ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年11号
メディア批評
かつての日本は?ならず者国家〞だった拉致問題に揺れる今こそ直視すべき過去

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

北朝鮮へ拉致された被害者が、わかってい るだけでも八人も死亡していると言われて、 日本は重苦しい空気に包まれている。
もちろん、?ならず者国家〞の北朝鮮に事実 を明らかにせよと迫ることは必要だろう。
し かし、かつての日本も同じ?ならず者国家〞 だったと認識して交渉に当たるかどうかで、 ずいぶん大きな違いが生まれてくるのではな いか。
住友商事の元社長、伊藤正は、イラクがや はり?ならず者国家〞として非難されていた 時、私にこう言った。
「ある社員から聞いたんですが、イギリス人 に、『いま、イラクのやっていることを日本人 なら理解できるだろう』と言われたというん ですね。
『なぜなら、昔の日本がちょうどああ だった』と」 一九三三(昭和八)年、日本の中国侵略を 咎める決議に対し、日本は国際連盟を脱退し て?光栄ある孤立〞の道を選んだ。
四二対一。
向こうは?死に〞だなどとバカなことを言っ て、戦争に突き進んでいくのである。
「私は当時、学生だったけれども、外務大臣 の松岡洋右さんが席を蹴って国際連盟を脱退 するのに、国民はみんな拍手喝采という感じ だったわけですね」 総合商社のトップの口から、こういう言葉 がとびだして、私は日本も捨てたものではな いなと思った。
この問題で、非常に冷静な発言をしている のは東大教授の姜尚中である。
九月二七日号 の『週刊金曜日』で、姜は次のように指摘す る。
今度の日朝首脳会談で、日本側は従来から の主張をほとんど北朝鮮側に認めさせたうえ で、国交正常化交渉の再開に合意した。
外交 的には大成功のはずなのに、週刊誌などでは 小泉首相が?国賊〞のように扱われている。
「今回、北朝鮮は、天皇と首相を兼ねたよう な存在である金正日国防委員会委員長がふた つのことを認めたのですが、それは実に重い 選択であったということを、まず指摘しなけ ればなりません。
ひとつは、北朝鮮が一時期、テロ国家であ ったことを自ら認めたことです。
これは対外 的には国家の存続を否定するほどの大変な意 味を持っています。
もうひとつは、賠償請求権を取り下げ、日 韓条約と同じ経済協力方式を受け入れたこと です」 後者は、金日成が日本と戦って祖国を解放 したという建国物語を否定することをも意味 する。
そうした「究極の選択」を金正日がしたこ との重みを、日本国民は理解していない、と 姜は言う。
北朝鮮が拉致の事実を認めて謝罪 したことに、韓国はもちろん、ロシアも中国 も驚いており、これは日本外交の大勝利なの だが、日本国内の世論はそうなっていない。
国外とのギャップはどうして生まれたのか。
姜は痛烈に書く。
「(日本)国民は三〇年前の日中国交正常化 のようには、日朝国交正常化を待ち望んでは いないのです。
テポドン事件や不審船事件な どの影響もありますが、根本にあるのは根強 い朝鮮蔑視だと思います。
国民の意識に分厚 い層を形成している朝鮮蔑視が、今回のこと で一挙に噴出しているのではないでしょうか」 大阪経済法科大教授の吉田康彦が同じ号で 嘆いているように、「過去」は風化しやすい。
「連日の拉致報道で、日本が三六年間にわた って朝鮮半島を植民地化し、朝鮮人の拉致な ど日常茶飯事としていたことを大半の日本は 忘れ去ってしまっている」のである。
数字に若干の誇張があるにせよ、朝鮮人の 強制連行六〇〇万人、強制労働三〇〇万人、 「従軍慰安婦」二〇万人と、北朝鮮は日本の 「犯罪」を告発している。
日本人の手も決して 白くはないのである。
佐高信 経済評論家 35 NOVEMBER 2002 かつての日本は?ならず者国家〞だった 拉致問題に揺れる今こそ直視すべき過去

購読案内広告案内