という名称で、八〇年代後 半から九〇年代後半にかけて、富士ロジテッ ク、キユーソー流通システムなど複数の企業 がこの分野に進出した。
さらに、二〜三年前 からはIT系ベンチャー企業が事業化に相次いで名乗りを上げた(二〇〇一年五月号特集 記事参照)。
このうち、とりわけ成功を収めた企業とし て名高いのはキユーソー流通システムだ。
求 車求貨システム事業の売り上げは実に年間で 一〇〇億円に上る。
食品メーカーのキューピ ーの物流子会社としてベースカーゴを持って いること、定温物流というニッチなマーケッ トに対象を絞っていること、などが成功の要 因だとされている。
一方、不特定多数の荷主企業とトラック業 者を対象にした求車求貨システム事業を標榜 したIT系ベンチャー企業の大半は事業化に 躓いている。
マッチング担当者に必要とされ るノウハウに乏しいため、思うようにマッチ ングが行えずに信用を失い、顧客をつなぎ止 めることができていない。
同じように不特定多数の荷主企業とトラッ ク業者を対象にしていても、トランコムは売 り上げを見るかぎり、順調にビジネスを拡大 しているとの印象を受ける。
しかし実際には、 配車センターに寄せられる求車求貨情報に対 する成約率(マッチング率)は五〇%前後に とどまっているなど課題も少なくない。
成約率の頭打ち状態が続いているのは組織 に問題があるからだ、とトランコムでは見て いる。
「現行体制は水屋の一人親方が七八人 集まって、おのおの勝手に商売をしていると いう感じだ。
アジャスター同士、配車センタ ー同士の情報の連携がまったく取れていない。
組織として営業するメリットを享受できてい ない」と武部社長は指摘する。
トランコムではこれまでアジャスター、配 車センターの独立性を許し、それによって競 争意識を働かせて仕事へのやる気を引き出す ことで、手数料収入の拡大に成功してきた。
実際、この政策が年間五七億円の売り上げを 確保する原動力になったとも言える。
ただし、その一方で、独立性の容認には弊 害もあった。
とりわけ社内で問題視されてい たのは、武部社長も言っているようにアジャ スター、配車センター同士で情報が共有化さ れていない点だった。
仮にA配車センターが 抱えている荷物情報の条件に合致する空車情 報をB配車センターが持っていても、それら がマッチングされることが決してなかった。
また、顧客企業は、仮に東海地区であれば、 まずアソシエ名古屋配車センターに帰り荷を 斡旋を依頼。
マッチングされなかった場合に は次にトランコム名古屋配車センターに。
そ れでも帰り荷が見つからない場合はトランコ ム一宮配車センターといった具合に、複数の 配車センターに帰り荷の斡旋を依頼しなけれ ばならなかった。
情報共有されていないことが、アジャスタ ーの生産性にも影響を与えていた。
アジャス ターは一件の荷物情報を見つけると、複数の 空車情報を集めてから条件の合うものを選び、 結びつけるというかたちでマッチングをして 45 JANUARY 2002 ック業者に電話を掛けて運び手の決まってい ない荷物を探す。
同時に空車情報の担当者が 帰り荷を確保できていないトラックを集める。
両担当者は発地、着地、荷物の種類などのデ ータをコンピュータに入力。
その情報を見な がらマッチング担当者が次から次へとマッチ ング処理を施す、という業務フローに移行さ せる。
情報システムの詳細は明らかではないが、 「自動的にマッチングするようなシステムでは ない。
電話番号を入力すると顧客企業の過去 の取引実績などがチェックできたり、マッチ ングが成立していない荷物情報と空車情報が 一覧で表示されるといった単機能な業務支援 システムだ」(宮地マネージャー)という。
分業化で消える匙加減 ただし、成約率向上を狙った一連の業務改 善策が成功を収めるかどうかは未知数だ。
武 部社長も「とりわけマッチング作業の分業化 は一つの賭け。
うまく機能しなければ顧客を 失う可能性もある。
それだけに社内では分業 化に反対する声が少なくなかった」と打ち明 ける。
反対派の主張はこうだ。
「アジャスターは 荷物を探す側、空車を探す側の双方の声を直 接聞いて、どのくらいのマージンを抜くのが 妥当なのか、?落とし所〞を判断している。
時 にはマージンをまったくとらないで帰り荷を 提供し顧客をつなぎ止めるケースだってある。
いる。
一連の作業を全て一人で処理するため、 一日当たりの処理件数は限られてしまう。
実 際、アジャスター一人の一日当たりの処理件 数は六件、年間売り上げは九〇〇〇万円から 一億円程度と、個人事業主の収入とさほど変 わらないレベルにとどまっている。
「数々の不都合が結果として成約率の伸び 悩みを招いていた」と宮地マネージャーは説 明する。
成約率アップへの秘策 こうした諸問題を解消し成約率を高めるた め、トランコムは二〇〇二年に新たなステッ プを踏み出す。
まず二月に、現在全国に一五 カ所ある配車センターを東京、名古屋、大阪 の三カ所に集約、顧客企業から寄せられる荷 物情報、空車情報を集中管理する体制に改め る。
配車センターはこれまで五〜一〇人のア ジャスターで運営されてきたが、これを三〇 〜四〇人規模の大型センターにして情報の共 有化を図る。
マッチングの取りこぼしを減らそうという 狙いだ。
「配車センターに集まる荷物情報と 空車情報は千差万別だ。
