シェアード・サービスって何?
シェアード・サービスとは何ですか?
経理や人事などの間接部門の生産性を改善するために「シェアード・サービス・センター(SCC)」を設置する企業が増えていると聞きます。SCCについて詳しく教えて下さい。
ネクタイ組の生産性は低い?
日本企業のホワイトカラーの生産性は低いという指摘があります。日本の工場は世界的に見てもトップレベルだけれど、人事部や総務部、経理部といった本社スタッフの人間は効率的に働いていない。ムダの多い昔ながらの仕事のやり方をそのまま放置しており、経営の足を引っ張っているという批判です。かなり広く定着している考え方ですが、実は説得力のある根拠は今のところありません。逆に、「日本企業の間接部門は直接部門よりも生産性向上に大きく貢献している」という調査研究論文が発表されているぐらいです。
一方、アメリカでは、いわゆるIT革命によってホワイトカラーの生産性が飛躍的に向上した、とされています。しかし、この“定説”も、ながらくキチンとした証明がされていませんでした。二〇〇〇年に経済開発協力機構(OECD)がIT革命の効果を正式に認めたことで、一応の決着がついたことになっていますが、いまだに“定説”に異を唱える専門家が後を絶ちません。
これは間接部門が「モノ」ではなく「サービス」を扱う組織であることが一つの原因になっています。工場であれば、生産性の結果がはっきりと「量」として表れるので、誰にでも納得できます。しかし、ホワイトカラーの生み出すサービスの「質」を数値で把握するのは容易ではありません。実際「アタナの会社の人事部の生産性は?」と尋ねられても、「マジメにやっている」とか「ヒマそうだ」といった程度にしか答えようがないはずです。
そのため、他部門から陰口を叩かれながらも、これまでは間接部門に本格的な経営改革のメスが入ることはありませんでした。間接部門は会社にとって生産性を云々する以前の組織の土台であり、経営に欠くことのできない“聖域”として扱われてきたわけです。ところが「シェアード・サービス」という手法の出現によって事態は一変しました。
これまでグループ会社や事業部門別に分かれていた経理や人事などの間接業務を一つの組織に統合し、その組織をグループ会社や事業部門で共有(シェア)する形にするーーこれによって業務の効率を上げる手法を「シェアード・サービス」と呼びます。また、この時に間接業務を統合した結果できあがった組織が「SCC」ということになります。
シェアード・サービスの導入効果としては、分散していた業務を一カ所に統合するだけでも、重複業務がなくなり、処理に必要な人数がセーブできるため、経理部門の場合で約二〇%の効率アップが実現できると報告されています。さらに統合後に業務改善を実施することで、いっそう大きなコスト削減効果が期待できます。
既にアメリカでは有力企業トップ五〇〇社(フォーチュン五〇〇)のうち、約半数がSCCを導入していると言われています。日本でもグローバルにビジネスを展開している一部上場企業を中心に、三菱商事や日本航空、横河電機など数十社がSCCの導入に動いています。日本企業の課題とされるホワイトカラーの生産性を改善する有効な手法として、今後さらに普及は広がっていきそうです。
「集中と選択」のツール
ただし、そのコスト削減効果ばかりに眼を奪われてしまうと、本質を見失うことになります。シェアード・サービスの本質はコスト削減よりも、むしろ間接部門を本社から分離して、一つの組織として自立させることにあります。
同じ企業グループの同じ間接業務、例えば同じ経理部門であっても、実際の業務内容や仕事のやり方は組織によってバラバラです。全く同じというケースは、ほとんどありません。従って、統合によって誕生したSCCは、まず業務の「標準化」を迫られます。その組織にだけ通用する従来の仕組みを改め、誰にでもサービスを提供できる形にするわけです。
こうして「標準化」することで初めて、グループ会社や親会社の事業部門など複数の組織にサービスを提供できるようになるのです。さらに、いったん「標準化」に成功したSCCは、資本関係のない一般企業にまでサービスの適用範囲を広げることが可能になります。サービスを外部に販売することで「稼ぐ」ことができるわけです。
といっても、喜んでばかりはいられません。同時に大きなリスクも生まれているからです。標準化されたサービスを提供するSCCが複数あれば、サービスの受け手側は当然、それぞれのサービスと価格を比較して、選択するようになります。その時、資本関係のないSCCのほうがグループ内のSCCより優秀であったとしたらどうなるか。今日の環境では必ずしもグループ会社を選ぶとは限りません。グループ会社が切り捨てられる恐れは十分にあります。
シェアード・サービスが普及していくことで、従来の間接部門は熾烈な市場競争にさらされることになります。ライバルは同じサービスを提供する他のSCCです。工場と比べて間接部門の生産性が高いのか低いのかを議論した時代は、もはや過去のものとなりました。外部委託を活用して自らは本業に特化する「集中と選択」が間接部門にまで広がったのです。(2002/3執筆)