ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年10号
特集
郵政 VS 宅配業者 大口ユーザーの郵便活用術

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2002 22 物流センターの中の郵便局 「この床の色が変わっているところから先が郵便局 のエリアです」――。
通信教育最大手のベネッセコー ポレーションの物流センターの中には、郵便局が所有 する大規模な自動仕分け機が据え付けられている。
こ の仕分け機に、同じ建物のなかでベネッセが封入した 教材がコンベヤで絶え間なく送り込まれてくる。
一九九一年にベネッセが岡山県邑久郡長船町に稼 働した「ベネッセロジスティクスセンター」(BLセ ンター:延べ床面積約一万六〇〇〇平方メートル)は、 民間企業の物流センターと郵便局を、日本で始めて 融合したユニークな施設として知られる。
物流センタ ーには「岡山中央郵便局長船分室」が入居していて、 外部の利用者に対しても郵便の窓口業務を提供して いる。
そして郵便窓口の背後には、郵便局が投資した 自動仕分け機と自動倉庫が設置されている。
施設内ではベネッセと郵便局の機能は完全に一体 化している。
だが契約上の両者の役割分担は明確だ。
郵便局はセンター内に約三九〇〇平方メートルのスペ ースをベネッセから借りて、ここに自ら投資してマテ ハンを設置している。
年間約七二〇〇万円の賃貸料 も支払っている。
このセンターからベネッセは、年間四〇〇〇万通近 い教材を郵便と宅配便で全国の会員向けに発送して いる。
現在の会員数は約四〇〇万人。
幼児向けから 高校生までをカバーしており、同じ学年の会員向けで も一人ずつ教材のセット内容を変えるきめ細かいサー ビスを強みとしている。
この膨大で複雑な教材のセッ ト作業と発送を担うのが、BLセンターの役割だ。
センターが建てられている約二〇万平方メートルの 工業団地のなかには、ベネッセと取り引きのある印刷 会社や製本会社などが数多く進出している。
ベネッセ が企画・編集する教材を、BLセンターに隣接する協 力業者が製作し必要に応じて納品する。
これをセンタ ー内でベネッセがセットし、そのままコンベヤで郵便 局に引き渡す。
あとは郵便局が自ら投資して設置した 自動倉庫で、着日別、エリア別に発送日を調整しな がら全国に発送する。
合理的なサプライチェーンと言 えるだろう。
会員に教材を届ける日付は原則として決まっている。
毎月一日の必着が一六〇万人、二〇日必着が四〇万 人、二五日必着が二〇〇万人とかなり集中している。
物流センターでの作業スケジュールは、常に会員への 着日から逆算して組む必要がある。
地域によって配送 リードタイムは異なるため、およそ一週間前に郵便局 に教材を引き渡している。
あとは郵便局が、到着日に 応じて出荷時期まで調整する。
創業以来、ベネッセは第三種郵便を使って教材を 発送してきた。
当初は物量も少なく、両者の関係は、 ベネッセが封入した発送物を郵便局が集荷するという 一般的なものでしかなかった。
ところが八〇年代末に ベネッセの業績が急拡大したことで、それが変化して いった。
至れり尽くせりの郵便サービス ベネッセの会員数は八七年に初めて一〇〇万人を 突破し、九〇年には二〇〇万人に達した。
しかも従 来は書類しか送れなかった第三種郵便の基準が緩和 されたため、ビデオなどを送ることが可能になった。
その結果、ベネッセが発送する教材の物量は、会員数 の伸び以上に爆発的に増えた。
この物量の急増に対応するため、ベネッセは長船町 に新たに大規模物流センター(現BLセンター)を構 大口ユーザーの郵便活用術 かつて書類を廉価で全国に大量配布できる手段は郵便しか なかった。
しかし、この状況は90年代半ばの民間事業者の参 入で激変した。
従来の郵便の大口ユーザーたちは、ベネッセ のように郵便局との結びつきをより強固にする企業と、日経 BP社のように新たに民間事業者とインフラ構築を進める企 業に二極化している。
第5部 23 OCTOBER 2002 めだけに、自動仕分け機(二八分岐)、自動倉庫(約 二〇〇〇パレット収納)、自動搬送台車(約一〇台) に投資している。
具体的な投資額について岡山中央 郵便局の監督組織である中国郵政局は、「機器業者と の契約書の保存期間である五年を経過しているため分 からない」というが、最低でも十億円規模の投資が発 生したはずだ。
