*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
NOVEMBER 2002 66
EXEテクノロジーズ
津村謙一 社長
3PLとしてグローバル展開を図る――それ
がトップの描いた経営ビジョンだった。 しかし、
そのためには巨額の先行投資が必要になる。 地
方の中堅倉庫会社にはとうてい手が届かない。
そこで我々はグローバル展開の軸足をITに移
すことにした。 独自開発のソフトウェアを抱え、
米国市場に乗り込んだ。
ノンアセット型は米国市場限定
かつての富士ロジテックは中堅規模の倉庫会
社といえども、潤沢な資産を持ち、安定した利
益を上げる優良企業だった。 しかし、鈴木威雄
社長にはそのまま地方の一倉庫会社に安住する
つもりはなかった。 3PLとしてグローバル市
場で活躍すること。 それが経営ビジョンとして
明確に掲げられていた。 実際、大手物流業者の
ゴース(GOTH)との提携によって欧州市場
に足掛かりを作り、米国やタイには自ら進出す
るなど、積極的な展開を図っていた。
鈴木社長の高邁なビジョンは常に我々を奮い
立たせた。 しかし、限界も見えていた。 グロー
バル展開をさらに拡大していくには、巨額の先
行投資がどうしても必要になる。 資産を持たな
いノンアセット型3PLを標榜しようと、主要
なポイントではアセットを持たざるを得ない。
人材も必要だ。 中堅倉庫会社の資金調達力で
カバーし切れるものではない。
そもそもノンアセット型3PLという選択肢
は日本に本拠地を置く当社にとって現実的では
なかった。 確かに初期の米国3PL市場におい
ては、「アセット型
VS
ノンアセット型」という
議論があった。 3PLは物流拠点や輸送機関
などの資産を自分で持つべきなのか。 それとも
拠点は賃貸し、輸送は傭車する形にして、資産
を持たないほうがいいのかという議論だ。
このテーマに合わせて、米国の3PLを対象
にした調査も行われていた。 結果はノンアセッ
ト型3PLのほうが、アセット型より二ポイン
ト程度、マージン率で優っていた。 そのため一
時はノンアセット型優位説に米国の物流業界関
係者の認識が傾いたこともあった。
しかしながら、現実にはアセット型とノンアセット型の分類は、それほど明確ではない。 ノ
ンアセット型に分類される3PLでも、アセッ
トを全く持たないということはあり得ない。 ア
セット型にしても当然、拠点の賃借や傭車を使
うことだってある。 キレイには割り切れないの
だ。 そのため、今では「アセット型
VS
ノンアセ
ット型」というモデルの違いは米国ではそれほ
ど重要視されなくなっている。
むしろ、日本でそうした議論を耳にすること
が少なくない。 米国の影響なのだろうが、私は
ナンセンスだと考えている。 ノンアセット型3
PLは米国の市場でこそ可能なモデルであって、
日本や欧州では実現不可能だからだ。 とりわけ
不動産市場の環境と物流業の規制の違いは大
【第8回】
アセット型
VS
ノンアセット型
PROFILE
つむら・けんいち1946年、静岡
県生まれ。 71年、早稲田大学政治
経済学部卒。 同年、鈴与入社。 79
年、鈴与アメリカ副社長就任。 フォ
ワーディング業務、3PL業務を展
開。 84年、米シカゴにKRI社を設
立し、社長に就任。 自動車ビック3、
IBM、コンパックといった有力企業
とのビジネスを経験。 92年、富士
ロジテックアメリカ社長に就任。
98年、イーエックスイーテクノロ
ジーズの社長に就任。 現在に至る
67 NOVEMBER 2002
きい。
米国でハイウエイをドライブしたことのある
方ならご存知だろう。 ハイウエイが交差するア
クセスの良い地域、すなわち物流面での条件が
良い土地には、必ずといっていいほど、三〇〇
〇坪程度の平屋の倉庫がズラリと並んでいる。
物流専業者の拠点として見ると、ドックの数が
少なかったり、鉄道の引き込み線がないなどの
問題もあるが、メーカーや流通業者の物流セン
ターには適している。
これらは「スペック・ビルディング」と呼ば
れる投資用物件だ。 日本の倉庫会社のように荷
