ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年9号
ケース
ソニー――SCM

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2002 42 三〇〇〇億円分の在庫を削減 「ソニーは数年おきに在庫問題に悩まされて きた」――。
ソニーイーエムシーエス(ソニ ーEMCS)の田谷善宏取締役はそう明かす。
これまでソニーは店頭の販売量が変動するた び、過剰在庫や販売機会ロスに頭を痛めてき た。
しかし、現在は少し違う。
二〇〇一年三月末に九四二九億円(連結売 上高比十二・九%)あった棚卸資産を、一年 後の二〇〇二年三月末には六七三四億円(同 八・九%)まで急減させた。
他の電機メーカ ー各社が依然として売上比で十二〜一八%の 棚卸資産を持っているのに比べて、圧倒的に 低い水準だ。
なかでもエレクトロニクス事業における在 庫水準の改善が著しい。
二〇〇一年三月期末 に八八〇四億円(六二日分)あった同事業の 在庫を、一年後には五七四二億円(四〇日分) まで減らした。
この分野だけで三〇〇〇億円 分の在庫を圧縮した計算だ。
一時的に生産を 抑えたわけではない。
過去一年間を通じて、ほ ぼ一貫して在庫を減らし続けている。
ソニーはゲーム機や音楽など幅広いビジネ スを手がけているが、中核となるのは何と言 っても総売上高の七割を占めるエレクトロニ クス事業だ。
オーディオやテレビ、パソコン などを扱う同事業の連結売上高は五兆三一○ 四億円(二〇〇二年三月期)に上る。
現在、 同社はこの主戦場を舞台とした、大規模なサ 来年4月に販売情報システムを刷新 パソコン型高回転ビジネスを全面展開 ソニーがエレクトロニクス事業の経営革新 に取り組んでいる。
パソコン事業で確立した 高回転型のビジネスモデルを他の商品にも展 開する。
そのために現在、グループの製販物3 社による大規模なSCMプロジェクトを進め ている。
来年4月には販売系のシステムを全面 的に刷新する。
ソニー ――SCM ラを持ちながら最適化を図ろうというものだ。
しかも通常の製造拠点がM(生産機能)しか 持っていないのに対して、当社の場合はE(設 計)からCS(顧客サービス)までを一体化 して一気通貫でみている。
サプライチェーン 全体のスピードを高めて効率化するという狙 いがある」(ソニーEMCS)という。
EMSと「EMCS構想」の違いは、ソニ ーEMCS発足の経緯にも窺える。
同社の設 立に先駆けてソニーは「ソニー中新田」と「ソ ニー・インダストリーズ・タイワン」の二工 場を米ソレクトロン社に売却している。
この 二工場は、その後もソニーの外部委託先とし て機能しているが、ソニーとしてはグループ 内に保有し続けるべきではないと判断した。
二 工場は規格化の進んだ標準的な製品を作って いる。
そのためソニー以外にも製品を供給で きる体制の方が有利とみなした結果だ。
逆にそれ以外の工場は依然としてグループ 内に抱え込んでいる。
そして、法人として独 立していた各地の工場をソニーEMCSとし て一つの会社に統合。
さらに従来は販売会社 が担ってきたサプライチェーンの管理機能ま で踏み込んで、ソニーEMCSに集約した。
エ レクトロニクス事業のモノ作りを、同社を中 心に全社レベルで再構築するためだ。
過去のソニーは、テレビやオーディオなど の事業部門別に縦割りの組織をとっていた。
親会社が設計する製品を、全国いずれかの製 造事業所で生産し、これを全国各地の販売会 プライチェーン改革に取り組んでいる。
そこで中心的な役割を担っているのが、二 〇〇一年四月に組立系の国内工場十一カ所を 統合して発足したソニーEMCSである。
「E MCS」とは安藤国威ソニー社長の造語で、 「 Engineering, Manufacturing and Customer Service (設計・生産・顧客サービス)」の略 だ。
語感が米ソレクトロン社などのEMS ( Electronics Manufacturing Service: 電子 機器の製造受託サービス)と似ているため誤 解されがちだが、そのアプローチはEMSと はまったく違うという。
「EMSは製造のアウトソーシングを前提と するビジネスモデル。
一方、ソニーが進めて きた『EMCS構想』は、社内に製造インフ 43 SEPTEMBER 2002 社が販売店に卸す。
