2005年5月号
管理会計
管理会計
在庫保有コストを明らかにせ
SCM時代の
新しい
管理会計
MAY 2005 70
日本と欧米で異なる認識
在庫は少ない方が良いというのは、もはや
常識となりつつある。
ロジスティシャンばか りではなく、財務担当者など、社内の関連各 所が今やそう認識している。
しかしながら、 いざ在庫削減に取り組む段になると、多くの 会社が壁に直面してしまう。
在庫を持つこと によって発生するコストについて、十分な理 解を得られていないことが、改革を阻む原因 の一つになっている。
とりわけ日本は在庫保有コスト(Inventory Carrying Cost )を過少に捉える傾向がある。
その端的な例として、日本と欧米の物流コス ト調査結果を以下に紹介する(図1)。
日本企業の物流コストは日本ロジスティク スシステム協会(JILS)が毎年、調査を 実施している。
回答企業数は二〇〇社前後 で、日本企業の物流コストのベンチマークと して認識されている。
欧米ではハーバート・ デイビス社の調査結果がある。
こちらは三〇 〇社程度が回答しているといわれており、や はり欧米企業の物流コストベンチマークとし て認識されている。
双方を比較すると、コスト構成には大きな 違いがある。
それが在庫保有コストである。
ハ ーバート・デイビス社の調査では、在庫保有 コストが独立した一つの項目としてグラフ上 に表示されている。
これに対し、JILSの 調査は、在庫保有コストを保管コストに含む 形で算出している。
在庫を持つことによって かかるコストについての認識が、欧米企業と 日本企業では明らかに異なっているのである。
これは簡単に証明できる。
まず、回答企業の母集団の偏りによる影響は、双方ともが開 示している調査対象からして、顕著であるも のは見られない。
ところが欧米の調査結果を、 日本と同じように在庫保有コストを保管コス トに含めてグラフ化すれば、保管コスト割合 が大きくなりすぎてしまう。
むしろ在庫保有 コストを省いてグラフ化したほうが、日本と 近いものとなる。
欧米企業のほうが在庫を多く持っているか らこのような違いとなるという仮設は成り立 たない。
在庫量についての各種調査は、欧米 企業のほうが日本企業よりも少ない在庫日数 しか保有していないという結果となっている。
欧米企業は日本企業と比較して明らかに高 在庫保有コストを明らかにせよ 日本企業の多くが、在庫を持つことで発生するコストをはっきりとは 認識していない。
銀行からの借り入れ金利ではなく、株主資本コスト で在庫金利を計算し、そこに廃棄リスクを加えた真の在庫保有コスト を把握することによって、物流施策の判断は大きく変わってくる。
第2回 梶田ひかる アビーム コンサルティング 製造事業部 マネージャー 71 MAY 2005 い率を乗じて在庫保有コストを算出している のである。
在庫保有コストとは何か 在庫保有コストを明らかにすることは、物 流からロジスティクスへ転換するための一つ の手段である。
現状ですでに在庫削減に著し い効果をあげている日本企業は、トップが在 庫削減の必要性を強く認識しており、キャッ シュフロー向上や不動在庫削減の観点から取 り組みを進めてきているところが大半である。
一方、改革が進まない企業には、在庫を持 つことによるコストが十分に理解されていな い場合が多い。
どれくらいの在庫があるのか、 またそのうちのどれくらいの割合が不動在庫なのか、年間でどれだけの在庫処分が行われ ているのか、それらによりいくらの損失が出 ているのかなどについて、数値を持っていな い。
それゆえに、在庫削減にかかる投資がな かなか認められないのである。
在庫保有コストの算出スキームは日本では ほとんど紹介されていない。
筆者は本誌二〇 〇四年五月号でそれを解説したが、コスト算 出の視点を以下に改めて紹介しよう(図2)。
