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2005年5月号
ケース

全日本空輸――中国物流

MAY 2005 46 貨物を第三のコアビジネスに 同時多発テロやSARS、イラク戦争など の影響で、?低空飛行〞を続けてきた全日本 空輸(ANA)の業績が回復基調に転じてい る。
同社は二〇〇三年三月期に営業利益ベー スで二五億円、当期純利益ベースで二八二億 円の損失を計上したが、翌二〇〇四年三月期 には営業利益三四三億円、当期純利益二四 七億円の確保に成功。
今年三月末に終了した 二〇〇五年三月期の決算も増収増益を達成 できる見通しだという。
二〇〇四年三月期に約七二〇億円の経常 損失を余儀なくされたライバルの日本航空(JAL)は、「ようやく重い腰を上げてメス を握り、手術台に向かおうとしている段階で、 コスト削減に向けた取り組みがやや遅れ気味」 (外資系証券アナリスト)だ。
これに対して、 ANAは〇三〜〇五年度で計画していた「コ スト構造改革」のコストダウン目標値(三〇 〇億円)を一年前倒しで達成するなど収益力 改善のための?手術〞を着々と進めてきたこ とが、JALよりもひと足早い業績の回復に 結びついている。
今後の視界も良好だ。
今年四月にスタート した新中期経営計画「ANAグループ中期経 営戦略」では、今年度(二〇〇六年三月期) に営業収入一兆三〇〇〇億円、営業利益七 〇〇億円を見込む。
さらに三カ年計画の最終 年度である二〇〇八年三月期には営業収入一 日中路線に貨物専用機を積極投入 2007年度貨物収入1000億円目指す 今年4月に新3カ年計画をスタート。
旅 客事業の中長期的な伸び悩みを想定し、 今後の重点項目の1つに貨物事業の強化 を掲げた。
輸送ニーズの拡大が続く中国 路線に貨物専用機を相次いで導入するこ とで、2007年度に貨物収入1000億円の 達成を目指している。
全日本空輸 ――中国物流 47 MAY 2005 兆三七〇〇億円、営業利益九〇〇億円を計 画している(図1参照)。
もっとも、収益目標の達成に向けた不安材 料がないわけではない。
一つは主力の旅客事 業では今後、大幅な増収が期待できないとい う点だ。
九〇年代に年率四〜六%の伸びを示 していた国内線の航空総需要は二〇〇二年以 降、横這いの状態が続いている。
一方、国際 線でも中国を中心としたアジア路線で二〜五% 程度の伸びが期待されているものの、欧米路 線は横這いで推移していくと見られている。
「マーケットの成長が鈍化するうえに、そもそも旅客事業にはテロや原油高騰など突発的 な要因で収益が大きく変動してしまうという リスクがある。
ANAは収入全体の約六割を 旅客で稼いでいる。
それだけに旅客以外の新 たな事業を育成して常に安定した収益を確保 できる体制を構築することが経営上の大きな 課題の一つになっている」と野村證券金融経 済研究所の尾坂拓也アナリストは指摘する。
経済性重視で中型機を調達 ANAが旅客事業や旅行事業と並ぶ「第三 のコアビジネス」として将来の成長に大きな 期待を寄せているのは貨物事業だ。
現在、貨 物収入(郵便収入を含む)は約八二三億円 (二〇〇四年三月期実績)で、売上高全体に 占める割合は六%程度だが、これを中期経営 計画では二〇〇七年度までに一〇〇〇億円に 引き上げる計画を打ち出している。
ここにきて同社が貨物に目を向け始めるよ うになったのはほかでもない。
需要の頭打ち が懸念されている旅客とは対照的に、貨物は 今後のマーケット拡大が見込まれているため だ。
とりわけ有望なのは国際貨物の領域で、 輸送量は日本発で年率七〜八%、アジア発で 五〜七%、欧州発で四〜五%、中国発で十 三〜一五%の伸びが続くと予想されている。
加えて、「旅客と貨物とでは事業リスクの 発生時期が異なる。
例えば、テロなどが発生 すると旅客収入が落ち込み、それに引っ張ら れるかたちで旅行事業も収入減となるが、貨 物は比較的影響が小さい。
貨物という収益の 柱を持っておくことは経営の安定化という意 味で極めて重要な要素となる」と貨物郵便本 部の内藤恵副本部長は説明する。
二〇〇七年度に貨物収入一〇〇〇億円を 達成するためには今後三年間で年五〇億円強 の増収を継続していく必要がある。
そのため の具体策として、ANAでは貨物専用機(フ レーター)の拡充を進めていく計画だ。
