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MARCH 2002 28
赤字の出ないビジネスモデル
――軽貨急配は軽トラの一人親方たちを組織化し、仕事
を仲介して手数料を徴収する「委託事業主方式」と呼ぶ
仕事を仲介して手数料を徴収する「委託事業主方式」と
呼ぶビジネスモデルで急成長を遂げてきました。 ただし、
利益を生んでいるのは物流業ではなく車両販売事業だと
いう指摘もあります。
会社立ち上げ当初に考えたビジネスモデルはこうです。
まず、ある地域に拠点を置いて、個人事業主を集める。 当
社の場合、個人事業主に専用の車両を購入してもらうの
で、そこで車両販売収益が上がる。 その収益で営業マン
を雇って仕事を探す、というやり方です。
はじめに拠点とある程度の車両を用意してしまうと、仕
事が増えるまで赤字を垂れ流すことになるでしょう? し
かし、このモデルだと赤字が出ない。 委託事業主方式に
対する評価は分かれていますが、資本力のない物流企業
が時間とカネを掛けずに一気に全国ネットワークを構築す
るにはそうするしかなかったんです。
――ケーエスイーという信販会社の設立がビジネスの転換
点になっています。
軽トラで独立開業したい、と相談にくる人はたくさんい
ました。 しかし、軽トラを購入する資金を持っていない人
がほとんどだった。 彼らにはカネを借りる場所すらない。
車両を増やして組織をつくるためには、彼らが軽トラの購
入資金を調達できる仕組みが必要でした。 そう考えて、信
販会社を立ち上げました。
――まず車両販売で儲けて、そのカネで物流の仕事を見つ
けるというビジネスモデルは、恐らくそれまでなかった。
大金持ちだったら、こんなビジネスモデルは考えません
よ。 自分でトラック買って仕事していたはずです。 ベンチ
ャー企業の辛いところは、資金がないが故に成長できない
という側面があることです。 どんなにアイデアが優れてい
ても、成長のスピードが遅ければ、いずれ大資本にやられ
てしまう。
――ただし、そのビジネスモデルは批判の的にもなりまし
た。
「軽貨急配に言われた通りに、ローン組んで車両を用意
して仕事を始めたけど、全然儲からないじゃないか。 詐欺
だ」という批判ですよね。 裁判沙汰にもなって、当社にと
ってはものすごくイメージダウンになった。 問題は開業を
希望する人たちと代理店契約を結ぶ際に、事業内容など
をきちんと説明しなかったため、両社の間に解釈の違いが
生じてしまった、ということでした。
株式上場を申請する前に関係者から強く要請されたの
は、このビジネスモデルが法律面、そして倫理面で問題が
ないか、もう一度チェックすることでした。 モデル自体は
米国でも浸透しているものなので問題はない、という自信
がありましたが、契約のあり方については再度ルールを整
理しました。 あの事件以来、納得するまで個人事業主と
話し合いを何度も繰り返して、契約のサインを交わすよう
にしています。
――実際、契約を結んだ個人事業主たちは食べていけてい
るのですか。
当初、個人事業主への支払い率は運賃の七五%、つま
り当社が仲介料として二五%を徴収していたのですが、最
近はその配分を増やしています。 当社と長く取引している
個人事業主へ対しては、優遇措置として最高で八四%を
支払っています。
――現在、売り上げに占める車両販売事業と物流事業の
一人親方を組織化――
軽貨急配
西原克敏 社長
「ビジネスモデルの
転換期を迎えた」
軽貨急配
西原克敏社長
ビジネスモデル
自らはアセットを持たずに軽トラック運送の
個人事業主、いわゆる?一人親方〞たちを組
織化して、全国ネットワークを構築。 低料金の
運送サービスを提供している。 荷主とは長期請
負契約が基本で、スポット契約は受けない。
収入基盤は二つある。 一つは営業スタッフが
荷主企業から受託した物流業務を、軽トラの
個人事業主に斡旋し仲介手数料を得るという
ビジネス。 個人事業主から徴収する手数料の
割合は、契約期間などによって異なるが、上限
は運賃の二五%に設定している。 もう一つは車
両販売事業。 自社開発した専用の軽トラを個
人事業主に販売している。 開業資金を持たな
い個人事業主には同社が信用保証を与えてロ
ーンを組む制度を設けている。
29 MARCH 2002
割合はどのくらいなのですか。
会社を立ち上げた当時は車両販売九〇%、物流一〇%
でした。 それが現在では物流七〇%、車両販売三〇%に
なりました。 さらに、二〇〇二年三月期には物流が八〇%、
車両販売が二〇%になる予定です。
私が考えたビジネスモデルでは物流収入ゼロ、車両販
売一〇〇%から出発します。 運送店の開拓にひたすら取
り組んでいると、その間に物流収入が緩やかに増えていく。
あるエリアに絞って運送店を開拓していると、いずれその
