ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年9号
特集
物流拠点の潰し方 物流管理の目標は物流をなくすこと

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2002 18 拠点網は制約条件で決まる ――本誌の連載も含めて、これまで一貫して「物流セ ンターなんてないほうがいい」と主張されていますね。
「工場から直接、小売店の店頭まで製品を配送する。
それがサプライチェーンの理想型です。
そうなれば無 駄な物流コストは一切掛かりません。
物流センターが あるためにコストが発生するわけですから、物流セン ターはないほうがいいに決まっています。
しかし通常 は倉庫や物流センターはあって当たり前です。
拠点集 約といっても拠点を減らすだけであり、拠点をなくす ことではない」 ――物流投資には販売支援という側面もあります。
「確かに物流のサービスレベルが上がることで、売 り上げが伸びるという可能性はある。
しかし、物流の サービスレベルと売り上げの相関関係を数値として測 定するのは事実上、不可能です。
やはり物流はコスト として把握すべきです。
発生するコストをどう抑える かというアプローチが基本です。
経営トップは物流に いくらカネを掛けても売り上げ拡大には直結しないこ とを理解しなければいけません」 ――現実には物流センターをすべて無くすことなど不 可能です。
「なぜ実際には物流センターがなくならないのか。
そ れは色々と『制約』があるからです。
工場倉庫に小分 け機能がないとか、営業マンの近くに製品(在庫)を 置いて注文が入ったらすぐに顧客に届けるようにした いとか、そういう制約条件があるから、本来はゼロカ 所のほうがいいのに、物流センターを用意しなければ ならなくなるわけです」 「多くは営業上の制約から物流センターを設けるこ とになります。
ただし、それを実際に何カ所にするか は物流の論理です。
注文を受けてから納品するまでの 時間で決まります。
つまり物流の論理から物流センタ ーの配置を考えていって、その結果として五カ所必要 だというならそれでもいい。
ただし、その場合でも制 約条件そのものがかわってしまったら、また必要な拠 点も変わってくる。
拠点政策とは本来、そういうもの です」 ――そう考えるようになったきっかけは何だったので すか。
「昔からそう考えていました。
私は物流のコンサル タントになって主にメーカー向けの仕事に携わってき ました。
単純にメーカーの立場で物流を考えると、工 場から直接、顧客に届けるやり方が一番安い。
となる と物流拠点は、どう位置付けられるのか。
それは工場 から届けられない、何らかの制約条件があるからだ。
だからやむを得ず物流センターを設けているのだ、と 考えていったのです」 ――実際には、そういう発想で物流センター設置を決 めている企業はほとんど存在しません。
「確かに制約条件から物流センターの数や物流セン ターの機能を決めている企業は実は極めて少ない。
『将 来は販売量が拡大するだろうから、これだけ立派な倉 庫が必要だ』と言い出す物流部長さんがほとんどです。
本来、物流戦略を立案することが仕事であるはずなの に、いかに立派な物流センターを建設するかに一生懸 命になってしまっている」 ――それでは物流部長失格というわけですね。
「私は物流センターを作るな、といっているわけで はありません。
物流部門はサプライチェーン上に介在 する制約条件をできるだけ少なくするように努力しろ と言いたいのです。
生産や販売部門と協議した結果、 どうしても商売をしていくうえで制約条件を外せない 「物流管理の目標は物流をなくすこと」 物流センターはないほうがいい。
ましてや立派な物流セン ターを誇る物流部長など失格だ。
物流センターが必要なのは、 商売上の『制約条件』があるからだ。
制約条件を取り払うこ とこそ、物流管理の原則だ。
情報の共有化によって、それが 可能になる。
日通総合研究所 湯浅和夫常務 Interview 19 SEPTEMBER 2002 特集 ということになってから、初めて物流センターの設置 を検討すべきなんです」 「制約条件がある限り物流センターが必要になるこ とは私も認めます。
しかし、物流センターを用意する ことが、当たり前だという視点に立ってはならない。
物流センターはないほうがいいという発想で物流全体 を考えるのと、初めから物流センターありきで考える のとでは、その後の行動が全く違ってくる。
当然、得 られる効果も違う」 在庫を自然に減らす方法 ――そう説明して企業は納得してくれるものですか? 「話は理解してもらえるし、その通りにプロジェク トを進めようとする企業もある。