こうして垂直統合された 組織は、ライバルの松下電器産業の「事業部 制」がそうであったように、家電の市場規模 が右肩上がりで伸びている時代には極めて有 効に機能した。
ところが九〇年代になってエ レクトロニクス市場が成熟期に入ると、ソニ ーグループの中でも縦割り組織の弊害が目立 つようになってきた。
成長分野の製品を扱う部門はネコの手も 借りたいほど忙しいのに、そうでない部門は 労働力を持て余す。
見込みで生産する製品 の在庫が販売レベルでだぶつき、最終的に大 幅な値引きをしなければ売り切ることができ ない――。
しかも、このような状況がソニー 全体として非効率なのが明らかでも、各地の 工場や販社が独立法人として存在していた ため、全体の最適化を図ることが容易ではな かった。
とりわけ深刻な問題を抱えていたのが物流 だった。
ただでさえ立場的に低くみられがち な物流部門は、これまで縦割り組織の最末端 に位置し、ひたすら販売や工場の指示通りに 「戦略とITを合体するのが私の ミッション」というソニーEMC Sの田谷善宏取締役 10,000 9,000 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 7688 7687 7039 6823 8184 9144 9234 7897 8804 (62日) 7837 (59日) 6273 (41日) 5120 (41日) 5742 (40日) 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 1999年 2000年 2001年 02年 ※99年第1四半期〜2001年第4四半期については、ビジネス別セグメントの  区分変更により数値は修正再表示されている エレクトロニクス事業の連結棚卸資産 (億円) するインターネットがその状況を一変させつつあった。
ソニー自身も九六年にインターネ ット接続サービス「So ―net」を開始して おり、これが家庭に普及するのはもはや時間 の問題だった。
そのインターネットへの家庭 からの接続機器としてパソコンは最右翼に位 置していた。
すでにネットワークの持つ可能 性に注目していたソニーにとって、パソコン 事業への参入はいわば必然ともいうべきもの だった。
ただし、これは高いリスクをともなう決断 でもあった。
日本のパソコン市場は当時すで に激しい競争下にあった。
かつて圧倒的なガ リバー企業だったNECを、富士通が猛追。
九六年の出荷台数ベースの国内シェアは、首 位のNECが三四%、二位の富士通が二二%、 三位のIBMが十一%と乱戦状態だった。
さ らにはSCMの先進企業として名高い米デル コンピュータなども攻勢を強めており、メー カー間のシェア争いは激化の一途をたどって いた。
とくに家電量販店や専門店を通じて個人向 けに売られるパソコンの競争が熾烈だった。
も ともと汎用部品を数多く使っているパソコン ビジネスの利幅は薄い。
コスト競争力を高め るためには、出荷数量の確保が絶対条件にな る。
そのため上位メーカー各社は、見込みで 大量生産した製品をこぞって販売店に押し込 んだ。
そして技術革新によって流通在庫が陳 腐化しそうになると、一気に値下げして売り 切るということを繰り返していた。
ハイテク調査会社のIDCジャパンでパソ コンを担当している新行内久美アナリストは、 「(小売店にとって)利益幅の薄いパソコンの 場合、販売店が大幅な値下げをするときには たいていメーカー側も事前に了承している。
最 近でこそ仕切り値を下げるケースが大半だが、 従来は後で小売店にリベートを支払って補填 していた」と説明する。
このような環境下で家庭向けビジネスを 大々的に手掛けている大手メーカーのなかに は、パソコン事業単体で利益を出せる企業は SEPTEMBER 2002 44 動いてきた。
結果として縦割り組織に対応し た物流最適化ばかりが進み、ソニー全体の管 理状況はバラバラになっていた。
このことが 九〇年代半ばから取り組んできたソニーのS CMの進展を阻害し、在庫問題を解消できな い一因にもなっていた。
VAIOモデルが転機に そもそも従来のソニーのビジネスモデルは、 「流通の川下(販社)で在庫を持ち、リスクを 前線で飲み込むというものだった。
そのため、 どうしても需要予測が不正確になり、在庫を さばこうとするあまり値崩れを起こしていた。