在庫保有コストは大きく資本コスト、在庫 サービスコスト、保管コスト、リスクコスト に分けて捉えることができる。
まずはその基 礎を説明する。
資本コスト 資本コストとは、資金提供者、つまり負債 として計上される金額にかかる利息や、資本 を株という形で提供する株主がそれにより求 める運用利回りを指す。
端的に言えば資金を 運用して得るべきリターンということである。
金融機関等からの借入れに伴うコストを負 債資本コストといい、資本運用の目標値によ り計算されたコストを株主資本コストという。
資本の目標運用利回りは、ROA(純資産 利益率)、ROE(自己資本利益率)、WA CC(資本コスト)、IRR(内部収益率) などの形で提示される。
米国では株主資本コストという考え方が古 くから根付いている。
日本では、負債資本コ ストととらえる企業が大半であるが、ようや く近年、アニュアルレポート等でROA、R OE、WACCなどの値を目標値として掲げ る企業が増えてきている。
株主資本コストと いう考え方がようやく導入されつつあるとい えるだろう。
在庫サービスコスト 在庫サービスコストは多くの日本企業では 物流コストに含めて計算している。
保険料は、 在庫にかけている火災、盗難などの保険料で ある。
税は、棚卸資産税(在庫税)のことで ある。
日本では棚卸資産にかかる税金はない。
米国では州によってこれを課しているところ がある。
保管コスト 保管コストはすでに物流コスト体系の中に 組み込まれているため、説明するまでもない であろう。
自社倉庫物件にかかる費用、賃貸 倉庫物件にかかる費用、その中の荷役の費用、 倉庫事業者に保管費という形で支払う費用、 在庫管理にかかる費用などがこれに当たる。
廃品リスクコスト 廃品(obsolete inventory )リスクコスト 図1 物流コストの日米比較 日本における物流コスト 欧米における物流コスト 輸 送 在庫保有 輸 送 事務管理 CS/受注 その他 保 管 保 管 在庫金利を含む 『2003 年度 物流コスト調査報告書』 日本ロジスティクスシステム協会 Herbert W. Davis 社 2004 年調査 MAY 2005 72 とは不動在庫に関する費用である。
このリス クコストは日本の物流コスト体系には含まれ ていない。
実際にはかなりな金額になるはず であるが、明示化されにくいという性格を持 つ。
日本の財務諸表に明確に計上されている 費用には、棚卸資産廃却損、棚卸資産評価 損がある。
他に、廃却に伴い各所に計上され る廃棄費用、その輸送にかかる費用が財務会 計では計上されるが、これらはほとんどの会 社では、伝票をめくらなければわからない。
ここで重要なのは、廃品リスクにかかる費 用の大半が財務諸表には計上されないという ことである。
金額的にもっとも大きいのは処 分していない不動在庫に関するコストである。
本来はタイムリーに処理を行っていれば、棚 卸資産廃却損として計上されるものであるが、 少し前に話題になった銀行の不良資産処理 と同じで、業績の悪いときにはなかなか処理 されない。
棚卸資産評価損はさらに見えない。
動かな いものを原価割れで値引き販売したとしても、 わざわざ評価損を計上することはまずしない。
マネジメントの失敗をおおやけにするような ものだからである 廃品リスクには他に、経年により劣化した ものの再生にかかるコスト、処分を判断する ための人件費や情報処理費、判断がなされた あとの事務処理にかかる費用などがある。
こ れらのコストもまた他の費用に紛れ込んでい る。
損傷リスク・盗難リスク 倉庫に置いておけば一定の確率で破損・ 汚損・紛失・盗難が発生する。
物流管理と しては、それを発生させないように作業手順 を見直したり作業者管理を徹底したりしてい るが、それでも完全にゼロにすることは困難 である。
それらにより生じる損失も、管理を 徹底している会社では把握されており、物流 コストの一部として計上しているところも多 い。
