ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年5号
現場改善
建設資材メーカーのローテク改善

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 代表 青木正一 MAY 2005 74 原因は物流に対する認識不足 A社は、建設現場の足場に使用する部材を製 造・販売する年商九〇億円規模の建設資材メー カーだ。
関西圏を中心とした建築現場に、地元 の物流会社を使って部材を納品している。
競合他社が物流サービスを強化していく中で A社は後れをとっていた。
最大の問題は納品時 間であった。
受注翌日納品というレベルでの対 応はできていたものの、納品時間が午後以降と なっていた。
午前中必着を求める得意先からの 問い合わせ、クレームが相次いでいた。
その原 因を突き止め、早期に改善することが、我々N LFに与えられた課題だった。
建設、住設の物流は特殊性が強い。
?現場納 品が大半。
?施工スケジュール変更による当日 の出荷キャンセルが多い。
?現場納品のため天 候に左右される。
?平ボディーのユニック車(小 型クレーン付き車両)など、他の貨物に転用す ることが難しい特殊車両を使用する。
?現場納 品のため、受領印をもらえない場合が多いなど、 物流管理の厄介な業種の一つといえる。
A社の物流にも、右記の特徴が全て当てはま っていた。
しかし、それが納品時間遅れの発生 する本質的な原因だとは言えなかった。
実際、A 社のライバルのX社は、物流を外注せずに、自 社の社員で処理することで、翌朝七時には納品 のトラックを出発させていたのである。
現場調査、書類・伝票のチェック、物流担当 者・営業責任者へのヒアリングなどから、A社 の抱える問題の?本質〞ともいうべき原因が徐々 に浮かび上がってきた。
第一に、A社には全社 的に物流の重要性に対する意識が薄かった。
とりわけ営業にその傾向が顕著で、物流は後 処理業務という認識が蔓延していた。
受注処理 のルールも全く守られていなかった。
翌日配送 に伴う受注締切時間は一六:三〇に設定されて いたが、ルールが形骸化していた。
営業からの 要請で時には当日受注分までその日の配車に組 み込まれている状態だった。
本誌二〇〇五年二月号で紹介した中堅印刷メ ーカーY社と同様に、A社もまた営業至上主義 の色合いが強い会社であった。
ゼネコン、鉄筋 資材などの一筋縄にはいかない会社を相手にし ている営業は、緊急発注や緊急納品など、得意 先の要望をそのまま物流現場に押しつけていた。
そのために営業部門自体も夜遅くまで受注対応 を行っていた。
トップから直々の改善依頼であったため、当 初我々NLFはA社を物流に対する問題意識の 強い会社であるかと考えていた。
しかし実際に はトップ以外の幹部は、誰も物流の重要性をし っかりとは認識していなかった。
またトップ自身 も問題を抽象的にしか捉えていなかったため、組 第28回 納品時間が遅すぎる――。
資材が届かなければ、その日の作業 が滞ってしまう建設資材業界においては、致命的と言える課題だ った。
当然、クレームも多発していた。
まずは社内に蔓延する物 流軽視の風潮を変える必要があった。
建設資材メーカーのローテク改善 あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチ ーフを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp 75 MAY 2005 は本来、トップダウンで強力に進めなければな らないからである。
それでも物流部門はもちろんシステム・管理 部門から参加したメンバーは次第に理解を深め ていった。
しかし営業から派遣された二人は最 後まで物流改善に対する抵抗感が強かった。
「あ なたがた営業は、受注締切時間を延ばして得意 先の意向を聞いてあげることが相手に喜んでも らっていると思っておられるようですが、翌日の 納品が午前中に着かないことで、相手はむしろ 怒っているんです。
このままで本当にいいんです か」。
私が思わず声を張り上げる場面もあった。
苦労はしたが、ミーティングメンバーの最古 参でもあった営業責任者のK氏が最後には折れ て、前向きに取り組み始めたことで、一気に改 革が進んだ。
K氏は自ら図形入りのFAXオー ダーシートを提案し、サイズや、類似商品の発 注のミス防止にも一役かってくれた。
改革、改善の成否を決める第一の要因は実はロ 織を説得し、理解させるには至っていなかった。
さらに配送を協力運送会社に外注しているこ とも、納品時間が遅くなる一つの要因になって いた。
午前中納品のためには不可欠となる早朝 の出荷準備、いわゆる?宵積み〞対応ができて いなかった。
我々は物流部門、営業部門、管理部門、シス テム部門の各部署からの二人ずつと、そこに社 長を加えたプロジェクトチームを組織。
週一回 のペースで物流改善ミーティングを行うことに した。
そこでは経営における物流の位置づけや 重要性をディスカッションするとともに、なぜ 物流品質が競合に勝つために重要なのか、各社 の事例を挙げながら解説した。
残念なことに三回目のミーティングから社長 が顔を出さなくなった。
社外活動に忙しいS社 長はアフターファイブに行うミーティングを避け たのであった。
これによって物流改善の成功率 はぐっと下がった。
中堅以下の企業の物流改善 ジックやスキル、ノウハウではない。
気力である。
改革の当事者にどれほどの覚悟があるのか。