エリアでの開拓余地がなくなってきますから、車両販売収
入が頭打ちになる。 その頃には物流の仕事が増えていて、
いつの間にか車両販売収入と物流収入が逆転している。 そ
ういうモデルなので、会社全体の収入構成も同じような流
れで推移していくのです。
――八対二というバランスは適正という考えですか。
現在、車両台数は実稼働で六〇〇〇台弱。 一年間に一
回でも取引をした軽トラをカウントすると一万台くらいで
す。 物流のネットワークはほぼ完成型に近いし、仕事もた
くさんある。 今までは仕事を取るために運送店を開拓する、
つまり車両を販売する、車両が増えたから営業マンを増や
す、ということでやってきた。 しかし、営業マンの数が増
えて仕事も増えると、今度は「仕事がこれだけあるから軽
トラを探す」というかたちに変わってくる。 八対二という
収入比率になると、特にそうなる傾向が強まる。 ただし、
ネットワークを細かくしていくという意味からも、今後も
引き続き運送店の開拓には力を注いでいく必要はあります。
――ちょうど今、ビジネスモデルの転換期を迎えているわ
けですね。
その通りです。 車両販売と物流の収入構成比率が変わ
ってくれば、自然とビジネスモデルも違ったものになって
いきます。
――売上高は順調に伸びていますが、ここ一、二年は利益
が多少落ちています。
利益が落ちた要因の一つは車両販売事業に広告宣伝費
を掛けすぎたことです。 そして、もう一つは保証債務に対
する引き当てを強化したことです。 ローンを組んで車両を
購入する個人事業主の債務を一部当社が保証しているの
ですが、最近はお金を払いきれない人が増えてきた。 その
部分の引き当てです。 事業そのものは順調で、営業利益
は高い伸び率を維持しています。
物流の何でも屋
――物流企業はどこも苦戦しています。 軽トラ業も例外で
はないはずです。
当社の強みは、荷主企業と長期請け負い契約を結んで
いることです。 荷主企業に対して、一年とか二年といった
スパンで軽トラを提供しています。 「出荷量が減ったから
明日からは車両は要らないよ」といった構図になっていな
い。 だから、世の中の荷動きの状況で業績が左右される
ことが少ない。
契約には単にモノを運ぶことだけでなく、物流センター
での出荷作業など周辺業務が含まれています。 物流の何
でも屋として契約していますので、運ぶ仕事がなければ、
ほかの仕事をドライバーに依頼できるわけです。
これに対して、スポット便中心の軽トラは苦戦を強いら
れているでしょうね。 景気が悪くて暇な時は「仕事の失
敗」が少ないから緊急輸送の需要がない。 バイク便の世
界でもダンピング競争が激しくなってきたと聞いています。
確かにスポットの仕事は利ざやが高い。 当社の仕事はそれ
に比べて利ざやは低い。 それでも長期契約なので安定感
がある。
――フットワークエクスプレスの子会社を買収したり、西
濃運輸と業務提携するなど買収・提携戦略も進めていま
す。
軽トラから出発して区域トラック事業に進出する経営
者は多いし、それこそ当社も二トン車を使った商売をやっ
ていた時期もありましたが、そんな色気も徐々になくなっ
てきました。 軽トラでトップに立ったという自覚がありま
す。 いろいろなことをやっていますが、軽トラ中心という
スタンスは維持していきます。
特集その後の物流ベンチャー
1999/3 2000/3 2001/3
(単位:百万円)
商品部門(委託事業主開発業務)
運送部門(貨物運送受託業務)
軽貨急配の売上高と売上構成比の推移
30,000
24,000
18,000
12,000
6,000
0
25,809
23,569
9,414
14,155
11,572
21,267
9,694
8,232
17,557
沿 革
西原克敏社長は一九四六年愛媛県生まれ。 佐
川急便を経て、八四年に西原運送店を開業。 八
七年、軽貨急配を設立した。 「トラックを持た
ない運送会社」を標榜し、荷主企業から受注
した物流業務を軽トラの個人事業主に仲介す
る「ダブル・アウトソーシング」の仕組みを確
立した。 同時に、実運送を担当する個人ドライ
バーを増やすための開業支援事業も進めてきた。
同社の収入比率は物流よりも車両販売のほ
うが高かった時期が長く続いた。 しかし、徐々
に物流収入が拡大し、現在ではその割合は物
流七〇%、車両販売三〇%となっている。 九
九年度、東洋経済新報社「ベンチャークラブ」
のアントレプレナー賞を受賞。 二〇〇〇年一〇
月には大証二部上場。 昨年四月にはフットワ
ークエクスプレスの子会社、フットワークデリ
バリーサービスを買収。 同六月には西濃運輸と
小口貨物の集配業務で提携を結んだ。
http://www.keikaexp.co.jp/
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