移送リスク 移送(Relocation )リスクとは、近隣の倉 庫に在庫がないために遠方の倉庫から移送す るというリスクである。
いわゆる横もち費用 である。
物流拠点が一つしかなければこのリ スクは発生しないが、物流拠点が多ければ多 いほどこのリスクは高くなる。
いうまでもな くこれも、荷役コスト、輸送コストとして物 流コストに含まれて計上されている。
移送リ スク分だけをそれらから抜き出すと、かなり の金額になることが多い。
在庫削減のためのコスト計算 在庫削減を行うためには、それにより得ら れる金額効果が、それを行うためにかかる投 資よりも大きいということを明確にする必要 がある。
そのための基礎知識として、在庫保 有コストの構成について説明した。
欧米に比べ、日本における在庫保有コスト の認識が低くなってしまう原因は、?資本コ ストを過少に見積もっていること、?廃品リ スクを把握していないこと、?移送リスクを 輸送・荷役コストに含めており分離して捉え ていないこと、の三つがあげられる。
これら のうち?の移送リスクは丹念に物流コスト分 析を行えば計算できるものであるので、本稿 ではこれまでほとんど紹介されていない?、 日本における対応 保管コストに含めて算定して いるが過少評価 物流コストに含まれない その他コストに算定 輸送・保管コストに含めて算定 保管コストに含めて算定 図2 在庫保有コスト 在庫保有コスト 在庫サービスコスト 保管コスト 在庫リスクコスト 資本コスト 在庫投資コスト 保険料 税 自社倉庫にかかる諸費用 賃貸倉庫の借庫料 営業倉庫保管料 保管管理にかかるコスト 廃品リスク 損傷リスク 盗難リスク 移送リスク 73 MAY 2005 ?について具体例を示す。
資本コストへの認識強化 日本企業において認識の低いものの一つが 資本コストである。
この資本コストをどう捉 えるかで、現状の日本における在庫保有コス トは大きく違ってくる。
それが物流施策の決 断にも影響する。
現在のような低金利時代に は、負債資本コストを用いると、在庫拠点集 約や船から航空輸送への変更は、コストアッ プになるという結論になりやすい。
同じ施策 でも株主資本コストを用いると、逆の結論に なる場合が出てくる。
たとえば、ある会社が一〇〇億円の在庫を 持っているとする。
この時、金融機関からの 長期借入れの利率が一・六五%であれば、在 庫金利は年一億六五〇〇万円になる。
在庫 を半減しても年間のコスト削減額は八二五〇 万円にしかならない。
だが、仮にこの会社が ROA六%を経営目標に掲げており、それを 株主資本コストとして計算に用いると、在庫 金利は年六億円になる。
半減すれば年三億 円のコスト削減となる。
株主資本コストという考え方が、たとえ会 社に導入されていたとしても、それを在庫削 減効果の試算にまで用いるケースは少ない。
ROA、ROE、WACC、IRRなどが 会社に導入されている場合、在庫保有コスト 計算にもそれらを用いるように働きかけるこ とが、在庫削減の推進に有効となる。
廃品リスクの明確化 すでに在庫削減で効果をあげている企業の ほとんどが、この廃品リスクの削減を主眼に 在庫削減に着手している。
家電、PC、加工食品がその代表的な業界である。
こうした 業界では商品ライフサイクルが短期化してい るのに伴い、廃品リスクが高まっている。
廃品リスクコストの計算は難しい。
資本コ ストは在庫金額に一定の利率を乗じるだけで 計算できるため、年次での更新は容易である。
しかしながら、廃品とすべき不動在庫は長期 にわたり積み上がっていくものであるため、 単年度の財務会計から抜き出して計算するこ とができない。
廃品となる可能性とそれによ る損失をあらかじめ想定しておかなければ計 算できないのである。
一つの目安となるのは、年間でどれくらい が不動在庫化しているかという数字である。