郵便事業を揺さぶる民間業者 全国あまねく公平に、誰に対しても同じ条件でサー ビスを提供します――。
これは郵便局が掲げているポ リシーだが、実際のサービス価格の設定は大口ユーザ ーに対する優遇色が強い。
とくに二〇〇一年三月に 実施された郵便料金の減額制度の変更が、ベネッセな どの大口ユーザーに与えた影響は大きかった。
このとき総務省は、第三種郵便物と小包郵便物の 減額制度を改定した。
なかでも冊子小包郵便について は、それまで一〇〇〇通以上発送する場合という区分しかなかったところに、一万通以上発送という大口 ユーザー向けの料金体系を新たに設置。
さらに大量発 送の割引率を大幅に改訂した(次ページ表)。
この制度変更はベネッセに大きなコストメリットを もたらした。
しかも料金改定では、冊子小包の大口利 用者だけを対象に、「五〇〇〜六〇〇グラム」という 重量区分も新設された。
ベネッセの教材は五〇〇グラ ムから一キロの間で、平均すると六五〇グラム程度に なる。
新設された重量区分が、ちょうど同社の教材の 重量帯と重なっていることになる。
実際、同社の二〇〇二年三月期の有価証券報告書 によると、売上高が微増にもかかわらず、ベネッセの 「運賃通信費」は一六三億円と前年より一六億円近く 減っている。
ベネッセSCM推進室の山下穣アシスタ 特集 郵 政 VS 宅 配 業 者 築することを計画した。
このとき、かねて付き合いの あった岡山中央郵便局から、物流センター内に郵便 局を設置するという提案を受けた。
郵便局としては、 従来のようにわざわざ大量の発送物を持ち帰って処理 するより、その場で仕分けた方が効率がいいという判 断があったようだ。
郵便局の提案はベネッセにとっても渡りに船だった。
早速、計画中だった物流センターの設計を変更して郵 便局のためのスペースを確保。
そこに郵便局が自動仕 分け機や自動倉庫を導入した。
こうして九一年にB Lセンターが稼働したときから、冒頭で紹介した官民 共同のユニークな取り組みがスタートした。
その後もベネッセの会員数は伸び続け、九四年に三 〇〇万人を突破、九八年には四〇〇万人に達した。
B Lセンターから発送する郵便物の量もうなぎ登りに増 え続けた。
そのためベネッセは九七年にBLセンター の隣接地に、約四六億円を投じて第二BLセンター を新設。
ここで発生する荷物についても、コンベヤで BLセンター内の郵便局に送り込む仕組みを構築した。
こうした物量の急増は、物流センターへの入居を提 案した郵便局の読みが見事に当たった格好だった。
現 在ではベネッセはダイレクトメールと冊子小包を合わ せて郵便局に年間二〇〇億円を支払う、全国でも指 折りの大口ユーザーになっている。
もっとも、ベネッセに対する郵便局の手厚いサービ スは、郵便法で定められているユニバーサルサービス の理念を逸脱している可能性が高い。
そもそもBLセ ンター内に入居している岡山中央郵便局長船分室で は、郵便貯金以外の一般利用者向けの窓口業務も手 がけているが、実質的にはベネッセの専用センターと 言っていい。
実際、BLセンターでは、郵政当局がベネッセのた ↑岡山県邑久郡長船町のベネッセロジステ ィクスセンター(投資額約46億円) ←BLセンターのなかに郵便局の投資で 設置された自動仕分け機 ←「岡山中央郵便局長船分室」では住人 のために窓口業務も手掛けている 入荷される教材を自動倉庫に格納する 単純な封入作業は人手を中心に処理 複雑な組み合わせの封入は機械を利用 ピッキングを終えた教材を自動封入 OCTOBER 2002 24 ントマネージャーは、「第三種から冊子小包に切り換 えたことに加えて、企画そのものにもメスを入れたこ とが大きかった」と説明する。
総務省がこうした料金改定を進めてきた背景には、 激化する民間事業者との競争がある。
九〇年代に入 って民間の宅配業者がメール便を開始してからの郵便 事業は、それ以前のように小包だけでなく、封書や冊 子についても民間事業者と激しく顧客を奪い合う競 争状態に入っている。
九二年から九五年まで約三年間、郵政省とヤマト 運輸との間で続いたクレジットカード配送を巡るつば ぜり合いは、その象徴的なできごとだった。
本特集1 部にもあるように、宅急便の全国ネットワークの構築 を進めていたヤマトは、次なるステップとして郵便事 業への参入を虎視眈々と狙っていた。
なかでも有望な マーケットとして見据えていたのが、企業や団体から 大量に発送されるDMや雑誌の配送だった。
九州で 開始したカード配送も、こうした営業戦略の延長線上 に位置するものだった。