現在、 同社のフレーターの保有はわずか一機にすぎ 14,000 13,000 12,000 11,000 10,000 0 売上高(億円) 営業利益(億円) 1,000 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0 2001.3 2002.3 2003.3 2004.3 2005.3 見通し 2006.3 目標 2007.3 目標 2008.3 目標 822 229 343 700 700 800 900 −25 12,796 12,045 12,159 12,175 12,810 13,000 13,400 13,700 図1 ANAの業績推移 120,000 110,000 100,000 90,000 80,000 70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 情報関連産業の活況 アジア通貨危機 情報関連産業の不況 米国同時多発テロ 北米港湾スト デジタル家電需要の拡大 (日本発輸出混載貨物:トン) (年) 注)数値は、成田空港と関西国際空港の日本発輸出取扱数量合計 出所)国土交通省、野村證券金融経済研究所 図2 国際航空貨物は拡大を続けている(日本発輸出混載貨物量の推移) ないが、今後はその数を段階的に増やしてい くという。
まずは二〇〇六年一月をめどに中 型クラス(B767)のフレーター二機を新 たに導入する。
日本企業の生産拠点の進出が相次ぐ中国、 とりわけ上海などの主要都市と日本を結ぶ路 線はここ数年、輸送力が不足気味な状態が続 いている。
最近では中国国民の反日感情の高 まりで日中間のビジネスの発展スピードが鈍 化するのではないかという懸念が出始めてい るが、中長期的なトレンドとして両国間の輸 送量は欧米など他路線に比べ相対的に高い伸 び率を維持することが確実視されている。
ANAでは既に導入済みのフレーター一機 を東京〜香港間といった中国路線で活用して いるが、こうした背景を踏まえて新たに調達 するフレーター二機についても同様に日本〜 中国間に投入する方針だ。
ただし、現段階で は新規のフレーターが具体的にどの路線に?就 職〞するかは決まっていない。
中国進出を果 たしている荷主のニーズや出荷動向などをき ちんと分析したうえで、来年一月までに詳細 な運航計画を固めていきたいとしている。
現在、航空会社で採用されているフレータ ーはB747クラスの大型機が主流だ。
これ に対して、今回ANAが中型機を選択したの は、日中間の物流では一フライト当たりの積 載ボリュームよりも輸送のフリークエンシー (頻度)が重視されるようになっていくとい う読みがあるからだ。
「荷主は中国で生産し た製品を大量一括で輸送するのではなく、必要な製品だけを必要なタイミングで日本に送 り込む傾向が強まっている。
中型機は大型機 に比べ空港使用料などを含めた運航コストも 安く、経済性に優れている。
物流コストを低 く抑えたいという荷主のニーズにマッチする」 と内藤副本部長は説明する。
もっとも、新フレーターには中国路線だけ でなく、日本国内でも活躍の場が与えられそ うだ。
同社では一昨年に羽田〜佐賀、札幌の 路線で宅配貨物などを対象にした深夜貨物便 をスタートしている。
これまで深夜貨物便は 旅客機の貨物室部分(ベリー)を利用したサ ービスだったが、今後はフレーターを使った サービスに切り替えていく計画だという。
ベリーを使ったサービスでは一フライト当 たりの積載量が二〇トン強で限界だった。
サ ービスを開始して以来、深夜貨物便の取扱量 は年々増えており、スペース不足が懸念され てきた。
フレーターの投入は一フライト当た りの積載量を五〇トンまで高めることで、深 夜貨物便の拡販に結びつけるのが狙い。
さら に日中間の輸送の合間に深夜貨物便の輸送を 担当させることで、フレーターの稼働率を高 めるという目的もある。
棲み分けの構図に変化 こうしてANAでは今後フレーターを用い た貨物ビジネスを推進していくわけだが、こ の計画は同社にとって大きな決断と言える。
というのも、日本郵船と折半出資して設立し たグループ会社の日本貨物航空(NCA)が 八五年に国際貨物定期便の運航を開始して以 来、ANAの貨物事業は旅客機のベリーを使 った輸送が中心で、グループ内では「NCA がフレーター、ANAがベリー」という棲み 分けのルールが明確になっていたからだ。
その構図に多少の変化が生じ始めたのは、 ANAが初めてフレーターの導入に踏み切っ た二〇〇二年あたりから。
ANAでは「当社 がNCAを運航や整備の面でサポートしてい くという昔からの協力体制は変わらない。
