ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年11号
特集
卸が描く日本の流通 卸売業の逆襲が始まった

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2002 10 卸売業の逆襲が始まった 流通外資の日本市場参入が本格化している。
これに伴い問 屋不要論が改めて俎上にのぼっている。
しかし当の大手卸の 業績は堅調だ。
勝ち組となった卸は不要論を一蹴し、むしろ サプライチェーンにおける存在感を強めている。
国分&菱食連合がメーカー物流にメス 米国の同時テロ事件からちょうど一年後の今年九 月一一日。
食品業界の二大卸、国分と菱食は、両社 の合弁で新設した物流会社「フーズ・ロジスティク ス・ネットワーク(FLN)」の説明会を開催した。
出 席したのは食品メーカー約二七〇社。
酒類を含め日 本の主だった食品メーカーの流通政策担当者が一同 に顔を揃えた。
同説明会に出席した大手メーカーの担当者は語る。
「九月一一日は我々メーカーの流通担当者にとっても 忘れられない日になった。
実際それからというもの、 他メーカーの担当者と顔を合わせるたびに、『九一一』 の話題になる。
それだけメーカー側の受けたショック は大きかった」 国分と菱食の狙いは、メーカー〜卸間における一括 物流の実施だ。
これまでメーカーは卸の物流拠点に商 品を納入するために、各メーカーでそれぞれトラック 輸送のチャーター便や路線便を手配していた。
この体 制を改め、FLNが卸の物流拠点の近隣に、メーカー 各社で共同利用する物流センターを設ける。
そこから 一括して卸に納品することで、全体の車両台数を削 減しようという計画だ。
これによって卸側では荷受けが一回で済むようにな るため作業負担が減る。
在庫も軽減できる。
小売業か らの要請によって今日の卸は三六五日稼働を余儀な くされている。
しかしメーカーの多くは土日祝日や年 末年始などを定休日としている。
その分だけ卸が在庫 を積み増さなくてはならない。
加工食品卸の平均的な 在庫日数は一週間〜二週間程度とされる。
今年の年 末年始にメーカーは九連休を予定しているという。
そ のしわ寄せは決して小さくない。
FLNが三六五日稼働することで、メーカー休日 分の卸の在庫負担は解消できる。
さらに「FLNでは 従来メーカー側で設定してきた最低発注ロットの制約 も外し、最小ロットからの出荷に対応する。
これも卸 在庫の削減につながる。
メーカー側にとっても物流サ ービス品質の向上とコスト削減の両立が実現できる」 と、FLNの代表取締役副社長を兼務する国分の山 本栄二システム推進本部物流部部長はアピールする。
既にFLNは第一号センターとして群馬県太田市 に敷地面積約二万二〇〇〇坪、延べ床面積五三〇〇 坪の物流センターを確保している。
最大で五〇万ケー スを保管し、関東甲信越地区を対象に一日五万ケー スを出荷する能力を持つ。
このほかFLNでは北海道、 東北、北陸東海、近畿、中国・四国、九州の計七カ 所に同様の拠点を設置する計画だ。
FLNには現在、国分と菱食が五〇%ずつ出資し ているが、今後は他の卸に対しても資本参加を要請し ていくという。
大手卸の一角を占める雪印アクセスの 後藤征一取締役営業本部流通政策部長は「まだ先方 から正式な要請は受けていないが、基本的には前向き に検討することになるだろう」という。
こうした卸主導によるメーカー物流の共同化構想に 対してメーカー側では強く反発している。
理論上は合 理的なプランでも、実際にはメーカーにとってコスト アップになる可能性の高いことが理由の一つだ。
メー カー〜卸間の物流は基本的に「工場」→「営業倉庫」 →「卸倉庫」というルートになっている。
FLNの提 唱するように営業倉庫と卸倉庫の間に新たに一括物 流センターが入れば、流通段階は一つ増えてしまう。
それだけ在庫の膨らむ恐れがある。
もちろん既存の営業倉庫を廃止して、当該地区の 在庫を一括物流センターに集約すれば流通段階は変 第1部 国分/菱食/雪印アクセス 11 NOVEMBER 2002 わらない。
しかし、それを実現するには、拠点の移転 に伴う取引先との納品条件の調整や、既存の倉庫ス タッフの処遇、協力物流業者との契約問題など、様々 な課題をクリアしなければならない。
マージンに変質したセンターフィー メーカーがFLNに支払う業務委託料、いわゆる 「センターフィー」の設定についても不信感が強い。
九 月一一日の説明会の時点では、料金設定についての 明確な説明はなかった。
FLNの山本副社長は「まだ 最終的な決定には至っていない。
合理的な料金設定 にする必要があるが、あまり複雑になってもいけない ので、関係者の意見を聞きながら修正を重ねている。
これまでに五度近く策定し直したが、試行錯誤の最中 だ」という。
メーカー〜卸間に先行して卸〜小売り間では、小 売り主導の一括物流センターが既に広く普及している。
