*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
49 NOVEMBER 2002
先日、新幹線で大阪から地元の静岡まで帰りまし
た。 何らかのトラブルがあったらしく、大阪出発が
ダイヤより10分ほど遅れていました。 名古屋駅に到
着した時点でも10分遅れ。 しかし静岡には定刻通り
到着しました。 新幹線の管制室で前を走る列車を確
認しながらスピードを調整したのでしょう。
理論的には企業のロジスティクスでも同じことが
可能です。 新幹線のようにモノの動きが完全にモニ
ターできていれば、予期していなかったイベントが
発生してもすぐに対応できる。 場合によっては最終
的な納期も守れるかも知れない。 それがビジビリテ
ィ(Visibility:可視性)の効果の一つです。
そのようにビジビリティという言葉はロジスティ
クスにおいては、モノの動きが見えるというほどの
意味で使われます。 ただし、こ
のキーワードは単にロジスティ
クスの問題にとどまらず、経
営の透明化という意味で、ま
さに今アメリカ経済そのものに対して厳しく問われ
ているテーマだとも言えます。
もし必要な情報が多くの関係者にオープンなもの
になっていたとしたら、ワールドコムのような粉飾
はできなかったはずです。 日本の食品偽装事件も同
様です。 在庫=キャッシュの動きをいつでも見える
ようにすることは、不正を未然に防止することに繋
がります。 本来のビジビリティとは、そのように大
きくとらえたほうがいい言葉だと思います。
もちろんロジスティクス分野に限って言えば、も
っと現象面でとらえることもできます。 リアルタイ
ムに在庫の動きを把握し、突発的なイベントや環境
変化にタイムリーに意志決定していこうという取り
組みです。 そこではリアルタイムの通信手段として
インターネットの利用が大前提になります。
従来の専用線によるEDI(Electronic Data Interchange:
電子データ交換)は、情報をバッチで処理
するため、リアルタイムではあり得ませんでした。 輸
送に例えると、貨物列車のようなものです。 運行ダ
イヤに合わせて必要な情報を送信し、到着駅で荷下
ろしした後、最終目的地まで運ぶ手間が発生します。
これに対して、インターネットを使った情報通信
はトラック輸送です。 必要な時に逐一、情報を送信
することができるうえ、ドア・ツー・ドアで指定の
場所に届けてくれる。 しかも、通信費用や導入費用
も格段に安い。 そのため米国では専用線からウェブ
への載せ替えが急速に進みました。
そしてインターネットを使っていくうちに「安さ」
だけではなく、専用線時代には考えられなかったネ
ットワークの形が見えてきたのです。 その詳細を説
明するには誌面が足りませんが、最終的に企業間ネ
ットワークはインターネットとEAI(本誌2002年5月
号本欄参照)によってあらゆるソフトウエアが接続
され、データを共有する形になるはずです。 現在は
その過渡期にあると考えたほうがいい。
一気にEAIの時代に突入するわけではありません。
解決しなければならない技術的
な課題もまだまだあります。 例
えばA S P ( A p p l i c a t i o n
Service Provider)。 ソフトウ
エアそのものを販売するのではなく、インターネッ
トを経由してソフトを使ってもらい、その分だけ料
金を徴収しようというビジネスモデルです。 一時期、
大きく注目されましたが、今のところロジスティク
ス分野では期待されたほど普及していません。 ASP
は構造上、ユーザーに合わせてソフトウエアをカス
タマイズすることができません。 オリジナルのソフト
ウエアでユーザーニーズの大部分を網羅している必
要があります。 しかしロジスティクスのように標準
化が進んでいない分野では、これがなかなか難しい。
同様にロジスティクスのビジビリティを本当に実
現するには、モノの動きを完全にデータとしてトレ
ースする仕組みが必要で、現状では莫大な投資がか
かります。 その上、取引先同士がお互いに情報を開
示しあうという約束事も取り付けなければいけませ
ん。 これまた、そう簡単な話ではない。 当面はウェ
ブEDIから始めて、来るべきEAIの時代に備えてお
く。 それが得策でしょう。
SCMのビジビリティとは何か?
インターネット化を進めて
来るべきEAIの時代に備えよう
たなか・すみお 物流企業系システムハウスを経て、91年に独
立。 エクゼを設立し、社長に就任。 製造・販売・物流を統合する
サプライチェーンシステムのソリューションプロバイダーとして
活動。 2001年10月に「フレームワークス」に社名変更
解 説:フレームワークス 田中純夫社長
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