フ レーターの投入先は基本的にNCAとバッテ ィングしない路線を中心に考えている」(内 藤副本部長)としているが、このままフレー ターによるビジネスを拡大していけば、いず れNCAと競合する局面が出てくるはずだ。
市場関係者の間では「思い切ってNCAを 内部に取り込んで、貨物事業を一本化するか たちにすると、セグメントもはっきりするし、 評価もしやすい」(外資系証券アナリスト)と いう声もある。
ところが、これに対してAN AはもともとNCAが日本郵船との共同出資 MAY 2005 48 貨物郵便本部の内藤恵副 本部長 49 MAY 2005 で設立されたという背景もあるため、いまの ところ両社の貨物事業を統合することについ て慎重な姿勢を示している。
フレーターの拡充など一連の取り組みによ って、公約通りに二〇〇七年度の貨物収入一 〇〇〇億円を達成できたとしても、売上高全 体に占める貨物収入の割合は一〇%にも満た ない。
経営の柱に据えるという意味ではイン パクトに欠ける。
「第三のコアビジネス」に育 成することを標榜している以上、本来であれ ば貨物事業で収入全体の二〜三割稼ぎ出す体 制を構築するのが理想であろう。
「アジアナンバーワンの航空会社」を目指 すANAの競合相手であるアジア各国の航空 会社の中には、旅客と貨物の収入バランスが 整っている企業が少なくない。
例えば、台湾 のエバー航空はすでに貨物収入が全体の四割 を超えているという。
「航空会社に好ましい収入比率というもの はない。
ただし、貨物需要が拡大しているア ジアでビジネスを展開していく航空会社とし て、個人的には当社も貨物収入比率を全体の 二五%程度まで高める必要があると思ってい る。
繰り返しになるが、経営の安定度を高め るという意味でも、旅客に比べ事業リスクが 小さい貨物事業を伸ばしていくことは当社に とって不可欠だ」と内藤副本部長は力説する。
貨物シフトは正しいのか ANA単独で貨物事業の拡大を模索して いく場合に欠かせないのはフレーターの追加 導入だ。
しかし業績が回復基調に転じている とはいえ、ANAの投資余力はまだまだ小さ い。
二〇〇九年には羽田空港の第四滑走路共 用開始が予定されており、それに伴い旅客分 野ではターミナルの拡充や新規路線の開設と いった大型投資が控えている。
投資の矛先が 本格的にフレーターに向けられるようになっ ていくのは早くても二〇〇九年以降という公 算が大きい。
そもそもキャリアとしての貨物ビジネスに 本腰を入れていくことが経営判断として正し いのかどうか。
そのこと自体に疑問を投げか ける声も少なくない。
なぜならキャリア事業 そのものは決して収益力が高くないからだ。
キャリアに特化しているNCAの売上高営業 利益率がここ数年、二〜三%台と低迷を続け ていることが、それを如実に物語っている。
現在、航空貨物の分野で高い収益力を確保 しているのは米UPSをはじめとする「国際 インテグレーター」と呼ばれるプレーヤーた ちだ。
彼らは両端の配送(フォワーディング) と幹線輸送(キャリア)の部分を一手に引き 受けることで、高収益を実現している。
一方、 フォワーダーも物流センターの運営など3P Lサービスとフォワーディング業務を組み合 わせることで、収益力の維持に努めている。
「単に空港〜空港間を輸送するだけのキャ リア事業を続けていけば、じり貧は免れない。
旅客収入の落ち込みを貨物収入でカバーして いこうという発想そのものは理解できる。
た だし、NCAの業績推移を見れば、キャリア 事業の利益貢献度が低いことは一目瞭然だ。
いくら売り上げが伸びても、きちんと利益を 上げることができなければ、経営の?第三の 柱〞とは言えない」と野村證券金融経済研究 所の尾坂拓也アナリストは指摘する。
航空貨物の中長期的な需要見通しは明るい。
しかしその一方で、ライバルのJALが佐川 急便と手を組んで航空貨物会社を新設し、フ レーターの国内および中国路線への投入を予 定しているといった動きも出始めており、ア ジア市場では今後、国際貨物をめぐる競争の 激化が予想されている。
ANAが新たな収益基盤として貨物事業に 目を向けたことは本当に正しかったのか。
そ の答えはいずれ明らかになる。
(刈屋大輔) B767の貨物専用機。
ANAは2006年1月をめど に新たに2機を追加導入する

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