ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2002年10号
特集
郵政 VS 宅配業者 信書便20年戦争の暗闘

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2002 12 信書便20年戦争の暗闘 「何人も、他人の信書の送達を業としてはならない」――。
昭 和22年に制定された郵便法第5条によって、日本では郵便事業 を国が独占してきた。
しかし、この条文にある「信書」とは何 を指すのか。
その解釈を巡って郵政省(現総務省)とヤマト運 輸は過去20年近くにわたる暗闘を繰り広げてきた。
「東京地検特捜部は、郵便事業への民間参入を認める 郵政関連法案の成立に絡み、小泉純一郎首相周辺と、 参入を目論んでいたヤマト運輸との間に多額の資金の 授受があったとの見方を固め、首相の実弟、小泉正 也から事情聴取を開始した」 そんな書き出しで始まる怪文書が政界やマスコミ関 係者の間に出回っている。
ヤマトが正也氏を通じて、 首相就任の祝い金として二〇〇〇万円を小泉事務所 に献金。
首相側ではそれを政治資金として届け出処 理していないことから、政治資金規制法違反の疑いが 強いとして、地検が正也氏に対して数回にわたる事情 聴取を行ったという内容だ。
同怪文書には、地検の取り調べに対する正也氏の 生々しい供述の様子と合わせて、ヤマトが今春に郵便 市場への参入を見送ると発表した理由についても、首 相周辺への一連の資金提供が郵政関連法案との関わ りのなかで取り沙汰された場合に、受託収賄に直結し てしまうと判断したからだと解説されている。
かねてからヤマトは郵政民営化を持論とする小泉首 相とは蜜月関係にあった。
実際、首相就任前には同 社の労組大会などに本人自らが何度もかけつけている。
メール便の合法性を巡る一連の信書便論争では、小 泉首相が民主党の松沢成文代議士との共著で出版し た「郵政民営化論」のDMを「クロネコメール便」で 郵政関係者らに送りつけるといった挑発行為に出るな ど、両者が盟友の関係にあったのは事実だ。
しかし一部週刊誌でも報じられたように、今回の怪 文書について関係者は皆、その事実性をハッキリと否 定している。
地検が事情聴取に動いたという確認もと れていない。
そのため周囲の関心は怪文書の中身から、 徐々にその出所へと移っている。
小泉首相とヤマトを 陥れることで得をするものは誰か。
そんな発想から郵 政事業庁を抱える総務省内部の関与が、まことしやか に囁かれているという状態だ。
それが満更あり得ない話には聞こえないほど、これ まで郵政はヤマトに対して陰湿な圧力をかけ続けてき た。
最初は「添え状」だった。
宅配便に同封された贈 り物の挨拶文などの添え状が、郵便法第五条で民間 業者による輸送を禁じた「信書」に該当するとして、 郵政監察局がヤマトに対して警告書を送りつけたのだ。
一九八四年のことだ。
この「添え状」ついては後に法律が改定され、郵便 法第五条に「但し、貨物に添付する無封の添状又は 送状は、この限りではない」という一文が加えられる ことで、宅配業者による送達が公に認められた。
とこ ろが九三年に入って、今度はクレジットカードの配送 を巡って、再び本格的な信書論争が起こった。
法廷論争を避けた郵政 鹿児島地区の商店街の専用クレジットカードの配 送を開始した九州ヤマト運輸に対して、郵政は「カー ドは信書に当たる」と警告。
これに反発したヤマト側 は「カードは貨物であり、信書には当たらない」とい う旨の意見書を提出。
信書の定義を巡って官民が衝 突した。
この論争の最中にあった九五年三月当時、ヤマト 運輸の小倉昌男会長(現ヤマト福祉財団理事長)は 「向こうから郵便法違反だというから、こっちはとん でもない、違法じゃないと、大学教授の意見書を付け て反論した。
今度は向こうの番。