周囲 はその姿を見て、自分の身の振り方を考えるもの なのである。
固定制運賃を従量制に変更 先の宵積み対応の問題は協力物流会社との契 約形態の見直しと交渉によって改善を進めた。
A 社の外部委託先には、通常の法人契約と「持込 み」の個人契約の二種類があった。
双方とも契 約は物量に関係なく固定制の月極料金制を取っ ていた。
これを我々は重量当たり運賃に変更し、 車両回転率が上がれば協力会社の収入も増える 仕組みにすることで、協力会社が自発的に出荷 業務の開始を早めるようにし向けた。
得意先を調査した結果、早朝七:〇〇出発が 二台、その他は八:〇〇台に出発すれば午前中 納品が実現できることがわかっていた。
このう ち七:〇〇出発の二台に宵積みが必要だった。
そ MAY 2005 76 しくない。
そのために、多くの企業が白ナンバ ーの自社車両で物流を自ら処理している。
この点をS社長に改めて問い直した。
その結果、 物流業務は外部に委託して、自社の社員は製造 と販売に特化させるというのが、A社にとっての 基本的な方針であることを確認できた。
これを前 提として改めて業務体制を検討した。
納品車両 のうち、二台だけは従来から自社配送だった。
こ れを外部委託に変更するため、既存の協力会社 数社に見積もりを依頼した。
ところがコストが合 わない。
自社配送のほうが安く上がるのである。
引き継ぎ時の注意点 やむを得ず我々NLFのネットワーク先の一 つとなっている関東のある物流会社の大阪営業 所に状況を説明して協力を要請した。
これで何 とか採算に合うレベルの運賃を引き出すことが できた。
ただし、自社配送から外部委託への移 行はスムーズにはいかなかった。
得意先との暗黙の了解となっている納品場所 や、長年の信頼関係に基づく受領印のまとめ押 しなど、A社の納品業務には、いわゆる勘と経 験を必要とする部分が少なくなかった。
新参者 には慣れが必要であった。
新規外部委託の二台 の車両が業務を円滑に回せるようになるまでに は結局、三カ月ほどかかった。
このように物流の外部委託や協力物流会社の 変更は、荷主企業の上層部が一般に考えるほど 簡単ではない。
難航する場合がほとんどである。
引継ぎの現場は、?移行〞に伴う反発や嫌悪感に よって強く支配される。
A社のように自社物流を外部にアウトソーシ れを協力会社の一つに依頼し、数回の話し合い の末、承諾してもらった。
車両二台は納品後、自 社に引き上げずに、A社にそのまま停留させて おく形にしたのである。
こうした工夫によって午前中必着の要望に応 えられるようになった。
クレームは激減した。
運 賃体系の変更で支払い物流費も七%削減できた。
しかし効率的な物流の仕組み作りという点では、 依然としてその場しのぎの域を出ていなかった。
改善のリーダー役を命じられていたM氏に、S 社長の意思が十分に伝わっていないことが原因 の一つになっていた。
全社の調整を行うべきS社長がプロジェクト から離れたことで、M氏は最古参の営業責任者 K氏と意見調整をおこなわなければならない立 場に置かれていた。
しかし大先輩に当たるK氏 に対して、M氏は気遅れしてしまっていた。
そ れもあってM氏は日々の仕事を優先し、改善が 遅れていることを「忙しいから」と言い訳する ようになっていた。
そこで我々は、M氏が「忙しい」という業務 をもっと簡単に処理する方法や、他のメンバー に依頼して業務を遂行する方法を、実際にやっ てみせることにした。
そこまでしなければ納得し てもらえないと考えたからだ。
M氏に限らず、基 本的にヒトは納得しないと動かないものだ。
今回の改革で最も注意を払い、かつ苦労した のは体制の変更に伴う移行業務だった。
特殊性 の強い建材業界の物流は、外部委託による費用 対効果の判断や外部委託する業務と社内で処理 する業務の線引きが難しい。
実際、この業界で は外部委託による品質低下やコストアップも珍 ングする場合、既存の担当者はどうしても「数 日後には自分の仕事がなくなってしまう。
なぜ 仕事を教えなければならないのか」という気持ち になる。
同様に協力物流会社の変更の際にも「な ぜライバル会社に仕事のやり方を伝えなければ ならないのか」と非協力的になる。
荷主の担当 者がこの引継ぎに介在しても調整には自ずと限 界がある。
それでは現実にどうやって引継ぎを行ってい るのかと言えば、行き着くところは「視察・見 学」である。
目で見て業務を盗むのである。
た だし、ノウハウとも言うべきポイントは、見てい るだけではまず分からない。
そのため通常でも 一カ月、長くは三カ月以上、協力会社の切り替 え時には現場が混乱することになる。
それを見 越して閑散期や商品の入れ替え期など、混乱の 影響が最小限に留まる時期を移行期に設定して おく必要がある。
業務範囲の広い3PLのパートナーを切り替 える場合には、移行期の負荷はさらに重くなる。
そのため切り替えが決まった後も当面は既存の 協力会社に運営を任せ、業務習得のタイミング を見はからって、仕組みの見直しや改善を行っ ているのが実情だ。
こうした協力会社変更に伴うスムーズな引継 ぎの仕組みやルールづくりには、まだ多くの課題 が残っている。
しかも今回とりあげた建設、住 設業界は、情報システムの活用、随時配車、納 品形態などの点で物流のシステム化が遅れてい る。
それだけに改善のチャンスも大きいと言える。
この業界の物流を変えてやろうという意欲と能 力を持った物流会社の登場に期待したい。

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