九州ヤマトの取り組みは、カード業界でも大きな話 題を呼んだ。
クレジットカード大手、日本信販の三谷 滋生センター統括部長は、「法的に問題はないのか、ど の程度の信頼度を得られるのか。
それさえ納得できれ ば、利用したいと考えたカード会社は多かったはずだ」 と明かす。
お手並み拝見とばかりにユーザーや物流事業者が見 守るなかで、ヤマトは着実に実績を積み上げた。
そし て九三年一〇月のカードの切替時期には、一五万通 のカードを運び存在感を見せつけた。
ヤマトにとっては、九四年四月に実施された郵便料 金の大幅値上げの時期と重なったことも幸いした。
そ れまでカード会社が利用していた簡易書留は一通当た り三一二円から四三〇円に引き上げられ、年間数百 万枚のカードを発送する大手カード会社にとっては大 きな負担増になっていた。
これを契機にヤマトの利用 を検討するカード会社が急増した。
このときの営業合戦が郵政省とヤマトの信書論争に 発展することになるのだが、ユーザーであるカード会 社にとっては、「正直いってカードが信書かどうかは、 どうでもいい話だった。
きちっと処理してくれるので さえあれば、やはり問題はコストだった」(日本信販 の三谷部長)。
このため九五年夏にヤマトが一律三五 〇円でカード配送を正式に商品化すると、多くのユー ザーが簡易書留からの乗り換えを検討しはじめた。
しかし、郵政省の対応も早かった。
ヤマトの商品発 売から間もない九五年十一月に「配達記録郵便」を スタートした。
簡易書留から損害賠償保険を外したこ の新サービスの料金は二五〇円で、割引条件を活用 できる大口ユーザーにとっては事実上の大幅な値下げ だった。
従来から簡易保険に付随していた損害補償をほと んど利用してこなかった大手カード会社にとっては、 歓迎すべき条件だった。
結局、ヤマトへの乗り換えを 検討していた大口ユーザーの多くが配達記録郵便に切 り替わり、カード配送を巡るヤマトと郵政省のつばぜ り合いは自然消滅してしまった。
日経BPが育てたメール便 九四年の郵便料金の値上げは、第三種郵便のユー ザーにも同じような波紋を広げた。
『日経ビジネス』な どの雑誌を発行する日経BP社は、一九六九年の創 業以来ずっと第三種郵便で雑誌を送ってきた。
八一 年に第三種郵便が値上げされたときには、数億円のコ スト増に苦渋をなめる経験もした。
このため九四年四 ◆郵政省(現総務省)が2001年3月に実施した大口利用者向けの「冊子小包郵便」の値下げ 2001年2月以前 基本料金 あて先/重量 全国均一(円) 〜150g 180 〜200g 210 〜250g 240 〜500g 310 〜750g 340 〜1kg 380 ‥‥3kgまで ‥‥¥660まで 特別料金(同時に1,000個以上で郵便区番号ごとの区分などの条件を満たして差し出すケース) あて先/重量 配達局(円) 都道府県内(〃) その他(〃) 〜150g 115 130 140 〜200g 125 140 150 〜250g 135 150 165 〜300g 140 155 170 〜350g 145 160 180 〜500g 165 180 205 〜750g 200 215 245 〜1kg 230 250 285 ‥‥3kgまで ‥‥425まで ‥‥450まで ‥‥525まで ※割引率:月間200万個以上を差し出す場合の最高割引率は上記特別料金から16%off 2001年3月以降 【変更のポイント:特別料金に「重量500〜600g」と「同時に10,000個以上」のケースを新設】 基本料金(変更なし) あて先/重量 全国均一(円) 〜150g 180 〜200g 210 〜250g 240 〜500g 310 〜750g 340 〜1kg 380 ‥‥3kgまで ‥‥¥660まで 特別料金(同時に10,000個以上で郵便区番号ごとの区分などの条件を満たして差し出すケース) あて先/重量 配達局(円) 都道府県内(〃) その他(〃) 〜150g 95 100 110 〜200g 100 105 115 〜250g 105 110 120 〜300g 110 115 125 〜350g 120 125 135 〜500g 135 140 150 〜750g 165 170 185 〜1kg 190 200 215 ‥‥3kgまで ‥‥340まで ‥‥360まで ‥‥420まで ◆クレジットカード配送を巡る動き 九州ヤマト運輸が鹿児島市内 の商店街でカード配送を開始 同上 (カードの切換期に約15万通 を配送:年間配送件数は約17 万通) 郵政省が郵便料金を値上げ (定型80円の簡易書留が 312円から430円へ) 「カードは信書」として郵政省 が郵便法違反でヤマトに警告 ヤマト運輸がカード配送を「セ キュリティ・パッケージ」として 350円で発売 郵政省が「配達記録郵便」を 開始。
