ERPはどういうシステム?
ERPって、どういうシステム?
最近、大口の取引先が「ERP」と呼ばれる情報システムを導入しました。聞けば、欧米の大企業は皆この「ERP」を使っているとか。いったい、どんなシステムなんですか。ITの話は苦手ですけれど、興味があります。
「ERP」とは英語の「エンタープライズ・リソース・プランニング(Enterprise Resource Planning)」の頭文字をとったもので、一般的には「企業資源管理」と訳されます。生産や販売、財務、物流といった企業内のリソース(経営資源)を、一元化してリアルタイムで管理していこうという考え方を指しています。
といっても、何のことだかサッパリ分からないという方が少なくないでしょう。最近のビジネス用語には、難解な三文字英語が頻繁に出てきますが、このERPは、その中でも最も分かりにくい言葉の一つとなっています。
というのも、右に説明した通りERPとは本来、経営管理の考え方なのですが、実際に世間でERPという言葉が使われる場合、そのほとんどはERPの考え方に基づいて作られたパッケージソフトのことを指していることが多いのです。この場合、「ERP」という言葉の訳語には「統合業務パッケージ(ソフト)」が使われます。
ERPソフトメーカーの最大手はドイツのSAP社。二番手がアメリカのオラクル社。いずれも欧米の会社ですが、日本でも手広く販売活動を行っていますので、どこかで名前を聞いたことぐらいはあるのではないでしょうか。実際、過去十年の間に、SAP社やオラクル社のERPソフトは、急速な勢いで世界中の大手企業に普及しました。
欧米企業と比較すると、これまで日本企業の導入は遅れていましたが、それでも薬品・化学品業界、エレクトロニクスなどのハイテク業界、そして自動車業界へと、業界単位で導入が広がっています。とくにグローバルに活動する企業にとっては、常識ともいえるツールになっています。
リアルタイム経営
ERPと従来のシステムとの最大の違いは、ERPがパッケージソフトであり、既製品であることです。これまで日本の大手企業は工場、営業、経理、人事といった部門ごとに情報システムの仕組みを特注で作ってきました。その会社の各部門の仕事のやり方にぴったりと合ったシステムをバラバラに作ってきたのです。
各部門内で利用している限り、実際そのほうが使いやすかったようです。ただし、各部門でシステムの仕組みが違うため、部門間でデータをやりとりしたり、会社全体の経営判断のための資料を作成するには、データの「翻訳」が必要でした。実際には月に一度、必要なフォーマットに合わせて各部門でデータを集計し、経営層や他部門に提出するというバッチ処理を行っていました。
この体制だと、経営陣は一カ月前のデータを元に、現在の状況を判断せざるを得ません。経済が右肩上がりで比較的、環境が安定していた時代ならともかく、現在のように変化の激しい時代になると、現状に対して誤った判断を下してしまうリスクが大きくなります。そこから「企業内の全てのリソースをリアルタイムで一元管理する」というERPの考え方が出てきたのです。
それを具体化したERPソフトは「One Fact,One Place」といって、社内の一カ所でデータを入力すると、自動的に他の部門のデータも更新される仕組みになっています。一カ月ごとのバッチ処理ではなく、全体が常に統合されているので、いつでも経営判断に必要なリアルタイムのデータを入手できるわけです。
「縦割り」から「横割り」へ
しかも、ERPの導入には「BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)」、すなわち仕事のやり方を改革することで、飛躍的に業務効率を高める効果がある。当初はそう宣伝されていました。ERPは世界最高の仕事のやり方(ベストプラクティス)を元に作られているため、ERPの設計通りに仕事の進め方を変更することで、世界最高の業務効率を実現できるという理屈です。
しかし、この「BPR効果」については、今となってはメーカーの売り文句に過ぎなかったと言えそうです。確かにERPは世界のトップ企業のシステムをベースに開発されていますが、それが製品化される頃には、オリジナルとなったトップ企業はさらに先に進んでいる。そのため、ERPの設計は常に一時代前のベストプラクティスに過ぎないことになります。
さらに、ERPは当初、企業の全ての活動を網羅することを目指していましたが、これも現在では修正を余儀なくされています。ERPがカバーするのは企業活動のうち、過去の実績だけであって、将来の計画(Planning)や現在の業務の実行(Execution)については、ERPとは別の種類のパッケージソフトが利用されるようになっています。
それでもERPの普及は止まりません。従来のシステムが部門別の「縦割り」だったとすれば、ERPは基本的に「横割り」です。ERPが企業活動の全体をカバーしているわけではなくとも、リアルタイムの経営を行うには「横割り」のシステムがどうしても必要です。それをパッケージではなくゼロから「特注」すれば大変な手間と時間がかかってしまう。開発に失敗する場合だってあり得ます。
今日の企業経営にとって、「スピード」はかつてなく重要になっています。また基幹システムがトラブルを起こせば、企業活動そのものがストップしてしまうほど、情報システムがインフラとして深く経営に根付いています。それがERPの普及する背景になっているのです。(2001/9執筆)