ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年9号
FOCUS
「国益」の視点欠く場当たり的な政策で日本への寄港減少が深刻化

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2002 70 日本港湾の惨状 国土交通省が七月に発表した「海事 レポート」によると、昨年の港湾のコ ンテナ取扱量は、東京が二七七万TE Uで前年比四・四%のマイナス。
横浜 が二四〇万TEU、神戸が二〇三万T EUと、いずれも前年割れしている。
昨年の扱い量を一九九〇年と比較する と東京が一・七倍、横浜が一・五倍と いう計算になる。
これに対してアジア諸国の主要港湾 におけるコンテナ取扱量は急成長して いる。
香港は一八〇〇万TEUで二〇 年前の十二倍強に拡大した。
それに次 ぐシンガポールが一五五二万でやはり 一七倍もの成長を見せている。
また二 〇年前には東京と同じ水準だった釜山 も現在では七九〇万六〇〇〇TEUと、 東京、横浜、神戸の日本の三大港の取 扱量を合わせた規模となっている。
日本の港湾の貨物取扱シェアが八〇 年代半ば以降、減少の一途をたどるの は、ニーズの変化に対応してこなかっ たことが原因だ。
日本の港湾と比べる と他のアジアの主要港は、利用料金が 割安なうえ出入港の手続き簡素化も進 んでいる。
神戸港の関係者は「九五年 の阪神大震災で港湾施設が壊滅したた め、貨物が韓国・釜山に流れた。
しか しそれは一時的な現象ではなかった。
そのまま貨物が戻ってこなくなってし まった」と嘆く。
海運会社のアライアンスが目まぐる しく変わる中、航路の再編で日本に寄 港する海運会社は確実に減少している。
それに比べて釜山は四 〇%増、香港、シンガポ ールはほぼ倍増となって いる。
これらの勝ち組港 湾間の競争も激化してい る。
最近では、ヘビー級 港湾であるシンガポール に、格下のマレーシアが 挑戦状を叩きつけた。
台 湾の海運大手、エバーグリーンも九月にはシンガ ポールからマレーシアに 拠点を移す。
理由は、利 用料がシンガポールより も三〇%低いためだ。
こうした値下げ競争が 続くことで、さらに日本 の割高な料金体系が顕著 になる。
海運会社が日本 に寄港する機会が減少す れば、わが国の屋台骨で あるモノ作りへの影響は 避けられない。
日本の港湾の劣悪なリ ードタイムはそのまま輸送コストとし て、産業界の負担となる。
日本貿易振興会(JETRO)は七 月に発表した「対日アクセス実態調査 報告書」の中で、「日本では、貿易手 続きの電子化について、政府によるグ ランドデザインを欠いたまま、各行政 機関が情報システム化を進めてきたた め、各システムの仕様が異なるなど、 接続の際に不都合が生じている」と苦 言を呈している。
具体的には、法務省入国管理局(書 類提出)、財務省税関(Sea ―NAC CS)、国土交通省港長・地方自治体 港湾管理者(港湾EDI)、厚生労働 省検疫所(書類提出)、総務省消防署 (書類提出)と、行政間の?守秘義務〞 により、情報の一本化ができない。
各 省ともシングルウィンドウ化に向けた FOCUS 日本の港湾インフラ整備の遅れが顕著となり、船舶の寄港の減少に拍車 がかかっている。
日本の行政には体系的にインフラを改善して「国益」を守 ろうという姿勢が見られず、扇千景国土交通相が大臣就任以来掲げる?国 のグランドデザイン〞とは程遠い。
場当たり的な政策にくさびを打たなけれ ば、日本経済全体にも影響をきたすと懸念する声も挙がっている。
「国益」の視点欠く場当たり的な政策で 日本への寄港減少が深刻化 KEY WORD 港湾 18,000 16,000 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 香港 シンガポール 高雄 釜山 神戸 横浜 東京 上海 アジアの主要港湾のコンテナ取扱量推移 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 (千TEU) ※2001年は速報値  出典:Containerisation International Yearbook 2002, Containerisation International March 2002 71 SEPTEMBER 2002 取り組みを打ち出してはいるものの、 完全統合の実現のめどはついていない。
時代錯誤の港湾行政 日本の国土交通省がこのほど発表し た来年度の「重点施策」には、次世代 高規格コンテナターミナルをモデル的 に育成する「スーパー中枢港湾」なる 構想が盛り込まれている。
やみくもに 公共事業を進めてきた過去を反省し、 特定地区に機能拡充のために資金を集 中的に注ぎ込むという狙いだ。
この 「重点施策」には、IT化による「シ ングルウィンドウ化」も盛り込まれて いる。
また国土交通大臣の諮問機関、交通 政策審議会の港湾分科会は、二〇〇三 年度から始まる次期港湾整備長期計画 の作成に向けた中間報告の中で、施設 使用料などの港湾コストを三割低減す る必要があると指摘している。
しかし 当の国土交通省自体、旧運輸省と旧建 設省などが統合したにも関わらず、港 湾問題に関しては港湾局、海事局と複 数の窓口を抱えるなど、「国益」とい う視点を欠いているのが実情だ。
こうした港湾関連の諸問題について、 日通総研の塩畑英成常務は、「日本の 港湾に関して、一度問題点を全て洗い ざらしにしたらどうか。
思いついたよ うに、ある時はハードの整備、またあ る時はソフトの整備と、体系的な改善 がなされておらず、場当たり的 な行政に終始している」と批判 する。
アジアの主要港の発展に大き く水を明けられた日本港湾だが、 このまま再生の見込みはないの か。
塩畑常務は「航空貨物に関 して、フォワーダーが荷主の立 場を敏感に把握するようになっ たことで、息を吹き返した。
港 湾にもそうなる可能性はある」 と期待する。
現実を直視し、現 状を把握することから始めなけ れば、日本の沿岸は、結局、?釣 り堀だらけ〞 になってしまうだ ろう。
( 神谷蝶 ) 日本の港湾がコンテナ取扱量を減す一方で、アジア諸国の港湾は着実 に成長を遂げている 青島港のコンテナヤード 上海・外高橋保税区のコンテナターミナル

購読案内広告案内