大口割引を適用すれば 250円と割安だったため徐々 に顧客はヤマトから離脱 ※割引率:月間200万個以上を差し出す場合の最高割引率は上記特別料金から27.5%off 〜600g 145 150 160 92年12月〜 93年10月 94年4月 94年7月 95年秋 95年11月 25 OCTOBER 2002 月の大幅値上げが避けられないことを察知すると、約 一年ほど前から民間の宅配業者への相談を持ちかけ 始めていた。
「郵便局というのは累積赤字が溜まると値上げをす る。
それでいったんは利益が出るようになっても、ま た収益が悪化すれば値上げをする。
将来も同じことを 繰り返すに違いないと思った」と日経BPの上内義治 取締役は振り返る。
しかし、声を掛けた民間業者の反応は芳しくなかっ た。
全国配送網を持っている事業者がほとんどいなか ったうえ、第三種郵便と同等の料金でサービスを提供 できる事業者となると選択肢は限られていた。
すでに 当時、年間三二〇〇万冊の雑誌を発送していた日経 BPの雑誌の平均重量は約四〇〇グラム。
第三種郵 便の値上げ前には一冊当たり七六円で送っていた計 算になる。
たとえ若干の値上げが許されるとしても、 民間業者には厳しい料金水準だった。
次々と宅配業者がギブアップしていくなかで、ヤマ トだけがこの話に食らいついてきた。
郵便事業への本 格参入を模索していたヤマトにとっては、またとない 話だった。
結局、両社の経営トップが合意したことで、 九四年四月に正式に契約を交わした。
日経BPは同年六月から雑誌ごとに第三種からヤ マトへの移行をスタートし、約四カ月間をかけてほぼ すべての雑誌配送を切り替えた。
ポイントとなった配 送料金については、「我々としては、とにかく最初か ら雑誌の厚さに関係なく全誌を共通料金にしてもらい たかった。
幸い第三種の値上げの悪影響を避ける程度 の値段に収まった」(同)。
もっとも日経BPにとっては好条件でも、ヤマトに とっては先行投資的な意味合いを強く含む料金だった。
その後、日経BPとヤマトは手探りで雑誌配送の仕 組みを構築することになる。
日経BPの社内には新た に物流部ができた。
既存の顧客データベースにヤマト の着店コードを加え、「国土地理協会」の発表する地 理データと定期的に突き合わすことでデータの保守作 業を行うようになった。
さらに、こうしたデータを使って配送業務を効率化 するため、ヤマトは一〇〇%子会社の千代田梱包工 業を使って雑誌の封入・ラベリング業務も始めた。
同 社ロジスティクス事業部の杉村巖課長は、「ちょうど 東京で物流センターの建設計画を進めていたとき、ヤ マトの本社から雑誌の梱包機械の導入を持ちかけられ た」と述懐する。
ヤマトにとっては、以前は首都圏十二カ所に分散し ていた発送代行業者の業務を、千代田梱包が肩代わ りして煩雑な集荷業務をなくす。
同時に、あらかじめ 顧客データを着店コード順に並べ替えることで仕分け 作業の手間を軽減できるはずという読みだった。
日経BPとの協力関係を基に構築したサービスを、ヤマトは九七年三月に「クロネコメール便」として正 式に販売を開始した。
初年度にいきなり二九〇億円 を売りあげると、トントン拍子で業績を伸ばし二〇〇 二年三月期には五八四億円まで急拡大させた。
ヤマトの攻勢に対して郵政省も黙ってはいられない。
九八年九月に書籍小包とカタログ小包を一本化して 冊子小包とし、料金を引き下げた。
さらに二〇〇一 年三月からは、前述した通り、冊子小包の大口ユーザ ー向けの割引制度を拡充した。
最近ではメール便の?育ての親〞である日経BPに 対しても、雑誌の封入作業まで含む包括的な営業提 案をしているという。
郵便局と民間事業者のサービス 競争は、郵便事業の公社化や民営化を論ずるまでも なく水面下で確実に進んでいる。
特集 郵 政 VS 宅 配 業 者 千代田梱包工業の杉村巖課長日経BP社の上内義治取締役 自動でフイルム梱包してラベルを添付製本所から搬入される雑誌をスタンバイ 営業店ごとにカゴ車に積み付けた雑誌1台約1億円の封入ラインが4台ある

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