処罰してくるのを待 っているところです。
処罰してきたら裁判になる」と 意気込んでいた。
ところが事態は思わぬ展開をする。
ヤマトは「セキ ュリティ・パッケージ」と名付けたカード宅配サービ 第1部 13 OCTOBER 2002 特集 郵 政 VS 宅 配 業 者 二四日に成立した同法案によって、「信書」の配達は 条件付きで民間にも開放されることが決まった。
しか し、今のところ一般信書便市場への参入を表明した 宅配業者は一社もない。
新法で「信書」の定義は棚上げに 従来の信書論争は郵便法第五条に記載された信書 の定義が論点だった。
そこで焦点となっていたクレジ ットカードやDMが信書ではないと判定されれば、宅 配業者は郵便法に縛られずに事業を展開できるように なる。
しかし新たに成立した信書便法では市場参入の 許可を含めた監督権が総務省に委ねられている。
つまり形式上、民間の参入を認める代わりに、信書 の定義については棚上げし、実際にどこまで民間にや らせるのかを、総務省の胸先三寸で決められる体制に なったのだ。
同法に基づいて、郵便市場に参入した民 間の宅配業者は、信書の定義を議論するまでもなく、 既存事業のすべてを総務省の管轄下で運営しなければならなくなる。
それを懸念して同法案の内容が報じられた今年四 月下旬、いち早く佐川急便は信書便法にもとづく市 場参入を見送ることを発表した。
その翌日にはヤマト 運輸の有富慶二社長も緊急記者会見を開催。
「民間企 業を官業化する法案だ」と批判し、参入しない方針を 明らかにした。
郵政は独占市場の開放という「名」を譲って、参入 なしという「実」をとった格好だ。
この顛末に関して 本来、宅配業者の監督官庁であるはずの国土交通省 は完全にカヤの外に置かれている。
しかしヤマトをは じめとする民間の宅配業者は諦めたわけではない。
そ れどころか、総務省が用意した土俵には乗らずに、独 自のアプローチで市場参入を目論んでいる。
スの料金を全国一律最低三五〇円に設定していた。
当 時の書留郵便の大口割引に比べて一割程度安かった。
これに対して同年五月、郵政はヤマトの反論に対する アクションを起こさないまま、「セキュリティ・パッ ケージ」より一〇〇円安い料金で、書留に代わる新サ ービス「配達記録郵便」を発売したのだ。
それまで「セキュリティ・パッケージ」を利用して いた荷主企業は一斉に「配達記録郵便」に乗り換え ていった。
「セキュリティ・パッケージ」が商品とし て陳腐化したことで結局、信書の定義については何も 論議されないままクレジットカード論争は立ち消えと なった。
九九年には、まだ記憶に新しい「地域振興券」がや り玉に上がる。
この時、ヤマトは全国二〇以上の地方 自治体から延べ約一七〇万通の振興券の配達を依頼 されていた。
このケースで郵政は、ヤマトを直接標的 にするのではなく、顧客となっている地方自治体に、 郵便法違反をちらつかせて圧力をかけた。
このやり方に猛反発したヤマトは営業妨害で郵政省 を公正取引委員会に告発。
公取はこれを受理した。
し かし、公取は「信書」の定義が不明瞭であることも認 めながらも、信書の解釈権は法律上、郵政側にあるた め、今回の振興券の扱いも不公正な取引とはいえない として訴えを退けた。
こうして過去二〇年近くにわたり、郵政とヤマトと の間で「信書」の定義を巡る暗闘が繰り広げられてき た。
しかし、「信書」とは何なのか、なぜ「信書」の 配達を国が独占しなければならないのか、という本質 的な問題が官民の間で正面から議論されることは一度 としてなかった。
そこに今年、突如として「信書便法」という新たな 網がかけられた。
郵政公社関連法案の一つとして七月 小泉純一郎・松沢成文の共著『郵政民営化論』のチラシ。
写真左は「非信書」、右は「信書」と判定された 非信書信 書

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