現時点における不動在庫を洗い出し、その金 額を把握する。
過去数年間における廃却損、 評価損を抜き出す。
処分販売でどれくらいの 損失が出ているのかを洗い出す。
これらから 年平均の現実的な廃却損・評価損の金額を 出し、さらにそれに理論上の処分費用を加え るという処理を行う必要がある。
実際には欲しい数値の十分に揃わないこと が多い。
そのため把握できた数値からさまざ まな前提条件を設け、納得できる金額を弾き だすことになる。
たとえば、在庫が一〇〇億 円あり、毎年六億円分ずつ廃棄処分している が、それにも関わらず毎年五億円ずつ不動在 庫が増えているという場合には、最低でも毎 年十一億円の廃品リスクコストが発生してい ることになる。
毎年のロジスティクスコストに廃品リスク コストを含めるには、これを簡便化して在庫 金額に対する割合に変換する。
前出の例でい えば十一%となる。
以降、数年間は在庫金 額にこの割合を乗じて廃品リスクコストを計 算する。
この廃品リスク十一%と、先のROA六% を足し合わせると、この会社の在庫保有コス トは一七%となる。
今まで在庫金利を負債資 本コストとしてだけしか算出していなかった とすれば、在庫保有コストはこれまで物流コ ストに含めなかった分だけで一五億三五〇〇 万円となり、それがロジスティクスコストと して上乗せされることになる。
このように在庫保有コストをより厳密に捉 えることにより、ようやく物流部門内だけの 投資判断で実施できる施策、たとえば物流拠 点削減、船にするか飛行機にするかなどの判 断が可能になるのである。
◆ SCM時代の新しい管理会計◆ かじた・ひかる 一九八一年南カリフォルニア大学大 学院OR修士取得。
同年日本アイ・ビー・エム入社。
一九九一年日通総合研究所入社。
二〇〇一年デロイト トーマツコンサルティング(現: アビーム コンサル ティング)入社。
静岡県立大学非常勤講師。
ロジステ ィクスABC、ロジスティクス中長期計画策定、在庫 削減プロジェクトなど、ロジスティクスの企画・管理 に関するコンサルティングと研究を中心に活動中。
ロジスティシャンばか りではなく、財務担当者など、社内の関連各 所が今やそう認識している。
しかしながら、 いざ在庫削減に取り組む段になると、多くの 会社が壁に直面してしまう。
在庫を持つこと によって発生するコストについて、十分な理 解を得られていないことが、改革を阻む原因 の一つになっている。
とりわけ日本は在庫保有コスト(Inventory Carrying Cost )を過少に捉える傾向がある。
その端的な例として、日本と欧米の物流コス ト調査結果を以下に紹介する(図1)。
日本企業の物流コストは日本ロジスティク スシステム協会(JILS)が毎年、調査を 実施している。
回答企業数は二〇〇社前後 で、日本企業の物流コストのベンチマークと して認識されている。
欧米ではハーバート・ デイビス社の調査結果がある。
こちらは三〇 〇社程度が回答しているといわれており、や はり欧米企業の物流コストベンチマークとし て認識されている。
双方を比較すると、コスト構成には大きな 違いがある。
それが在庫保有コストである。
ハ ーバート・デイビス社の調査では、在庫保有 コストが独立した一つの項目としてグラフ上 に表示されている。
これに対し、JILSの 調査は、在庫保有コストを保管コストに含む 形で算出している。
在庫を持つことによって かかるコストについての認識が、欧米企業と 日本企業では明らかに異なっているのである。
これは簡単に証明できる。
まず、回答企業の母集団の偏りによる影響は、双方ともが開 示している調査対象からして、顕著であるも のは見られない。
ところが欧米の調査結果を、 日本と同じように在庫保有コストを保管コス トに含めてグラフ化すれば、保管コスト割合 が大きくなりすぎてしまう。
むしろ在庫保有 コストを省いてグラフ化したほうが、日本と 近いものとなる。