しかし、いざ物流セ ンターを建設する段階となると、自分たちの主張を曲 げてしまう。
営業など他部門からの物流センターに関 する要求が段々とエスカレートして、当初は予定して いなかった余計な機能まで加える羽目になってしまう。
そんな話をよく耳にします」 「残念ながら、まだまだ社内における物流部門の発 言力は弱い。
経営層や他の部門、例えば営業部門が 物流に関して間違った方向に進もうとしていても、そ れに反論できない。
自己防衛本能が働いてしまって、 物流部門は自分たちの主張を押し切れないでいる」 ――物流管理の戦略は、やはり他部門を巻き込んで練 るべきなのでしょうか。
「もちろん他部門を巻き込むのは結構なのですが、他 部門は結局は自分たちの問題ではないから『分かりま せん』と言われるだけです。
物流センターで発生する コストが自分たちの部門に割り振られるとなれば真剣 に考えるのでしょうが、そうなっていなければ『俺た ちは関係ないよ』という話になって、前向きな発言な ど出てこない」 ――うまくやっている物流部とは? 「例えば在庫を減らすには、作り方を変える必要が あります。
しかし在庫削減のために物流部門が工場で の作り方まで口を挟まなければいけないというわけで はありません。
口を挟んでもそう簡単には聞いてくれ ない。
それよりも工場倉庫にできるだけ在庫を置いて おくような状況を作る。
工場倉庫に在庫が毎月、立て 込んでしまうような状況を作るのです」 「そのために工場サイドが勝手にモノを物流センタ ーに入れてくるようなルールは廃止しようと私は提唱 しています。
物流センター側が工場に製品を取りに行 くかたちにする。
しかも製品が必要になるまでは取り に行かない。
そうすることで、工場倉庫はいっぱいに なる。
必然的に生産できない状況を作り出してしまう。
そうすれば無駄な在庫は自然となくなります」 「もう一つの物流センターから顧客に流れる対営業 の部分についてはABC(活動基準原価計算)を活用する。
物流コストを営業に提示して、『その条件で あれば赤字になりますけどいいですか』と、問い合わ せるのです。
それでもいいというなら出荷すればいい。
それは営業部門の責任です」 ――賢いやり方だとは思いますが、それを具体化にす るために物流部門には何が必要なのでしょう。
何が欠 けているのか。
「理論武装とデータによる裏付けです。
具体的には ABCによるコスト把握や、在庫管理手法の理論を 数字に落とし込む能力が必要です。
それがキチンとで きている物流部は希です。
しかし本当にやる気になれ ば、データによる裏付けはそんなに難しいことではあ りません」 「これまでは全国の出荷データをリアルタイムに把 SEPTEMBER 2002 20 握できなかったから、見込みの数字をつかって在庫管 理をしなければなりませんでしたが、今は違う。
IT を使えば、いつでも情報は入手できます。
それだけ在 庫を管理しやすい環境になったと言えます。
21 世紀に なって、ようやく本当の物流管理が始まったのだと私 は考えています」 パートナー間の主導権争いは不毛 ――現在はメーカー〜小売り間に何段階もの中間物 流拠点があります。
マクロ的には、これを一カ所にし た時にコストは最小化するという試算が出ています。
その時には誰がそのセンターを持つべきなのでしょう か。
「工場に小分け機能を持った物流センターがあれば いいのだけれど、実際には工場のスペースは限られて いる。
そのため工場と小売りの間に一カ所だけセンタ ーを置く必要が出てきます。
その中間拠点を運営する のは誰であっても構いません。
上手くできるものがや ればいいだけの話です。
むしろ議論すべきは中間拠点 のコスト負担をどうするかという問題です」 ――これまで日本の物流ネットワークは基本的にメー カーが作ってきました。
それが今は小売り主導にシフ トしようとしている。
メーカー主導は間違いだったの でしょうか。
「いいえ。
小売店の店頭に並んでいる商品はメーカ ーが生産したものなのだから、メーカーが店頭までの 責任を負うことを間違いだとは思いません。
むしろ、 小売りとの間に卸が入ることでメーカーに市場の動き が見えなくなってしまったことのほうが問題です。
や はりメーカーは自分でサプライチェーンをコントロー ルすべきなのです。
ただし川上に立つメーカーは小売 りの数だけサプライチェーンを用意しなければならな いという宿命を負っています」 ――だからこそ卸が必要なのでは。
「そう思うのが当然ですが、実はそうはならない。
小 売店が一〇〇〇店あっても一〇〇〇通りのサプライチ ェーンがあるわけではありません。
例えば複数のコン ビニでも同じ仕組みであるなら、一緒のトラックで運 べばいい。
そうなれば一つのサプライチェーンで済む」 ――小売り側がそれを許さないでしょう。
