ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2002年3号
メディア批評
雪印事件のお決まりの取材にウンザリ?会社教〞を放任するトップこそ元凶

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

『週刊プレイボーイ』が二月一九日号で、 「外務省 vs 雪印」の「舌先頂上対決」をやって いる。
「真のウソ上手はどっちだ?」というわ けである。
私もコメントを求められて、 「企業も官僚もウソをつくのが仕事だが、外 務省は大悪で、雪印は中悪」 と判定し、 「ウソつき度合い、ヌケヌケ度合いからする と外務省のほうが上でしょう。
多額の公の金 を使ってる点からみても外務省の勝ちです」 と結論づけた。
評論家の室伏哲郎も同じように、 「ボクは役人のことを『ドロボー』と言って ますが、官僚、役人というのは日本に四五〇 万人いるんです。
ウソで固めているわけです」 とコメントしている。
雪印乳業に続く雪印食品の事件で、テレビ も新聞も雑誌も、ほとんど決まったトーンで 質問してくる。
「雪印にモラルはないんでしょうか」と。
それを聞くと、私はウンザリする。
まず、発覚していないだけで、雪印にのみ モラルがないわけではない。
たとえば、いま はもう過去の事件となってしまった森永乳業 のヒ素ミルク混入など、その悪さにおいては 雪印を上まわっていた。
しかし、まだ、森永 乳業は存続しているのである。
問題は、彼らのもっている「会社のために」至上の感覚と、一般的なモラルが完全にスレ 違っているところにある。
私は、日本人に宗教意識が乏しいのではな く、ほとんどすべて?会社教〞の信者なのだ、 と言ってきた。
熱心にそれを信じている(信 じているという自覚もなく信じている)サラ リーマンは、一般的なモラルの、たとえばウ ソをついてはいけない、に捉われない。
だか ら、言ってみれば、モラルと宗教の衝突なの である。
そういう問題意識もなく、マスコミ の人間は雪印を責め、彼らに倫理観はないん でしょうか、と声を大きくする。
思わず私は 苦笑して、あなた方にはそれはあるのかね、 と問い返したくなったほどである。
新日鉄のトップである経団連会長も、言語 道断と雪印を非難していたが、では、森永は どうなのか。
あるいは、新日鉄も、それほど 胸を張れることをやっているのか。
かつて、リコーの社長の館林三喜男はこう 言ったという。
「タマネギは八百屋の店先で見ると、外側が 赤茶けたり、泥がついている。
それがタマネ ギなんだ。
ところが、そのタマネギを部下が 係長や課長にあげるときは、泥のついた赤茶 けた皮をむいて、これがタマネギだと言って 見せる。
そして、課長が、このタマネギを部 長に見せるときは、また二皮ばかりむいて見 せる。
それと同じく部長も皮をむいてくるか ら、社長の私のところへくるタマネギは、中 の芯だけの小さなものになっている。
それを 『タマネギでございます』と言われて、まるま る信じたら、とんでもない間違いをやらかす ことになる」 伊藤肇が『十八史略の人物学』(PHP文庫) に引いているエピソードだが、のちに経団連 会長となった土光敏夫も、東芝の社長になっ た時、最初の記者会見で、 「東芝の悪口を聞いたら、すぐ教えてくれ。
悪いことを教えてくれた人にはお礼をさしあ げる」 と言った。
これは、黄門こと水戸光圀が、 側近に、 「わしの悪口を細大洩らさずに報告せよ。
た だし、悪口を言った奴の名前は無用」 と命じた故事の応用編である。
雪印のトップは、その悪口が伝わってくる ルートをもたなかった。
パイプが詰まってい たのである。
もちろん、自らそれをつくって おかなければならないのであり、それをもた ないトップはカカシに過ぎない。
佐高信 経済評論家 65 MARCH 2002 雪印事件のお決まりの取材にウンザリ ?会社教〞を放任するトップこそ元凶

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