欧米企業のほうが在庫を多く持っているか らこのような違いとなるという仮設は成り立 たない。
在庫量についての各種調査は、欧米 企業のほうが日本企業よりも少ない在庫日数 しか保有していないという結果となっている。
欧米企業は日本企業と比較して明らかに高 在庫保有コストを明らかにせよ 日本企業の多くが、在庫を持つことで発生するコストをはっきりとは 認識していない。
銀行からの借り入れ金利ではなく、株主資本コスト で在庫金利を計算し、そこに廃棄リスクを加えた真の在庫保有コスト を把握することによって、物流施策の判断は大きく変わってくる。
第2回 梶田ひかる アビーム コンサルティング 製造事業部 マネージャー 71 MAY 2005 い率を乗じて在庫保有コストを算出している のである。
在庫保有コストとは何か 在庫保有コストを明らかにすることは、物 流からロジスティクスへ転換するための一つ の手段である。
現状ですでに在庫削減に著し い効果をあげている日本企業は、トップが在 庫削減の必要性を強く認識しており、キャッ シュフロー向上や不動在庫削減の観点から取 り組みを進めてきているところが大半である。
一方、改革が進まない企業には、在庫を持 つことによるコストが十分に理解されていな い場合が多い。
どれくらいの在庫があるのか、 またそのうちのどれくらいの割合が不動在庫なのか、年間でどれだけの在庫処分が行われ ているのか、それらによりいくらの損失が出 ているのかなどについて、数値を持っていな い。
それゆえに、在庫削減にかかる投資がな かなか認められないのである。
在庫保有コストの算出スキームは日本では ほとんど紹介されていない。
筆者は本誌二〇 〇四年五月号でそれを解説したが、コスト算 出の視点を以下に改めて紹介しよう(図2)。
在庫保有コストは大きく資本コスト、在庫 サービスコスト、保管コスト、リスクコスト に分けて捉えることができる。
まずはその基 礎を説明する。
資本コスト 資本コストとは、資金提供者、つまり負債 として計上される金額にかかる利息や、資本 を株という形で提供する株主がそれにより求 める運用利回りを指す。
端的に言えば資金を 運用して得るべきリターンということである。
金融機関等からの借入れに伴うコストを負 債資本コストといい、資本運用の目標値によ り計算されたコストを株主資本コストという。
資本の目標運用利回りは、ROA(純資産 利益率)、ROE(自己資本利益率)、WA CC(資本コスト)、IRR(内部収益率) などの形で提示される。
米国では株主資本コストという考え方が古 くから根付いている。
日本では、負債資本コ ストととらえる企業が大半であるが、ようや く近年、アニュアルレポート等でROA、R OE、WACCなどの値を目標値として掲げ る企業が増えてきている。
株主資本コストと いう考え方がようやく導入されつつあるとい えるだろう。
在庫サービスコスト 在庫サービスコストは多くの日本企業では 物流コストに含めて計算している。
保険料は、 在庫にかけている火災、盗難などの保険料で ある。
税は、棚卸資産税(在庫税)のことで ある。
日本では棚卸資産にかかる税金はない。
米国では州によってこれを課しているところ がある。
保管コスト 保管コストはすでに物流コスト体系の中に 組み込まれているため、説明するまでもない であろう。
自社倉庫物件にかかる費用、賃貸 倉庫物件にかかる費用、その中の荷役の費用、 倉庫事業者に保管費という形で支払う費用、 在庫管理にかかる費用などがこれに当たる。
廃品リスクコスト 廃品(obsolete inventory )リスクコスト 図1 物流コストの日米比較 日本における物流コスト 欧米における物流コスト 輸 送 在庫保有 輸 送 事務管理 CS/受注 その他 保 管 保 管 在庫金利を含む 『2003 年度 物流コスト調査報告書』 日本ロジスティクスシステム協会 Herbert W. Davis 社 2004 年調査 MAY 2005 72 とは不動在庫に関する費用である。