「基本的に物流は作ったモノが消費される場所に届 けられればそれでいいわけです。
もともと営業部門に は自分たちのセンターがどこにあるかなんて何の関係 もない話です。
きちんと時間通りに荷物が顧客に届い てさえいれば、どんな場所にセンターを置こうが営業 的には構わない」 「顧客サイドの物流担当者が物流センターのプロジ ェクトに加わり、指示するのもナンセンスです。
顧客 は納品条件さえ守れば、どんな機能のセンターから出 荷しようが影響はない。
小売り側にとっては店舗の納 品時間だけが問題なのであって、小売りが車両の積載 効率などを考える必要などまったくない」 自社物件が新たな制約条件を招く ――物流の効率化や上手く運営できるからというので はなく、土地資産があるから物流センターを建設する という企業も少なくないようです。
「確かに昔はその傾向が強かった。
物流センターの 機能そのものよりも土地を抑えることに重点が置かれ ていた時期がありました。
特にバブルの頃はそうでし た。
資金が潤沢だったので自社物件として物流センタ ーを建設するケースが相次ぎました」 「当時は地価の高騰が見込めたので、自社で物流セ ンターを持とうという意識が働いたのでしょう。
しか 21 SEPTEMBER 2002 し、それは物流戦略という視点からすると大きな間違 いです。
自社物件としての物流センターは固定設備に なりますから、それだけで物流の制約条件の一つにな ってしまいます。
自社でセンターを構えることは自ら 制約条件を作り出しているようなものなのです」 「自社物件で地価が下落すると含み損が発生して売 却できなくなってしまう。
そのため本当は物流センタ ーの立地を見直したいと思っていても、無理して既存 のセンターを使用するという最悪の事態に陥る可能性 があります。
実際に今そういう企業が非常に多い」 「要らなくなった物流センターは潰してしまうしか ありません。
それを何とか活用しようとするから、お かしなことになる。
本来、必要のない機能なのに、売 却できないからといって使用し続けるのは本末転倒で す。
遊休施設がでたときの判断は経営マターであって 物流部門の責任ではありません」 ――しかし、物流センターを外注化する場合には貸す 側と一五年から二〇年という長期契約を結ばなければ なりません。
それならば土地が手に入る分、自社物件 のほうがいいという判断もあり得るのでは。
「そんなことはありません。
外注化したほうがいいに 決まっている。
自社で物件を持とうとする経営トップ に対して『後で苦労しますよ』と助言することこそ、 物流部門の役割です。
物流センターは必要だけど、こ れを自社物件で持つよりも外注化したほうがコストを 変動費化できて安く済みますと提案するべきです」 「何も考えずに経営トップが投資に対してゴーサイ ンを出して、物流センターを立ち上げる。
稼働してか らセンターがまったく機能しなくて物流部門が頭を抱 え込んでしまっている。
そんなケースは珍しくありま せん」 「そもそも一〇年、二〇年後には顧客層がこう変化 するだろうから、こういうセンターが必要だと試算で きる能力を持っている物流部門などありません。
経営 環境が、この先どう変わっていくかなどということは 誰にも分からない。
物流部門に限らず、営業部門にだ って分からない。
物流センターを用意した時点での顧 客が一〇年先も顧客であるという保証はどこにもあり ません。
だからこそ、物流センターのあり方はギリギ リまで柔軟度を保てるようなところに落ち着かせるし かない」 情報共有化が物流をなくす ――土地の需給が緩んできたことで、新設センターで も最近では三〜五年という短期の賃借契約が可能に なってきたようです。
「利用する側としては短いほうがいい。
しかし、貸 す側としては、その企業でしか使えないような専用的 な仕組みを入れなければならないとなると、長期契約 しないと採算が合わない。
この問題を解消するために、専用センターという意識を捨ててセンターを汎用化す べきです」 「実際、それが可能になっている。
例えば顧客から 注文をとらないで納品するということになると、何時 までに仕分けを終わらせて何時までに納品するという 制約条件が解消される。
そうやって制約条件をなくす ことこそ物流部門の仕事です。
それには情報の共有化 が必要です」 「これまではメーカー、問屋、小売りが、それぞれ 受発注で情報を結んでいた。
そのために受注と納品が 企業間で繰り返されていた。
そこには情報を互いに共 有するという発想がなかった。
しかし、情報が共有さ れると、受発注と納品で連結する必要はなくなる。
そ れだけ大きく今日の物流は変化しているのです」 特集

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