VMIって何のことですか?
『VMI』って何ですか?
取引先の組み立てメーカーから「今度、VMIを導入するから協力して欲しい」と依頼を受けました。どうやら、昔の「コック方式」のように工場倉庫の在庫管理を当社に任せたいということらしいのですが、「VMI」って一体、何なのですか。「コック方式」とは何が違うのですか。
「VMI」の話の前に、「コック方式」と呼ばれる調達のやり方について少し解説しておきます。コック方式とは水道の蛇口(コック)をひねるように、必要な時に好きなだけ資材を調達できるという意味で名付けられた取引の方法で、日本では家電業界などを中心に以前から広く行われてきました。
具体的には調達先の協力部品会社が、組み立て工場の敷地内にコンデンサーなどの汎用部品を一定量在庫し、部品を購入する側である組み立て工場では、必要な量だけ使う、料金も使った分だけ支払う、という形をとります。いわば「富山の薬売り」方式です。購入側にとっては、部品を自分の資産として在庫しておく必要がないというメリットがあります。
しかし、このコック方式。実際には、まだかなり実施されているようですが、現行の法律では、例え協力部品会社との合意があったとしても「下請けイジメ」に当たるとして認められないことになっています。
その理由としては「(コック方式で)下請事業者は、親事業者の在庫水準が常に一定に維持されるように納入しなければならないので、あらかじめ納期を特定することができず、また、注文書を出すこともできない。このため、受領日から下請代金の支払期日までが長期になることもあり、必然的に親事業者の書面の交付義務違反や支払遅延が発生する」からとされています。
確かにコック方式は、部品会社から見ると、売れるか売れないか分からない商品を、特定の顧客のために一定量確保しておかなければならない不公平な取引だといえます。しかも、品切れは許されないので、実際に使用されるよりも常に多めに在庫しておく必要があります。その点を問題視した公正取引委員会が、法律をもって正式に禁止に動いたというわけです。
それが今日、「VMI」に形を変えて復活しています。「VMI」とは、「ベンダー・マネージド・インベントリー:Vender Managed Inventory」の頭文字をとった略語で、在庫を減らすための手法の一つとして知られています。「ベンダー」とは、「サプライヤー」とほぼ同じ意味で、商品の調達先を指しています。そして「マネージ」は「管理」で、インベントリーが「在庫」。そのまま訳すと「調達先に管理された在庫」ということになります。専門書などでは「ベンダー主導型在庫管理」と紹介されています。
今日のVMIは米国のデルコンピュータが九〇年代初頭に部品ベンダーを巻き込んで取り組んだ調達改革のプロジェクトがモデルとされています。その数年後には日本にも紹介され、九〇年代の後半からハイテク業界を中心に急速が始まりました。とくに、ここ二〜三年は大手電機メーカーや通信機器メーカーなど、日本の大手組み立てメーカーが軒並み導入に動いています。
通常、組み立てメーカーは工場隣接地に調達用倉庫を設けています。調達した資材を倉庫に一時保管しておいて、生産活動の進捗に応じてジャスト・イン・タイムで少量ずつ工場のラインへ供給するという形です。その分だけ工場では部品・仕掛品在庫を抱え、管理の手間もかかっているわけですが、これまではあまり問題視されることがありませんでした。一定期間、部品を倉庫で寝させることになったとしても、最終的に商品の一部となる以上、部品在庫は基本的に「資産」であり、むしろまとめて購入することで調達先との価格交渉を有利に進めることができるという利点があったからです。
IT武装した「富山の薬売り」方式
ところが、市場変化のスピードが増し、商品の寿命がどんどん短くなってくると、話が違ってきます。とくに技術革新のスピードの速いハイテク産業は今日、四半期ごとに製品が入れ替わり、毎日のように部品価格が下がっていくという状況にあります。資産のつもりで持っていた部品在庫が、あっという間に使いモノにならなくなる。在庫が陳腐化してしまうわけです。
在庫の陳腐化リスクを避けるためには、できるだけ在庫を自分で持たないのが一番です。かつてのコック方式では、それが可能でした。しかし、コック方式は在庫の陳腐化リスクを協力部品会社に押しつけているだけに過ぎません。そのしわ寄せは、いずれ自分に返ってきます。そこでITの力を借りて、協力部品会社にとってもメリットのある、お互いが「Win-Win」の関係になることのできる調達方法として考案されたのがVMIなのです。
VMIを導入することによって、工場の部品在庫が理論上ゼロになるのはコック方式と同じです。ただし、VMIは工場の生産計画と在庫量を常に部品ベンダー側でも共有できることが大前提になっています。部品ベンダーはパソコンを通して顧客である工場の生産計画と実際の生産活動の進捗を見ながら、部品の生産をコントロールできるのでムダが省けるという理屈です。
かつてのコック方式では、工場がどれだけ部品を使うのか、実際に使った後でないと、部品ベンダーには分かりませんでした。そのため部品ベンダー側では考えられる最大量を顧客の工場倉庫に在庫しておく必要がありました。これに対してVMIでは、実際に工場で必要になるずっと前の段階で、需要情報を入手できるため、工夫ができるというわけです。
しかし、理屈通りにVMIを動かすのは容易ではありません。肝心の工場の生産計画の精度が悪ければ、部品ベンダーの生産活動と実需に大きな齟齬が生じてしまいます。また部品ベンダー側でも、入手した需要情報を生産計画に機敏に反映させる体制ができていなければ、情報が宝の持ち腐れになってしまいます。結果として、VMIとは名ばかりでコック方式同様の下請けイジメに終わっているケースが実際には少なくないようです。(2001/12執筆)