情報量が少ないとそ れだけ条件が合う確率が低くなる。
これに対 して、一つの拠点に大量の情報が集まれば、 マッチングがしやすくなって成約率も上がる はず。
複数の配車センターに問い合わせをす る必要がなくなるなど顧客企業の利便性も高 まる」と宮地マネージャーは期待する。
同時に、アジャスターが独自に荷物情報と空車情報を収集しマッチングを行うという業 務フローも見直す。
荷物情報を入手する担当、 空車情報を入手する担当、マッチングの担当 といった具合にアジャスターの役割を明確に し、分業でマッチングを完結させる体制に切 り替える。
加えて、業務支援のための情報シ ステムの整備にも着手する。
分業化と情報化 を進めることで、顧客企業から情報を収集し てマッチングを完了させるまでの作業のスピ ード化を図る計画だ。
具体的には、まず荷物情報の担当者がトラ 20,000 15,000 10,000 0 (百万円) 3,198 11,263 3,909 12,242 5,679 15,970 7,340 19,030 トランコムの全売上高と物流情報サービス事業収入の推移 99.3 00.3 01.3 02.3 全売上高 物流情報サービス事業収入 (予想) JANUARY 2002 46 分業体制になると、こうした微妙な判断がで きなくなるのではないか」 もっともな意見だった。
確かに担当が分か れると、荷物情報と空車情報に含まれるデー タ化されない部分の微妙なニュアンスは掴み にくくなる。
表面化されるデータ、例えば提示運賃や荷物形態といった情報だけを用いた シビアなマッチングのみでは、顧客が離れて いく恐れもある。
多くの水屋業が分業化に乗 り出さないのはそうした理由からだ。
それで も、トランコムがあくまでも分業化にこだわ ったのは、水屋の一人親方を寄せ集めただけ の組織および営業体制では収益の確保に限界 があると気づいたためだ。
「現状の生産性からすると、単純にアジャ スターの数を一人増やせば売り上げが一億円 増える計算になる。
中期経営計画で打ち出 した二〇〇六年三月期に物流情報サービス 事業で売上高二〇〇億円という目標を達成 するためには、アジャスターの二〇〇人に増 やせばいい。
しかし、アジャスターが一本立 ちできるまでには時間が掛かる。
しかもアジ ャスターの数を増やせばそれだけコストも嵩 んでしまう。
この事業の利益率は三%台で推 移しているが、アジャスターの生産性が上が れば個人的には四〜五%確保することだって 可能だと思っている。
そのためには分業化が 欠かせないと判断した」と武部社長は説明す る。
水屋ビジネスがある程度軌道に乗り始めた ところで、次のステップとして生産性向上を 目的とした分業体制の確立を模索するという ケースは過去にもあった。
だが、これまでに 成功を収めた企業はほとんど見当たらない。
作業の処理スピードや目先の売り上げばかり に拘って、肝心の?微妙な匙加減〞の部分を 疎かにしてしまったからだ。
一人当たりの年間売り上げは一億円が限界 だという水屋業の定説を覆すことができるか。
トランコムの挑戦が始まる。
(刈屋大輔) ――水屋業のイメージは決してよくありません。
「八二年に事業を始めたのですが、当時は水屋業 に対する風当たりは相当強かった。
水屋は運賃を どんどん値引きする、輸送秩序を乱す連中だと。
し かし、私はそうは思いませんでしたね。
安い運賃 で荷物を運んでもらいたい荷主企業と安い運賃で もいいから荷物を運びたいと願うトラック業者が いる。
それを仲介することで荷主企業とトラック 業者の双方がハッピーになれる。
悪いことは一つ もないですよね。
市場原理に則っているサービス ですよ」 ――水屋を組織化したり、マッチング作業の分 業化することは難しいと言われています。
「多くのアジャスターを育ててくれた水屋の親方に も、組織的に営業を展開するのは無理だと指摘さ れました。
一人のアジャスターが荷物情報と空車 情報を収集して、微妙な匙加減でマッチングする からうまくいく。
その体制が崩れるとたちまち顧 客が逃げていくと。
それでも組織化や分業化にこ だわったのは利益を確保するためには欠かせない と判断したからです。
新体制がうまく機能すれば、 現在三%台で推移している物流情報サービス事業 の利益率を四〜五%台に引き上げることだって可 能だと思ってい ます。
今回の営 業体制の見直し は一種の賭けで もあります」 ――マッチング 作業を自動化す ることはできな いのでしょうか。
「これは難しい。
数年前からIT系のベンチャー企業が挑戦してい ますが、うまく機能しているところはないでしょ う?トラックで運ぶ荷物は扱い方などが千差万別。
これを機械で処理するのは困難です。
それでもコ ンピュータだけでマッチングできるケースがまった くないわけでもない。
全体の一〇%程度でもいい から自動処理をして、業務の簡素化を進めておく ことは大切でしょう」 ――全国展開も視野に入れているのですか。
「北海道や九州に拠点を構えるといったような具 体的な計画は今のところありません。
ただし、フ ランチャイズ形式で拠点を整備してみてはどうか、 など色々とアイデアは練っています」 「分業化は利益確保に向けた一種の賭け」 トランコム 武部芳宣 社長

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