このリス クコストは日本の物流コスト体系には含まれ ていない。
実際にはかなりな金額になるはず であるが、明示化されにくいという性格を持 つ。
日本の財務諸表に明確に計上されている 費用には、棚卸資産廃却損、棚卸資産評価 損がある。
他に、廃却に伴い各所に計上され る廃棄費用、その輸送にかかる費用が財務会 計では計上されるが、これらはほとんどの会 社では、伝票をめくらなければわからない。
ここで重要なのは、廃品リスクにかかる費 用の大半が財務諸表には計上されないという ことである。
金額的にもっとも大きいのは処 分していない不動在庫に関するコストである。
本来はタイムリーに処理を行っていれば、棚 卸資産廃却損として計上されるものであるが、 少し前に話題になった銀行の不良資産処理 と同じで、業績の悪いときにはなかなか処理 されない。
棚卸資産評価損はさらに見えない。
動かな いものを原価割れで値引き販売したとしても、 わざわざ評価損を計上することはまずしない。
マネジメントの失敗をおおやけにするような ものだからである 廃品リスクには他に、経年により劣化した ものの再生にかかるコスト、処分を判断する ための人件費や情報処理費、判断がなされた あとの事務処理にかかる費用などがある。
こ れらのコストもまた他の費用に紛れ込んでい る。
損傷リスク・盗難リスク 倉庫に置いておけば一定の確率で破損・ 汚損・紛失・盗難が発生する。
物流管理と しては、それを発生させないように作業手順 を見直したり作業者管理を徹底したりしてい るが、それでも完全にゼロにすることは困難 である。
それらにより生じる損失も、管理を 徹底している会社では把握されており、物流 コストの一部として計上しているところも多 い。
移送リスク 移送(Relocation )リスクとは、近隣の倉 庫に在庫がないために遠方の倉庫から移送す るというリスクである。
いわゆる横もち費用 である。
物流拠点が一つしかなければこのリ スクは発生しないが、物流拠点が多ければ多 いほどこのリスクは高くなる。
いうまでもな くこれも、荷役コスト、輸送コストとして物 流コストに含まれて計上されている。
移送リ スク分だけをそれらから抜き出すと、かなり の金額になることが多い。
在庫削減のためのコスト計算 在庫削減を行うためには、それにより得ら れる金額効果が、それを行うためにかかる投 資よりも大きいということを明確にする必要 がある。
そのための基礎知識として、在庫保 有コストの構成について説明した。
欧米に比べ、日本における在庫保有コスト の認識が低くなってしまう原因は、?資本コ ストを過少に見積もっていること、?廃品リ スクを把握していないこと、?移送リスクを 輸送・荷役コストに含めており分離して捉え ていないこと、の三つがあげられる。
これら のうち?の移送リスクは丹念に物流コスト分 析を行えば計算できるものであるので、本稿 ではこれまでほとんど紹介されていない?、 日本における対応 保管コストに含めて算定して いるが過少評価 物流コストに含まれない その他コストに算定 輸送・保管コストに含めて算定 保管コストに含めて算定 図2 在庫保有コスト 在庫保有コスト 在庫サービスコスト 保管コスト 在庫リスクコスト 資本コスト 在庫投資コスト 保険料 税 自社倉庫にかかる諸費用 賃貸倉庫の借庫料 営業倉庫保管料 保管管理にかかるコスト 廃品リスク 損傷リスク 盗難リスク 移送リスク 73 MAY 2005 ?について具体例を示す。
資本コストへの認識強化 日本企業において認識の低いものの一つが 資本コストである。
この資本コストをどう捉 えるかで、現状の日本における在庫保有コス トは大きく違ってくる。
それが物流施策の決 断にも影響する。
