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SEPTEMBER 2002 48
全国一のアイテム数を誇るネジ卸
「長引く不況で、他社がアイテムを絞り込ん
でくるのに対し、我々は豊富なアイテム数を
武器にしている」と大阪市に本社を置くネジ
卸、サンコーインダストリーの森島伸浩東大
阪物流センター所長はいう。 とくに、ここ数
年は積極的にアイテム数を拡大させている。 過
去二年間は約二万ずつ増やした。
こうして業界最大の品揃えを用意している
のに加え、小口の注文でも大阪市内なら即日、
全国どこでも注文の翌日には納品するという
手厚い物流サービスが売り物だ。 昨年度の売
上高は九四億三〇〇〇万円、経常利益は四億
二〇〇〇万円。 成熟した市場の卸という業態
でありながら手堅く収益を確保している。 ア
イテムを増やしても在庫水準は抑える独自の
在庫管理技術がそれを支えている。
そのために積極的なIT投資を続けてきた。
二〇年前の一九八一年に当時の月商分に当た
る資金を投じて在庫管理システムを開発。 需
要予測の精度を上げることで、約四カ月分あ
った在庫を三年
かけて半分にま
で落とした。 当
時のアイテム数
は約二万。 その
後も在庫管理
を目的としたソ
フト開発やマテ
アイテムを増やしても在庫は抑える
ITを駆使した独自の管理手法を開発
ネジの卸売りという成熟した市場で他社と
の差別化を図るため、積極的なアイテム数の
拡大を行っている。 ただし、在庫の増大は甘
受できない。 仕入部と物流部でそれぞれ独自
の在庫管理方法を開発し、従来の水準を維持
している。
サンコーインダストリー
――在庫管理
サンコーインダストリー東大阪
物流センターの森島伸浩所長
通知する仕組みを開発するなど、顧客サービスの充実を図っている。
全商品を出荷特性で一〇に分類
アイテム拡大方針に対応して、二〇〇〇年
に同社の仕入部では新しい在庫管理方法を開
発した。 それまで仕入部では売上高に対する
シェアをもとに全アイテムをA、B、Cの三
つに分類して管理する一般的なABC分析を
もとに発注を行っていた。 これを改め、アイ
テムごとの出荷傾向まで発注方法に反映させ
る新しい仕組みを作った。
「通常のABC分析では、低回転アイテムの
中に二年以上にわたって注文がないものや、そ
の年度に新たに新規登録した商品なども含ま
れる。 こうした特殊なアイテムの動向を掴む
ことによって、より精度の高い在庫管理を目
指した」と、森敏美仕入部部長は説明する。
全製品をABCの三種類ではなく、S、A、
B、C、D、E、F、G、R、Xランクと計
一〇種類に分類(表1参照)。 それぞれの特
性ごとに発注方法を変えている。 売上シェア
ではAランクには属さなくても、毎月コンス
タントに一〇〇ケース以上の出荷があるアイ
テムはSランクとして、Aと同様に基準在庫
を下回るとシステムが自動的に発注をかける。
それ以外のランクに関しては、各アイテムが
基準在庫を割るとシステムが知らせてくれる
が、実際に発注するかどうかは担当者の判断
に委ねられている。
ハン投資を継続的に実施し、アイテム数が一
五万まで膨らんだ現在も、約二カ月分という
在庫水準を維持している。
精度の高い在庫管理システムは販売力強化
にも役立っている。 全アイテムの在庫をリア
ルタイムで管理することで、納期の問い合わ
せに即答することが可能になっている。 さら
に品切れの場合はファクスで自動的に納期を
49 SEPTEMBER 2002
例えば過去の実績だけ見れば売れ筋ではな
いと判断される商品であっても、新規商品や
特定顧客向け商品の場合には品切れは許され
ない。 そこで「E・今年新規登録した商品」
「F・一年前に新規登録した商品」「G・二年
前に登録した商品」といった形に細かく分類