主が決まってから投資したものではなく、不動
産開発業者や地主が先行投資で建設したもの
がほとんどだ。 空いていれば安く借りられる。
日本のような礼金・敷金などの慣習もない。 そ
のため米国市場において3PLは必要に応じて
簡単に拠点を確保できるのである。
しかも日本と異なり米国ではオーナーオペレ
ーターが許可されている。 ドライバーによる個
人営業が認められているので、彼らを上手く組
織化することができれば、3PLが自分でドラ
イバーを抱えなくても輸送力を確保できる。 こ
うした条件があるからこそ、米国ではノンアセ
ット型3PLが成り立つのだ。
同じことを日本でやろうとするのは無理があ
る。 日本でノンアセット型を展開するとなれば
結局、下請けの協力業者を叩くしかなくなる。
長くは続かないだろう。 事実、日本のノンアセ
ット型3PLで、本当に成功を収めたというケ
ースを私は寡聞にして知らない。
ノンアセット型は非現実的。 そうかといって
巨額の先行投資を実施できるほどの経営規模も
ない。 そこで我々はソフトウェアに軸足を移す
ことにした。 他のアセットと違って、ソフトウ
ェアは経営規模や資金力だけの勝負ではない。
しかも我々はグループ内にソフトウェアハウス
の富士システムハウスを抱え、「STOCK
M
AN」と名付けた独自の在庫管理ソフトを開
発・販売してきた実績もある。
デル・コンピュータやギャップなどの外資系
企業の物流コンペで、何倍もの規模を誇る他の
大手物流企業を向こうに回し、当社が受注を
獲得できたのも、IT能力を評価されたからに
他ならない。 実際、そうした外資系企業は物流
パートナーを選択する時に、真っ先にITの対
応力、そして次に経営ビジョンについて尋ねる
のが常だった。 料金はその次の問題だった。
ITで他社と差別化できれば、物流インフラ
のアセットや輸送機関を世界中に所有すること
なしにグローバル展開が可能になる。 そう考え
た我々は「STOCK
MAN」を引っさげ、米
国市場における販売を開始した。
しかし、これが全く売れない。 意気込んで上
陸したものの何とか二セットを販売しただけで、
その先が続かない。 どうもおかしい。 見込みと
違う。 我々は改めて、米国の物流ソフトウェア
を精査した。 その結果、我々は米国の有力ベン
ダーとの決定的な差に気付かされた。
IT活用の日米格差を痛感
我々のソフトウェアも米国のソフトウェアも
倉庫で使用するパッケージソフトという点では
同じだった。 しかし、コンセプトが全く違った。
我々のソフトウェアが倉庫の効率的な運用を狙
いとしていたのに対し、米国のトップベンダー
のソフトウェアは「マネジメント」から出発し
ていた。 もちろん倉庫を管理する機能も持って
いる。 しかし、それが最終的なゴールではない。
モノのフローと情報のフローを管理する。 それ
がWMS(Warehouse Management System
)
の真の役割だった。
もっとも、そうしたタイプのWMSが登場し
たのは、米国でもそう昔のことではなかった。
米国では八〇年代前半に数百というWMSベ
ンダーが誕生し、そのほとんどが数年で消えて
いった。 彼らが提供していたソフトウェアもW
MSと呼ばれていたが、内実は日本と同様の倉
庫システムに他ならなかった。
ただし、淘汰を生き残り、業績を拡大させて
いるWMSベンダーもあった。 「ダラス」とい
うソフトウェアハウスがその一つだ。 ダラスは
WMSのカテゴリーに括られてはいたが、倉庫
管理システムを作っているわけではなかった。
彼らが提供していたのは「CSS:Chain Store
System
」だった。 すなわち店舗に対して、ど
のように商品を補充していくかというアプロー
チで作られたチェーンストア向けのシステムだ
った。
同様に3PLに特化して、3PLのマネジメ
ントに必要なソフトウェアで生き残っているW
MSベンダーがあった。 「トライデント」という
パッケージを販売するソフトウェアハウス、「ネ
プチューン」だ。 九七年に同社は「ダラス」を
買収する。 そして同社はその後、社名を変更し、
現在のEXEテクノロジーズとなるのである。
|