消費者に製品を売る販売店が在庫リスクに見 合うだけの粗利を取ることも当たり前になっ ていた」(ソニーEMCSの田谷取締役)。
こうした川下依存のサプライチェーンから 脱却するため、まず九七年四月に販売部門の 統合に踏み切った。
国内各地に八社あった販 売会社と、ソニー本体の営業部門の一部を統 合してソニーマーケティングを発足。
前線の 販売部門を水平統合することで、国内エレク トロニクス事業の販売流通の見直しに着手し た。
そして同じ九七年七月に、「VAIO」の ブランド名でパソコン事業に新規参入したこ とが、その後のソニーのサプライチェーン戦 略を決める大きな転機になった。
当時のパソコンはまだオフィスの効率化機 器というイメージが強かったが、急速に普及 商品開発プラットフォーム 量産設計プラットフォーム 生産プラットフォーム カスタマーサービスプラットフォーム 販売プラットフォーム(販社) ・戦略立案 ・開発 ・商品企画 ・基本設計 ・量産設計 ・製造 ・在庫一元管理 ・Direct Shipping ・Marketing ・Customer Service カンパニー EMCS 販売 ソニーグループが進める組織改革(縦型から横割りへ) 皆無とすら言われていた。
それでもNECや 富士通なら、売れ残ったパソコンを廉価で法 人市場に投入し、利益率の高いシステム開発 などの仕事をとることで帳尻を合わせられる。
しかし家庭向けエレクトロニクス事業をコア とするソニーには、その真似もできない。
しかもパソコンは、それまでにソニーが手 掛けてきたテレビやオーディオとは、まった く商品ライフサイクルの異なる製品だった。
オーディオなどは一年単位で生産や販売を考 えればよかったが、パソコンは技術革新が早 く、わずか三カ月で世代交代してしまう。
パ ソコン事業に参入するには、従来のソニーに は考えられなかったほど高回転で、高効率の ビジネスモデルを実現する必要があった。
POSデータの提供を販売条件に 実際、数々の革新的な試みに挑んだ。
当時 は取締役だった安藤現社長が陣頭指揮をとり、 「ソニーらしさ」という言葉に象徴されるユ ニークな製品作りはもちろん、生産サイドと 販売サイドがチームを組んで、従来の社内の 常識を覆すサプライチェーンの構築に取り組 んだ。
現在、ソニーマーケティング(SMOJ) でビジネスオペレーション企画部の統括部長 を務める嶋田健秀氏も、販売側の中心メンバ ーとしてパソコン事業に尽力した一人だ。
「V AIOを始めるときには、デルの販売管理費 などを徹底的に研究した。
さらに直販の彼ら と違って、我々は販売店に手数料を支払う必要がある。
そこまで考えたうえで、高回転、高 効率のビジネスを実現できれば利益を出せる と見込んだ」と嶋田統括部長は振り返る。
革新的なサプライチェーンを構築するため のポイントは大きく二つあった。
販売会社で あるSMOJは一切、製品在庫を持たない。
販売店からVAIOに関するPOSデータ (販売実績データ)をもらう――。
いずれも従 来から必要性を感じてはいたが、実現できず にいた課題だった。
前述した通り、それまでSMOJが流通在 庫を抱えていたのは、そこで需要変動のリス クを「飲み込む」必要があったからだ。
末端 の消費動向を読めないため、そうせざるを得 なかった。
より正確に言えば、販売店がPO Sデータを見せてくれない以上、タイムリー な需要予測など不可能だった。
従来の商習慣 では、それが当たり前だった。
VAIOの発売に当たって、SMOJはこ の商習慣を変えることに全力を傾けた。
余っ た在庫を売りさばくために値下げを繰り返す ことは、メーカーにとっても、ビジネスパート ナーである販売店にとってもマイナスだ。
製 品を購入する消費者も決して望んではいない。
こうした事態を回避するには、小売りのPO Sデータをメーカーでも共有して、流通在庫 を最小限にする仕組みを一緒に構築するしか ない、という理屈である。
具体的には、販売店と売買契約を締結する ときに交わす書類の中に、VAIOを扱う条 件の一つとして「POSデータの提供」を明 記した。
その条件に納得してもらえないので あれば、売買契約を結ばない、という交渉を 粘り強く続けた。
先行する大手パソコンメー カーが、何とかして取扱数量を増やしてもら おうと?お願い営業〞を繰り返していたなか では異例のアプローチだった。
