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NOVEMBER 2002 20
日雑中間流通「大再編」の終着点
日用雑貨・化粧品を扱う卸業界の寡占化が急速に進展し
ている。 これまで圧倒的な首位に立っていたパルタックを、
今年4月に発足した「あらた」が猛追。 2.5兆円程度のマーケ
ットを、売上高約4000億円弱のトップ2社が牽引する構図が
できあがった。
「当社には中間流通は存在しない」。 日雑業界のガリ
バー、花王の松本忠雄取締役ロジスティクス部門統
括はそう強調する。 同社は日本市場にあって卸に依存
しないビジネスモデルを確立した希有なメーカーとし
て知られる。 一九六六年以降、自社製品だけを扱う
専門卸、花王販売を特約店との共同出資で全国各地
に設立していった。 そして「花王の製品以外は扱えな
い定款を取り決め、既存の卸の帳合いの中から花王の
部分だけを販社に移管した」(松本取締役)。 市場動
向に即応できる体制を構築する狙いがあった。
実際、垂直統合されたサプライチェーンは、その後
の花王の成長を支える原動力になった。 その一方で自
前主義にこだわるチャネル政策は軋轢も招いた。 八四
年にセブン
―イレブン・ジャパンは店舗納品の効率化
のために日用品の共配に乗り出す。 このとき他の日雑
メーカーが従来の店舗納品をセンター納品に切り替え
ていくなか、花王だけがセブンの要請を拒み続けた。
結局、九一年には花王もセンター納品に応じること
になるのだが、両社のつばぜり合いは、サプライチェ
ーンの主導権を巡るメーカーとチェーンストアのその
後の綱引きを予感させるものだった。 現に九六年にな
ると、今度はセブンが自社専用の日雑卸、エス・ブ
イ・デーを設立して事実上、メーカーとの直接取引に
踏み切った。 狙いは花王と同様、既存の卸を外すこと
でメーカーとの距離を縮めることにあった。
上位二社に三割のシェアが集中
花王やセブンという強者がともに中間流通の排除に
動いたのは、日雑業界に彼らの要求に応えることので
きる有力な卸が存在しなかったことが大きい。 しかし
九〇年代に入って、同業界では猛烈な業界再編が進
行した。 南からは大阪に本社を置く最大手のパルタッ
クが東日本に商圏を拡大。 北からは北海道を地盤と
するダイカが、物流とITを武器に合併を繰り返しな
がら南進した。 そして九八年四月、パルタックは物流
とIT活用に定評のあった北陸の中堅卸、新和と合
併。 これによって再編は一気に加速した。
それ以前のパルタックは、売上規模でこそ二〇〇〇
億円超という最大手だったが、物流機能についての評
価は高くはなかった。 そこで同社は新和のノウハウを
丸飲みにすることで、規模と技術力を兼ね備えた卸へ
の脱皮を図った。 九九年三月には汎用型の大型物流
センター、近畿RDCを稼働。 二府四県の約六〇〇
〇店舗に商品を供給する体制を整えた。 これを皮切り
に愛知、九州にもRDCを設置。 インフラの再構築を
進める一方で商圏拡大も続け、業界で唯一の全国卸
へと邁進した。
積極的な拡大戦略で一人勝ちを狙うパルタックに
対し、二〇〇一年七月、突如としてライバルが出現し
た。 ダイカ、サンビック、伊藤伊の三社が、持ち株会
社を設立すると発表したのである。 ITと物流に定評
のある有力企業ばかりの強者連合だった。 そして今年
四月、三社は持ち株会社「あらた」を発足、二年後
の合併を前提に経営統合を果たした。 ここに中堅卸の
徳倉が加わったことで、「四社の二〇〇三年三月期の
合計売上高は三八六六億円になる見込み」(ダイカの
大公一郎社長)となり、一気に首位のパルタックと肩
を並べる日雑卸が誕生した(一八ページ参照)。
これによって日雑卸業界は二強時代に入った。 日
雑業界の市場規模を二・五兆円とすると、大手二社
