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田中真紀子人気の凋落と反比例するように
石原慎太郎に対する期待が昂まっている。 小
泉純一郎はもう一つだが、慎太郎なら本当に
やってくれるのではないかという思いが、彼
を推す人にはあるらしい。 しかし、問題はど
ういう「改革」なのかということだろう。 「改
革」して、さらに悪くなる場合もある。 私は
石原を?日本のルペン〞と断じているが、残
念ながら、そういう論調は少ない。
今年の春には『月刊 石原慎太郎』という
雑誌まで出た。 マガジン・マガジン社の発行
で、編集主幹の福田和也による石原へのロン
グ・インタビューが収められている。 「二〇〇
二年、わが日本国のかたちは石原慎太郎が創
る!」とあるが、彼に「日本国のかたち」を
創られてはたまらない。
?石原幕府で究極のニッポン改革を!〞とい
う頁には、将軍が石原、大老に中曽根康弘、
筆頭老中が小泉純一郎といった面々が顔写真
つきで並んでいる。 大番頭に安倍普三、大目
付が西村真悟、そして、マスコミ奉行が浜田
幸一だから、物騒な人間勢ぞろいである。
「チンケな野党を許さない救国幕藩体制」と
あり、別の頁には?害鳥
あかいからす
図鑑〞として、筑紫
哲也、久米宏、大江健三郎、そして私などが
並べられている。 ペログリカラス知事の田中
康夫とともに、石原幕府になったら排除した
いメンバーなのだろう。 筑紫については、「平
和ボケした若者に媚びたコメントを日々垂れ流して悦に入る、頭毛は白いが脳みそは真っ
赤。 パキスタンの若者に鳴く」という注釈が
つき、私には「評論家目イチャモン科。 政財
界人・文化人などへのデタラメな噛み付きを
?辛口〞と自称するも、実は小心弱腰の鳥畜
生」というそれがついている。 「鳥畜生」とは、
石原を批判する鳥取県知事の片山善博を私が
評価しているので、そのことを皮肉ったつも
りらしい。
北朝鮮の日本人拉致問題をめぐっては、石
原はこんなことを言っている。
「『風とライオン』(一九七五年・コロムビア)
という二十世紀初頭のモロッコを舞台にした
アメリカ映画があるのだけれど、アメリカ人
の母子をリフ族の首長に誘拐されたセオド
ア・ルーズベルトが、その救出のために海軍
を出動させる場面が描かれています。 私はそ
れが国家というものの本質だと思う。 日本に
力がないのかといえば、軍事力も、資金力も、
決して侮られなくてすむくらいの力は持って
いるのに、それを用いる政治指導者に構想力
と知恵、勇気と覚悟がない」
この?持論〞が六月十九日号の『ニューズ
ウィーク日本版』にも載って問題となった。
そこで石原は「北朝鮮に拉致された日本人が
いるが、あなたが首相だったらどうするか」
という問いに答え、こう言っている。
「昔、『風とライオン』という映画があった。
(モロッコのリフ族に)拉致されたアメリカ人
教師を(セオドア・)ルーズベルト米大統領が軍
艦を送って取り戻したという内容だった。 こ
の映画は、国家の国民に対する責任を示して
いる。 私が総理だったら、北朝鮮と戦争して
でも取り戻す。 アメリカがそれに協力してく
れないとしたら、安保条約は意味がなくなる」
石原の発言は勇ましいが、旧満州において
ソ連軍が侵攻して来たら、関東軍が真っ先に
逃げ出し、中国残留孤児が生まれたという歴
史的事実を石原はどう考えるのか。
その発言を中国や韓国から批判されること
については、石原は、
「私の批判というのは、日本の八〇%から九
〇%の人々が共感してくれていると思う」
と自負しているが、まさに、石原待望論の
背景にある日本人の歴史観、戦争観が問われ
なければならないのだろう。
こうした風潮の中で、気鋭のジャーナリス
トの斎藤貴男が、石原に批判的な視点から、
『世界』に「石原慎太郎という問題」を連載し
始めたのは注目される。
佐高信
経済評論家
57 SEPTEMBER 2002
チンピラ右翼の露払いで昂まる石原待望論
問われているのは日本人の歴史観と戦争観
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