それだけに当初は苦労もした。
「最初の頃は こちらの言うことを理解してもらえず、『帰れ っ』と断られたこともあった。
だが分かって くれる店も少なくなかった。
とくに先進的な 考え方の持ち主が多いパソコン専門店の社長 さんなどは、『もちろん我々はオープンでいい。
ソニーさん、一緒にお客さんにとって面白い 商品を売っていこうよ』と言ってくれた」と 嶋田統括部長は述懐する。
サプライチェーン上の在庫管理の役割分担 も抜本的に改めた。
SMOJは流通在庫を持 たず、在庫はソニーEMCSが生産工場(長 野県ほか国内数カ所)の隣接倉庫で一元的に 管理する。
既存の中間流通拠点は、商品を行 45 SEPTEMBER 2002 「SLCはサービス会社に脱皮し て欲しい」とソニーマーケティン グの嶋田健秀統括部長 SEPTEMBER 2002 46 き先別に積み替え、マージ作業(パソコン本 体とモニターの合体作業など)を行うだけの クロスドックセンターとして使う。
POSデ ータが入手できれば、いつ荷動きが発生する かを事前に予想できるため、消費地から遠い 工場にしか在庫がなくても十分な対応が可能 だったのである。
週末の販売ピークに合わせて店頭補充 さらに販売店の所有する在庫を削減するた め、店頭への製品補充の方法も工夫した。
従 来は月次ベースだった商談の周期を週次に短 縮。
一週間のうち最も販売数量の多い週末の 状況をみて、次週の出荷台数を決め、一週間 のうち後半にまとめて納入するようにした。
こ れが結果として物流業務の効率化にもつなが った。
こうした新しいビジネスモデルに対する関 係者の理解は、参入から四カ月後の九七年十 一月を境に一気に高まった。
マグネシウム合 金を使った特色のあるノート型パソコンを初 めて発売し、爆発的にヒットしたことでVA IOの知名度が向上したことが大きかった。
小売りサイドの協力が得やすくなり、最終的 に主要量販チェーンのほとんどでVAIOを 扱ってもらえるようになった。
その後のVAIOの急成長ぶりは目を見張 るばかりだ。
毎年のように大幅に販売台数を 伸ばし、参入五年目の二〇〇二年(一月〜十 二月)に全世界で出荷したVAIOは二九四 万台。
単純に計算しても数千億円規模のビジ ネスに成長したことになる。
なかでも国内の 家庭向け市場では一四六万台を出荷して、す でに日本一の座へと登り詰めている。
こうしてVAIOの販売シェアを順調に伸 ばしている間にも、ソニーはビジネスモデル を磨き続けた。
発売から二年くらい経って実 績データと経験が蓄積されると、SMOJは 需要予測のためのシステム構築に本腰を入れ た。
過去の実績に加えて、競合他社の状況や 技術革新の動向を加味しながら、特定の製品 モデルが向こう三カ月間でどのような売れ行 きを示すかを試算できるシステムを自社開発 した。
現在、ソニーが進めているサプライチェー ン改革の根幹には、VAIOで手にした成功 体験がある。
パソコン事業に参入したことに よって初めてソニーはSCMの威力の凄まじ さを実体験したともいえる。
小売店と協業体 制を構築することでPOSデータを入手し、 流通在庫を劇的に減らす。
同時に、ライバル に対するコスト競争力も高める。
このアプロ ーチをエレクトロニクス事業全体に波及させ ようとしている。
物流子会社へのインパクト 親会社のこうした変化は、物流子会社のソ ニーロジスティックス(SLC)にとっては 衝撃的だった。
これまで主にソニーの販売物 流を手掛けてきたSLCは、SMOJの「商 品センター」の運営を担い、ここでの製品保 管と入出庫業務を主要な収入源としてきた。
ところが流通在庫を持たないパソコン事業が 軌道に乗ったことで、「SLCの従来のビジネ スモデルは崩壊してしまった」(ソニーEMC Sの田谷取締役)。
実際、VAIOの売上高 物流費比率は〇・六%と、従来のソニー製品 に較べて大幅に低い。
二〇〇二年三月期にSLCの売上高が四四 二億円と前年より一割近く減ったのも、ソニ ーの在庫削減が進んだ結果だった。
ただSL Cの中山忠久執行役員は「VAIOのビジネ スが始まったときから、いずれこうなること は覚悟していた。
その一方で、VAIOがも たらした良い影響も大きかった」と強調する。