することで管理精度を高めた。
森部長は「商品の分類には苦労したが、新
しい仕組みができたことで、アイテム別の動
向を細かく把握できるようになり、在庫がコ
ントロールしやすくなった。 全体のアイテム
数が増えた現在も在庫水準を維持できている
のはその成果だ」と胸を張る。
「物流ABC」と「積層ABC」
出荷作業を担う物流部でも、仕入部とはま
た異なる在庫管理方法を独自に工夫すること
で、アイテム増大で複雑化するオペレーショ
ンを効率化している。 同社は十三時までに受
注したものに対して、大阪市内なら即日に納
品することを顧客に約束している。 さらに一
六時(インターネットによる注文は一七時)
までに注文を受けたものは当日中に出荷。 北
海道と沖縄を除けば翌日に納品する。
全出荷量の八五%を処理している同社の
「東大阪物流センター」。 一日平均二〇〇〇か
ら二五〇〇ケースを出荷する同センターでは、
受注から出荷までのリードタイムをいかに短
くするかが、最大テーマの一つとなっている。
そのために社内で「物流ABC」と「積層A
表1 仕入部による「ABC分析」
ランク 売上比率
8.6%
51.1%
18.1%
7.7%
Cより低い
今年新規登録した商品
1年前に新規登録した商品
2年前に新規登録した商品
特定顧客向けの商品
過去2年間注文がない商品
S
A
B
C
D
E
F
G
R
X
出荷実績
毎月100ケース以上売れる
売れ筋商品だがSより出荷頻度が低い
定量的に売れるが出荷量はSやAより少ない
出荷量にばらつきがあるが大量に売れるときがある
少量の出荷量
発注方法
FAXで自動発注
基本在庫を割るとシステム
が知らせてくれるが、発注
は担当者が判断する
基本在庫を割るとシステム
が知らせてくれるが、発注
は担当者が判断する
売れ行きを見て担当者が判断
同じ納品用ケースに詰め合わせる最適なアイテムの組み合わせを自動的に割り出す「容
量計算プログラム」と呼ぶ仕組みを作った。 従
来は、注文のあったアイテムを小箱単位でピ
ッキングした後、作業員が納品先ごとに適当
に段ボールに詰めていた。 これが「容量計算
プログラム」では、異なる大きさの小箱の詰
め合わせ方法をシステムが指示してくれる。
ピッキング作業は納品用ケース・四箱分を
一度に処理する形で設計している。 受注デー
タを元に「容量計算プログラム」が、四枚の
「荷揃え表」と一枚の「ピッキングリスト」を
一単位として発行する。
「荷揃え表」には各ケースに投入する商品の
ロケーション番号や数などが記載されている。
また「ピッキングリスト」には、四枚の「荷
揃え表」にある全アイテムがピッキングの順
番に記載されている。 その通りに処理するこ
とで担当者の動線は、?一筆書き〞かつ最短
距離のムダのないものになる。
ピッキングエリアは三〜六階の複数階に分
かれている。 一つのフロアーでピッキングが
完了する場合には「荷揃え表」にあるバーコ
ードを読んで検品、二階の荷造り梱包フロア
ーで封かんする。 一つのケースに複数階の商
品を同梱する場合は、各階で並行してピッキ
ングを進め、荷造り梱包フロアで一つの段ボ
ール箱にまとめる。
小箱に満たないバラの注文は別に処理する。
バラピッキング用に四八〇〇アイテムを収納
できる回転棚を二台
導入した。 「荷揃え表」のバーコードを
読むことでピッキン
グすべきアイテムが
自動的にランプで示
され、作業者は必要
な数だけ商品を取り出し袋詰めにする。 回転
棚にないアイテムに関しては、ロケーション
番号が示される。
我慢しない作業現場
同社には「機械でできるものは機械を使う」
というモットーがある。 システムに人間が合
わせるのではなく、人間が作業しやすいよう
にシステムを変えてきた。 現場の生の声を反
映させたIT整備に、毎年平均三〇〇〇万円
SEPTEMBER 2002 50