そして、そのセンターフィーがサプライチェーンの全 体最適化を阻む大きな障壁になっている。
当初は小売 りの一括物流もFLNと同様に、納品車両の集約に よる効率化を狙いとしていた。
小売りが専用の物流セ ンターを設置。
各卸がバラバラに店舗に納品する体制 を改め、専用センターから一括して店舗に納品するこ とで車両台数と店側の荷受け負担を減らそうという取 り組みだ。
これによって卸は各店配送の必要がなくなり、納品 先を一カ所に集約できる。
ただし、この一括物流への 移行に伴い、卸は小売りから新たにセンターフィーの 支払いを強いられる。
一括物流で浮いた輸送費は還 元して欲しい。
それを専用センターの運用費に充てる、 というのが小売り側の理屈だ。
事実その通りであれば、理解できない話ではない。
ところが現実には、小売りはセンターフィーを新種の マージンに変質させてしまった。
一般にセンターフィ ーは、センターの商品通過金額に対して一定の比率を かける形で計算される。
その比率はセンターに在庫を 置かないTC(トランスファー・センター型)で三% 程度。
在庫を保管するDC(ディストリビューショ ン・センター型)で六%程度と言われる。
ただし、多くの場合、この比率には小売業者の受け 取るマージンが含まれている。
小売業者は一括物流セ ンターの運営を物流業者に委託している。
その委託費 用に自らの取り分を上乗せする形で卸側にフィーを要 求しているのだ。
もともと利幅の薄い卸が、新たにフ ィーを負担すれば収益は逼迫する。
しかし、フィーの 支払いを拒めば取引を打ち切られる恐れがある。
結局、 メーカーがセンターフィー分のマージンを卸に補填す ることで穴埋めするのが常となっている。
こうして一部の小売りがセンターフィーでマージン をせしめているのを、他の小売りが黙って見ているわけはない。
効率化とは名ばかりで、マージン狙いの一 括物流が日本中に野火のように拡がっていった。
オペレーションの効率や、マテハン・情報システム の投資負担から計算すると、専用センターをペイさせ るには通過金額で二〇〇〜二五〇億円程度の規模が 必要だと言われる。
しかし現在は一〇〇億円以下、一 部には五〇億円程度の規模で専用センターを設置す る小売りもあるという。
「一括物流センターこそ当社 最大のプロフィットセンター」と公言する小売り担当 者まで現れる始末だ。
もちろん小売り側の主張する試算通り、センターフ ィー以上に物流コストが削減されるのなら、卸側でも 原資を確保できるため、問題にはならない。
ところが 一括物流を導入することで理論上は改善されるはずの 送り手1 送り手2 送り手3 受け手A 受け手B 受け手C 送り手1 送り手2 送り手3 受け手A 受け手B 受け手C 一括物流センター 一括物流は車両台数と納品回数を削減する 《従 来》 《一括物流》 FLNの代表取締役副社長を 兼務する国分の山本栄二シス テム推進本部物流部部長 NOVEMBER 2002 12 卸の物流コストが、実際には下がっていないケースが 少なくない。
むしろ上がっていることさえ珍しくない。
もともと卸の物流機能は複数の小売りを対象にした 汎用型として設計されている。
そのうち一部の小売り が専用センターを設置し、一括物流に移行すれば、既 存のインフラの稼働率は下がってしまう。
実際、中堅 チェーンストアにまで一括物流が拡がったことで、卸 の既存拠点の稼働率は軒並み下がっている。
製・配・販の同床異夢 こうして卸〜小売り段階の一括物流とセンターフィ ーは、メーカーや卸などのベンダー側にとって大きな 脅威となっている。
今回の国分と菱食によるメーカー 物流共同化構想は、それがついにメーカー〜卸段階ま で流通を遡ってきたものだという見方が、メーカー各 社の基本的な認識だ。
現在、FLNでは各メーカーに 個別に一括物流への参加を打診している。
これにどう 対応すべきか、メーカーの判断は大きく揺れている。
大手食品メーカーのロジスティクス担当者は「この 話を呑めば、他の卸も一斉に同じようなマージンを要 求してくることが目に見えている。
ロジスティクス部 としては絶対に受けたくない。
しかし相手が相手だけ にムゲに断るわけにもいかないと、営業のほうでは弱 腰になっている」と社内事情を説明する。
その結果、支払うことになったセンターフィーは果 たして物流コストとして計上されるのか。
それとも営 業費用なのか。
それを懸念するのは会社全体の業績と は全く関係のない部門間の無益なセクショナリズムと 分かっていても、実務家にとっては現実の影響が避け られないだけに社内調整は紛糾している。
そもそも物流の共同化でメリットを出せるのは、ロ ットがまとまらず割高な路線便を使っていたり、チャ ーター便の積載率に悩んでいる中堅以下のメーカーに 限られる。
一社単独でも十分なロットを確保できる大 手メーカーにとって共同化のメリットは薄い。
ところ がFLNの説明会の席上、主催者側の幹部は「味の 素以下のメーカーは全て対象になる」と明言したとい う。
事実上、全メーカーが対象というわけだ。