現在のような低金利時代に は、負債資本コストを用いると、在庫拠点集 約や船から航空輸送への変更は、コストアッ プになるという結論になりやすい。
同じ施策 でも株主資本コストを用いると、逆の結論に なる場合が出てくる。
たとえば、ある会社が一〇〇億円の在庫を 持っているとする。
この時、金融機関からの 長期借入れの利率が一・六五%であれば、在 庫金利は年一億六五〇〇万円になる。
在庫 を半減しても年間のコスト削減額は八二五〇 万円にしかならない。
だが、仮にこの会社が ROA六%を経営目標に掲げており、それを 株主資本コストとして計算に用いると、在庫 金利は年六億円になる。
半減すれば年三億 円のコスト削減となる。
株主資本コストという考え方が、たとえ会 社に導入されていたとしても、それを在庫削 減効果の試算にまで用いるケースは少ない。
ROA、ROE、WACC、IRRなどが 会社に導入されている場合、在庫保有コスト 計算にもそれらを用いるように働きかけるこ とが、在庫削減の推進に有効となる。
廃品リスクの明確化 すでに在庫削減で効果をあげている企業の ほとんどが、この廃品リスクの削減を主眼に 在庫削減に着手している。
家電、PC、加工食品がその代表的な業界である。
こうした 業界では商品ライフサイクルが短期化してい るのに伴い、廃品リスクが高まっている。
廃品リスクコストの計算は難しい。
資本コ ストは在庫金額に一定の利率を乗じるだけで 計算できるため、年次での更新は容易である。
しかしながら、廃品とすべき不動在庫は長期 にわたり積み上がっていくものであるため、 単年度の財務会計から抜き出して計算するこ とができない。
廃品となる可能性とそれによ る損失をあらかじめ想定しておかなければ計 算できないのである。
一つの目安となるのは、年間でどれくらい が不動在庫化しているかという数字である。
現時点における不動在庫を洗い出し、その金 額を把握する。
過去数年間における廃却損、 評価損を抜き出す。
処分販売でどれくらいの 損失が出ているのかを洗い出す。
これらから 年平均の現実的な廃却損・評価損の金額を 出し、さらにそれに理論上の処分費用を加え るという処理を行う必要がある。
実際には欲しい数値の十分に揃わないこと が多い。
そのため把握できた数値からさまざ まな前提条件を設け、納得できる金額を弾き だすことになる。
たとえば、在庫が一〇〇億 円あり、毎年六億円分ずつ廃棄処分している が、それにも関わらず毎年五億円ずつ不動在 庫が増えているという場合には、最低でも毎 年十一億円の廃品リスクコストが発生してい ることになる。
毎年のロジスティクスコストに廃品リスク コストを含めるには、これを簡便化して在庫 金額に対する割合に変換する。
前出の例でい えば十一%となる。
以降、数年間は在庫金 額にこの割合を乗じて廃品リスクコストを計 算する。
この廃品リスク十一%と、先のROA六% を足し合わせると、この会社の在庫保有コス トは一七%となる。
今まで在庫金利を負債資 本コストとしてだけしか算出していなかった とすれば、在庫保有コストはこれまで物流コ ストに含めなかった分だけで一五億三五〇〇 万円となり、それがロジスティクスコストと して上乗せされることになる。
このように在庫保有コストをより厳密に捉 えることにより、ようやく物流部門内だけの 投資判断で実施できる施策、たとえば物流拠 点削減、船にするか飛行機にするかなどの判 断が可能になるのである。
◆ SCM時代の新しい管理会計◆ かじた・ひかる 一九八一年南カリフォルニア大学大 学院OR修士取得。
同年日本アイ・ビー・エム入社。
一九九一年日通総合研究所入社。
二〇〇一年デロイト トーマツコンサルティング(現: アビーム コンサル ティング)入社。
静岡県立大学非常勤講師。
ロジステ ィクスABC、ロジスティクス中長期計画策定、在庫 削減プロジェクトなど、ロジスティクスの企画・管理 に関するコンサルティングと研究を中心に活動中。