従来、「商品センター」では毎日一五時に 1,600 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 ソニー NEC 富士通 東芝 シャープ 日本市場における家庭向けパソコンの出荷動向 出荷台数(千台) 1997 1998 1999 2000 2001 出典:IDCジャパン 47 SEPTEMBER 2002 受注を締め、それから翌日のトラックを手配 していた。
オーダーが確定するまで物量が分 からないため、常に余力を残して労働力を用 意する必要があった。
これがVAIOでは事 前に物量を把握できるため、トラックの手配 や中間拠点のクロスドック業務を効率よく管 理することができるようになった。
VAIO以前のSLCの仕事の仕方は、荷 主であるSMOJの目には非効率なものに映 っていた。
だがSLCにしてみれば、管理効 率が悪いのにはそれなりの理由があった。
顧 客ごとに伝票が異なる、受注を締めるまで物 量が読めない、波動が大きい――。
SMOJ の営業面に配慮した物流サービスの存在が、 業務効率化のネックになっていた。
こうした状況を変えるため、SLCとSM OJの二社は二〇〇一年四月に共同プロジェ クトを発足して、ロジスティクスの最適化に ついて検討を重ねてきた。
さらに今春からは、 ここにソニーEMCSが加わった。
このとき ソニーEMCSの田谷取締役や、SMOJの 嶋田統括部長などが本格的に参画したことで、 プロジェクトはソニーのサプライチェーンを製造、販売、物流の三社が変革する場へと大き く変質した。
そしてプロジェクトの柱として、 VAIOで培った高回転型ビジネスを他の製 品に展開することが明確に据えられた。
SLCの立場では、改めて「統合ロジステ ィクス改革プロジェクト」と名付けられたこ の取り組みを通じて、遅ればせながら全社レ ベルのサプライチェーン改革に参画した格好 だった。
いまプロジェクトでは、来年四月に ソニーの国内の販売系システムを全面刷新す るための検討を重ねている。
これまでとは異 なる役割を期待されているSLCが使うWM S(Warehouse Management System )に ついても、ゼロから再構築している。
中国に負けないモノ作り 同プロジェクトを通じてソニーは、ロジス ティクスを最上位の概念に据えて、従来は部 門別にバラバラだったサプライチェーンを統 合しようとしている。
「まず国内販売の改革を 行い、これをトリガーにして資材調達の仕組 みを変える。
最終的には日本市場での経験を グローバルに拡大することを目指している。
た だSLCとしては、国内販売の部分をきちっ と担えないようではもはや存在する意味がな い。
このことはSMOJからも、EMCSか らもはっきりと言われている」とSLCの中 山執行役員は表情を引き締める。
ここ数年のソニーは、社内のITインフラ の整備も積極的に進めてきた。
すでに世界中 のソニー製品の在庫を一週間単位で把握で きるようになっており、ソニーEMCSの各 工場は在庫量と販売状況をみながら自ら生 産量をコントロールしている。
在庫管理を可 能な限り流通の川上にシフトし、しかも工場 の在庫を完成品ではなく転用可能な部品で 持つことによって在庫水準を減らそうという 戦略だ。
その成果は、冒頭で紹介した三〇 〇〇億円の在庫削減にあらわれている。
一連のサプライチェーン改革でソニーEM CSの田谷取締役が最も重視しているのは、 従来の「生産計画」ありきのモノ作りを、「調 達計画」ありきに転換することだ。
販売の仕 組みを高度化すれば流通在庫は減るが、販売 機会ロスへの対応には限界がある。
これに対 応するには突発的な購買ニーズに即応できる 戦略的な部品調達が欠かせない。
だからこそ 今年四月に、従来は各地の製造拠点にあった 資材調達機能をソニーEMCSに一元化し た。
いまソニーは、こうした取り組みを通じて 中国に奪われつつあるモノ作りの現場を、日 本国内につなぎ留めようとしている。
そこで 日本流のモノ作りの強みになるのは、知識集 約型に生まれ変わった工場と、これを中心と する効率的なサプライチェーンだ。
ただし、そ のためにはソニーの社内にいまだ根強く残っ ている従来型ビジネスへの執着を打破するこ とが不可欠の条件になる。
(岡山宏之) 「新たなビジネスモデルに対応で きなけれ我々の存在に意味はな い」とソニーロジスティックスの 中山忠久執行役員

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