BC」と呼ぶ、二つの在庫管理方法を用いて
いる。
「物流ABC」は出荷量の多い順に全商品
をA、B、Cの三グループに分類したもので、
各商品をどの倉庫に割り振るか判断するため
に使われる。 AとBグループの商品を自動倉
庫にケースごと収納、Cグループは、三カ所
に分散しているパレット立体倉庫に収納して
いる。
もう一つの「積層ABC」。 これは出荷の量
ではなく頻度が高い順にアイテムをA、B、C
に分類したもの。 センターの三階から六階を
占める倉庫フロアーのロケーション管理に反
映させている。
例えば、一月当たりの出荷量が同じAとB
の二つのアイテムがあるとする。 出荷量だけ
で判断すれば、両アイテムは同じロケーショ
ンで管理することになる。 しかし、Aは月に
一回しか注文がないのに対し、かたやBは一
〇回に分けて受注が入る。 この場合、出荷回
数の多いBを、よりピッキングしやすいロケ
ーションに保管すれば、作業者の負担を軽減
することができる。 受注回数の違いによって
適正配置を決めるという切り口を持つことで、
作業の効率化を図っている。
ピッキング作業の効率化投資も進めている。
二〇〇〇年九月に既存のオフコン系の出荷シ
ステムを全廃し、新たにクライアントサーバ
ーシステムを導入した。 ハード、ソフト合わ
せて総額五〇〇〇万円を投入した。
適正配置に工夫を凝らした倉庫フロアー
各アイテムをロケーションナンバーで管理している
を投じている。
「使いにくいシ
ステムは我慢
しない。 新し
く導入したソ
フトでも、使
い勝手が悪け
れば以前のも
のに戻してく
れと、現場の
作業員も平気
で言う」と森
島所長は言う。
身体を九〇
度回転させる
という動作も、
一日に何百回
も繰り返せば
時間と労力の
ロ
ス
に
な
る
。
些細なことで
も、現場の作
業員が楽にな
り作業の効率
化が図れるの
なら、システ
ム投資は惜し
まない。 事実、
さまざまなシ
ステム要求が、
毎日のように各部署の現場から上がってくる
という。
その一つとして二〇〇一年八月には約三〇
〇〇万円をかけて「入荷システム」を稼働さ
せた。 コンピュータの画面上のボタンをクリ
ックするだけで、センターで必要なラベルや
リストを自動発行することができる。 従来、セ
ンターでは実際に商品が届くまで、調達メー
カーから何が入荷されるのか分からなかった。
入荷してからデータを手入力して必要なラベ
ルを発行する必要があった。
入荷システムの導入により、現在は本社か
ら入荷データが入ると同時にJANラベル、
ITFラベル、入庫表(倉庫用と倉庫フロア
ー用の二枚)、注残(注文を受けた時点で在
庫がなかった商品、もしくはピッキングミス
などによって生じる「棚狂い」で引き当てら
れなかった商品)リストを自動発行できるよ
うになった。 「アイテム数が多いため、以前は
商品コードなどの入力ミスが多発していた。 今
は全て自動化されているのでデータミスは皆
無だ」と森島所長は説明する。
今後は、一〇数社ある協力運送会社別の仕
分け作業の自動化を検討している。 この先一、
二年で導入したい意向だ。 どのような商品で
も取り揃えていることを売りに、同社では今
後もアイテム数を増やしていく予定で、森島
所長は「物量が増えてもパンクしないように
今から準備を進めている」と手綱を緩めない。
(夏川朋子)
51 SEPTEMBER 2002
?段ボールごとに
発行される荷揃
え表(左)と4
枚の荷揃え表の
アイテムを一筆
書きでピッキン
グできるピッキ
ングリスト
?4つの段ボールに収まる
アイテムを同時にピッキ
ングする
?ピッキングが終了した時点で
バーコード検品を行う
?2階の荷造り梱包フロアー
センター内の物流フロー
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