のシェアはそれぞれ一五%程度に達する。 流通の寡占
化が遅れている日本では大きな意味を持つ数字だ。 し
かも二社は物流と情報システム、そしてマーチャンダ
イジングの三つの機能をコア・コンピタンスに据え、
第3部
21 NOVEMBER 2002
大規模な汎用型の中間流通拠点の運営を担おうとし
ている。 理に適った取り組みだ。
今後、日雑卸業界では、この二社を軸に、さらなる
再編劇が繰り広げられることが必至となっている。 二
番手集団以下に属する卸には、上位二社のいずれかに
合流する道を選ぶか、もしくは地域の小売業者とのパ
イプを強固なものにして特定エリア内で生き残りを図
るしかない。
当面の関心は首都圏エリアの動勢だ。 とりわけ業界
三位の日雑卸、中央物産は今後の再編劇における注
目企業と言えるだろう。 同社は売上高一〇〇〇億円
超の大手ながら、二大卸の誕生によって存在感が低
下している。 しかも、これから中央物産が合併や提携
によってパルタック、あらたに並ぶ第三の軸を目指す
には、パートナーの選択肢は乏しい。
しかし中央物産は首都圏に強固な営業基盤を持っ
ている。 全国化にこそ遅れをとったが、情報システム
と物流に力を入れてきた点でも上位二社と変わらない。
とくに九〇年代後半に構築したABC(Activity
Based Costing
)には定評がある。 保管やピッキング、
配送などの機能単位でコストを算出し、作業や営業を
適正化する取り組みだ。
既にABCの成果も現れている。 同社は有力流通
外資の一つ、カルフールのコンペを落札した。 「コン
ペでは当社より安い料金を提示した卸もあったようだ。
しかし詳細なメニュープライシングを提案した卸は当
社だけだった。 そこを評価いただいたと聞いている」
と永井幸雄専務は説明する。 トップ二社にとって同社
が魅力的な存在であることは間違いない。
加食卸を凌ぐオペレーション能力
日雑卸業界で二強の地位を固めたとはいえ、パルタ
ックとあらたの将来も楽観視できない。 とりわけ加食
卸との関係は注目される。 欧米市場では日雑と加工
食品が同じドライグロサリー(常温の加食、菓子、日
雑)という一つのカテゴリーで括られている。 店舗納
品も一括して処理されている。
ところが日本では、今のところ日雑と加工食品が別
のカテゴリーとして区分されている。 例外的にコンビ
ニだけが、常温、チルド、冷凍の三温度帯物流を最終
的な目標としているが、それ以外の業態でドライグロ
サリーの一括物流を積極的に志向している小売業者
はごく一部に過ぎない。 それでもドライグロサリーと
いうカテゴリーでのフルライン化を実現できれば、店
舗配送の効率化はもう一段進む。
本特集でも見てきた通り、これまで日本市場では、
一括物流の主導権を加食卸が握ってきた。 しかし、そ
の先頭を走る菱食といえども日雑のオペレーションに
は手こずっている。 日雑はアイテムが多様で単価が安
いうえ商品の回転期間が長いため、加工食品とは比較にならないほど細かいバラ・ピッキングが発生する
ためだ。
逆に、そのオペレーションに精通した日雑卸にとっ
て、加食を扱うのは難しい話ではない。 実際、花王が
中間流通を最適化する狙いで設立した花王システム
物流は、「日雑でも加食でも商品のカテゴリーを選ば
ない仕組みが売り」と花王の松本取締役は説明する。
加食卸と日雑卸を比較すると、経営規模では加食
が遙かに凌駕している。 だが中間流通に必要なオペレ
ーションの実力では日雑卸に軍配が上がる。 そこに資
本力にモノを言わせて総合商社が触手を伸ばそうとし
ている。 日本市場にグロサリーというカテゴリーが本
当に根付くのか。 いまだ予断は許されないが、そのオ
ペレーションは日雑卸が担うことになりそうだ。
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