この点について、菱食の市瀬英司常務やFLNの 山本副社長は「当面はやはり中堅以下のメーカーが対 象になる」と本誌の取材に答えている。
しかし、最終 的にはFLNが広汎なメーカーの参加を募ろうと考え ていることは否定しない。
米国ではウォルマートとP&Gをはじめ、大手小売 りと大手メーカーによる直接取引が常識になっている。
しかし、小売り、メーカーの双方で米国ほど寡占化の 進んでいない日本市場においては、理論上、メーカー の工場と小売店舗の間にフルラインの商品を在庫する 中間物流拠点を一カ所だけ設置した時、サプライチェ ーンのトータルコストは最小化される。
この理論に従って日本の大手卸は過去一〇年以上 をかけて扱い商品のフルライン化を進め、チェーンス トアの広域化に対応した全国化を図ってきた。
なかで も菱食はピース・ピッキングを集中的に処理するRD C(リージョナル・ディストリビューション・センタ ー)を中心に、その周囲にFDC(フロント・ディス トリビューション・センター)を配置するというネッ トワーク構想を九〇年に打ち出して以降、積極的な 拠点投資を断行してきた。
しかし現在の菱食はこの中間流通のプラットフォー ム構想とは相容れない、小売りの専用センターの運営 受託を拡大している。
九三年に相鉄ローゼン向けセン ターを立ち上げたのを皮切りに毎年その数を増やして いき、今や全国約四〇カ所に小売りの専用センターを 13 NOVEMBER 2002 運営するに至っている。
その結果、汎用型インフラで ある「RDC/FDC」の稼働率は低下傾向にある。
同社の市瀬常務は「SDC(スペシャライズド・デ ィストリビューション・センター:小売り専用センタ ー)が、RDC/FDCとコンフリクトを起こすこと は十分に承知している。
しかし同じビジネスモデルを 一〇年以上も維持できるほど、市場環境は安定して いない。
小売りが激しく変化している以上、当社も対 応せざるを得ない」と方針転換の理由を説明する。
日本型サプライチェーンの行方 戦後、日本の流通はメーカー主導で整備されてきた。
日本の小売業はバックヤード機能を全面的に卸に委ね た。
そして卸はメーカーに従属する形で、商品供給の 先兵の役割を果たした。
これにより、メーカーが末端 の消費までをコントロールする日本の流通モデルが出 来上がった。
しかし、雪印アクセスの後藤取締役は「メーカー主 導型で小売業を選別できる時代はもはや過ぎ去った。
今や小売業から逆に川上が選別される時代になってい る。
メーカー特約店制度の形骸化も進んでいる。
少な くとも当社が直接仕入れることのできないブランドは もはやほとんどない」と説明する。
メーカー系列の雪 印アクセスでさえ、既に目は川下に向いている。
全国展開を進め、購買力を増したチェーン小売業 は今日、一括物流という手法でバックヤード機能の整 備に乗り出している。
並行して中間流通では、厳しい 淘汰を生き残った大手卸が、自ら流通の主導権を握 ろうと、ロジスティクス機能の強化を進めている。
メ ーカー主導のサプライチェーンに流通の川下から反旗 が揚がっている。
その結果として現在、サプライチェーン全体の最適 化を目指すSCMのコンセプトとは裏腹の個別最適が 流通の各層で発生している。
日本型サプライチェーン は今後、どこへ向かっていくのか。
そのカギを握るの は、「小売り専用センター」、「卸汎用型センター」、そ して「メーカー共同倉庫」という三つの物流拠点のモ デルだ。
これらはいずれも中間流通を一カ所で担うフルライ ンの在庫拠点へと進化する可能性を持っている。
この うち「小売り専用センター」の代表格と言えるのが、 イオングループだ。
同社は現在、メーカーとの直接取 引を基本とした米国型モデルを日本市場に導入しよう と国内一九カ所に大型物流拠点の新設を進めている。
現状では最も理想型に近い取り組みだが、現場のオ ペレーションが大きな課題として残されている。
イオ ンは物流拠点の確保から運営までを日立物流やニチレ イなどの3PLにアウトソーシングしている。
メーカ ーの協力を取り付けながら、3PLの能力をいかに引 き出すかが、壮大な構想の成否を握っている。
一方の「卸汎用型センター」は、大手卸だけにオペ レーションには精通している。
ただし、卸の物流サー ビスには常に商流(帳合い)が介在する。
そのため現 在、大手卸はマクロ的に見れば非効率なことを知りな がら、顧客の要望に応える形で小売り専用センターに 自ら手を染めている。
そして今「メーカー共同倉庫」が第三の選択肢とし て浮上してきている。
国分と菱食が、その担い手とし てまず名乗りを上げた。
共同倉庫の在庫はメーカーに 所有権があるため、帳合いの影響を受けずに合理化を 進められるメリットがある。
長年、手にしていた流通 の主導権を失ったうえ、逆に外部から社内のロジステ ィクスにまで手を突っ込まれた形のメーカーは、果た してどう動くのか。
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